神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第1章 道化師は笑う

第18話 襲撃の夜#4

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クラウンが見据える先には複数の気配がこちらへと向かっている。クラウンはただその先を見ながら仮面の奥で笑うだけ。リリスもクラウンと同じ先を見ている。

「教皇様!」

「お父様、ご無事で......!!!」

 響達は大教会の入り口までやってくるとその悲惨な光景に目を疑った。そして、スティナは思わず口を手で覆う。目の前に広がるは荒れ果てて見る影もない大教会に中央に並ぶ二人の男女。そして、その横で見覚えのある首なしの死体。見間違えることなどあろうはずもない。あれはお父様だ。

「う......そ......」

「き、教皇様が......」

「お前らそれ以上見るな」

 雪姫と朱里はその現実が受け入れられずにいた。それはそうだろう、親しかった人物の突然であまりに無残な死などそうそう受け入れようはずもない。そもそも目の前で人が死んでいることすら初めてなのだ。そんな環境のもとで生きていない。故に、衝撃的すぎて言葉が出てこない。そんな二人に弥人は気を遣って言葉を発言した。

「お前が.......お前が殺したのか!?」

 響は怒りの声を上げた。聖剣を固く握りしめて今にも襲いかかろうとする気持ちを必死に抑えている。そんな響を見て二人は嘲笑った。

「あんた、おかしいこと言うのね。この状況から見てそうとしか言えないじゃない。けど、良かったじゃない?あんた達は生きて、さらに見て『死』という言葉をこれでようやく実感できるわよ」

「なん......だと!」

「けど、おかしな話ね。たとえ他の世界から来たとしてもこれだけのことを経験すれば、殺そうと襲いかかってきてもいいはずなのに。.......まあ、勝てないから戦いを挑まないっていうのもあるけど、それはあんた達では当てはまることはなさそうだしね」

 響は苦虫を嚙み潰したような顔をした。それは図星であったからだ。自身が死にかけ、仲間が死にかけ、恩人が死んで、それなのに未だに人を切るという行為そのものに抵抗を感じている。自分でも甘っちょろい考えをしていることはわかっている。だが、どうしてか覚悟がつかない。特にあの殺したであろう男のことを見ていると。

「なら、俺がやってやるよ」

「弥人!?」

「須藤君!?」

「待って、さすがに危険だよ!?」

「そうです、危険すぎます!」

 弥人はその場にいる仲間全員からすぐにその考えを改めるよう呼び止められる。だが、弥人はすでに頭に血が上っているのか仲間たちの声に反応することもなく、ただ怒りに顔を歪ませている。そして、そのまま響達に背を向けながら前に出た。

「せっかくの忠告......いや、警告は聞かなくていいのかしら?」

「聞いてるさ。だがな、それでも止まれねぇ時はあんだよ!」

「あんたのその言葉は気に入ったわ。クラウン、少しだけ時間をくれない?」

「構わん。好きにしろ」

「ありがと。それじゃあ、行って来るわ」

 リリスはクラウンの気前のいい発言に感謝すると弥人に対峙するように前に出る。その時、雪姫は聞き覚えのある声を聞いた気がした。いや、知っているあの声は忘れるはずがない。それにあの目の傷........まさか!?

 雪姫が真実に辿り着いた一方で、二人の戦いは始まろうとしていた。弥人はトンファーを構え、リリスは片足を軽く上げてエメラルドシルバーの|脚甲|《ソルレット》を見せつける。

「そらああああ!」

「気合だけじゃどうにもならないことを教えてあげるわ」

 二人はほぼ同時に動き出した。そして、最初に仕掛けたのは弥人でトンファーで殴りかかった。リリスはその攻撃に上段蹴りで合わせた。

「くっ!」

「頑張りなさい、男でしょ?」

 リリスの蹴りに押し負け、弾かれるとだんだんスイッチが入り始めてきたリリスの後ろ回し蹴りが腹部に突き刺さる。そして、そこからリリスの連続蹴りが放たれる。弥人はその攻撃をトンファーでなんとかさばいていく。

