上 下
30 / 34

第30話 悲惨な現実

しおりを挟む

 そして到着したのは、元の場所。
 おそらく7階層。

 転移魔法陣をしばらく見つめるも蜘蛛達は追ってくる気配がない。
 何故かは分からないけど、とりあえず一安心。

 ボク含めたみんな安堵からかその場にへたり込み、はぁ~と気の抜けた声を出す。

「ハラハラしたねぇ」

「ハラハラしたねぇ、じゃねーよ! 旦那が突然飛び出した時はどれだけびっくりしたことか!!  なぁ?  サラさん!」

「は、はい……。お、おしっこチビっちゃうかと思いました……」

 おいコラァと怒鳴ってくる大我くん、今も尚ガクガク震えてるサラには怖い思いをさせて申し訳なかったけど、今回は本当に助かった。
 2人がいなかったらあんなに大胆なことはできなかったと思う。
 助けた3人も無事なようで良かった。

 一方3人のハンター達もボク達と同じように地面にへたり込んでおり、少し気持ちが落ち着いてきたのか、声をかけてきた。

「あの……本当にありがとうございました。あなた達が来てくれなければ、俺達は間違いなくあの蜘蛛の餌食になってました」

 まずヘッドフォンの男性が正座で頭を下げる。
 そしてそれをみた他2人も同様に、

「「ありがとうございましたっ!」」

 同じくそれに倣った。

「全然気にしないで。無事ならそれでいいんだし、頭を上げてよ」

 地上に来て感謝されることが増えた。
 喜んでもらえて嬉しい気もするけど、どこかむず痒い。
 ボクの言葉に3人はゆっくり頭を上げてくれる。

「この感謝、忘れません」

 少し休んだボク達は立ち上がり、移動することにしたが、3人とも帰還石を持っていないためゆっくり地上まで歩いて行こうということになった。

 本来であれば帰還石だけでなく個人の転移結晶を持っているため、あっという間に帰られるはずなんだけど、アルバイトのため事前に回収されたらしい。
 
 あれはお互い触れていれば他の人も一緒に転移することができる。
 もちろんボク達受験者も不正防止のために回収されたんだけど、アルバイトの人達も同じく回収されたようだ。
 それに彼らはそれだけでなく個人の専用武器まで持ち込み禁止だったらしい。
 なので簡易的な武器のみを持っている。
 アルバイトの人達は皆2級ハンター以上の実力って聞いてたけど、そりゃ武器がないと蜘蛛にも追い詰められるよね。

 専用武器と転移結晶を回収された時点でロベール様を怪しむべきだったと3人とも後悔している。

 そして移動中、ボク達はお互いに自己紹介をした。
 名前を知ることでなんとなく心の距離が縮んだ気がする。

 ヘッドフォンの彼はエイジ、他2人はリク、ハヤト。
 彼らはこのアルバイトで知り合い、ロベールの指示でカメラの死角を探して転移魔法陣を展開させる担当だったそう。
 展開直後に女王ラクナが飛び出してきたらしいので、あの先はおそらく60階層だったのだろう。
 そんなことをしてそのロベールってやつは何がしたかったのかな。

「とりあえず、俺らは外に出てこのことをハンター協会へ報告しようと思う。それに学校側にも」

 エイジは歩きながらそう言う。

「そうだな。ロベール様は学校では十傑のポジションを持ち、父親は特級ハンターで大型ギルド『レッドコルネカンパニー』のギルドマスターをしている。そのギルドの後を継ぐなんて話ももう出てきているらしい。そんな将来有望な彼が違法の転移魔法陣を展開しようとし、あろうことかその証拠をもみ消すために人を殺そうとしたことが世に知られれば、もうハンター人生も終わりだ」

「でもロベール様はそれだけのことをした。しっかり自分のしたことに向き合って罪を償ってほしいな」

 リクとハヤトも続けてそう話す。

「うん、ボクもそれがいいと思う。悪いことをしたなら責任は取らないとね!」

「そうだぜ、もし俺らの証言が必要ならいつでも言ってくれよ!」

「……はいっ! 私もできる限りのことは協力します!」

 ボク達3人はもちろん同意の意を示した。

「ありがとう……リュウ、大我、サラ。本当に俺らはいい人達に巡り会えたよ」

 エイジは再び感謝を伝えてくる。

「もういいって。ボクも友達ができた気がして嬉しいしさ」

「友達、か。そんな風に言ってくれるんだな。なら外に出たら美味いもん食いに行こう。ここにいるみんなで!」

 エイジの提案に対して、

「お、それいいな。俺いい店知ってるし、予約とるわ」

 リクが食い気味に話に乗る。

「おお……っ!」と声に出す大我くん、サラ、ハヤトの反応からして全員賛成のようだし、これは決定だね。
 危険な目に遭ったけど、助けられて本当に良かった、心からそう思う。

 そんな時、エイジのヘッドフォンから聞き覚えのある甘い声が聞こえてきた。

『リュウ、大我、サラ……。名前は覚えたよ』

 ……っ!?
 まだ会話は繋がってた!?
 ということはここまでの話全部聞かれていたってことになる。

「ロベール様。俺らはもう助かった。このまま外に出てすぐハンター協会へこのことを報告しに行きます。覚悟していてください」

 エイジは宣戦布告とも取れる発言を投げつけた。

『あっそ。君達は好きにしな。それよりもさっきの3人、リュウ、鳴上大我に天城あまきサラ。身の置き方に気をつけなよ? 君らの身辺なんて一瞬で洗い出せるんだ』

 ロベールはなぜか圧倒的な被害者であるエイジ達を、こともあろうか一切気にしないでいた。
 しかしその理由はこの後すぐに分かることになる。

「エイジ、もういいよ。早く出て報告しに行こう」
「そうだ。彼がどうなろうと俺らには関係のないことだし」
「あぁ、そうだな。この通話も切って終わりだ」

『そうだねぇ~。俺にとっても君らがどうなろうと知ったこっちゃない。じゃあ今までお疲れ様っ! 報酬は振り込んであるからね。くく……っ! ちゃんと生きて使えるといいけど』

 不気味なセリフを残して通話は途切れた。
 そして同時に甲高い電子音が響き渡る。

 ピーッピーッピー

「なんだ、なんの音だ?」

 大我くんは音の正体を耳で追う。
 ボクも同じく探っているけど、耳が良いからすぐにわかった。
 この音エイジ達から聞こえている。

 彼らはいち早く理解したのか青ざめた顔で皆上衣を脱ぎ出した。

「やっぱり……」
「これって……」
「あぁ、あの時着用した防刃服……」

 3人は同じ黒く頑丈なベストを身につけている。
 それを目にした全員、音の正体を理解した。

 ピッピッピッピッ――

 音の間隔は時間と共に短くなっていく。

「早く脱いだほうが……っ!」
「そうです、は、早く脱いでくださいっ!」
「そうだっ! 早く! なんかやべぇぞ!」

 ボク達が急かす中、彼らは
 
「くっそーっ! 脱げない……っ!!!」
「無理だ……自らは外せないって事前説明の時言ってたろ」
「そうか……ロベールは初めから俺らをここから出すつもりなかったんだ……」

 少しずつこの状況を理解し、悟り始める。

「ほら、諦めちゃダメだよっ!」

 ボクはまず手始めにエイジの防刃服を剥ごうとするけど、ビクともしない。

「んーーーーっ!! 堅い……っ!!!」

「リュウ、もういいから離れて。大我とサラも危ないから離れるんだ……」

「諦めちゃダメだってっ!!」

 ボクの言葉にエイジは首を横に振る。
 
 ピ――――ッ!

 音が鳴り止んだ。

「リュウ」

 エイジが防刃服を掴んでいるボクの両手を握って

「ありがとう」

 その言葉の直後、彼はボクを蹴り飛ばした。

 宙を舞うボク。
 強力な蹴り、きっと彼は強いハンターなんだな、そう思わせてくれるような威力だった。

 ボフッ――

 空中で耳に入ってきた重低音な爆発音。
 それにより生じた爆風でボクはさらに飛ばされる。

 そして着地すぐ彼らへ目をやると、そこに広がるのはこれ以上ない悲惨な光景だった。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...