神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第1章 道化師は笑う

第11話 うぜぇ

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 男を抹殺し終わると「きたねぇな」と言いながら、足についた血を払う。そして、それを終えると襲われていた女のもとに向かった。

「た、助けてくれてありがとうございます」

「なに覚悟した目をしてんだ?」

「それは......あの盗賊らを瞬殺するひとにどう抵抗すればいいと?」

「先に俺の質問に答えろ......と言いたいところだが、まあ、いい。これで俺のやるべきことは終わった」

 そう言うとクラウンはある方向を見る。それは馬車が向かうはずだった道だ。するとそこから大きな白い獣とその背に乗った少女の姿が。

「あんた、また派手にやったわね。特にその胸がへこんだ男は」

「ただの八つ当たりだ。あのクソジジイの憎さと弱者が強者ぶっているのが許せなかっただけだ」

「それで選ばれたこいつは不憫ね......同情はしないけど」

 リリスはロキから降りるとその少女に話しかける。少女はキョトンとした表情でロキとリリスを見ていた。

「あんた、大丈夫?ごめんね、酷い惨劇を見せて」

「い、いえ......ありがとうございます」

 手を差し出してきたリリスに少女は感謝の言葉を言いながら、手を掴み引っ張り上げてもらう。すると今度は少女から話しかけた。

「あの......あなた達は?」

「私たちはさすらいの旅の者よ。たまたま村を通った時に攫われたあんた達を助けてお爺さんに言われたのよ」

「そうなんですか......それじゃあ、他の男の人達は?」

「心配しなくてもいいわ。いまこちらに向かって歩いて来ているはずだから。ねぇ、クラウン。ちょっと確認してくれない?」

「なんで俺が......」

「いいから早く」

 クラウンは睨んだような目をリリスに向けながらも渋々<天翔>を使って空中に立つとその道の遠くを見る。突然、空中に立ったことで攫われた女性陣からどよめきの声が上がる。その中ただ一人目を輝かせている少女がいた。

「あの、それどうやっているんですか!?魔法ですか!?」

「あぁ?.....なんだ、このうるせぇ女は?」

「女の子にうるせぇはないでしょ。あんたの魔法が気になってんのよ。」

「知るか。......連中は来ている。用が済んだらとっとと行くぞ」

 一刻も早くこの場を去りたいクラウンは地面に降りるとすぐに歩き始めるが、その行く手を少女が阻む。その少女にクラウンはイラ立ちが募っていく。

「邪魔だ。どけ」

「いいえ、どきません。私、空が見たいんです。それを見せてくれたら、どきます」

「女だろうと俺は殺せる。次はない」

「なら、見せてから殺してください。それなら私は本望です」

「そうかなら今死――――――――」

 そうしてクラウンが右手を上げた瞬間、右肩をロキが手で押さえた。クラウンは思わずロキを見るが、ロキは「さっさとやれば済むことだろ?」といった目で見てくる。クラウンは大きくため息を吐くと少女を小脇に抱え、大空へ飛ぶ。

「これでいいか」

「はい、ありがとうございます!わぁ、すごい。きれい。」

「......」

「私、小さい頃から地平線を見ることが夢だったんです」

「......知るか」

「聞いてください!それで、それは亡くなったお母さんとの約束で......でも、私はただの村人だからその夢は叶わないと思ってて......」

 クラウンはその言葉に思わず舌打ちした。その行動にビクッとする少女。

「お前の夢とやらはたったそれだけか」

「仮面さんも夢があるんですか?」

「俺は神を殺して、この世界をぶち壊す。これは夢ではなく確定事項だ」

「......」

「もういいだろ。降ろすぞ」

 クラウンはそう言って地上に降りると少女を降ろし、歩き出す。リリスはそのあまりに不愛想な行動にため息を吐いた。まあ、知ってたから仕方ないと思うけど。そして、リリスとロキはその後を追う。

 するとその後姿を見送っていた少女がクラウンに向かって叫んだ。

「それじゃあ、叶えてください!その野望!」

 クラウンはその言葉を聞いて思わず立ち止まる。その少女の言葉があまりにおかしかったからだ。ここは辺鄙な村ではあるが、確かに王都の支配領域であるはずなのだ。ということはこの村ではクラウンが憎む神を崇めてなければならない。それも殺すことを支持するのは背信行為に等しい。この発言がバレれば、最悪の場合死刑であり、良くても二度とお天道様は拝めない独房へと死ぬまで入れられるだろう。クラウン自身、それが理由の一つで処理されたのだから。だからこそ、聞いた。

「お前、その言葉、分かって言っているのか?」

「わかってますよ。私はいつか夢が叶うと信じて、平和に暮らしたかっただけなんです。なのにこうなるってことは......いくら信じても神は助けてくれないんです。なら、たとえ悪い人であろうと助けてくれた人を私は信じます」