「クソがッ!」

「乙女に対してクソはないでしょ......直線おバカさん?」

「がふっ!......がっ!」

 弥人はリリスの攻撃の一瞬の隙をついて殴りかかったが、リリスはそれを見透かしたように大きく上体を逸らすと地面に両手をつけてバク転した。そして、同時に振り上げた足先で弥人の顎を撃ち上げた。それから追撃とばかりに死に体の弥人の横っ腹へと蹴りを入れて吹き飛ばす。弥人は地面につくとそのままの勢いで引きずられていく。

「もうやめろ、弥人!」

「そうです、もうお止めになって――――――――――――――――」

「ビビってる奴は引っ込んでろ!!」

 「もう見てられない」と叫んだ響とスティナに対して、弥人は苛立った声で言い返した。もう完全に周りが見えていない。止めたい。なのに、動くことが出来ない。そんな自分を響は憎んだ。そして、弥人の言っている言葉は正しかった。自分達は攻撃しないのではない、攻撃をしても意味がないと思っているのだ。弥人はそれをわかっていて、それでも前に足を出した。

 その姿を見て響は唇を噛む。戦わなければ可能性はないが、戦えばわからない。無数にある針の穴にほんのわずかな可能性という糸を通すことができるかもしれない。なのに......なのに覚悟が定まらない!

 するとリリスが弥人に向かってどこか甘い声で言葉をかけた。

「男らしいのは好きだけど、暑苦しいのは嫌いなのよね......でも、その歯向かって来る顔はとっっっっても大好きよ!」

 リリスは頬を上気させ、身をよじらせる。どうやら完全にスイッチが入ってしまったようだ。そんなリリスを見てクラウンは呆れたため息を吐いた。だが、これはいつ見ても見ても面白い。後でからかうか。

 弥人は拳を地面に突き立てながらゆっくりと立ち上がる。気合は十分だが、息は絶え絶えとしている。だが、もう後には引けない。

「なめんなぁ!!!.....影無」

「その顔をもっと歪ませてあ・げ・る♡」

 怒号の声を上げる弥人とは反対にリリスは甘い声を上げる。すると弥人はやみくもに突っ込んでいったが、違いがあるとすれば弥人が三人になったことか。その三人の弥人は正面、右、左と同時に攻めてくる。それに対し、リリスはその三人に目もくれず何もない背後へと思いっきり中段蹴りをした。

「うがっ!」

「ふふふふふっ」

 すると何もなかったところからうめき声が上がり、次第に空間が揺らぎ始め一人の少年、弥人が現れた。リリスは弥人の腹部を蹴り上げるとそこから蹴った足を頭上まで持ち上げて、背中に踵を振り落とす。

「ねぇ、どう?いくら抵抗しても屈服させられる時の気持ちは?......悲しい?苦しい?怖い?憎い?それとも嬉しかったりして?それなら波長は合うかもね。あくまで波長だけど」

 リリスは甘美な表情をしながら、弥人の背中をグリグリと押し付ける。そんなリリスを弥人は不俱戴天の仇のような顔をして見ていた。

「なめんのもいい加減にしろやああああ!......風衝!」

「......!」

 弥人は横回転しながらリリスの踏みつけている足から離れる。そして、立ち上がると同時にリリスに殴りかかった。しかし、リリスはそれを後方へ下がって避け......られなかった。いわば拳圧のようなものが弥人から飛ばされたのだ。そして、それはリリスの頬に直撃した。

 リリスは思わずよろめきながら、殴られた頬を手で抑える。口内を切ったのか唇から血が流れている。それがわかった瞬間、憤怒の表情を浮かべた。

「この私を傷つけるなんていい度胸ね。いいわ、たっぷりと苦しめて―――――――――――」

「もういい、リリス。ここからは俺の時間だ」

「ふぇ!?」

 今にも飛び掛かろうとしているリリスの肩を掴んで制止したのはクラウンだった。それからクラウンは唇から血を流しているリリスの頬に触れると指でそっと拭った。その今までにない行動にリリスは思わず素に戻って、顔を赤らめながら変な声が漏れてしまった。

 クラウンはそんなリリスを無視しながら響達に話しかける。

「久しぶりだな、お前ら」

「やっぱり......やっぱりそうだ。」

「雪姫ちゃん、どうしたの?」

「雪姫さん?」

 雪姫の明らかな態度の変化に困惑の表情を浮かべる朱里とスティナは思わず雪姫に尋ねた。だが、雪姫は答えることもなく、ただ信じられないといった様子で目の前の男を見ている。そして、おもむろに走り出した。感情の高ぶりをそのままにして。

