上 下
9 / 34

第9話 お勉強の日々です

しおりを挟む

「……もしリュウくんが良ければだけど、3級ハンター試験受けてみる気はないか?」

 理事長はそう提案してきた。

「3級ハンター試験?」

「あぁ、ちょうど今年の入学者が試験を受ける予定なんだ。リュウくんもそれに参加すればいい」

「それを受けたらダンジョンへ行くことができるの?」

「そうだ。3級ハンターからは授業以外でダンジョンへ行くことができる」

「わかった! ならボクはその試験受けるよっ!」

 その話を聞いていた玲奈も「リュウくんならきっと受かるよ」なんて言って喜んでくれている。

「強いハンターが増えるならまぁ……歓迎だ」

 すると少し離れたところから声がした。
 目を向けると、倒れていたはずの秦があぐらをかいてその場に座り込んでいる。
 彼はゆっくりと立ち上がり、首を右、左と倒して骨を鳴らしながらこっちへ近づいてきた。

「秦、大丈夫?」

 玲奈の声かけに対して彼は「はい、問題ないです」と返す。
 それからボクへと視線を送り、

「ま、まぁ素手の実力は負けたが、武器同士なら負けない。次戦うまでに武器も極めていろ」

「うん、わかった! また戦ってね!」

 それ以上の言葉はなく、秦は背を向けてゆっくり去っていった。


 ◇

 
 それから玲奈が理事長に色々掛け合ってくれて、ボクは学生寮というやつで生活ができるようになったらしい。
 あの模擬戦の後、彼女にボクの部屋を案内してもらった。
 中は狭いけど寝るところはベッドってのがあってフカフカだし、ダンジョンにはなかったテレビ、なんかも置いている。
 一通り説明を受けたけど地上ってこんなに便利なんだね。

 そしてボクと玲奈は今、部屋のテーブルを挟んで向かい合っている。

「さーてリュウくんっ! 今日からしばらくお勉強の時間だよっ!」

「……お勉強? ハンターになるのにそんなのいるの?」

 ボクがそう聞くと玲奈ははぁ、と大きなため息をつき、

「そうなの。3級ハンター試験には筆記試験と実技試験ってのがあってね。実技はいいとして、問題は筆記。リュウくんはまだ地上に来たばかり、地上のことは疎か一般常識も怪しいのに筆記試験なんて……」

 そう言って肩を落とし俯いている。

「玲奈、大丈夫だよ! ボク、ダンジョンのことは誰よりも詳しいからさっ!」

「ほ、ほんと……?」

 玲奈は眉をひそめ、ジト目でボクを見てくる。

「じゃあさ……」

 そう言って彼女は何やら紙をボクに手渡してきた。

「これは何?」

「去年の過去問よ! これが解けるなら問題ないけど、分かる?」

 それに目を通すと、ダンジョンについての問題が書かれてあった。
 この名称を答えなさいやら穴埋めがあったり。
 よく分からない問題も多いけど、知ってるものも多い。
 昔、父さんに解かされたものによく似ている……いや、むしろ同じ問題もあるんじゃないかな?

「玲奈、書くものない?」

「え、あ、あるわよ」

 ちょっと解いてみよう。

 書いてる途中、チラチラ玲奈が紙を覗いてくるけど気にしない。
 ひたすら解いていった。

 そして完成したものを玲奈に渡すと、

「す、すごい……。4割は合ってる。私てっきり字から教えてあげないとなんて思ってたから、ちょっとびっくり……」

 玲奈はボクの渡した紙を見るなり、目を丸くしている。

「へへっ!昔よく父さんに教えてもらったんだ。字の練習と頭の体操に使ってた紙と似てたから解きやすかったよ」

「……!? もしかしてリュウくんのお父さんは初めからハンター試験を受けさせるつもりで……」

「そうなのかな? でも父さんが言うには頭がよくなけりゃ女の子に好かれないって、そんなこと言ってた気がするけど」

「はは……まぁお父さんの真意はわからないけど、これで苦手な問題も分かったし、筆記試験はなんとかなりそうねっ!」

 そして勉強の日々は始まったのだった。
 期間は2週間らしい。
 初めは地上の時間感覚なんて分からなかったから、時間の計算や日の数え方なんてところから教えてもらった。
 それに今、学校は春休みという長期休みで休暇があと1ヶ月もあるらしく、勉強するならうってつけなんだって。
 ボクにとってどれも新鮮な知識で、勉強がとても楽しい。

 それからその後はボクが苦手らしい問題。
 ダンジョンについてはよく分かってるみたいだけど、ハンターが絡んでくる問題に対しては少し疎いようだ。

 例えばダンジョン配信。
 地上では映像を共有して映し出す、そんな技術があってさらにはそれが人々の娯楽となっているらしい。

 スマホなんてものも初めて知った。
 これでその動画ってやつを見たり、知り合いと連絡をとったりできる優れものだ。
 こんなのあるなら早く教えてよ、父さん。

 撮影はAIドローンがしてくれるみたい。
 1人1台学校が配ってくれるというが……なんでダンジョンに行くだけで配信をしないといけないの?

 玲奈にそう質問すると、

 年々ダンジョンは増え続けている。
 その中で調査にかかる費用や人件費が国で賄えなくなっているところに提案されたのがこのDチューブ。
 要はダンジョン攻略を娯楽というコンテンツにして、そこで得た投げ銭や広告収入をハンターの人件費や経費にしようという算段らしい。

 つまりどの方向においてもWIN-WINなのだ。

 そのDチューブが思いのほか強く人々に根付いたことによって、今や任務完了の報告もその攻略した時の映像提出が必須にまでなってしまったほど。

 そんなハンター達がどうやってダンジョンで戦っていくのか。
 それは体に流れるエネルギー『氣』というものを使うらしい。
 氣ってのはとっても便利で、身体強化を行ったり、一部の適性がある人は魔法っていって炎や氷なんかを使って戦う人もいるんだって。
 そういえば玲奈も手から氷を出していたね。

 彼女のおかげでこんなに知識豊富になってしまった。
 ハンターのことがよく分かったよ。


 ◇


 そして2週間後、

 筆記試験は好成績、7割5分という点数を叩きだし、無事に合格することが出来た。

 さらに1週間後には実技試験だ。
 ダンジョン『零』10階層までの攻略が課題らしいから余裕だね。

 でもその前に、ハンターには武器がいるらしい。

 ということで明日は武器を買いに行きます。 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...