「くくく......はははははは!面白い。お前は面白い」

 その回答にクラウンは高らかに笑った。先ほど悪い雰囲気が嘘のように。そして、告げる。

「お前、確か『なんでも言うこと聞く』って言ってたよな?」

「......はい、言いましたが」

 少女は思わず身をよじらせる。そういう人ではないと心のどこかでは分かっていながらも、先ほどの襲われた時の恐怖がフラッシュバックしてしまう。

 だが、クラウンはそんな少女を冷めた目で見た。

「安心しろ。お前のような奴に興味はない」

「貧相って言うんですか!私、意外とありますよ!」

「バカか、お前自身に言うほど興味はないって言ってんだ。それで、お前に命令する」

「何をですか?」

「強くなれ。自身の夢を叶えられるようにな」

「......はい」

 クラウンはそれだけを告げると再び歩き始めた。リリスはクラウンの意外な発言に思わず頬を緩め、レオはクラウンに擦り寄る。そんなクラウンの姿を憧れを抱いたような表情で少女は見送った。その後、少女は村で勇者と呼ばれ、クラウンの言われた通り強くなっていくのだが、それはまた別の話。

************************************************
 それから、数日後。クラウンたちは王都にいつ番近くの都市へとやってきた。

 クラウンたちは門番兵まで近づくとリリスが身分証明書を見せる。

「よし、君は通っていいぞ。それで、お前は?」

「......」

 門番兵は強い口調で言った。それはそうだ、クラウンは仮面をつけている。誰がどう見ても怪しいだろう。だが、クラウンはなにも答えない。それはリリスから黙っておくように言われているからだ。どうやら余計なことしか言わない問題児扱いをされているようだ。間違ってはいないが、どうにも癪に障る。ちなみにロキはこの場にはいない。ロキは問題外だからだ。一応、この世界にはテイムという魔物を調教する術があるのだが、ロキのサイズはあまりに規格外なので神の使途以外疑われるのだ。

「彼は人見知りで無口なのよ。とりあえずなにか仮面を被っていなきゃ落ち着かないのよ。許してくれないかしら」

「それは出来ない。一度でいいから、見せることだ。それはこの都市の決まりだ」

「それをどうか......お・ね・が・い♡」

「......!......いいだろ、特別だぞ?」

「ありがと、今度お礼してあげるわ」

 リリスが甘えたようにお願いした瞬間、門番兵は手のひら返ししたように態度が一変。すんなりと通してくれた。その際、きっちりと身分証明書まで書いてもらって。あまりの行動の変化に驚いたクラウンは思わず尋ねる。

「お前、今、何をした?」

「コントロールしただけよ。お忘れかしら、私の種族」

「なるほど、サキュバスか」

 クラウンは合点が言ったような顔をした。それなら確かにコントロールできる。だが、それはそもそもそれ自体がコントロールできなかったはずではなかろうか。

 クラウンがそのようなことを思っているとリリスは察しが言ったように答えた。

「少しぐらいはコントロールできるのよ。男の一人二人引っ掛けるぐらいにはね」

「そうか、まさに魔性だな」

「それはサキュバスにとっては誉め言葉よ」

 そして、あえて男の店主の宿を選ぶと同じように引っ掛けて、部屋を確保すると会話を始めた。

「それで、襲撃するとは言っていたけど、具体的なプランはあるの?」

「なに簡単な話だ。もとより、時間をかけないつもりだったからな」

「それで?」

「このままいけば、決行日は一週間後の紅き満月の深夜。まずはロキが陽動で、王都の中心で吠えて城に一発かます。そして、ロキに意識が向いているうちに俺たちが突入する。だが、ここでリリスに頼みがある」

「頼みって?」

「もし俺たちが襲撃したときにいたら、少しの間だけ時間をくれ」

 リリスはその言葉を黙って聞いた。だが、その発言は本来なら言い返しても問題ないような内容であるからだ。なぜなら、それは一時的に国を相手にすると等しい。さらにそれを加えて勇者たちもである。それにクラウンが提示した「少しの間」という時間も明確な時間設定がされてない以上、こちらの戦闘が長引く可能性もある。下手したら持たないかもしれないし、その国は魔族と見破る手段を持っているだろうからバレれば即座に殺されるだろう。

 そんなリスクがわからないリリスではない。だが、リリスはこう答えた。

「いいわよ。やってあげる」

「そうか、分かった。安心しろ、時間はかけない」

 リリスはクラウンのその言葉がどこか優しく聞こえた。クラウンも今の言葉は案外遠慮した発言だったのだろうか。いや、クラウンに限ってそれはないか。

 そう思うとリリスは話題を変えた。

「なら、それまでに必要なものを集めましょ。あんたもちゃんと手伝うのよ」

「わかっている、それぐらいはやる」」

「あ、あとその仮面つけるだったら人目を避けなさい。あんたはしゃべってもしゃべらなくても凶器なんだから」

「わかっている、言われなくてもな」

 最近もう明らかにリリスの態度が横柄になっている気がする。いや、気じゃない。なっているのだ。

 クラウンは大きなため息を吐くと街へ出向いた。
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