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第1章 道化師は笑う

第15話 襲撃の夜 #1

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襲撃する10分前、クラウン、リリス、ロキは外壁の上にいた。そして、リリスは外壁の下を覗き見て、呆れたため息を吐いていた。

「ねぇ、あの人間どもは何?」

「俺の情報提供者からもらった死兵だ。もちろん、そのまま死んでも構わない者達でもある」

「あんた、あんなにあった金貨が半分もごっそりなくなっているのはそういう理由なのね。それぐらいなら言ってくれれば良かったのに......もしかして私の負担を減らすものだったりするのかしら?」

「そんなわけあるか。ただ、俺が突入しやすくするためだ」

「はあ......分かってたけどもう少し愛想が良いと良かったわ」

 不満そうなリリスを横目にクラウンは後ろを向くとそのまま下にいる男どもに声をかけた。

「いいかお前ら、もう少しで襲撃を開始する。お前らに期待なんぞ微塵もしていないが、生きたければ最低限の仕事はやってもらう。それに生きれば、お前らのボスがお前らを重宝してくれるらしいぞ?」

 その言葉に男たちは歓喜した。この場にいる男たちのほぼ全てがボスリックにとっていてもいなくてもいい存在であり、一日を生きるのにやっとな生活を送っている。だが、重宝してくれるならば、人生は一変し、簡単に言えば金持ちのような暮らしができるのだ。なので、リックと直接面会したクラウンの言った言葉は信じられた。

「だが、当然リスクもある。お前らがこれからやることは王国兵の殺戮だ。故に死ぬというリスクもある」

 そこの言葉に男どもは先ほどとは打って変わってひるんだ。なんせ知っているのだ、王国兵の実力を。男たちはいろいろなり理由で闇に住む生活をしているが、その中には王国兵からこちらに移った者もいる。そいつの実力は今いる男たちが10人束にかかっても勝てるかどうか。そのことを知っている男たちにとってはこの先行く道が地獄でしかない。いわば死ねと言っているようなものだ。

 だが、クラウンはそんな男たちを見て目を細めた。そして、仮面の奥でニヤリと笑った。

 一方、リリスとロキはそんなクラウンを見て「絶対何か企んでるでしょ」といった目線を送った。

「お前ら、まさか怯えているのか?たったこれだけでか?随分と笑わせてくれるじゃねぇか。お前らはそもそもなぜこんなところにいる。ボスに命令されたからか?金に目が眩んだから?どちらにせよここまで来たのはお前らの意思だ。弱い奴はとっくに逃げ出している」

 クラウンは自分の言葉を強調するように声を張り上げ、拳を握りしめた。

「だが、お前らはそんな奴らとは違う!お前らはリスクよりもチャンスを取った強き者達だ!なら、今こそその意思の強さを示せ!お前ら自身の価値存在を示せ!この戦いはお前らの運命を変える大事な一戦だ!切られても切れ!貫かれても貫け!殺されても殺せ!......それがお前らの存在証明となる」

 この男たちの9割はスラム出身者たちだ。そこには法もなければルールもない。そして、自分自身の価値すらない。それはこの世界にいないことと何ら変わりない。だが、これで勝てばボスからは重宝され、贅沢な暮らしができ、なにより価値が見いだされる。そんなチャンス二度もあるかどうか。ならば、もうこれ以上ないチャンスをみすみす逃す手はない。やってやろう、たとえ死んでも自分の存在が証明できるなら。

