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第1章 道化師は笑う
第16話 襲撃の夜#2
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「お前達、よくここまで耐えてくれた!この魔物は俺に任せて、まだ避難しきれていない住民の避難を急げ!」
「「「「「はっ!」」」」」
ガルドの言葉に兵士達は素早く動いた。ガルドなら任せられるという信頼の証だ。そして、兵士達がこの場から散っていくのを確認すると空中にいる真っ白いオオカミを見据えた。
「グルルルル」
「くっ!」
そのオオカミ、ロキも下にいるガルドを喉を唸らせながら見ていた。そして、肌を刺すような威圧をガルドに放つ。ガルドはその威圧に当てられてなのか大量の汗を噴き出した。ここに来るまで全力で走ってきた時はかかなかった汗を。正直、ガルドは勝てる見込みは薄いとロキの姿を見た時から思っていた。それはネガティブの思考というわけではなく、戦士としての経験による力量差の違いからだ。だが、それでも......
「俺はこの国を、教皇を守ること任された聖騎士団長だ!いざ、参る!......炎撃!」
「ウォン!」
ガルドは剣を上段に構えるとロキに向かった思いっきり振るい降ろした。その瞬間、炎の斬撃がロキへと向かっていった。その攻撃に対し、ロキは<斬翔>を放って攻撃を相殺させる。
「ウォン!」
「!......くっ、おらああああああ!」
相殺によって起こった爆発の煙に紛れてロキは気配を消すと地上に降りてガルドに突っ込んだ。ガルドは戦いによって培われた直感によって咄嗟に自身の正面に剣を横に向けた。すると一秒もたたずその剣にロキが噛みつき、ガルドを突っ込んだ勢いのまま押していく。ガルドはその攻撃に体が持っていかれないように踏ん張る。
「ヴァウ!」
「うぉ!?」
するとこのままではダメージを与えられないと判断したロキは首を大きく動かしてガルドを投げ飛ばした。思わず虚を突かれたガルドは天に向かって昇っていく。だが、ガルドはすぐに状況を理解して体勢を立て直す。
「おらああああああ!」
「ウォン!」
そして、体が落下し始めると剣を頭上に掲げ、落下加速を活かしてロキに突っ込んでいく。ロキはそのガルドに向かえ討つように空中を駆けて行く。そして、ガルドは剣を振り下ろし、ロキは爪を振り上げた。
「ウォン!」
「がぁはっ!」
だが、もともとの膂力が違ったのか事前に強化してあったガルドの攻撃も虚しく再び上空へと飛ばされる。するとロキは<瞬脚>で加速して先回りするとその場で一回転してその遠心力を活かして尻尾で叩き落とした。
その攻撃にガルドは思わずうめき声を上げ、勢いよく地上に落ちていく。
「「「「「巻風!!」」」」」
だが、ガルドは地上に叩きつけられることはなかった。その前に先ほど散った兵士達が集まってきて魔法で上昇気流に作り出すことでガルドの落下速度を殺したのだ。そのおかげでガルドは安全に着地することができた。
「すまない、助かった」
「いえ、これくらい当たり前のことです」
その言葉にガルドは思わず胸を熱くさせた。「我が部下ながらいい奴になったな」と関心もしている。
「団長、来ます!」
その言葉を聞いてガルドはロキに目を向けるとロキの開けた口には紫電を走らせた光が収束していた。それを見た瞬間、ガルドは死へのビジョンが脳裏に流れた。そして、反射ともいえる速さでこの場にいる兵士達に命令した。
「全員、この場から逃げろおおおおおぉぉぉぉ!!!」
ガルドがいた所は眩う光に包まれ、鼓膜を破るかのような轟音が鳴り響いた。そして、光が消えた頃には瓦礫もなにも消し去ってしまったのか辺り一帯は焦土と化していた。その変わり果てた土地を見てガルドと兵士達は呆然とした表情をした。
勝てる見込みは薄いなんてものじゃない。それすらも驕りだったのだと知らしめられるような凄惨な光景。どうやったらこんなバケモノに勝てようか。少なくとも今の俺達では決して勝てないだろう。勝てる見込みがあるとすれば勇者達しかいない。だが、それまでどうやって時間を稼ぐ?あのバケモノは戦ってわかるがおそらく頭が回る。俺たちが時間を稼いでいることがバレれば、俺達には手も出しようもない空中を走って強襲しにいくだろう。そうなれば、魔王討伐どころの話ではなくなる。クソッ!どうすればいいんだ!
ガルドは焦りを募らせていく。今の攻撃は運よく爆風に乗って直撃を避けた。だが、同じ手を食らわせる魔物ではない。そして、今俺達が隠れていることもきっとバレている。あまり時間はかけることは出来ない。ならば、やることは一つ。
「マコト、お前に頼みたいことがある」
「はっ!何でございましょうか?」
マコトと呼ばれた兵士は今この場にいる兵士の中で唯一の女性であった。そのマコトはガルドの優しい笑みと口調で全てを悟ったのかもうすでに溢れんばかりの涙と鼻水を流している。そんなマコトの頭をガルドは優しく撫でるとそっと言った。
「悪いな、お前は男に負けじと必死に頑張って来たのに最後に女扱いしてしまって」
「.....グスン......いいえ、そんなことありません!」
「そんでお前に頼みたいことというのは、この場にできるだけ多くの勇者達を連れてきてほしい」
「はっ、わかりました!」
「安心しろ、まだ死ぬと決まったわけじゃない.....さあ、行ってくれ」
マコトはガルドが生存することを望みながらもその言葉がどこか最後の命令のように聞こえた。本当なら一緒に戦いたかった。だが、それでは尊敬する団長を裏切ることになる。それだけは出来なかった。だから、自分の気持ちを押し殺し走り出した。間に合えば、まだ全員が助かる見込みがあるかもしれない。そう必死に信じて。
ガルドはマコトが遠くに行ったのを確認するとロキを見据えた。ロキはやっと終わったかというような強者の余裕を見せてゆっくりと地上に降りてくる。
「ははは......」
ガルドはそれを見て思わず苦笑いを浮かべた。あの魔物のことなら待たずに殺すことも出来たはず。それをしないということは勇者達が来ても問題ないということなのか、それともそもそもそうする必要もなく、俺達が生きることで意味があるものだというのか。もしくは全く別の理由か。どちらにせよ俺たちが戦わなければならないことには変わりない。
「お前達、おそらくこの戦いが―――――――――――――――」
「団長、らしくないですぜ」
「そうそう、男と自分には厳しく、女と勇者様達には無意識に優しくなっているぐらいが丁度いいんですよ」
「ははははは、お前も気づいていたんだな」
ガルドの深刻な表情とは裏腹に兵士達は軽く団長をイジって見せた。だが、その肩や手は少し震えている。兵士達は怖がっているにも関わらず、あえてそんな態度を装ったのだ。そんな兵士達のおかげかガルドの張り過ぎていた肩の力が抜けて、体が少し軽くなった。
そして、ガルドはただ一言だけ兵士達に告げる。
「生きるぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
ガルドと兵士達はロキへと向かっていった。
************************************************
「ねぇ、いつまで私を退屈させる気なの?」
「クソッたれぇ!」
「押さえろ、弥人!」
弥人は響の声で咄嗟に殴りかかった拳を止める。だが、目の前にいる男は何のためらいもなく切りかかってきた。弥人はその攻撃を後ろへ下がることで避け、さらに距離を取った。
「はあ......まじめにやる気あんの?」
リリスはそんな行動を繰り返している響達に呆れたため息を吐いた。そんなリリスの様子に響達は思わず苦虫を嚙み潰したような顔した。
「それはこっちのセリフだ!お前こそ、戦う気があるのか!」
「あんたにお前とか言われる筋合いはないんだけど......まあ、いいわ。戦う気はあるに決まっているじゃない。それにこれは私の魔法よ?それを使って何か問題でも?」
「お前に......お前に人の心はないのか!今すぐ俺たちの仲間を返せ!」
響はリリスに怒声を浴びせるように言った。そう、今響達の目の前にいるのは響達の仲間でその目の焦点は合ってなく、まるでリリスを守護するように立ちはだかっている。そして先ほどから、その仲間達の間を縫ってリリスに攻撃を仕掛けているのだが、その前に目の前に出てこられて攻撃を当てられない。代わりに一方的に攻撃をされる。魔法での攻撃もリリスを庇うように出てこられるのでまともに仕掛けることも出来ない。まさに防戦一方といった感じであった。
怒りの表情を浮かべる響達をリリスは嘲笑すると戦闘の初めに言った言葉に関することを言った。
「だから、初めに言ったでしょ?『今のあんた達に負ける気はしない』って?人の心うんぬんを言っている時点であんた達はスタートラインにすら立ってないことがわからないの?」
「なんのスタートラインなんですか?」
「.....あはは、あはははははは」
雪姫の質問にリリスは大声で笑った。まさかそんなことまでわかっていないとは。とんだ腑抜けどもだ。これでよく魔王討伐なんぞ任されたものだ。おそらくただ能力だけで選ばれたってことだろう。そんなもの役に立つのは最初だけで、すぐに足手まといだ。
笑うリリスに朱里が怒った。
「なにがそんなおかしいって言うんですか!?」
「は?むしろわからないの?あんた達がいまどれだけバカな発言したことに?」
「なんだってんだよ!!」
「うるさい猿ね。いいわ、特別に答えてあげる。あんた達、今私となにをしていると思ってんの?」
リリスは存分にバカにした表情をしながら響達に問いた。そのリリスの態度に今にも腸が煮えくり返るといった雰囲気を放つ響だが、出した言葉は落ち着ていた。
「戦いだろ?」
「ええ、そうね。でも、もっとわかりやすい言葉があると思うんだけど?」
「それ以外何があるっていうんだ?」
その言葉を聞いてリリスは呆れたため息を吐く。もうなんか一周回って可哀そうに見えてきた。かといって、人間なんぞに同情する気はこれっぽちもないけど。
「......そうね、簡単に言えば殺し合いよ」
「なっ!」
「なにを驚いているのかしら?あんた達は魔王を殺しに行くんでしょ?まさか倒すなんて言わないでしょうね?」
響達はその時ガルドとのやり取りを言葉を思い出した。あの時は魔王を引き合いに出して話を進めていたが、なにも戦うのは魔王だけとは限らない。魔王の軍勢をも相手にして戦うことに。それはつまり魔王以外多くの人を殺すということ。そして、あの時の人型の魔物との戦いはそのデモンストレーションでしかなかった。そこで覚悟を持った気でいただけでしかなかった。全然覚悟など出来てはいなかった。
「どうやらわかったようね。あんた達の脆弱さの原因を。少し神の使徒という存在を高く見積もり過ぎていたわ。瀕死になるぐらいの覚悟を持っていたのだけれど。作り損ね。だから......」
リリスは<魅了>の魔法を消した。すると操られていた数人の響の仲間は目の焦点を正常に戻した。
「死がなんなのか教えてあげるわ........嵐旋」
「避けて!!!」
「ん?......あれ、ここは?それになんで聖女様が――――――――――」
その瞬間、リリスは城下町が見える風穴が開いた廊下の壁に向かってその場で中段蹴りをした。するとリリスの動きに合わせて嵐の如く荒れ狂う風でできた巨大な足が意識を戻した響の仲間全員を城の外へと蹴り飛ばした。響の仲間達はなにが起こったのかもわからず、ただ全身に走る痛みを感じたまま空中に放り出される。
響達はそのあまりの衝撃に全く動くことが出来なかった。そんな響達にリリスは嘲笑しながら言う。
「ほら、助けないと死んじゃうわよ?」
「てめええええぇぇぇぇ!!!」
「あら良い顔になったわね。ゆ・う・しゃ・さ・ま♡」
響の怒り狂った顔をしながらこちらに向かって来る。リリスはそれを見て思わず顔が上気して、身をよじらせる。いわゆるスイッチは入ったのだ。
「さあ、全員牙を見せてみなさい!全て折ってあげるわ!......地裂」
リリスは右足を天高く上げるとそこから床へと踵を振り下ろした。すると、当たった場所から放射状にヒビが入っていき、やがて床が崩れた。その攻撃によって足場がなくなり、響はリリスへと近づけなくなった。
リリスは響達と一緒になって落下しながらも大きく笑っている。
「いいわ、その顔!怒りと憎悪が混じった顔!とても勇者とは思えないわね!......でも、いいのかしら?お仲間さんを助けなくって?」
「......!」
響はリリスの言葉にハッとさせられる。そして、後方を見ると崩れた床と一緒に落ちていく仲間の姿が。響は「クソッ!」と思わずいら立ちを吐き出しながら、<身体能力強化>で自身が立っていた瓦礫を蹴ると仲間達へと向かっていく。
「ウォ―――――――――――――――――――ン」
遠くからオオカミの遠吠えが聞こえる。
リリスは勇者が遠ざかったのを確認すると指輪から懐中時計を取り出して時間を見た。予定の時間だ。たとえ決着がつかなくてもクラウンは切り上げると言っていた。すると、リリスは真下に向かって<嵐旋>を放った。その風の勢いで上昇すると風魔法で加減しながらもとの位置に戻ってきた。
「さて、生きて再び会えるかしら?」
リリスは依然として落下していく勇者達を見て再び嘲笑した。ここは城の中でそれなりに高いところにあり地面に辿り着くにはそれなりにかかる。上手くいけば全員助かるだろう。それもこれもあの勇者次第だが。
そして、リリスはクラウンのいる位置に向かった。
「「「「「はっ!」」」」」
ガルドの言葉に兵士達は素早く動いた。ガルドなら任せられるという信頼の証だ。そして、兵士達がこの場から散っていくのを確認すると空中にいる真っ白いオオカミを見据えた。
「グルルルル」
「くっ!」
そのオオカミ、ロキも下にいるガルドを喉を唸らせながら見ていた。そして、肌を刺すような威圧をガルドに放つ。ガルドはその威圧に当てられてなのか大量の汗を噴き出した。ここに来るまで全力で走ってきた時はかかなかった汗を。正直、ガルドは勝てる見込みは薄いとロキの姿を見た時から思っていた。それはネガティブの思考というわけではなく、戦士としての経験による力量差の違いからだ。だが、それでも......
「俺はこの国を、教皇を守ること任された聖騎士団長だ!いざ、参る!......炎撃!」
「ウォン!」
ガルドは剣を上段に構えるとロキに向かった思いっきり振るい降ろした。その瞬間、炎の斬撃がロキへと向かっていった。その攻撃に対し、ロキは<斬翔>を放って攻撃を相殺させる。
「ウォン!」
「!......くっ、おらああああああ!」
相殺によって起こった爆発の煙に紛れてロキは気配を消すと地上に降りてガルドに突っ込んだ。ガルドは戦いによって培われた直感によって咄嗟に自身の正面に剣を横に向けた。すると一秒もたたずその剣にロキが噛みつき、ガルドを突っ込んだ勢いのまま押していく。ガルドはその攻撃に体が持っていかれないように踏ん張る。
「ヴァウ!」
「うぉ!?」
するとこのままではダメージを与えられないと判断したロキは首を大きく動かしてガルドを投げ飛ばした。思わず虚を突かれたガルドは天に向かって昇っていく。だが、ガルドはすぐに状況を理解して体勢を立て直す。
「おらああああああ!」
「ウォン!」
そして、体が落下し始めると剣を頭上に掲げ、落下加速を活かしてロキに突っ込んでいく。ロキはそのガルドに向かえ討つように空中を駆けて行く。そして、ガルドは剣を振り下ろし、ロキは爪を振り上げた。
「ウォン!」
「がぁはっ!」
だが、もともとの膂力が違ったのか事前に強化してあったガルドの攻撃も虚しく再び上空へと飛ばされる。するとロキは<瞬脚>で加速して先回りするとその場で一回転してその遠心力を活かして尻尾で叩き落とした。
その攻撃にガルドは思わずうめき声を上げ、勢いよく地上に落ちていく。
「「「「「巻風!!」」」」」
だが、ガルドは地上に叩きつけられることはなかった。その前に先ほど散った兵士達が集まってきて魔法で上昇気流に作り出すことでガルドの落下速度を殺したのだ。そのおかげでガルドは安全に着地することができた。
「すまない、助かった」
「いえ、これくらい当たり前のことです」
その言葉にガルドは思わず胸を熱くさせた。「我が部下ながらいい奴になったな」と関心もしている。
「団長、来ます!」
その言葉を聞いてガルドはロキに目を向けるとロキの開けた口には紫電を走らせた光が収束していた。それを見た瞬間、ガルドは死へのビジョンが脳裏に流れた。そして、反射ともいえる速さでこの場にいる兵士達に命令した。
「全員、この場から逃げろおおおおおぉぉぉぉ!!!」
ガルドがいた所は眩う光に包まれ、鼓膜を破るかのような轟音が鳴り響いた。そして、光が消えた頃には瓦礫もなにも消し去ってしまったのか辺り一帯は焦土と化していた。その変わり果てた土地を見てガルドと兵士達は呆然とした表情をした。
勝てる見込みは薄いなんてものじゃない。それすらも驕りだったのだと知らしめられるような凄惨な光景。どうやったらこんなバケモノに勝てようか。少なくとも今の俺達では決して勝てないだろう。勝てる見込みがあるとすれば勇者達しかいない。だが、それまでどうやって時間を稼ぐ?あのバケモノは戦ってわかるがおそらく頭が回る。俺たちが時間を稼いでいることがバレれば、俺達には手も出しようもない空中を走って強襲しにいくだろう。そうなれば、魔王討伐どころの話ではなくなる。クソッ!どうすればいいんだ!
ガルドは焦りを募らせていく。今の攻撃は運よく爆風に乗って直撃を避けた。だが、同じ手を食らわせる魔物ではない。そして、今俺達が隠れていることもきっとバレている。あまり時間はかけることは出来ない。ならば、やることは一つ。
「マコト、お前に頼みたいことがある」
「はっ!何でございましょうか?」
マコトと呼ばれた兵士は今この場にいる兵士の中で唯一の女性であった。そのマコトはガルドの優しい笑みと口調で全てを悟ったのかもうすでに溢れんばかりの涙と鼻水を流している。そんなマコトの頭をガルドは優しく撫でるとそっと言った。
「悪いな、お前は男に負けじと必死に頑張って来たのに最後に女扱いしてしまって」
「.....グスン......いいえ、そんなことありません!」
「そんでお前に頼みたいことというのは、この場にできるだけ多くの勇者達を連れてきてほしい」
「はっ、わかりました!」
