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5章 シャドウバレー編

新たな目的

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「あの……ここであなたを見たことは黙っておくので、私とお兄ちゃんだけでも許してもらえませんか?  」

 ナコは俺に近づくとすぐに命乞いをしてきた。

 ちょうど10センチほど身長差もあり、自然と上目遣いになっている姿を見ると、整った顔立ちがゆえに彼女が上位魔族だということを忘れてしまうほど可愛らしいと感じてしまう。

 それにしても相変わらず悪役っぽくなってしまう。
 上位魔族に命乞いまでされるとは……。

「あの~勘違いしてらっしゃるかと思いますが、俺は別に君ら2人を殺すつもりないよ?  」

「え……じゃあなんのために私を呼んだんですか?  」

 ナコは少し考えた素振りをした後、一瞬ハッとした顔をして、
「もしかして私の身体目当てですか……?  そ、それで済むならいくらでも……   」

 そう言って上の服を脱ごうとしている。

「いやいやいや! 待って待って! 身体目当てでもないから!  」

 何だこの子は!
 少し天然さんなのか?

 危うく発情してしまうところだったが、そんな気持ちになっている暇はないのだ。

 そう自分に言い聞かせて、話に戻る。

「じゃあ……なんのためですか?  」

 当初の話に戻ったところで、

「もし自分が元々人間だったらどうする?  」

 そう問いかけた。

 俺は彼らに魔族の真実を伝えてあげたい。
 きっと2人も魔族になる前の記憶を無くしている。
 戦わなくていいならそれが1番良いと思う。

「……質問の意味が少し分かりかねます  」

 ナコは俺の質問に対して困惑した様子を見せる。

「少し話が長くなるが、聞いてくれるか?  」

「――?  分かりました  」

 なんとか話を聞いてもらえる流れになった。
 

 ◇


 一通り説明し終えた。
 魔族についての真実、魔族になる前の記憶があること、そしてその前は人間だったこと、事細かに説明をした。

 ナコはなんというか、あまりビックリしていないような表情をしている。
 もしかしてそもそも信じていないとか?

「あの……はい、なんとなくですけど分かってました。 魔族になる前が人間だったのはビックリですけど  」

「分かってた? どうしてだ? 」

「時々夢を見るんです。 私は学校ってところに通っていて、可愛い制服を着てて、放課後は友達とふざけあったり……。 当然今の私には思い当たらない記憶です。 学校なんて言葉知らないのに、思い出すと涙が溢れて……  あれ、ごめんなさい、私また……  」

 そう言ってナコは目から零れる大量の涙を手で拭っているが、それは拭いきれないほど溢れている。

「よしよし、今までよく頑張ったな  」

「え……?  」

 彼女はまた上目遣いで見つめてくる。
 気づけば俺は彼女を優しく抱擁していたのだ。

「あ、ごめんっ! 」

 急いで離れようとしたが、ナコは強く抱き締め返してきた。

「いえ、少しだけ胸を貸してください  」

 彼女はしばらくの間、泣き続けた。
 それは魔族に対する怒りか憎しみか、はたまた悲しみなのか分からない。

 やっぱりダークオーダーも根っから悪いやつなんていないんじゃないか?
 ただ神マルコスが闇のエネルギーを使って利用したにすぎないんだ。

 許せない。
 やはりマルコスを許すことは出来ない。

 本来はできればエレナを連れてそそくさと帰りたいなとか思っていた。
 しかしナコのこんな姿を見ると、そんな気持ちではいられない。

 もし時間が許すのであれば、ここにいるダークオーダーを人間に戻し、神マルコスをぶっ飛ばす。
 もう倒してしまったものには申し訳ないが、今救える命だけでも救いたい。

 今、俺はそう心に誓ったのだった。
 

 
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