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5章 シャドウバレー編

実力差

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 ナコという魔族、とんでもない速度で迫ってくる。
 不意だったため俺は急いでエーテルバフを纏った。

 そして拳同士が直撃した――

 何度もぶつかり、力が拮抗する――

「あなた……何者?  」

 激しい攻防の中、ナコはそう口にした。

「俺は友達を探しに来た、ただの人間だよ  」

「そんなやつが……私たちダークオーダーと渡り合えるわけがない  」

「それじゃあ……神の後継者とでも言っておこうか?  」

 そう言うとナコは一瞬、動きがかたくなった。
 神という単語に何か引っかかったのだろうか。

 俺はその隙を見逃さず、一撃蹴りを加えた。

「うっ!  」

 ナコは大きく後方へ飛ばされる。
 だが、決定打とはならず体勢すら崩せていない。
 ここはさすがダークオーダーといったところだ。

 物理的に距離が取れてからは、お互い近づかずにただ相手を互いに睨み合っている。
 いや、正確に言うと睨まれてる、か。

 そしてナコは一瞬違う方に視線を送り、小さく頷いた。
 その後はすぐさま俺に目をやる。

 なんだ? 
 あのナコって子、今どこ見た?
 一瞬向いた視線の先に目を向けると、さっきまで重力魔法をかけていた兄が立ち上がっている。
 そのうえ既に魔人化まで遂げていた。

「ナコ、1人で戦わせて悪いなっ!  この僕ダークオーダー第五席『イヴィル・ドレッドハンド』の名においてお前をここで倒してみせる! 」

 あの整った顔で重力魔法に逆らうことができ、更にはこんなにかっこいいセリフ。

 最早、主人公といっても相応しい風格だ。
 加えて妹のためというのも主人公感を助長させる一因だと感じさせられる。

 そう考えると、一概にこの2人も悪いやつではない気もしてくる。

「お兄ちゃん……この人強いよ。 2人で倒そう  」

「ナコがそう言うなんて珍しいな! たしかにあの重力魔法から考えてかなりの魔力量なんだろう。 よし、2人で一気に攻めるか! 」

 ダークオーダー2人同時に相手なんて初めてだ。
 ここは俺もひとつ本気を出すしかないな。

 魔人化――

 俺が新しくイメージで手にした力。
 イメージの中では、闇のエネルギーを纏うため心身共に壊れてしまう可能性があった。
 しかし俺は無意識に自分の中の無属性エネルギーによるエーテルバフを同時に纏うことで中和していたらしい。

 かといって本来の魔人化に比べて力が劣る様子もなく、むしろ無属性エネルギーによって強化されたんじゃないかとも感じるほど力が溢れてくる。

 俺のこの白と黒のエネルギー。

 纏うには少し時間を要するが、敵が目の前に2人いる中、安全に纏うことができた。

「お前、なんだ……それっ……   」
「お兄ちゃん……怖いっ  」

 それは俺が纏い初めてから2人は血相を変えて、その場を立ち尽くしているからだ。

 ちょうど纏い終わったため、2人に声をかける。

「なんだって、これは君ら2人と同じ魔人化だけど  」

「ち、違う!!  そこまで禍々しい魔人化なんてゾルガン様でさえ纏っていないっ!  」
「お兄ちゃん……どうしよ……   」
「ナコ、お前は来た道を戻れ! 僕が時間を稼ぐ! 」
「でも……お兄ちゃんは……?  」
「お前を守れるだけで充分だ!  いいから早く行けっ!  」

 そう言ってイヴィルは俺にかかって来た。

 この流れ、完全に俺が悪役の気分だ。
 それだけでなく、そもそも2人は悪いやつには見えない。
 やはりゾルガンと同じく人間に戻してあげるべきか。

 そんなことを考えている間に彼はすでに俺の目の前までやってきていた。

 しかし俺も魔人化しているおかげか、身体能力が格段にあがっているようで、イヴィルの動きがまるでスローのように感じてしまう。

 シュッシュッ――

 そのため全ての打撃を難なく躱し、部屋中には空振っている拳の風きり音が鳴り響いている。

「くそっ! なんで攻撃が当たらないっ!  」

「ちょっと話があるんだが……  」

「うるさいっ! 僕はここで時間を稼ぐんだっ!  」

 だめだ。
 完全に気が動転して話を聞いてもらえない。
 仕方ない。
 不可抗力だと思ってくれ。

「ごめんな、1回大人しくしてくれっ!! 」

 俺は語尾を終えると同時に、拳をイヴィルの頭上から振り下ろした。

「――――ッ!? 」

 ドカンッ――

 イヴィルは地へと叩きつけられた。
 それも床がひび割れてしまったほどに。

「お、お兄ちゃん……  」

 ナコはそんな兄の様子を見て、その場にへたりこんでいる。
 出口はすぐそこなのに、逃げるほどの余裕はなかったようだ。

「ちょっと、ナコさん? ちょっと話があるんだけど、こっち来てくれない?  」

「ヒィィッ……。 は、はい   」

 魔族に関しての話をしてパージをかけようと思ってるだけなんだが、ナコはもう逃げられないと悟った犯人の如く俯いて、トボトボと近づいてくるのであった。
 
 
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