299 / 303
第1章 道化師は笑う
第5話 再戦
しおりを挟む
「ねぇ、クラウンは一体いつからここにいたの?」
「さあな、もう忘れた頃にだ」
「まあ、おおよそどんな生活をしてきたのかは察しがつくわね」
そう言ってリリスはクラウンの姿を見た。
クラウンの現在の姿はズボンを履いているだけで、上は半裸で下は裸足の状態であった。加えて、おそらく長かったであろうズボンはひざ下から千切れていて、ズボン自体の質も相当悪くなっている。それに、あの悪趣味の仮面。どういう神経で骨で仮面を作ろうと思ったのか。だが、それとは別に引き締まった肉体に見惚れている自分がいる。ええい、何を考えてるんだ私は~!
リリスはぶんぶんと頭を振る。大丈夫、少し前に薬は飲んだし、まだストックはあった.....はず。
「とりあえず味方に引き寄せられたが、いろんな意味で先が思いやられる」リリスは思わずそんなため息を吐いた。なんかため息を吐きすぎて幸せ逃げてない?
リリスはどうにか気を取り直すとクラウンにあることを聞いた。
「そういえば、どこに向かってるのよ」
「リリスが向かおうとしているところに行く前に白黒はっきりさせないといけない奴がいる」
クラウンはそう言いながら襲ってきた魔物を大剣で切り裂いた。
かれこれこんな調子でしばらく歩いているとクラウンは突然止まった。そして、何かを見つけたように不敵に笑うと「ロキ、行くぞ」と言いながらロキと共に走り出した。
リリスは勢いよく走り出したクラウンとロキを呆然とした表情で見送るとふと足元に輝く何かを見つけた。
「これは......」
リリスが拾い上げたのはエメラルド色をしたペンダントだった。その中央はひびが入って割れている。これはおそらくクラウンが落としたものだろう。なにも信じないような目をしていたあの男が持っているとは思えない代物だ。だが、持っているということはなにかクラウンにとって意味があるのだろう。
リリスはそれをポケットにしまうとクラウンとロキが向かった先へと走り出した。
「......見つけた」
クラウンが目にしている先にはこの森の生えている大木と負けず劣らずの大きさで、のしのしと歩いている黒い毛並みをした筋肉隆々の魔物。宿敵であるゴリラの魔物だ。
クラウンは一度あのゴリラの魔物と戦い、屈辱的な敗北をした。......あの時は弱かった。だが、今は違う。
クラウンは<隠形>で気配を消すと<瞬脚>で一気に接近した。そして、ゴリラの魔物の背中に向かって跳ぶと大剣を思いっきり背中にぶっ刺した。
「ウホォォォォォ!」
ゴリラの魔物は突然の痛みに悲痛の叫びを上げるとそこからノールックの裏拳で背後にいるクラウンを薙ぎ払った。だが、クラウンは<天翔>で空中を足場にして難なく避ける。
ゴリラの魔物の下方ではロキが大きく口を開けている。そして――――――――――
「ゴォォォォ――――――――――!」
「ウボオオオオォォォォ!!」
ゴリラの魔物の腹部に雷光の砲撃がぶち込まれた。これはロキの<咆雷>のスキルだ。
直撃したゴリラの魔物はドスの効いた声を上げた。だいぶ苦しんで、痺れて一時的に動けないようだ。そこに畳みかけるようにクラウンは<天翔>と<瞬脚>を常時発動させながら、一気に近づく。その瞬間、ゴリラの魔物は首だけをこちらに向けると大きく口を開けた。これは......不味い!!
「ウホオオオオオオオオ!」
「......ぐはぁぁぁ!」
少年はゴリラの魔物が放った咆哮をまともに受けた。これは前の闘いの時、自分を吹き飛ばした防御無視の攻撃だ。
頭のてっぺんから足の先まで軋むような強い衝撃が断続的に走った。前回のドラミングチャージが無い分威力は小さいが、それでも堪える。だが、今は一人じゃない。
「ウホォォォォン!」
ゴリラの魔物がクラウンに意識を向けている間に、ロキは森のハンターである威厳を示すような完璧な<隠形>をするとゴリラの魔物の顔の側面まで辿り着くと<斬翔>で大きく引き裂いた。
ゴリラは突然のことに驚き、よろめく。その隙をクラウンは逃さなっかった。
クラウンは再び近づくとゴリラの魔物の背後に回り込み、大剣を抜いた。そして大剣を持ったまま<火針>を発動させる。すると大剣はクラウンの燃える手から熱を伝って赤く輝いた。
「おらあああああ!」
「ジュウゥゥゥゥ――――――――」
「ウボァァァァ!」
クラウンは赤くなった大剣をゴリラの魔物の腹部にぶっ刺した。刺した瞬間、猛烈に熱せられた大剣がゴリラの魔物の皮膚を焼く。
ゴリラの魔物は悲痛な声を叫んだ。だが、森の王の威厳を見せるかのように歯を食いしばって体勢を立て直すとクラウンを殴り飛ばし、背後に回り込んでいたロキに立て直す思いっきり裏拳をかました。
「がはっ!」
「キャウン!」
クラウンは地面に大きくクレーターを造る勢いで叩きつけられた。
ロキは大木をなぎ倒しそのまま崩れ落ちる。
ゴリラの魔物はクラウンを優先して、大きく腕を振りかぶると全体重を乗せるように殴りかかってきた。その攻撃に対し、クラウンは大剣を横にして、足を大きく開き、受けの体勢に入った。
「ウホオオオオオオォォォォ!」
「なめんな.......ぐふっ!」
クラウンは確かにゴリラの魔物の攻撃を受け止めた。受け止めたが、全身を嬲られるような衝撃を受けた。これはゴリラの魔物が咆哮した時と同じような揺れの感じだ。まさか、あれはもっと別のスキルなのか。
クラウンは数秒の硬直を要した。その数秒でまた追撃の一撃が――――――――
「ウォン!」
「ウホォォォ、ウホオオオオ!」
――――――来なかった。ロキが<斬翔>でゴリラの魔物の首筋を大きく切った。その攻撃により、ゴリラの魔物の攻撃は中断させられたのだ。
「おらあああああ!」
クラウンはその隙を逃さなかった。大剣をゴリラの魔物の左胸に向かってやり投げのように投げると<天翔>と<瞬脚>でその後を追うように空中を走った。
そして、その大剣が左胸に突き刺さるとクラウンは大きく腕を振りかぶる。
「剛腕!」
「ウホオオオオォォォォ!!.......バタンッ」
クラウンは振りかぶった腕を金属のように固くすると刺さっている大剣の柄の頭に向かって思いっきり殴った。その瞬間、大剣の柄はポッキリ折れたが、刀身部分はその姿が見えなくなるほど左胸にめり込み、心臓を破壊した。
ゴリラの魔物は脱力するように地面に伏してピクリとも動かなくなった。
「あの時、俺は弱かった。そして、俺はまだ弱い。......だが、その時の俺を殺さなかったことが、お前自身の死を招いたんだ。恨むなら、お前自身の驕りを恨むんだな」
クラウンはその死骸を空中から捨て台詞のように吐きながら見下した。クラウンの死んだゴリラの魔物を見る目はただただ冷えきっていた。
クラウンは地上に降りるとこちらに向かってリリスが近づいてきた。
「お疲れ様。......まさか、森の主を倒すなんてね」
「あんなのが森の主だと?......興覚めだな」
「その割には手こずっているように見えたけど?」
リリスは近くにすり寄ってきたロキを労いながら、クラウンに向かって煽るような言葉を返した。だが、クラウンは苛立ったような様子は見せなかった。
「ああ、それはわかっている。こんなんじゃ、全然足りない」
「あら、意外と素直なのね」
「こんなことで見栄を張っても仕方がない。だが、俺(の心)が砕けることはない」
そう言うとクラウンはゴリラの魔物を解体し始めた。そして、ある程度解体が進むとリリスが待ったをかける。
「ちょっと待って、その手に持ってるものくれない?」
「これか?」
クラウンが手にしてるには地球儀もの大きさの魔石であった。クラウンにとっては価値は無いが、リリスにとってはあるのだろう。
「......好きにしろ」
「あ......ぶない!ちょっと、いきなり投げないでよ!」
「取ったからいいだろ」
リリスはムスッと顔しながらも言い返さなかった。ここは我慢だ。......だが、リリスはまた別のことに待ったをかけた。
「ねぇ、待って」
「今度はなんだぁ?」
「クラウン、あんた、生で食べる気!?」
「あぁ?......そうだが?」
「はあ、ちょっとその肉を持ってきて」
クラウンはリリスの言葉にめんどくさそうな表情をすると「めんどーだ」と言ってその場を動かなかった。代わりに、ロキが肉の一部を持ってきた。
リリスは「ありがとう」と呟きながらロキを撫でた後、右手をそっと胸のあたりまで上げた。
「開け、宝物庫」
「......!」
そう言うとリリスの右手人差し指に嵌っていた指輪が輝いた。そして、その光に包まれて調理器具が飛び出した。これには、クラウンも目を見開く。
リリスはクラウンからもらった魔石をしまうと一呼吸を置く。
「さ、作っちゃいますか」
「おい待て、それは何だ?」
「ん?......ああ、これね。これは『宝物庫の指輪』って言って魔力を流して使うとほぼ無限に貯蔵出来て、念じたものを取り出すこともできるのよ。あ、言っておくけど、お母さんからもらった大切なものだからあげないわよ」
「......わかっている」
「その顔はぜっっっっっったい、わかってない!」
リリスは指輪を隠すようにして、クラウンを睨むように見るとその後調理を始めた。
これまでに嗅いだことのない美味しそうな匂いがクラウンを襲い、ロキを襲い、周囲一帯に広がった。匂いに釣られて魔物が近寄って来るが、クラウンの食欲という力によってパワーアップした殺気によって蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
クラウンは食欲のそそられるままにリリスへのもとへと近づいた。そんなクラウンにリリスは勝ち誇ったような笑みを見せる。
「なに、あんたも食べたいの?」
「..........グゥゥ」
「体は正直者ね」
そう言いながらもリリスは出来上がった料理を振舞った。その料理にクラウンとロキは噛り付くように食らいった。そして......
