280 / 303
第2章道化師は進む
第24話 ベルの正体と不信の道化師
しおりを挟む
「終わったとは何がだ?」
クラウンは落ち込んでいるリリスの様子を見て思わず尋ねる。こっちにはこの世界の知識は生活できる程度にしかない。なので、リリスの態度も理解することができない。
するとリリスは座り直すとクラウンに説明し始めた。
「ベル......この子はね、獣王国にとって国家機密情報に等しいの」
「......ほう」
クラウンはその一言で物凄く興味を持った。これから獣王国に向かおうとしている最中にそんなとんでもないものを奪って来てしまうとは。しかし、リリスの顔は依然として晴れやかではない。
「ベルはね、獣王国の生贄巫女なのよ。その獣王国にある神殿を護るためのね」
そうしてリリスがクラウンに伝えた内容はこうであった。ここ数百年前にどこからともなく一匹のバカでかい獣が現れた。そして、その獣は獣王国が護っていた神殿を自分の住みかとして奪い取った。
だが、その当時多くのものが寿命で死ぬまで放っておけという感じだったが、どういう訳かその獣はいくら経っても死ぬことはなかった。それからやがて多くの獣人が食い殺されることが増えていった。しかも総じて魔力が多い者を優先的に。
「このままではいけない」そう思って動き出したのは最初の獣の血を引き、神殿を護る巫女達であった。巫女達はその血のおかげか従来の獣人達よりも非常に多くの魔力を有していた。だが代わりにその巫女達に戦闘力は無かった。なんせもともと護られる立場であったからだ。加えて、戦えても意味は全くなかったが。ならば、どうするか。自らを犠牲にして民を護る他にない。それが生贄巫女の始まり。
幸いなことにその勇気ある行動でその獣は巫女しか食わなくなった。加えて、食うことで魔力を回収していたのかその獣が襲いに来る頻度は極端に減った。
だが、その代償は高くついた。巫女はもともと神殿を護ることもそうだが、国の結界の要であった。故に獣に食われることで多くの巫女が減っていき、結界が保てなくなった。
加えて、巫女の寿命が極端に減った。あの獣はどうやら好みがあるらしく、15以上20未満の巫女が最も多く食われた。これは致命的なことでこの世界では15歳が成人の年、要するに子供を産める年齢に当たるのだ。
だが、その年齢層が最も食われるので巫女の血が絶えかけた。巫女がいなければまた多くの民が食われてしまう。国は何とかその微妙なラインを維持しながら現在まで保っているのだ。
もちろん、最初のうちは討伐隊が組まれ、その獣に戦いを挑んだ。だが、その誰一人として帰って来なかった。なにがあったか調べる調査隊も例外なく。故に巫女の存在そのものが国を揺るがす大きな秘密なのである。その存在がバレれば、そこを攻められたちまち国は亡ぶから。しかもベルは15歳で捕食適齢期に当たるのだ。その存在はあまりに大きすぎる。
それを聞いたクラウンは告げる。
「なら、そこを攻めればいい。獣王国がどうなろうと俺には関係ないからな」
「バカ言うんじゃないわよ。それだとベルが悲しむでしょ。それにたとえそのまま突き出しても殺されるだけよ」
「どう意味だ?」
クラウンはリリスの言っている意味がわからなかった。リリスが言っていることは国家機密であるベルをを獣王国が抹消するということだ。もうバレているものを消したところで意味はないし、その巫女が無ければ獣に殺されてしまうのは獣王国側だ。それは明らかに自分達の首を絞める結果になる。
するとリリスはクラウンに諭すように言った。
「クラウン、あんたは一つ考え忘れているわ。前提としてどうしてここまで耐えれてきたと思う?」
「......なるほど、代わりはいるということか」
「そういうこと。一人の女性に一人の子供じゃどうやっても足りなくなる。ならその産む子供の数を増やせばいい、そうなるはずよ。それに『生贄』巫女よ?いずれ食われて殺されるなら、こっちで殺しても問題ない、なぜなら代わりがいるから」
「それじゃあ、ベルは交渉材料にならないということか......」
「そうね、そうなるわね。あとはなるようになることを祈るしかないわ」
クラウンもリリスも半分国に入ることを諦めていた。そして、特にリリスは深いため息を吐く。なんせ強行突破なんてしようものなら漏れなく指名手配される。さすがに3国で事件を起こせば、ほかの中小都市にも指名手配が出て行動が限られてくる。すでにもう出されているかもしれないのにそれが確定的になってしまう。もっとオシャレとか美味しいものを食べたいのにこれはあまりに残酷だ。
「......私はお役に立たないです?」
不意にベルがそんなことを聞いてきた。おそらく使えなければ切り捨てられると思っているのだろ。クラウンはまだしも、私はそんなことはしない。
「大丈夫よ、ベルの存在でわかったこともあるから......ね?クラウン?」
「そうだな」
まるで同意させるかのように高圧的な口調で聞いてくるリリスにクラウンは呆れながらも同意した。というか、そもそもそんな理由で奪って来たわけではないのでベルの存在が役に立たないと決まったわけじゃない。それを決めるのはベル次第だ。
「話し合っていたら、お腹空いてきたわ」というリリスの言葉でリリスが料理を始め、食事をし始めた。
「そういえば、私がいない時に生肉なんて食べさせていないでしょうね?」
「食わせるか。あんなもの好き好んで食っていたわけではない。めんどくさい時だけで大抵は焼いて食っていた」
「そう、なら安心したわ」
リリスはホッとした顔をした。クラウンが森の王との戦い後、その肉をそのまま食べようとしていたのがあまりに衝撃的だったからてっきり普段からもそう食べているものだと思っていた。それにちゃんとベルにも食べさせてある。
きっとそこの部分を褒めても「俺の駒として十分な働きをしてもらわなくては困る」とか言いそうだから言わないけど。......でも、まだやっぱり優しい部分は残っている。そのこともそうだけど、ベルが奴隷の割に随分とキレイで......
リリスはその思考に至ると思わず硬直した。今のベルはまだ体力や精神が回復しきっていないのかまだ動きがぎこちない。それにベル自身がまだ若干虚ろな目をしている以上、そんな時に自分の体をキレイにしようとは考えにくい。まさか......ね?
「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」
「なんだ?」
「ベル、キレイよね?どうして?」
「俺は汚いのは好きではない。だから、ひん剥いて川に放り投げて洗った」
「......はあ」
リリスは思わず頭を抱えた。だが、「女の子になにしてんのよ!」とも言えない。なぜならクラウン自信にそんな感情があるとは思えないし、ベルの見た目もあってで本人的には至って普通の対応をしただけなのだろう。年齢のことも知らなかったみたいだし。
でも、なぜだろうか。私がそのことを聞く前にベルの正体を知ってしまったからなのだろうか。クラウンの行動があまり割り切れない。だが、これは仕方がない、仕方がないことなのだ。
食事が終わるとここでベルが静かに口を開いた。
「主様はどうしてお面をつけているです?」
リリスはその質問のあと嫌な予感がした。それは自分が質問したときに向けられた感情のない瞳。まさかそれを向けるのではないかと思った。ベルの聞きたいことはもっともだが、それはあまりに危険。
そんなリリスの思考を読み取ったのかロキがそっとベルを護るように寄り添う。そして、リリスの思った通りこの場が凍り付いた。
「お前らが信用できないからだ。お前らの思考、存在......それすらがなにをするのかわからない以上俺はお前らに心を見せることはない」
やはりクラウンの言葉はリリスには胸に来るものがあった。確かにまだ出会って間もないことは確かだ。だが、その間ずっとそばにいて信用されようと頑張ってきたのも確かだ。
けど、それが全て無意味というような言葉が伝えられるとやはり辛い。仕方ないとわかっていることもあるけど、そう簡単に割り切れないこともある。どうしてここまで同情気味になってしまうのかはわからないけど、このまま放っておくことは出来ない。
リリスはふとその言葉を与えられたベルの方を見た。そして、驚いた。なぜならそんな目を向けられながらベルは微塵もクラウンから目を逸らしていなかったのだ。ただ真っ直ぐとその目を受け止めている。私にもまだできないことを簡単に......いや、簡単ではないか。ベルはその恐怖に打ち勝とうと必死に拳を握りしめている。
「主様は家族が信用できないです?」
「ああ、出来ないな。そういう存在はあっても無駄なだけだ。どれだけ信じようとも仲間は裏切り、見捨て、嘲笑う......ならば、最初から利用し合う関係の方が手も切りやすくて助かる。もともと情もないわけだから殺しても構わないしな」
「それはあまりに悲しくはないです?」
ベルは勇気を振り絞ってクラウンに聞いた。そばにいるロキが「大丈夫だよ」という目線を送っているから。そして、怖くても目の前にいる男が自分の家族なのだから。それは今決めた。家族ならば互いに支え合って問題を解決していくはずだ。おじいちゃんからはそう教わった。
「悲しい?そんな感情が神殺しのどこに必要だというのだ?殺すことにいちいち情をかけていたら、精神も持たないし、そもそも殺す前に殺されている」
「情のなにが悪いです?確かに殺すことには必要ないです。ですが、それが全くないと殺戮兵器となんら変わらな―――――――――――」
クラウンはベルの口元を掴み顔を近づけた。その目には殺気と怒気が混じっていた。常人ならば見れば即座に発狂からのブラックアウトになるものであった。だが、ベルはその目すら受け止めた。恐怖もあったし、死ぬかもしれないと思った。
けど、クラウンの相棒のロキがいてくれるから、「大丈夫」と伝えて来るからそれを信じて。それにクラウンの闇には向かい合っていかなければならない日が絶対に来る。ならば、早いうちに解決するに限る。
「お前が俺の何を知っているというんだ!お前は俺の駒だ!ただ大人しく利用されろ!」
「いいえ、違うです。」
クラウンの言葉にベルは即答した。そして、クラウンの手を自分の顔から離すとリリスの方へ向かっていく。それにロキもついていった。
「ベル......」
「リリス様、大丈夫です」
それからベルが座っているリリスの横に立つとそっと肩に手を置いた。またリリスを挟むようにロキが反対側に座る。
「私は、物心つく前に両親が死んでしまったので本来の家族というものがわからないです。ですが、家族の『形』は知ってるです。ずっと一人でしたが、それでも近くにいてくれる人はいるです。だから......」
不意に強い風が吹き、日差しの強さが増す。
「私達が主様の家族です。まだ主様やロキ様、リリス様のことは何も知らないし、わかりませんがこれがあるべき姿であることはわかるです。これではダメなのです?」
「......」
クラウンは答えることはなかった。そして、ただ立ち上がると一人静かに森へと向かっていった。
「伝わってるといいわね」
「はい......」
「ウォン」
「きっと伝わっているよ」といった吠え声を上げるロキにリリスとベルは優しく微笑む。
「ベル......クラウンのこと一緒によろしくね」
「はい、どうやら私はただの駒ではないですから......」
「?」
リリスはベルの言葉が不意に気になったが、あまり深くは捉えなかった。そして、三人はしばらくクラウンが歩いていった道を眺めていた。
クラウンは落ち込んでいるリリスの様子を見て思わず尋ねる。こっちにはこの世界の知識は生活できる程度にしかない。なので、リリスの態度も理解することができない。
するとリリスは座り直すとクラウンに説明し始めた。
「ベル......この子はね、獣王国にとって国家機密情報に等しいの」
「......ほう」
クラウンはその一言で物凄く興味を持った。これから獣王国に向かおうとしている最中にそんなとんでもないものを奪って来てしまうとは。しかし、リリスの顔は依然として晴れやかではない。
「ベルはね、獣王国の生贄巫女なのよ。その獣王国にある神殿を護るためのね」
そうしてリリスがクラウンに伝えた内容はこうであった。ここ数百年前にどこからともなく一匹のバカでかい獣が現れた。そして、その獣は獣王国が護っていた神殿を自分の住みかとして奪い取った。
だが、その当時多くのものが寿命で死ぬまで放っておけという感じだったが、どういう訳かその獣はいくら経っても死ぬことはなかった。それからやがて多くの獣人が食い殺されることが増えていった。しかも総じて魔力が多い者を優先的に。
「このままではいけない」そう思って動き出したのは最初の獣の血を引き、神殿を護る巫女達であった。巫女達はその血のおかげか従来の獣人達よりも非常に多くの魔力を有していた。だが代わりにその巫女達に戦闘力は無かった。なんせもともと護られる立場であったからだ。加えて、戦えても意味は全くなかったが。ならば、どうするか。自らを犠牲にして民を護る他にない。それが生贄巫女の始まり。
幸いなことにその勇気ある行動でその獣は巫女しか食わなくなった。加えて、食うことで魔力を回収していたのかその獣が襲いに来る頻度は極端に減った。
だが、その代償は高くついた。巫女はもともと神殿を護ることもそうだが、国の結界の要であった。故に獣に食われることで多くの巫女が減っていき、結界が保てなくなった。
加えて、巫女の寿命が極端に減った。あの獣はどうやら好みがあるらしく、15以上20未満の巫女が最も多く食われた。これは致命的なことでこの世界では15歳が成人の年、要するに子供を産める年齢に当たるのだ。
だが、その年齢層が最も食われるので巫女の血が絶えかけた。巫女がいなければまた多くの民が食われてしまう。国は何とかその微妙なラインを維持しながら現在まで保っているのだ。
もちろん、最初のうちは討伐隊が組まれ、その獣に戦いを挑んだ。だが、その誰一人として帰って来なかった。なにがあったか調べる調査隊も例外なく。故に巫女の存在そのものが国を揺るがす大きな秘密なのである。その存在がバレれば、そこを攻められたちまち国は亡ぶから。しかもベルは15歳で捕食適齢期に当たるのだ。その存在はあまりに大きすぎる。
それを聞いたクラウンは告げる。
「なら、そこを攻めればいい。獣王国がどうなろうと俺には関係ないからな」
「バカ言うんじゃないわよ。それだとベルが悲しむでしょ。それにたとえそのまま突き出しても殺されるだけよ」
「どう意味だ?」
クラウンはリリスの言っている意味がわからなかった。リリスが言っていることは国家機密であるベルをを獣王国が抹消するということだ。もうバレているものを消したところで意味はないし、その巫女が無ければ獣に殺されてしまうのは獣王国側だ。それは明らかに自分達の首を絞める結果になる。
するとリリスはクラウンに諭すように言った。
「クラウン、あんたは一つ考え忘れているわ。前提としてどうしてここまで耐えれてきたと思う?」
「......なるほど、代わりはいるということか」
「そういうこと。一人の女性に一人の子供じゃどうやっても足りなくなる。ならその産む子供の数を増やせばいい、そうなるはずよ。それに『生贄』巫女よ?いずれ食われて殺されるなら、こっちで殺しても問題ない、なぜなら代わりがいるから」
「それじゃあ、ベルは交渉材料にならないということか......」
「そうね、そうなるわね。あとはなるようになることを祈るしかないわ」
クラウンもリリスも半分国に入ることを諦めていた。そして、特にリリスは深いため息を吐く。なんせ強行突破なんてしようものなら漏れなく指名手配される。さすがに3国で事件を起こせば、ほかの中小都市にも指名手配が出て行動が限られてくる。すでにもう出されているかもしれないのにそれが確定的になってしまう。もっとオシャレとか美味しいものを食べたいのにこれはあまりに残酷だ。
「......私はお役に立たないです?」
不意にベルがそんなことを聞いてきた。おそらく使えなければ切り捨てられると思っているのだろ。クラウンはまだしも、私はそんなことはしない。
「大丈夫よ、ベルの存在でわかったこともあるから......ね?クラウン?」
「そうだな」
まるで同意させるかのように高圧的な口調で聞いてくるリリスにクラウンは呆れながらも同意した。というか、そもそもそんな理由で奪って来たわけではないのでベルの存在が役に立たないと決まったわけじゃない。それを決めるのはベル次第だ。
「話し合っていたら、お腹空いてきたわ」というリリスの言葉でリリスが料理を始め、食事をし始めた。
「そういえば、私がいない時に生肉なんて食べさせていないでしょうね?」
「食わせるか。あんなもの好き好んで食っていたわけではない。めんどくさい時だけで大抵は焼いて食っていた」
「そう、なら安心したわ」
リリスはホッとした顔をした。クラウンが森の王との戦い後、その肉をそのまま食べようとしていたのがあまりに衝撃的だったからてっきり普段からもそう食べているものだと思っていた。それにちゃんとベルにも食べさせてある。
きっとそこの部分を褒めても「俺の駒として十分な働きをしてもらわなくては困る」とか言いそうだから言わないけど。......でも、まだやっぱり優しい部分は残っている。そのこともそうだけど、ベルが奴隷の割に随分とキレイで......
リリスはその思考に至ると思わず硬直した。今のベルはまだ体力や精神が回復しきっていないのかまだ動きがぎこちない。それにベル自身がまだ若干虚ろな目をしている以上、そんな時に自分の体をキレイにしようとは考えにくい。まさか......ね?
「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」
「なんだ?」
「ベル、キレイよね?どうして?」
「俺は汚いのは好きではない。だから、ひん剥いて川に放り投げて洗った」
「......はあ」
リリスは思わず頭を抱えた。だが、「女の子になにしてんのよ!」とも言えない。なぜならクラウン自信にそんな感情があるとは思えないし、ベルの見た目もあってで本人的には至って普通の対応をしただけなのだろう。年齢のことも知らなかったみたいだし。
でも、なぜだろうか。私がそのことを聞く前にベルの正体を知ってしまったからなのだろうか。クラウンの行動があまり割り切れない。だが、これは仕方がない、仕方がないことなのだ。
食事が終わるとここでベルが静かに口を開いた。
「主様はどうしてお面をつけているです?」
リリスはその質問のあと嫌な予感がした。それは自分が質問したときに向けられた感情のない瞳。まさかそれを向けるのではないかと思った。ベルの聞きたいことはもっともだが、それはあまりに危険。
そんなリリスの思考を読み取ったのかロキがそっとベルを護るように寄り添う。そして、リリスの思った通りこの場が凍り付いた。
「お前らが信用できないからだ。お前らの思考、存在......それすらがなにをするのかわからない以上俺はお前らに心を見せることはない」
やはりクラウンの言葉はリリスには胸に来るものがあった。確かにまだ出会って間もないことは確かだ。だが、その間ずっとそばにいて信用されようと頑張ってきたのも確かだ。
けど、それが全て無意味というような言葉が伝えられるとやはり辛い。仕方ないとわかっていることもあるけど、そう簡単に割り切れないこともある。どうしてここまで同情気味になってしまうのかはわからないけど、このまま放っておくことは出来ない。
リリスはふとその言葉を与えられたベルの方を見た。そして、驚いた。なぜならそんな目を向けられながらベルは微塵もクラウンから目を逸らしていなかったのだ。ただ真っ直ぐとその目を受け止めている。私にもまだできないことを簡単に......いや、簡単ではないか。ベルはその恐怖に打ち勝とうと必死に拳を握りしめている。
「主様は家族が信用できないです?」
「ああ、出来ないな。そういう存在はあっても無駄なだけだ。どれだけ信じようとも仲間は裏切り、見捨て、嘲笑う......ならば、最初から利用し合う関係の方が手も切りやすくて助かる。もともと情もないわけだから殺しても構わないしな」
「それはあまりに悲しくはないです?」
ベルは勇気を振り絞ってクラウンに聞いた。そばにいるロキが「大丈夫だよ」という目線を送っているから。そして、怖くても目の前にいる男が自分の家族なのだから。それは今決めた。家族ならば互いに支え合って問題を解決していくはずだ。おじいちゃんからはそう教わった。
「悲しい?そんな感情が神殺しのどこに必要だというのだ?殺すことにいちいち情をかけていたら、精神も持たないし、そもそも殺す前に殺されている」
「情のなにが悪いです?確かに殺すことには必要ないです。ですが、それが全くないと殺戮兵器となんら変わらな―――――――――――」
クラウンはベルの口元を掴み顔を近づけた。その目には殺気と怒気が混じっていた。常人ならば見れば即座に発狂からのブラックアウトになるものであった。だが、ベルはその目すら受け止めた。恐怖もあったし、死ぬかもしれないと思った。
けど、クラウンの相棒のロキがいてくれるから、「大丈夫」と伝えて来るからそれを信じて。それにクラウンの闇には向かい合っていかなければならない日が絶対に来る。ならば、早いうちに解決するに限る。
「お前が俺の何を知っているというんだ!お前は俺の駒だ!ただ大人しく利用されろ!」
「いいえ、違うです。」
クラウンの言葉にベルは即答した。そして、クラウンの手を自分の顔から離すとリリスの方へ向かっていく。それにロキもついていった。
「ベル......」
「リリス様、大丈夫です」
それからベルが座っているリリスの横に立つとそっと肩に手を置いた。またリリスを挟むようにロキが反対側に座る。
「私は、物心つく前に両親が死んでしまったので本来の家族というものがわからないです。ですが、家族の『形』は知ってるです。ずっと一人でしたが、それでも近くにいてくれる人はいるです。だから......」
不意に強い風が吹き、日差しの強さが増す。
「私達が主様の家族です。まだ主様やロキ様、リリス様のことは何も知らないし、わかりませんがこれがあるべき姿であることはわかるです。これではダメなのです?」
「......」
クラウンは答えることはなかった。そして、ただ立ち上がると一人静かに森へと向かっていった。
「伝わってるといいわね」
「はい......」
「ウォン」
「きっと伝わっているよ」といった吠え声を上げるロキにリリスとベルは優しく微笑む。
「ベル......クラウンのこと一緒によろしくね」
「はい、どうやら私はただの駒ではないですから......」
「?」
リリスはベルの言葉が不意に気になったが、あまり深くは捉えなかった。そして、三人はしばらくクラウンが歩いていった道を眺めていた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
異世界でも目が腐ってるからなんですか?
萩場ぬし
ファンタジー
目付きが悪さからか理不尽な扱いを受けるサラリーマン、八咫 来瀬(やた らいせ)。
そんな彼はある日、1匹の黒猫と出会う。
「仮にラノベみたいな……異世界にでも行けたらとは思うよな」
そう呟いた彼は黒猫からドロップキックをされ、その日を境に平凡だった日常から異世界生活へと変わる。
決して主人公にはなれない男のダークファンタジー!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる