上 下
2 / 129
1章 エメラルドヴェール編

魔法発動

しおりを挟む
    叫び声がする方を見ると背中には斧が刺さっており、傷口から鮮血が噴き出している。


 ───うっ痛い……痛い痛い痛いぃぃぃ

 
 (これ本物? 人が死んで……というか、この壁の赤い染みってもしかして……)

 
 そう確信すると、突如生臭い鉄の匂いが立ち込め、同時に猛烈な吐き気が襲いかかってきた。
「うっ……おえぇぇっ……」


 夢……じゃないのか。
 人が死ぬ様、血の匂い、すべてあまりにもリアルすぎる。

 
 そのゴブリンは斧を刺した相手をじっくりと観察している。
 対象が静止し生命という花が散ったであろう瞬間、やつはこちらを向き、狂気に満ちた笑みを浮かべた。

 
 あれは明確な殺意だ。
 凍るような感覚が、背筋を駆け抜け、身体中に広がっていった。
 そして先程の人の死、強い鉄の匂い、そうか……これは夢じゃない、リアルなんだ。

 
「グァァァァァ───。」
 やつは叫び声を上げながら斧を振り回している。


 ヤバい。
 ここがどこかは分からないが、このままだと俺も殺される。
 それだけは分かる。
 

 逃げないと、しかしどこに。
 そうだ、元の道に戻れば、
 ……!?
 通ってきた道が塞がっている。
 つまり、今ここに逃げ場所がなくなってしまったということになる。


 このままだと、間違いなく死……


  (……魔力を使って!)


 また幻聴なるものが聞こえてくる。
 しかし魔力が見えることも身体に流れている感覚があるのも事実であり、先程ここがリアルであることがわかったところでもある。
 だからこそもう今はもう魔力とやらに縋るすがるしかないんだ。


「わかった。やってみる! 」

 
 そう、俺は天の声に返事をした。


「よっしゃ、イメージしたぞ! 」

 
 その掛け声と同時にゴブリンに身体の正面を向け、手をかざした。


「グァァァァァ───。」
 再び雄叫びをあげたゴブリンはこちらに向かってくる。
 俺、ゴブリン間の距離は約15mほどといったところだ。
 斧も持っているため、これで魔力が発動しなければ、これブッスリと殺られるな。


 一か八か。
「うぉぉおおおおお!! 」
 イメージしたものをぶつけてみる。


 すると
「グギャァァァァ───!!」


 そのゴブリンは、容赦なく地に叩きつけられ、土埃が舞いあがるのではないかと思わせる勢いで地面にへばりついた。
 さらに俺がイメージするほどに強く。
 イメージしたのは重力魔法。
 なぜかふと思い浮かんだのがそれだった。


 ゴブリンは俺の念じる圧力に屈し、そのまま抵抗虚しく潰れ去っていった。


「これが魔力……魔法ってやつか。」


「あのー、先程はありがとうございました! 」

 
 助けてくれた女性の声に感謝の言葉を投げかけたが、その返事が返ってくることはなかった。


 これからどうしようかと思った矢先、
 どういうわけか目の前に通路が現れた。
 なんにせよ、出口を探さなければ帰れないため、俺は先に進むことにした。

 
 ◇


 あれから、少し魔法を試してみて、分かったことがある。


 ひとつは魔法ではよくある火の魔法、水の魔法など自分が知ってるようなものをイメージしてみると、
 たしかに手の平から放つことができる。
 しかしながら、規模はそんなに大きくない。
 

 ふたつ、アニメなどでは魔力量というものがあり、使える上限、下限ってのがあるようだが、
 今のところいくら使っても疲れや使えない感覚もない。
 これは空気中の魔力を取り込んでいるためか。
 もしそうならずっと使えちゃうことになる。


 みっつ、色々試したけど、今のところは重力魔法で叩き潰すのが手っ取り早い気がする。


 実際あれからゴブリンが10体ほどでてきたが、全て一撃だ。
 ほかの魔法も当ててみたが、少し時間がかかった。

 
    魔法について考えていると、またまた光が差し込んできた。
 さて、そろそろ出口でもいいんじゃないか……?
 もういい加減疲れてきたよほんとに。
 はいはい、また見慣れた空間とゴブリン……!?
 あれ、ちょっとゴブリンおっきくないか? 
 


 今まで見たゴブリンは大体、小学生くらいの身長だったが、今回のはこれ3mくらいあるぞ。
 もうこれゴブリンじゃなくてオークってやつじゃ?


「グァァァァァァ───」
 今までとは比べものにならない叫び声。


 不安になる気持ちはあるが、俺だってここにくるまで戦闘経験も多少積んできた。
    大きさが違うだけでやることは一緒だ。


 先程までと同様にイメージして、手をかざす。


「──────ッッ」
 声を上げる暇もなくボスゴブリンは重力に押し潰された。


 何度も使っているからか魔法の威力が上がっている気がする。
 身体に魔力が馴染んできているということなのだろうか。


 奥にいつも通り通路があるが、光の強さが今までと違う。
 あれは太陽の光を感じさせる明るさだ。
 それを見て、外への出口だと確信した。

 
 そして俺はこのダンジョンを突破した高揚感と、外に出られる嬉しさを噛みしめて出口へと踏み出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...