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第5話 ボクが目指す道
しおりを挟む転移したその先にはボクも未だ見たことない景色。
しかしここが95層かどうかは目の前の転移石板を見れば分かる。
そこにXCⅤ(95)と数が書いてあるのだ。
こんな人間の身長よりも大きな石の塊どうやって作るのかな。
それに書いてある文字もなんて書いてあるか数以外よく分からない。
でも不思議なことに、転移結晶をこれにかざすと自動的にその階層を登録してくれる。
父さんはそれをレポートって言ってた。
誰がこんなものをダンジョンに作ったのかは知らない。
でもその転移石板のおかげでぼくは今日まで生きてこれたのだ。
「ここ……もしかして最下層?」
玲奈は斜め上辺りを見上げながら一言漏らす。
「そうなのかな? ボクもきたことないから分からない」
「でも、この大きな門扉……多分ボス部屋だよね?」
「この先がボスなの?」
「え、知らなかったの……!?」
ボクが「うん」と頷くと、ポカンと口許を開けたまま玲奈は固ってしまった。
「玲奈っ! 大丈夫?」
彼女の肩を叩くとハッと気づいたみたいで、
「あ……ごめん、大丈夫だよ。それよりこの先に行くの?」
「うん! 父さんが来いって言ってるんだし! 早く行こ!」
「えっ!? 待ってよ~」
ボクは玲奈の数歩前を歩む。
ここはダンジョンだし、できる限り彼女を守れるように。
ゴゴッ――
「え……?」
「リュウくん!?」
一歩踏み込んだ位置にあった円形の床板が数センチ沈んだ。
え、何か起こるの?
「これって、何かの罠じゃ……?」
玲奈はこれの正体を知っているような口ぶりをしている。
「罠ってなんだい?」
そう疑問に思ったのも束の間、ちょうど真上の天井に突然光の束が集められていく。
範囲的にボクも玲奈も命中するぞっ!
「何、これ……」
彼女、驚く暇もないようだ。
光の方を見て呆然と立ち尽くしている。
急いで助けなきゃっ!
「玲奈っ!!」
その光は準備ができたと言わんばかりに輝きをさらに強め、それをきっかけに光速で降り注いできた。
降ってからじゃ遅い、そう本能的に思っていたためもうすでに強く地面を蹴り飛ばし、最速で玲奈の元へ向かっている。
幸い光が落ち始めたタイミングには玲奈を抱き抱えることができており、間一髪避けることができた。
「玲奈、大丈夫?」
「あ、うん。助けてもらってばかりでごめんね……!? 何あれ……?」
彼女はさっき降ってきた光の方に視線を向けている。
初めは驚いた表情だったが、徐々にその眩しさに対して目を細め、そこにあるものをどうにかして視ようとしている風に見えた。
彼女が怯えていないところをみるに目に見えて危ないものではないのだろう。
しかし得体の知れないものには間違いない、そう思ってパッと振り返るとそれはボクにとって一番よく知っているもので、同時にかけがえのないものがそこにはあった。
「……父さん?」
光の中に現れたのは紛れもない父の姿だった。
感動で胸が熱くなり、込み上げてくる涙を抑えられずにいると、
「やぁリュウ、久しぶりだね。どれくらい久しぶりなのか分からないよ」
「父さんっ! 今までどこにいたのさっ! ボクが一人でどれだけ寂しかったことか……」
感動の後にやってきた憤りや悲痛をそのまま声に乗せて父にぶつける。
「今目の前がリュウだと信じて話を続けるよ。いや、きっと外に出る決意をしたんだろうね。もしそうなら父さんは嬉しく思う」
「待ってよ、父さん……何言ってるの? どう見てもボクだろ?」
何やら父さんの様子がおかしい。
まるでボクのことが見えていないみたいだ。
ここは昔みたく父さんの体に飛びついてやろう。
「リュウくんっ! 待って!」
今一瞬、玲奈の声が聞こえたけど、踏み出したこの足はもう止まらない。
ドンッ――
ボクはどうもその先のボス部屋らしき扉に直撃したらしい。
父の胸に飛び込んだはずなのにそんなわけがない。
そう思いたいが、ぶつけた顔に走る鈍痛がそれを事実だと痛感させる。
「これって……ホログラムじゃ?」
玲奈のその呟きに続いて、
「リュウ、これはね立体映像……いや、ホログラムとも言うかな? つまり父さんはここにはいない。ただの光なんだ」
「じゃ、じゃあ父さんはどこにいるのさ!?」
「きっとリュウはまず父さんがどこ行ったのか知りたがってる、そうだろ?」
父さんはそう言ってボクに微笑みかけてくる。
昔のように。
さすが、父さんにはなんでもお見通しだね……。
「でもな、今はそれを教えられるほど時間がないんだ! 悪いが、このホログラムはあと1分で消えてしまう」
「そんな……父さんっ!」
「リュウ、いいか? この扉の奥がダンジョン『零』のボス部屋。いつか一緒に挑もうなって言ってたお前と父さんの目標の場所だ。この扉を開けるには外のダンジョン642、1081、1550、1812、2020、2032最奥にある鍵が必要でな、それをお前に任せたい」
「任せるってボク一人でできるわけないじゃないか!」
「ハンターになれ、リュウ!」
「ハンター?」
「隠してたわけじゃないんだが、父さんはダンジョンを攻略するハンターって仕事をしてたんだ。まずは外でハンター養成学校を探せ! 金なら心配いらない。お前なら主席で入学間違いないからな。ハンターになれば堂々とダンジョンも攻略できるし、仲間だってできる。お前は一人じゃなくなるんだ」
「わけが分からないよ……」
「悪いが、ここまでだな。もうこれ以上は記録できないようだ。あ、そうだリュウ! 94層にある父さんのエロ本全部燃やしといてくれ! あんなの後々94層まで開拓された時見つかったら恥ずかしいじゃん?」
ったくどんな話題の切り替え方だよ。
まさか息子への言葉よりエロ本の話になるとは。
まぁ父さんらしいけどね。
「はいはい、燃やしとくね」
「あ、あとちゃんと覚えているか? お前が守らなきゃいけないもの」
「それは父さんがいつも口うるさく言ってたから覚えてるよ」
「「女の子は守れ! 可愛いなら尚更な!」」
ホログラムである父と言葉が被ったことが可笑しくて思わず「ふふっ」と笑みが溢れる。
「心配ないな、なんたって俺の息子だ。きっとやり遂げられるさ。そしてリュウ……安心しろ、父さんはいつだってお前の側にいる。竜細胞がお前の中にある限り」
そう言い放った父は光と共にゆっくりと消えていった。
その場にあるものを残して。
「……何これ?」
ボクはそれを拾いあげたのだった。
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