「「「「「おおおおおおお!」」」」」

 男たちは雄叫びを上げた。最初と比べて覇気も士気も段違いだ。それを見てクラウンは笑みを深める。

「悪魔ってあんたのことだったのね」

「なら、リリス。お前は悪魔と契約した哀れな女だな」

「あら、私はそうは思ってないけれど?むしろ最高な気分よ」

 リリスは余裕といった笑みを浮かべながらクラウンに言う。クラウンはそのことに少しだけ頼もしさを感じた。

「......勇者どもの引きつけは頼んだ。突入してからの撤収時間は変わりない」

「任せなさい。......あんたもこんな所でしくじるんじゃないわよ」

 「しくじる」つまりは「死ぬ」ということ。その意味が分かるとクラウンは鼻を鳴らした。

「フン......俺を誰だと思っているんだ?俺は神逆者だぞ」

「そうだったわね。なら、存分に宣戦布告してきなさい」

 リリスは自分のことのように自信満々に言い放った。こいつは俺が死なないと信じているのか。......面白い。

 そして、懐中時計で時間を確認するとそれを腰にあるポーチにしまうと告げた。

「時間だ......さあ、襲撃開始だ」

「「「「「おおおおおおお!」」」」」

 雄叫びを上げる男たちと同時にロキが空から突入した。そして、ロキは王都の中心に降り立つと天まで届くような遠吠えをした。それから最大出力の<雷咆>を城に向けて放った。

************************************************
「ウォ――――――――――――――――――――――――ン!」

「ん?外からオオカミの声がするな」

 ガルドはそのことに疑問を浮かべる。声の大きさ的にここから結構距離が近い。まさか、魔物が侵入したのか?

「気のせいらないれすか~」

「そうかも知れないが......ってお前......」

 そう思っていると近くの兵士が近づいてきた。顔がやや赤い酔っぱらっているのか。今日は兵士間では無礼講とはいえあまり人様に見せていい姿ではないな。ここは団長として正さないと。

「お前なぁ、ハメを外すことは悪いとは言わんが、TPOを考えて―――――――――――――――」

「ドゴ――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!」

「「「「「きゃああああああ!!!!」」」」」

「「「「「うわああああああ!!!!」」」」」

「何事だ!!今すぐ情報伝達を急げ!!」

 突然会場は大きく揺れ、さらに今までにない爆音が轟いた。そのあまりのことに多くのものが恐怖し、パニックになった。その中で、長年の経験と団長としての矜持なのか、素早く状況を把握したガルドが他の兵士に指示して何が起こっているのか知らせるよう求めた。その素早い判断のおかげで、パニックになっていた兵士は指示を与えられたことにより冷静さを取り戻しすぐに動き始めた。

「ガルド団長、見てください!」

「なんだ......これは!?」

 ガルドはバルコニーにいる一人の兵士に呼ばれるとそこから城下街の様子を見た。するとそこから見えた光景は多くの民家が赤く染まり、黒い煙を上げていた。そして、そこには神話で出てくるような空を駆ける巨大な白いオオカミが口から光線を放ちながら暴れまわっている。その事実にガルドは衝撃が隠せないでいる。すると会場の入り口から一人の兵士が勢いよく飛び出してきた。

「報告します!現在、空を走るオオカミに手も足もでず住民、兵士問わず負傷者が多数」

「それは見ればわかる。他にはないのか!」

「失礼します!」

 もう一人の兵士が転がりながらやってくるとそのままの状態で報告した。

「報告します!今回の襲撃、魔族の仕業ではなく闇人の仕業のようです!」

「なんだと!?......そうか、分かった。おい、お前ら!そして、響達!急いでここにいる者達を避難させろ!」

「「「「「はっ!」」」」」

「「「「「わかりました」」」」

 報告を聞いたガルドは素早く命令すると急いでオオカミのもとへ急行した。



「スティナちゃん、闇人って何?」

「そうですね......いわゆる裏社会に住む人々のことで。天の光も当たらない暗いで生活するのことをそう呼んでいます」

「雪姫、簡単に言えば極道とかそっちの人たちだよ」

「なるほどね」

 雪姫はその言葉に納得しながらも周囲への警戒は怠らなかった。現在、響、弥人、雪姫、朱里は王女スティナを安全な所へ連れていくために護衛をしている。そして、所々風穴があいて廊下から城下街が見えるという悲惨さに全員が目を覆いたくなっている。

「それにしてもどうしてこんなことに......」

「何か心当たりはないのか?」

「特に思い当たることはないですね。ここ最近は大人しくしていたはずなんですが.......」

「なら、私が教えて上げましょう......王女様」

 その瞬間、聞き覚えのない誰かがしゃべったかと思うと壁が前方にある廊下の壁が爆発した。響達、勇者組はスティナの前に出て衝撃によって吹き飛ばされた壁の破片を防ぐ。そして、煙と共に現れたのは黒いローブを着て、目元だけの仮面をつけた人物であった。

「誰だ!」

「誰だといわれて答えるやつがいんの?それに聞くなら先に名前を明かすのが礼儀じゃない?」

 響は正論を叩きつけられて思わず押し黙る。だが、目の前の人物の声から相手が女の人であることが特定できた。するとスティナが響の前に出てその女、リリスに聞いた。

「あなたが......首謀者なのですか?」

「......まあ、いいわ。教えてあげるっていったしね。......あくまで私は片割れでしかないわ。見つけたいなら探せばいいんじゃないかしら?ただ、あなた達以外の人達だけどね」

 リリスは腕を組むとおくびもせず笑った。まるでこの状況を楽しんでいるかのように。そのことにスティナは思わず唇を噛む。

「良い眺めね。私、炎って嫌いじゃないわ」

「ふざけないでください!あなた達の目的は何ですか!どうしてこんなことをするんですか!あなた達は何者なんですか!」

「あーあー、うるさいわねー。王女ならもう少しおしとやかに話せないの?」

 リリスは耳障りといった感じで手で耳を塞いだ。そして、スティナの質問にゆっくりと答え始めた。

「えーとまずは目的だっけ?それは相方がケジメをつけるためらしいわよ」

「ケジメって?」

「それは知っているけど、言う必要もないわね。次にこんなことをするってやつだったかしら?それはあんた達がこういうことを起こされる原因を良く知っているんじゃない?」

 リリスの言葉に全員が共通の事件を思い出した。だが、それはありえない。その事件の犯人である彼は死んだのだ。その死体は見てないけど。

 リリスは言葉を続ける。少しめんどくさそうな口調で。

「それで最後ってなんだっけ?......ああ、何者かってやつね。そうね.....」

 リリスは顎に指を当てて唸りながら考えるとそこからスティナ達にビシッと指を向けた。

「やっぱり神逆者かしら」

「神逆者......らう......」

 スティナはそれを聞いてどう言ったらいいかわからなかった。目の前にいるリリスが魔族でない以上、自分たちはこれから人間同士の殺し合い同士討ちをしなければならない。たとえその者たちが神を崇めていなくても。そのことがあまりに悲しかった。神を一番に崇める聖女としては。

 すると響がリリスに剣を向けた。だが、リリスは身じろぎ一つしない。威圧が小さすぎるのだ、クラウンに比べて見る影もないほどに。「ある意味クラウンに染まってしまったのか」と思うとリリスは何とも言えないため息を吐いた。すると響はそのため息が「あんたでは相手にならない」といったもの見えたのか思わず怒気を込めて言い放った。

「なら、力づくでも聞かせてもらおう!」

「手、貸すぜ」

「待って二人とも!」

「そうよ、相手は女の人でしかも一人なの―――――――――」

「あははははは!」

 今にも戦いに挑もうとする響と弥人を雪姫と朱里が思わず止めようとするが、その様子を見てリリスは声大きく笑った。そして、笑い終えると先ほどの態度とは打って変わって恐ろしく冷たい目をその四人、いや雪姫と朱里二人に向けた。

「......舐めないでくれる?そんなぬるい覚悟でこんな所いないわよ」

 そして、再び腕を組むと胸を張って四人に告げる。

「今のあんた達じゃ負ける気がしないわ」
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