11 / 24
11話 急展開
しおりを挟むエンドールさんが仕事へ向かった後、いつも通り魔法の練習をこなしていると、ボチボチ日も暮れてきた。
「フィオラ、そろそろ帰るか」
「えーやだぁっ! もうちょっとエリアスと居たいっ!」
とまぁこんな風に最近は子供らしくゴネることが増えてきた。
「また明日も会えるから大丈夫だよ。って毎日会ってるじゃん、僕達」
「そうだけどぉ……」
甘える彼女を慰める彼氏みたいだな、と思いつつ俺はフィオラに声をかけると、まさに寂しがってる彼女のような口ぶりでフィオラはそう言葉を漏らすのだった。
正直可愛いっ!
可愛くて堪らんのだが、これは剣聖アルベールの人格として子供へ向ける親心的なものなのか、エリアスとして同年代に向ける恋心なのか区別がつかない。
少なくとも今現時点で、その答えを導き出すのは難しいだろう。
きっとそれはエリアスの発達段階が大人へと到達した時、自然と解が生まれることになる。
それまでこの悩みは自分の胸の中へしまっておく。
今、そう決めたのだ。
「……あれ、?」
俺が秘めたる想いを整理している間に、フィオラの視線は丘の下へと注がれていた。
子供は飽きっぽいって本当のことなんだな。
「フィオラ、どうした?」
俺は彼女と肩を並べ、同じように視線を送る。
そこには見たことのある光景。
それもエリアスになってからの。
つまりはデジャブ、というやつである。
「ねぇ、やっぱり亡者の森なんてやめとこうよ~」
「大丈夫、私の家まで行ける安全な道知ってるんだ」
丘の真下で言葉巧みに森へ誘導する少女。
色白細身、長い黒髪で目元が隠れた不気味な子。
それは俺とフィオラが9ヶ月ほど前に出会った女の子と見た目も特徴も一致していた。
彼女に誘導されているのは3人の子供達。
この位置からでは、子供達の背中しか見えず、表情こそ分からないが、その場で立ち止まっているあたり怯えているに違いない。
「エリアス、どうしよう……?」
フィオラは不安な目、弱々しい声で俺に尋ねる。
「助けよう!」
俺が瞬時に答えられたのは、この状況がまさに2度目だからである。
あの時、亡者の森にさえ入らなければあんな危険な目には遭わなかったはず。
だから1度目、この丘で止められなかったことは自分の中で大きな後悔となっているのだ。
それにここは田舎道で人気がないにしても一応はリーヴェン村の範囲ではある。
あの女の子は森の中でフィオラを殺すようモンスターに命令を下していたが、さすがに白昼堂々と村の中でそんなことはできないだろうし。
そしてさらに言えば、俺もフィオラもこの9ヶ月で強くなった。
だからこその自信、反射的に俺の口から「助ける」という答えが出た理由だと思う。
フィオラと顔を合わせると、彼女は力強く頷いた。
覚悟ができた、ってことだろう。
とはいえフィオラに危険な目にあってほしくない。
だからまず俺が全力で駆け出し、彼女がそれを追う形にする。
「子供達、ソイツにゃついて行っちゃダメだぞ!」
フィオラよりも先に駆けつけた俺が彼らに救いの声をあげた。
だがおかしい、反応がないのだ。
そういえばあの時、森に入るフィオラ達に声をかけた時も同じ感じだった。
やはり魔法か何かで、外部からの接触を遮っているのかもしれない。
そう思って俺は危険を知らせるため、彼らのうち1人の男の子の肩に手を置く。
「おい、本当に危ないんだって!」
俺が肩を触れたその少年は、ゆっくりと首を傾げ、そのまま俺の方へグリッと首を回してくる。
「モウジャノモリナンテ、ヤメトコウヨ、モウジャノモリナンテ、ヤメトコウヨ、モウジャノモリナンテ、ヤメトコウヨ」
「エリアスっ!!」
フィオラは震えながらも強く吐き出した声で俺の名を呼ぶが、重なる機械的な声が彼女の叫びを見事遮った。
と同時に俺達へ振り返る子供達の顔を見て、驚愕する。
「に、人形……っ!?」
微動だにしない眼球に無機質な構造の肌、口角から顎に向かって垂直に下がるライン。
表情はピクリとも動かさず、口元のラインに沿って口がカタカタと開閉を繰り返すのみ。
フィオラが怯えた声で子供達に向けた『人形』という言葉は、完全に的を射ている。
「……っ!?」
もはやホラーすぎて、俺は1歩退き息を呑む。
これじゃ人形、いやあの女の操り人形……傀儡だ。
「エリアスっ! 早く逃げ……」
「ヤット見つケタ。エルフのオンナ」
女はあの時のように黒髪を全て逆立たせ、見開いた真っ黒な瞳を俺達に向ける。
そして周囲10メートルはある大きな闇の空間を地面に広げたのだ。
「……フィオラっ!」
俺が彼女の名を呼んだ時にはすでに遅く、地面に広がる闇の空間は俺とフィオラを引力のようなもので引きずり込もうとしてくる。
幼いエリアスの体にはそれに抗えるほどの実力は備わっておらず、俺は謎の力に体の自由を奪われた。
だめだ、吸い込まれる……っ!
「助け、て……エリアスっ!」
フィオラの嘆願が耳に届く。
そのまま為す術なく闇に飲み込まれていく彼女を、俺は眺めることしかできない。
不甲斐ない……俺はそんな憐れな気持ちに晒されながら、静かに闇へ飲まれたのだった。
26
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる