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第4話 いざ95層へ!
しおりを挟む「シルバーさん、地上に来ませんか?」
それは予想外の言葉だった。
地上といえば人間がいっぱいいるところ。
正直怖いけど父は「リュウもいずれ外に出る時がくるだろう」とか言ってたっけな。
「え、えっと住むところとかは心配しないでください。私がなんとかするし、ご飯だって必要とあらば作ってあげられますよ?」
特にそんな心配はしていなかったが、彼女はほんのりと頬を紅潮させながら体をもじらせている。
どういう意味の動きか分からないとしてもその可愛い動きに心が打たれてしまう。
「地上に行けば、君とずっと一緒にいられる……?」
「えっ!? ず、ずっと……!?」
なんだか彼女は今まで以上に顔を赤くしてびっくりしていた。
「そう! ボクは君とずっと一緒にいたいんだけど?」
せっかく父さんの言う可愛い女の子に出会えたのだ。
それに自分自身、彼女を見ると今まで抱かなかったような感情が芽生えている。
地上に出て彼女と過ごせばその正体だって分かるかもしれない。
「え、えっと……ずっとは難しいかもだけど、会いたい時には会えるかも……?」
彼女はチラチラと上目遣いで視線を合わせたり、逸らせたりとさまよわせている。
「うーん……。そうだねぇ」
地上、か。
少し昔のことが頭をよぎる。
ボクの父さんは失踪した。
どれくらい前かは分からないけど、たしかボクはもう少し小さかったと思う。
そんな父さんが最後に残した言葉。
「リュウ、お前もいずれ外に出る時が来るだろう。その時は95層へ来なさい」
それまでは来ちゃダメだよ、とも言っていたっけ。
ボクはその言いつけを守ってずっと行かなかった。
しかし今がその時なんじゃないか?
せっかく彼女が誘ってくれたのだ。
ここは一歩踏み出して……。
「あ、会えますっ! いつでも会うからっ! せ、せっかく知り合えたわけだし……もっとシルバーくんのこと知りたいってゆーか……」
ボクが断ると思ったのか、彼女は切迫した空気を纏って、走り気味に言葉を漏らす。
「うん、ボク、君についていくよ!」
「うんうん、ダメだよね。私としてはシルバーさんに助けられてとっても感謝してて、なんか恩返しできたらと思って提案したんだけど……そ、それにカッコよかったし……」
「だから行くってば!」
行くって言ったのになんか俯きながら早口でゴニョゴニョ言ってるよ、この子。
まだ気が動転してるのかな?
さっき怖い目にあったわけだし。
「……え? 来てくれるのですか?」
ボクの言葉が届いたのか、ようやく顔をあげた。
彼女のぱちくりとした大きな瞳からは嬉しさのような強いプラスの感情が伝わってくる。
「うん! でもね、その前に行かなきゃいけない場所があるんだ!」
「行かなきゃいけない場所?」
ボクがそう言うと彼女はこてん、と首を傾げる。
「父さんがね、地上に出る前に来てほしい場所があるって言ってたんだ」
「……?? それって?」
「えっとね、95層なんだけど」
「95層!? ……ってまぁ君は94層に住んでるって言ってましたもんね。ちょっとびっくり慣れしてきたかも」
びっくり慣れとかはよく分からないけど、彼女も納得してくれたらしい。
「よかったらついてくる?」
「……ん? どこに?」
「95層だけど」
「……いいんですか?」
とっても興味ありそうな顔してたから誘ってみたけど、やっぱり不安なのかな?
「怖いならやめとく?」
「……シルバーさんがいるし、大丈夫ですっ!」
彼女は目を瞑り、深い呼吸を繰り返している。
気持ちを整えているのだろうか。
少し心が落ち着いたのか目を開けて静かに頷いた。
「じゃっ! 行こうか」
「はいっ!」
あ、行く前に聞きたいことがあったんだ。
「あのさ、ずっと思ってたんだけどシルバーくんって何? ボク、リュウっていうんだけど」
「え……あぁ、ごめんなさい! 視聴者さんがそう呼んでたからつい……」
「視聴者さん? 」
「あ、えっと……ちょっとリュウさんにはまだ難しいかも? あとで説明しますね? 」
「ん? わ、分かった。あとさ、なんでそんな肩苦しい話し方なの? ボク達もう友達だと思うんだけど」
「友達……そっか、そうだよね。じゃあ行こっか、リュウくんっ!」
友達って言ってから彼女、明らかに嬉しそうな表情をしている。
とっても可愛い顔が見られてよかった。
さて95層に行こう、と意気込んで転移結晶を取り出すと、
「あ、リュウくん!」
さっそく名前を呼ばれたので返事をする。
「私も可愛い女の子さんじゃなくて名前があるんだよ? 玲奈っていうね」
「玲奈?」
「そう。ちゃんと名前で呼んでね?」
人と人は自己紹介が大事だと学んだところで、転移結晶を掲げる。
「玲奈、じゃあ転移するから。手っ!」
そう言ってボクは彼女に手を伸ばした。
複数人が移動する時は、転移する人のどこかを触れておかなきゃいけない。
ボクもこうやって父さんに手を握ってもらってたっけ。
「う、うん……」
俯いている彼女の手をとる。
やっぱり怖いのかな。
少し勇気づけてあげよう。
「玲奈、大丈夫だよ。ボクが守るから」
「は、はいっ!!」
とても返事は良いけど、余計に下を向いてしまった。
顔が見えない中、髪と髪の隙間からかろうじて見える耳と頬は赤く染まっている。
血色がいいってことは大丈夫かな。
では改めて、と転移結晶を再び掲げる。
「転移結晶! 95層へ!」
ボクの掛け声と共に目の前の景色が大きく変わったのだった。
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