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第34話 新入生、始動
しおりを挟む3級ハンター試験から10日ほど経った。
養成学校の春休みという長期休みは終わり、いよいよボクは学校に通っていく。
ボクの立ち位置としては新入生という枠になるらしく、今日は入学式とやらに参加させられた。
そこでは3級ハンター試験の大まかな概要と3級ハンター認定証を授与してもらったのだ。
これでボクは晴れて3級ハンターになった、そういうことらしい。
そして長い入学式が終わり、ボクは今日から同級生になった大我くん、サラ、玲奈と共にお昼ご飯を食べようとしているところだ。
「ここが学生食堂ですか……。ひ、広いです……っ!」
サラは食堂をぐるっと見渡し、驚嘆している。
でもたしかに驚くのも無理はない。
この食堂、1階だけでも数十人は腰を掛けられるだろうに、もはやそれでは飽き足らず2階席なんかもある。
そんなに生徒が多いんだろうか。
「まぁたしかに私も広すぎだと思う。パパが『ハンターには食事が大切だっ!! 生徒が座りきれなかったらどうするっ!?』とか言ってたけど……うん、席が全て埋まったところなんて見たことないのよね」
玲奈ははぁ、とため息をついた。
この内観についてそう語り合うサラと玲奈に対し、大我くんは
「おいおい、なんで学生食堂のメニューにシャトーブリアンなんてあんだよっ!」
ズラリと貼り出されているメニューを見て一驚している。
ボクはそのシャトーブリアンなんてものは知らないし、食べたことがないから分からないけど。
「食堂のシェフも超一流が揃ってるからね。大我くん、それほどまでは私達ハンターは期待されてるってわけよ」
「おお、そうか。こんなところのお嬢様とはやっぱり玲奈さんはすごいなっ!!」
「そんな人を棚に上げておいて大我くんこそ、鳴上家のご子息でしょ? 有名なハンターの一族、それこそすごいって!」
「そうか? といってもスゴいのは父さんや兄さんであって、俺ではないけどなっ!ナハハッ! ま、俺の話はいいじゃねーの。飯でも食おうぜ!」
最近一緒に過ごして分かったけど家族の話をする時、大我くんは僅かに顔面筋が引き攣っている。
それに脈拍だって速くなるんだ。
もしかしたらあまり話したくない内容なのかもしれない。
大我くんの一言でボク達は各自食事を頼み、席へついた。
全員揃って4人掛けのテーブルへ腰を掛け、
「「「「いただきますっ!!」」」」
食事を開始する。
「う、うめぇ――っ!!!!!」
大我くんはガツガツと食べ進め、
「は、はいっ!! 美味しいですっ!!」
サラは一口一口噛み締めて、頬を緩ませながら召し上がっている。
ボクも食べよう。
このシャトーブリアンとやらを。
パクッ――
「美味しい――っ!!!」
こんなに厚みのあるお肉なのにとろける程の柔らかさ。
大我くんがびっくりしていただけはある。
……けど、ワイバーンのお肉も同じくらい美味しいんだけどね。
さすがにこの場では言わないけど。
ボク達はお互いに食事の感想を述べながら、パクパクと食べ進めていった。
それにしても玲奈と大我くん、サラは仲良くなったな。
今思えば春休みの間、4人で一度だけダンジョンへ向かったのが本当に良かった。
ダンジョン1550――
これは父さんが指定した攻略対象の一つ。
玲奈いわくここは現在完全踏破に1番近いと言われているダンジョンらしい。
それに難易度も高くないのでボク達にはピッタリだった。
といっても軽い運動のつもりだったので、1階から5階までのダンジョン探索を行ったのだ。
現在25階まで突破しているらしく、もうボス部屋の手前なんじゃないかって噂もあるとか。
ボク達は認定証こそ今日もらったけど、あの合格と任命された日の時点で3級ハンターだったため、プライベートでのダンジョン攻略が可能だったというわけだ。
「それよりもリュウくん、大我くん、サラ……」
玲奈はボク達の名を順に呼ぶ。
彼女はえらく真剣な表情をしている。
その声色に皆、箸を止め視線を玲奈へ向けた。
「前期の授業に『武器演習』ってあるでしょ? これはまだ広まっていない話なのだけれど、担当講師が十傑のロベール様なの……」
「「え……」」
玲奈の言葉に大我くんとサラは体を硬直させた。
そして速くなる心拍、強い拍動。
瞬きを忘れるほどに目を見開いている。
恐怖――
2人にはそんな感情が立ち上っているのかもしれない。
「授業ならぶっ飛ばしていいのかな……っ?」
一方ボクは中から湧き上がる彷彿感をそのまま口にした。
するとそれを聞いた玲奈はバッと席から勢いよく立ち上がり、自身の手でボクの口を覆ってきた。
「ちょ……っ!? リュウくんっ! 誰が聞いてるか分からないからそんなこと言っちゃダメだよ!」
ボクの吐く言葉が止まったこと、周りには聞こえていなかったことを確認してから彼女はふぅ、と安堵のため息を吐いて再び腰を掛ける。
なんだか玲奈に気を遣わせてしまった、申し訳ない。
「玲奈、ごめんね?」
「ううん。大丈夫だよ。リュウくん、『武器演習』ってのは2級ハンターへ昇格するための必須科目なの。つまりロベール様が授業を担当するということは彼次第で私達のハンター人生が左右されることになる。この前の試験のことで色々思うところはあるだろうけど、この科目だけは一緒に頑張って乗り切ろ?」
「うん、分かったよ……」
彼女のお願いだ。
この科目、しっかり乗り越えよう。
現在、飛田さんもロベールの悪事を暴こうとしてくれているみたいだ。
しかし未だ何も見つかっていないらしい。
ということは制裁を下すタイミングは今ではない。
その時までエイジ達の無念、ボク自身の怒りはしっかり心の中へ封じておく。
そして明日から本格的な授業が始まり、それから3日後には早くも『武器演習』の時間がやってきたのだった。
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ハンター学校で真っ先に教えるべきは、危険な状況になったらすぐ結晶に触れて浅い階層に飛ぶ習慣をつけるべきだと思う。
すぐ触れられるように開口部付き腰ポーチとかあるといいかも。
習慣化してたらボス部屋は無理でもレナ襲われた時点で帰還できたはずだし。物語りとしては進まなくなるけどね。
間違いないですね笑
もうダンジョンの心得第一に匹敵するくらいですけど、とりあえず話を進めるためにはご容赦くださいませ🙇
ん?レナを連れて来た護衛ハンターはどこいった?
ソロで来たなら襲われても早々負けないだろうし、先に龍王会にやられたなら助けないで二人だけで地上戻ってきた?
それにりゅうの結晶でレナまで95層飛べるなら、誰でも連れて行けるということだし、他のハンター連れてって自分の結晶にその階登録させれば階段探す手間省けてるしビジネスになりそう、りゅうに連れてってもらって、下層の敵や入手物などの実態調査もできそうだよね。
コメントありがとうございます。
設定が分かりづらくてすみません。
レナは普段護衛ハンターとダンジョンへ潜るのですが、その時に48階層を登録しています。
つまり護衛ありきなので、彼女自身にそこまでの強さはありません。
今回はモンスターのいない階層だからと、配信のため一人できてしまったという感じです。
その配信で危険を悟った護衛ハンター達がくるのですが、先にリュウが助けたので、入れ違いになってると思われます。
後半コメントの結晶について、キラSS様の仰るとおりで誰でも連れていくことができるので、それを自分の結晶に登録すればめちゃくちゃビジネスになりますし、それこそダンジョンの実態調査など進んで仕方ないはずです。
とはいえ、リュウ自身その価値がよく分かっていないです。
この事実が地上の誰かにバレた時、もしかしたら大戦争になるかもしれませんね。