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第26話 ラクナの実力
しおりを挟む「君はボクが倒すっ!」
そう意気込んで、ボクはラクナの元へ飛び出した。
背部の鱗間から吹き出す炎により、駆けるスピードはいつもより増長され一瞬で彼女の近くへたどり着く。
「その速さ、父親にそっくりよ?」
もうボクは彼女の目の前、今まさに物理攻撃を加えようとしているその時に、そんなことを言う余裕があるのか。
その瞬間に放った右拳。
今回もラクナは体を仰け反らせ、ボクの一撃を容易に避けてくる。
ただ今回は、さっきまでと違うことが1つ。
それはこの竜装甲を纏っていること、それもラクナが苦手とする炎属性をだ。
ボクはそれを至るところから放つことができる。
「あ……っ」
実際、ボクの腕から周囲に吹き出した炎が攻撃を避けたラクナへ命中し、唸りをあげた。
「よし、今だっ!」
炎により一瞬怯んだ彼女をボクは拳で何度も叩き込む。
「ああぁ……っ! あ……っ!」
ダメ押しで殴った一撃により、ラクナは大きく吹き飛ばされ、さらには追い討ちと言わんばかりに大我くんの放ったエネルギー弾が何発か直撃する。
「どうだ、やったか!?」
大我くんは仰向けで倒れ込んでいるラクナを見てそう叫ぶ。
たしかに彼女は今のでかなりダメージを受けているはず。
体から流れる出血量もすごいし、ところどころ焼け焦げた跡だってある。
見た目が人間に近いだけにやりすぎたかな、なんて罪悪感を抱くほどだ。
しかしおそらく生きている。
その根拠はボクの耳に彼女の正常な心音が聞こえてくるからだ。
「大我くん、油断しないで。まだ生きてるよ!」
「あらぁ~よく分かったわね」
仰向けだったラクナは、膝、股関節、腰部、胸部、頸部と順に波打ちながら起き上がる。
そんな不気味な起き方をみて、改めてコイツが人間ではないことを実感した。
「な、なんでまだ立ってられるんだよっ!!」
ラクナは足や手の関節が折れ曲がっており、本当になぜ立っているのか不思議なほど。
それでも尚、笑顔を向けてくるところに彼女の狂気さを感じる。
「楽しい……っ! 楽しいわぁ……。だけど、もう終わり。ワタクシの子供達がもう待ち切れないって言ってるの。本当はもうちょっと遊びたかったんだけど、はぁ~残念……っ!」
全て言い終えた彼女から突如として笑みが消えた。
なんだ、何が起こる?
そう思ったのも束の間、ムクムクと至るところの地面が隆起し、そこから大きな蜘蛛が顔を出す。
その大きさ、ボクの両手じゃ抱えきれないくらいだ。
そんな大蜘蛛がこの階層全体に無数に現れ、ボク達4人を取り囲む。
「おい、なんだこの蜘蛛は!」
なんとか立ち上がっていた飛田さんは炎の刃で1匹ずつ焼き斬っている。
「く、くるんじゃねぇ!!」
「やだ……っ! 来ないで……」
サラは大剣の力で張ったシールドでなんとか蜘蛛の攻勢から身を防いでおり、大我くんは銃撃で確実に1匹ずつ殺していっている。
だけど1匹ずつじゃ間に合わない。
徐々に周りが蜘蛛で埋め尽くされていく。
ボクの場合は、体から噴き出す炎によって近づいてきた蜘蛛から燃え盛っていくため問題はない。
だからみんなを守れるのは、ボクだけだ。
「みんなーっ!!」
飛田さんはなんとか手数が足りているから、助けるならあの2人。
そう思って駆けようとした時、突然、ボクの体が何かに縛られる。
これは蜘蛛の糸……っ!?
「アナタには行かせないわ」
それはラクナの手から放たれたものだった。
しかも炎じゃ全く焼き切れないし、振り解くこともできない。
「くそ……っ! これじゃみんなを助けに行けない……っ!」
「あなたは一番厄介だからね。子供達のお食事が終わるまでここで待ってて?」
「お食事……っ!? もしかしてあの蜘蛛、人を食べるの!?」
「ふふっ! 見てれば分かるわ」
気づけば階層全体の蜘蛛がみんなの周りに密集している。
その数の多さにいよいよ手数が足りなくなっているようだ。
飛田さんも焦りからか剣の振るい方が大雑把に、大我くんも震えによって狙いがズレ始める。
「ウッ……。やめ……て……よっ!」
サラは嗚咽まじりに涙を流す。
そんな彼らに容赦なく蜘蛛は迫っていく。
くそ、何もできない……。
たしかにボクはもっと下層、94層で過ごしていた。
だから60層のラクナだってどうにかできる、そう思ってたけど全くの思い過ごしだったみたい。
一般のモンスターとボス、ここまで実力が違うなんて……。
今までボスとは戦わなかったツケが来ちゃったのかな。
目の前で仲間が喰べられるところなんて見たくないよ――
そんな心の声に反応したのか、
(……ュウ! リュウ! 聞こえとるか!?)
これは、ソルイの声!
聞こえるけど、ごめん、今忙しいんだ!
(やっと聞こえたか。今の今まで無視しおって)
たしかになんか聞こえていた気がしたけど、そんな場合じゃなかったんだ。
(まぁそれはいい。今は急ぎじゃ。女王蜘蛛ラクナこう伝えろ。おそらく蜘蛛の侵攻は止まるはず)
ソルイから伝えられた言葉、それは意外なものだった。
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