「安心しろ、まだ死ぬと決まったわけじゃない.....さあ、行ってくれ」
マコトはガルドが生存することを望みながらもその言葉がどこか最後の命令のように聞こえた。本当なら一緒に戦いたかった。だが、それでは尊敬する団長を裏切ることになる。それだけは出来なかった。だから、自分の気持ちを押し殺し走り出した。間に合えば、まだ全員が助かる見込みがあるかもしれない。そう必死に信じて。
ガルドはマコトが遠くに行ったのを確認するとロキを見据えた。ロキはやっと終わったかというような強者の余裕を見せてゆっくりと地上に降りてくる。
「ははは......」
ガルドはそれを見て思わず苦笑いを浮かべた。あの魔物のことなら待たずに殺すことも出来たはず。それをしないということは勇者達が来ても問題ないということなのか、それともそもそもそうする必要もなく、俺達が生きることで意味があるものだというのか。もしくは全く別の理由か。どちらにせよ俺たちが戦わなければならないことには変わりない。
「お前達、おそらくこの戦いが―――――――――――――――」
「団長、らしくないですぜ」
「そうそう、男と自分には厳しく、女と勇者様達には無意識に優しくなっているぐらいが丁度いいんですよ」
「ははははは、お前も気づいていたんだな」
ガルドの深刻な表情とは裏腹に兵士達は軽く団長をイジって見せた。だが、その肩や手は少し震えている。兵士達は怖がっているにも関わらず、あえてそんな態度を装ったのだ。そんな兵士達のおかげかガルドの張り過ぎていた肩の力が抜けて、体が少し軽くなった。
そして、ガルドはただ一言だけ兵士達に告げる。
「生きるぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
ガルドと兵士達はロキへと向かっていった。
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「ねぇ、いつまで私を退屈させる気なの?」
「クソッたれぇ!」
「押さえろ、弥人!」
弥人は響の声で咄嗟に殴りかかった拳を止める。だが、目の前にいる男は何のためらいもなく切りかかってきた。弥人はその攻撃を後ろへ下がることで避け、さらに距離を取った。
「はあ......まじめにやる気あんの?」
リリスはそんな行動を繰り返している響達に呆れたため息を吐いた。そんなリリスの様子に響達は思わず苦虫を嚙み潰したような顔した。
「それはこっちのセリフだ!お前こそ、戦う気があるのか!」
「あんたにお前とか言われる筋合いはないんだけど......まあ、いいわ。戦う気はあるに決まっているじゃない。それにこれは私の魔法よ?それを使って何か問題でも?」
「お前に......お前に人の心はないのか!今すぐ俺たちの仲間を返せ!」
響はリリスに怒声を浴びせるように言った。そう、今響達の目の前にいるのは響達の仲間でその目の焦点は合ってなく、まるでリリスを守護するように立ちはだかっている。そして先ほどから、その仲間達の間を縫ってリリスに攻撃を仕掛けているのだが、その前に目の前に出てこられて攻撃を当てられない。代わりに一方的に攻撃をされる。魔法での攻撃もリリスを庇うように出てこられるのでまともに仕掛けることも出来ない。まさに防戦一方といった感じであった。
怒りの表情を浮かべる響達をリリスは嘲笑すると戦闘の初めに言った言葉に関することを言った。
「だから、初めに言ったでしょ?『今のあんた達に負ける気はしない』って?人の心うんぬんを言っている時点であんた達はスタートラインにすら立ってないことがわからないの?」
「なんのスタートラインなんですか?」
「.....あはは、あはははははは」
雪姫の質問にリリスは大声で笑った。まさかそんなことまでわかっていないとは。とんだ腑抜けどもだ。これでよく魔王討伐なんぞ任されたものだ。おそらくただ能力だけで選ばれたってことだろう。そんなもの役に立つのは最初だけで、すぐに足手まといだ。
笑うリリスに朱里が怒った。
「なにがそんなおかしいって言うんですか!?」
「は?むしろわからないの?あんた達がいまどれだけバカな発言したことに?」
「なんだってんだよ!!」
「うるさい猿ね。いいわ、特別に答えてあげる。あんた達、今私となにをしていると思ってんの?」
リリスは存分にバカにした表情をしながら響達に問いた。そのリリスの態度に今にも腸が煮えくり返るといった雰囲気を放つ響だが、出した言葉は落ち着ていた。
「戦いだろ?」
「ええ、そうね。でも、もっとわかりやすい言葉があると思うんだけど?」
「それ以外何があるっていうんだ?」
その言葉を聞いてリリスは呆れたため息を吐く。もうなんか一周回って可哀そうに見えてきた。かといって、人間なんぞに同情する気はこれっぽちもないけど。
「......そうね、簡単に言えば殺し合いよ」
「なっ!」
「なにを驚いているのかしら?あんた達は魔王を殺しに行くんでしょ?まさか倒すなんて言わないでしょうね?」
響達はその時ガルドとのやり取りを言葉を思い出した。あの時は魔王を引き合いに出して話を進めていたが、なにも戦うのは魔王だけとは限らない。魔王の軍勢をも相手にして戦うことに。それはつまり魔王以外多くの人を殺すということ。そして、あの時の人型の魔物との戦いはそのデモンストレーションでしかなかった。そこで覚悟を持った気でいただけでしかなかった。全然覚悟など出来てはいなかった。
「どうやらわかったようね。あんた達の脆弱さの原因を。少し神の使徒という存在を高く見積もり過ぎていたわ。瀕死になるぐらいの覚悟を持っていたのだけれど。作り損ね。だから......」
リリスは<魅了>の魔法を消した。すると操られていた数人の響の仲間は目の焦点を正常に戻した。
「死がなんなのか教えてあげるわ........嵐旋」
「避けて!!!」
「ん?......あれ、ここは?それになんで聖女様が――――――――――」
その瞬間、リリスは城下町が見える風穴が開いた廊下の壁に向かってその場で中段蹴りをした。するとリリスの動きに合わせて嵐の如く荒れ狂う風でできた巨大な足が意識を戻した響の仲間全員を城の外へと蹴り飛ばした。響の仲間達はなにが起こったのかもわからず、ただ全身に走る痛みを感じたまま空中に放り出される。
響達はそのあまりの衝撃に全く動くことが出来なかった。そんな響達にリリスは嘲笑しながら言う。
「ほら、助けないと死んじゃうわよ?」
「てめええええぇぇぇぇ!!!」
「あら良い顔になったわね。ゆ・う・しゃ・さ・ま♡」
響の怒り狂った顔をしながらこちらに向かって来る。リリスはそれを見て思わず顔が上気して、身をよじらせる。いわゆるスイッチは入ったのだ。
「さあ、全員牙を見せてみなさい!全て折ってあげるわ!......地裂」
リリスは右足を天高く上げるとそこから床へと踵を振り下ろした。すると、当たった場所から放射状にヒビが入っていき、やがて床が崩れた。その攻撃によって足場がなくなり、響はリリスへと近づけなくなった。
リリスは響達と一緒になって落下しながらも大きく笑っている。
「いいわ、その顔!怒りと憎悪が混じった顔!とても勇者とは思えないわね!......でも、いいのかしら?お仲間さんを助けなくって?」
「......!」
響はリリスの言葉にハッとさせられる。そして、後方を見ると崩れた床と一緒に落ちていく仲間の姿が。響は「クソッ!」と思わずいら立ちを吐き出しながら、<身体能力強化>で自身が立っていた瓦礫を蹴ると仲間達へと向かっていく。
「ウォ―――――――――――――――――――ン」
遠くからオオカミの遠吠えが聞こえる。
リリスは勇者が遠ざかったのを確認すると指輪から懐中時計を取り出して時間を見た。予定の時間だ。たとえ決着がつかなくてもクラウンは切り上げると言っていた。すると、リリスは真下に向かって<嵐旋>を放った。その風の勢いで上昇すると風魔法で加減しながらもとの位置に戻ってきた。
「さて、生きて再び会えるかしら?」
リリスは依然として落下していく勇者達を見て再び嘲笑した。ここは城の中でそれなりに高いところにあり地面に辿り着くにはそれなりにかかる。上手くいけば全員助かるだろう。それもこれもあの勇者次第だが。
そして、リリスはクラウンのいる位置に向かった。
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