「おかわり」
「ウォン」
ものの数秒で食べつくすとクラウンは皿を差し出し、ロキは皿を加えてアピールした。一人と一匹は見たことないほど目が輝いている。
リリスは嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。
「あたしの食べる分がなくなるでしょうが。」
「さあな、もう忘れた頃にだ」
「まあ、おおよそどんな生活をしてきたのかは察しがつくわね」
そう言ってリリスはクラウンの姿を見た。
クラウンの現在の姿はズボンを履いているだけで、上は半裸で下は裸足の状態であった。加えて、おそらく長かったであろうズボンはひざ下から千切れていて、ズボン自体の質も相当悪くなっている。それに、あの悪趣味の仮面。どういう神経で骨で仮面を作ろうと思ったのか。だが、それとは別に引き締まった肉体に見惚れている自分がいる。ええい、何を考えてるんだ私は~!
リリスはぶんぶんと頭を振る。大丈夫、少し前に薬は飲んだし、まだストックはあった.....はず。
「とりあえず味方に引き寄せられたが、いろんな意味で先が思いやられる」リリスは思わずそんなため息を吐いた。なんかため息を吐きすぎて幸せ逃げてない?
リリスはどうにか気を取り直すとクラウンにあることを聞いた。
「そういえば、どこに向かってるのよ」
「リリスが向かおうとしているところに行く前に白黒はっきりさせないといけない奴がいる」
クラウンはそう言いながら襲ってきた魔物を大剣で切り裂いた。
かれこれこんな調子でしばらく歩いているとクラウンは突然止まった。そして、何かを見つけたように不敵に笑うと「ロキ、行くぞ」と言いながらロキと共に走り出した。
リリスは勢いよく走り出したクラウンとロキを呆然とした表情で見送るとふと足元に輝く何かを見つけた。
「これは......」
リリスが拾い上げたのはエメラルド色をしたペンダントだった。その中央はひびが入って割れている。これはおそらくクラウンが落としたものだろう。なにも信じないような目をしていたあの男が持っているとは思えない代物だ。だが、持っているということはなにかクラウンにとって意味があるのだろう。
リリスはそれをポケットにしまうとクラウンとロキが向かった先へと走り出した。
「......見つけた」
クラウンが目にしている先にはこの森の生えている大木と負けず劣らずの大きさで、のしのしと歩いている黒い毛並みをした筋肉隆々の魔物。宿敵であるゴリラの魔物だ。
クラウンは一度あのゴリラの魔物と戦い、屈辱的な敗北をした。......あの時は弱かった。だが、今は違う。
クラウンは<隠形>で気配を消すと<瞬脚>で一気に接近した。そして、ゴリラの魔物の背中に向かって跳ぶと大剣を思いっきり背中にぶっ刺した。
「ウホォォォォォ!」
ゴリラの魔物は突然の痛みに悲痛の叫びを上げるとそこからノールックの裏拳で背後にいるクラウンを薙ぎ払った。だが、クラウンは<天翔>で空中を足場にして難なく避ける。
ゴリラの魔物の下方ではロキが大きく口を開けている。そして――――――――――
「ゴォォォォ――――――――――!」
「ウボオオオオォォォォ!!」
ゴリラの魔物の腹部に雷光の砲撃がぶち込まれた。これはロキの<咆雷>のスキルだ。
直撃したゴリラの魔物はドスの効いた声を上げた。だいぶ苦しんで、痺れて一時的に動けないようだ。そこに畳みかけるようにクラウンは<天翔>と<瞬脚>を常時発動させながら、一気に近づく。その瞬間、ゴリラの魔物は首だけをこちらに向けると大きく口を開けた。これは......不味い!!
「ウホオオオオオオオオ!」
「......ぐはぁぁぁ!」
少年はゴリラの魔物が放った咆哮をまともに受けた。これは前の闘いの時、自分を吹き飛ばした防御無視の攻撃だ。
頭のてっぺんから足の先まで軋むような強い衝撃が断続的に走った。前回のドラミングチャージが無い分威力は小さいが、それでも堪える。だが、今は一人じゃない。
「ウホォォォォン!」
ゴリラの魔物がクラウンに意識を向けている間に、ロキは森のハンターである威厳を示すような完璧な<隠形>をするとゴリラの魔物の顔の側面まで辿り着くと<斬翔>で大きく引き裂いた。
ゴリラは突然のことに驚き、よろめく。その隙をクラウンは逃さなっかった。
クラウンは再び近づくとゴリラの魔物の背後に回り込み、大剣を抜いた。そして大剣を持ったまま<火針>を発動させる。すると大剣はクラウンの燃える手から熱を伝って赤く輝いた。
「おらあああああ!」
「ジュウゥゥゥゥ――――――――」
「ウボァァァァ!」
クラウンは赤くなった大剣をゴリラの魔物の腹部にぶっ刺した。刺した瞬間、猛烈に熱せられた大剣がゴリラの魔物の皮膚を焼く。
ゴリラの魔物は悲痛な声を叫んだ。だが、森の王の威厳を見せるかのように歯を食いしばって体勢を立て直すとクラウンを殴り飛ばし、背後に回り込んでいたロキに立て直す思いっきり裏拳をかました。
「がはっ!」
「キャウン!」
クラウンは地面に大きくクレーターを造る勢いで叩きつけられた。
ロキは大木をなぎ倒しそのまま崩れ落ちる。
ゴリラの魔物はクラウンを優先して、大きく腕を振りかぶると全体重を乗せるように殴りかかってきた。その攻撃に対し、クラウンは大剣を横にして、足を大きく開き、受けの体勢に入った。
「ウホオオオオオオォォォォ!」
「なめんな.......ぐふっ!」
クラウンは確かにゴリラの魔物の攻撃を受け止めた。受け止めたが、全身を嬲られるような衝撃を受けた。これはゴリラの魔物が咆哮した時と同じような揺れの感じだ。まさか、あれはもっと別のスキルなのか。
クラウンは数秒の硬直を要した。その数秒でまた追撃の一撃が――――――――
「ウォン!」
「ウホォォォ、ウホオオオオ!」
――――――来なかった。ロキが<斬翔>でゴリラの魔物の首筋を大きく切った。その攻撃により、ゴリラの魔物の攻撃は中断させられたのだ。
「おらあああああ!」
クラウンはその隙を逃さなかった。大剣をゴリラの魔物の左胸に向かってやり投げのように投げると<天翔>と<瞬脚>でその後を追うように空中を走った。
そして、その大剣が左胸に突き刺さるとクラウンは大きく腕を振りかぶる。
「剛腕!」
「ウホオオオオォォォォ!!.......バタンッ」
クラウンは振りかぶった腕を金属のように固くすると刺さっている大剣の柄の頭に向かって思いっきり殴った。その瞬間、大剣の柄はポッキリ折れたが、刀身部分はその姿が見えなくなるほど左胸にめり込み、心臓を破壊した。
ゴリラの魔物は脱力するように地面に伏してピクリとも動かなくなった。
「あの時、俺は弱かった。そして、俺はまだ弱い。......だが、その時の俺を殺さなかったことが、お前自身の死を招いたんだ。恨むなら、お前自身の驕りを恨むんだな」
クラウンはその死骸を空中から捨て台詞のように吐きながら見下した。クラウンの死んだゴリラの魔物を見る目はただただ冷えきっていた。
クラウンは地上に降りるとこちらに向かってリリスが近づいてきた。
「お疲れ様。......まさか、森の主を倒すなんてね」
「あんなのが森の主だと?......興覚めだな」
「その割には手こずっているように見えたけど?」
リリスは近くにすり寄ってきたロキを労いながら、クラウンに向かって煽るような言葉を返した。だが、クラウンは苛立ったような様子は見せなかった。
「ああ、それはわかっている。こんなんじゃ、全然足りない」
「あら、意外と素直なのね」
「こんなことで見栄を張っても仕方がない。だが、俺(の心)が砕けることはない」
そう言うとクラウンはゴリラの魔物を解体し始めた。そして、ある程度解体が進むとリリスが待ったをかける。
「ちょっと待って、その手に持ってるものくれない?」
「これか?」
クラウンが手にしてるには地球儀もの大きさの魔石であった。クラウンにとっては価値は無いが、リリスにとってはあるのだろう。
「......好きにしろ」
「あ......ぶない!ちょっと、いきなり投げないでよ!」
「取ったからいいだろ」
リリスはムスッと顔しながらも言い返さなかった。ここは我慢だ。......だが、リリスはまた別のことに待ったをかけた。
「ねぇ、待って」
「今度はなんだぁ?」
「クラウン、あんた、生で食べる気!?」
「あぁ?......そうだが?」
「はあ、ちょっとその肉を持ってきて」
クラウンはリリスの言葉にめんどくさそうな表情をすると「めんどーだ」と言ってその場を動かなかった。代わりに、ロキが肉の一部を持ってきた。
リリスは「ありがとう」と呟きながらロキを撫でた後、右手をそっと胸のあたりまで上げた。
「開け、宝物庫」
「......!」
そう言うとリリスの右手人差し指に嵌っていた指輪が輝いた。そして、その光に包まれて調理器具が飛び出した。これには、クラウンも目を見開く。
リリスはクラウンからもらった魔石をしまうと一呼吸を置く。
「さ、作っちゃいますか」
「おい待て、それは何だ?」
「ん?......ああ、これね。これは『宝物庫の指輪』って言って魔力を流して使うとほぼ無限に貯蔵出来て、念じたものを取り出すこともできるのよ。あ、言っておくけど、お母さんからもらった大切なものだからあげないわよ」
「......わかっている」
「その顔はぜっっっっっったい、わかってない!」
リリスは指輪を隠すようにして、クラウンを睨むように見るとその後調理を始めた。
これまでに嗅いだことのない美味しそうな匂いがクラウンを襲い、ロキを襲い、周囲一帯に広がった。匂いに釣られて魔物が近寄って来るが、クラウンの食欲という力によってパワーアップした殺気によって蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
クラウンは食欲のそそられるままにリリスへのもとへと近づいた。そんなクラウンにリリスは勝ち誇ったような笑みを見せる。
「なに、あんたも食べたいの?」
「..........グゥゥ」
「体は正直者ね」
そう言いながらもリリスは出来上がった料理を振舞った。その料理にクラウンとロキは噛り付くように食らいった。そして......
「おかわり」
「ウォン」
ものの数秒で食べつくすとクラウンは皿を差し出し、ロキは皿を加えてアピールした。一人と一匹は見たことないほど目が輝いている。
リリスは嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。
「あたしの食べる分がなくなるでしょうが。」
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エデンワールド〜退屈を紛らわせるために戦っていたら、勝手に英雄視されていた件〜
ラリックマ
ファンタジー
「簡単なあらすじ」
死んだら本当に死ぬ仮想世界で戦闘狂の主人公がもてはやされる話です。
「ちゃんとしたあらすじ」
西暦2022年。科学力の進歩により、人々は新たなるステージである仮想現実の世界に身を移していた。食事も必要ない。怪我や病気にもかからない。めんどくさいことは全てAIがやってくれる。
そんな楽園のような世界に生きる人々は、いつしか働くことを放棄し、怠け者ばかりになってしまっていた。
本作の主人公である三木彼方は、そんな仮想世界に嫌気がさしていた。AIが管理してくれる世界で、ただ何もせず娯楽のみに興じる人類はなぜ生きているのだろうと、自らの生きる意味を考えるようになる。
退屈な世界、何か生きがいは見つからないものかと考えていたそんなある日のこと。楽園であったはずの仮想世界は、始めて感情と自我を手に入れたAIによって支配されてしまう。
まるでゲームのような世界に形を変えられ、クリアしなくては元に戻さないとまで言われた人類は、恐怖し、絶望した。
しかし彼方だけは違った。崩れる退屈に高揚感を抱き、AIに世界を壊してくれたことを感謝をすると、彼は自らの退屈を紛らわせるため攻略を開始する。
ーーー
評価や感想をもらえると大変嬉しいです!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる