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第7話 リュウVS秦

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「うちの護衛ハンター、前田  しんくんと戦って勝ったら入学を認めよう!」  

 玲奈のパパはそう提案してきた。
 彼はそのまま続けて、
 
「いや……恩人に無礼なことを言っているのは重々分かっている。しかし今年入学できなかったものがたくさんいる中、君を裏口入学させたとなれば学校の評判はガタ落ちだ」

 あの人の言っている意味はほとんど分からなかったけど、ボクは唯一分かったことを再確認する。

「つまりボクが勝てばハンターになれるんだね?」

「……あぁ。理解が早くて助かる。それと戦いの様子は生配信させてもらうよ。証人は多いに越したことないだろ?」

「パパッ!  リュウくんを戦わせるなんて……」

「玲奈、ウチの評判どーこーもそうだが素性や実力が分からない人を入学させるのは学校側にもリスクがあるのだ。娘を助けてくれるくらいの人だし、人柄は信用できよう。あとは実力。一応玲奈を助ける姿は見ていたが、その力、実際に見てみたい」

「俺も賛成ですよ、理事長」

 突然話に割り入ってきたのは、ずっと理事長の隣で立っていた前田 秦という男。
 今からボクが戦う相手らしい。
 背丈もボクより顔一つ分高く、細身の割に質のいい筋肉を身につけている辺り相当鍛えているのだろう。
 ボクに向けてくるその鋭い眼光からは憎しみ、殺意といった強い感情が伝わってくる。
 まるでモンスターと対峙した時みたいだ。

「秦、勝手にお前を相手に選んで悪いな」

「いえ、いくらお嬢様を助けたからってこんな得体の知れないもの学校に入れるわけにはいきませんから」

「ちょっと秦もいい加減にしなさいっ!」

 玲奈は秦に対して強い口調で言い放った。
 
「いいですか、お嬢様……学校経営とは遊びではないのです。素性は疎か実力すら分からないものなど、我がハンター養成学校の危険分子に過ぎない」

 それに対して秦は彼女に対して淡々とした口調で言い返す。

「秦、その辺にしておいてくれ。玲奈、リュウくん、彼がキツい言葉をぶつけたようですまなかった。我々は何も厄介払いしようってわけじゃないんだ。本当に実力がみたいだけで、ハンターになるに値すると判断すればもちろん歓迎するよ」

「……分かった。パパ、リュウくんが勝ったらちゃんと入学を認めてよ?」

「あぁ分かっている」

「リュウくんも戦うことになっちゃってごめんね?」

「……?  ボクはハンターになれるならなんでも構わないよ!」

 玲奈はボクに対してとても申し訳なさそうな顔をしている。
 ボクが勝てばいいだけのことだから、気にしなくていいのにな。

「理事長、では訓練所へ行きましょう」

「あ、あぁそうだな。玲奈、リュウくん、ついておいで」

 ボクと玲奈は理事長の言うとおり、後に続いていった。


 ◇


 そして到着したその場所はどうやら訓練所と呼ばれているらしい。
 訓練か……父さんにしごかれた記憶しかないや。

「ここなら思う存分戦えるだろ? どうだ、リュウくん!」

 理事長は大きく両手を広げ、この空間の広大さを示している。
 たしかにダンジョンほどではないけど思う存分戦えそうだ。

「うん、これだけ広かったら戦いやすいよ」

「そりゃそうだ。ここは縦32m、横20mと理事長が訓練しやすいようにと提案してくれたものなのだから。それとお前、敬語もろくに使えないのか? 上下関係ができない奴はハンターになんてなれないぞ」

 秦は相変わらずボクを冷たい目で見ている。
 父さんからは人間と仲良くと言われているけど、彼とは少し難しそうだ。

「秦、そんなこと言ってやるな。さっそく配信も始めるが準備はいいか?」

 理事長がそう言うと、秦は「わかりました」と返しこの空間の中央へ移動する。
 そりゃ戦うなら真ん中だよね、ってことでボクも後ろから彼についていった。

"あれ、急遽生配信!?"
"このチャンネルってハンター学校のPRチャンネルじゃん"
"さすが普段稼働してないチャンネルだから視聴者少ねぇw"
"待って、あの人前田 秦!?  最も特級ハンターに近いっていわれてる"
"多分そうじゃね?  この前ハンター雑誌載ってた顔と同じ"
"模擬戦って動画タイトルだけど、戦う人が不憫だわww"
"秦と向かい合ってるのシルバーくんじゃない?"
"シルバーって今SNSで合成って話題の?"
"だから合成じゃないって。あの時の翼、鱗本物だろ"
"ここでも合成か論争起こってるの草"
"この動画さっそく拡散されまくってますよ"
"あの2人どっちが勝つんだろ"
"さすがに秦だって"

「2人とも!  動画盛り上がってきたぞー!!」

 嬉しそうに理事長が何か言ってるけど、よく分からない。

「リュウくんっ!  頑張ってねっ!!」

 玲奈が手を振って応援してくれてる。
 ボクは「ありがとう」と手を振り返した。

「ちっ」

 秦から何か聞こえたけど、さっきよりボクを睨む目力が尋常じゃないくらい強くなっている。
 またボク何かしたのかな?

"もしかしてだけど、これってレナちゃんの取り合い?"
"え、まじ?"
"だって秦って人シルバーにめっちゃ怒ってるし"
"あぁ。さっきレナちゃんが手を振ったから?"
"嫉妬したんですね。わかります"
"僕達と一緒だな。秦、ともにシルバーを滅ぼそうぞ"
"やめとけ、この前のレナの配信からシルバーのファンクラブができつつあるらしいぞ"
"やばいやんwwww"

「お互い武器を構えっ!!」

 理事長が何かの合図をした。

「え、武器?  ボクないけど」

 みんな持ってるものなのかな?
 分からないので思わず首を傾げる。

「は?  お前素手で戦うつもりか?」

 そう言った秦は鞘から抜いた長刀を手に持っている。
 そうか、ハンターって武器を使うのか。
 ダンジョンで倒した人も銃を持っていたし。
 だけどボクは今まで素手で戦ってきたしなぁ。

「うん、ボクはこれでいいよ」

 そう言って彼に拳を見せる。

「ふっ。なら俺もそれに倣おう」

 一瞬、笑みをみせた秦は腰にかけてある鞘へ長刀を仕舞い、同じく拳を見せてきた。

"拳同士か!  男の戦いだな"
"これならシルバー様の勝ちも有り得るんじゃっ!"
"いやぁ甘いですな。秦殿は今まで何人もの非正規ハンター、それも1級に近い実力のものを拳で葬ってきましたから"
"化け物やんww  でもなんで武器使わんの?"
"どうやら非正規ごときに己の武器を汚したくないとか"
"潔癖症なの草"

「ふははっ!  お前達、それでこそ男だっ!  では改めて、これより模擬戦を開始する。いざ尋常に……試合開始っ!」

 理事長の一言により、戦いの火蓋は切って落とされた。 
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