「ずっと会えないと思ってた!もうその姿が見れないと思っていた!......会いたかった!ずっと会いたかったよ、仁!」

「「「「!!!」」」」

 雪姫の言葉に響達全員が自身の耳を疑った。なにかの聞き間違えではないかと。だが、【海堂 仁】の幼馴染である雪姫がそう言っている。なら、そうなのだろう......だが、それでもあの時死んだはずでなかったのか?

 駆け寄ってくる雪姫にクラウンこと仁はゆっくりと迎えに行くように歩いていく。

「仁!」

 雪姫はもう感情が爆発しているのか、溢れ出る涙をそのままにただ触れたい、温もりを感じたいとばかりに一心不乱に走っていく。そんあな雪姫に仁は優しい目を見せた。......ただ、仮面の奥の口元では残酷な笑みを浮かべながら。

「仁!」

「ああ、俺も会いたかったさ、雪姫。そして、待っていたさ―――――――――」

「え?」

 すると仁はその場で立ち止まりゆっくりと片足を上げた。その謎の行動に雪姫は戸惑いの声を出した。

「あの時の俺と同じ表情をさせるこの時をなぁ!」

「ぐっ!..............かはっ!」

 クラウンは思いっきり雪姫を蹴り飛ばした。そして、蹴り飛ばされた雪姫は響達を通り過ぎると壁に叩きつけられ、肺の空気が強制的に吐き出された。その時一枚の写真が雪姫の胸元から落ちる。それは高校の入学式の際に仁と一緒に撮った思い出の写真。雪姫はそれを手に取ろうとしたが、その前に目の前に暗くなる。

 響達は何が起こったか理解できなかった。、いや、理解したくなかった。

 響は聖剣を握りしめた。もう僕たちの知っている仁はここにはいない。あれは仁の姿をした怪物だ。たとえ......たとえ、僕たちがその怪物を作り出したとしてもこれだけは......仁を思い続けた倉科にこんな仕打ちはあまりにむごすぎる!

「お前だけは......お前だけは許さない!」

「好きにしろ。俺はもとより和解など求めるつもりはない」

 響は激情のままに切りかかった。だが、その攻撃も次の攻撃もその次の攻撃もかすることもなく避けられていく。そのことに響は唇を噛みしめる。

「光刃!」

「うざい.....極震」

「!......がばぁっ!」

 響は聖剣を神々しく光らせると思いっきり振り下ろした。だが、その攻撃は仁の左手だけで止められ、逆に腹部へと体を揺さぶられるような衝撃が与えられる。響から思わずうめき声が漏れる。

 そして、地面でうずくまる響を仁は踏みつけた。

「さて、これでいい加減状況は理解したか?俺はお前らがの男だ。そして、お前らとケリをつけるためにここに現れた」

 そう言いながら仁は弥人に向かって響きを蹴飛ばした。弥人はよろめきながらも響きをなんとか受け取める。

「安心しろ。お前らは殺さない。お前らには教えたらないからなぁ......あの時の悲しみを!恐怖を!!絶望を!!!」

 その瞬間、大教会のステンドガラスから一匹の白い獣が現れた。ロキだ。ロキはその口に気を失っているガルドを咥えながら、仁達に歩み寄る。そして、仁のもとに来ると響達に向かってガルドを投げ飛ばした。

「もとの世界のよしみだ。特別に俺達の目的を教えてやるよ」

「目的.....ですか?」

 スティナが思わずオウム返しのように聞き返すと途端に身の毛もよだつ恐怖に襲われた。それはスティナだけではなく、響達も同様に。

「俺達は神を殺し、この世界を破壊する。それが俺達、『神逆者』の目的だ」

 そう言うと仁、リリスはロキの背に乗る。そして、捨て台詞のように言い放った。

「止めたければ、止めてみろ。その時は完全なる敵対者として、お前らを殺す」

 仁達はこの場を去った。

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『凶気が 10 上がりました。現在の凶気度レベル 15 』
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