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第1話 君は可愛い女の子?
しおりを挟む最古のダンジョン『零』
これはボクの育った場所だ。
そして『リュウ』、ボクの名が決まった場所でもある。
ここはとても良い。
食べ物だっていっぱいあるし。
「グワァァァ――――ッ!!」
「おっ! ちょうど食料がっ!」
目の前には自分よりも何倍も大きいドラゴン。
強固な青い竜鱗で体全体が覆われている。
父は『ワイバーン』と呼んでいた。
ヤツは大きな翼を広げ、こちらへ迫ってくる。
徐々に距離が縮まりもう間も無く直撃する、そんな瞬間、
「硬化っ!」
そう唱えた後、ボクの全身はワイバーンと同じ青い竜鱗で隙間なく埋め尽くされる。
ドガンッ――
ワイバーン決死の突撃はリュウのその手によって止められることになった。
そう、ボクは今、片手でヤツの頭を押さえつけている。
「ガァァ……?」
こいつはこの94層のモンスター内で敵なし。
今まで動きを止められる経験なんてないだろう。
ワイバーンが混乱している一瞬の隙に、
バコンッ――
硬化した拳を脳天に向かって振り下ろす。
「ァァ……」
泣き叫ぶ暇なくワイバーンはいつも通り絶命した。
「ふふっ。今日もご馳走だっ!」
早速ワイバーンをひっくり返し、腹部を破る。
中の身がとても美味しいのだ。
「本当にここのモンスターは学習しないなぁ~。んー美味い――っ!」
いつも倒し方は決まっている。
なんなら他のモンスターもだ。
こうやって食べても食べても別の個体が出てくる。
ここはダンジョンって言うらしいけど、不思議だね。
ようやく食べ終わり、
「よし、この後はデザートだっ!」
ボクはいつも通りポケットから転移結晶を取り出し、
「転移結晶! 48層へ!」
さすが転移結晶。
唱えた瞬間、目的の階層に一瞬で飛べる。
もちろん一度自分が訪れた階層じゃないとダメらしいけど。
この転移結晶には『零』の全階層が保存されてある。
これも父のおかげだからボクが威張れる話じゃないけど。
48層、そこはモンスターがいない特別な階層。
それに草木が生い茂り、綺麗な湖がある、そんな階ここにしかない。
そして唯一『青いマンゴー』が成っている場所でもある。
これがまた甘くて美味しいのだ。
「今日もあるかな~マンゴーちゃんっ! ……あ、またいる」
ボクの目に入ったあれは『人間』というらしい。
かくいうボクもその『人間』とやらみたいだけど。
父は「人間に出会ったら仲良くね」と言っていた。
でも実際見ると、なんか怖い。
何をしているのか分からないから。
だからスッと草陰に隠れるのだ。
◇
「はいっ! 今日は最近解放された最古のダンジョン『零』48階に来ていますっ!」
"始まりましたっ! レナちゃんのダンジョン配信っ!"
"さっそく最近開放された48階を配信してんだな"
"こんな早く自分の転移結晶に登録できるなんてすご"
"そりゃレナちゃんの護衛ハンターってみんな強いじゃん"
"さすがハンター養成学校の社長令嬢"
"今日も可愛いレナちゃんを観に来ました"
"レナちゃん好き"
"俺の方が大好き。結婚してくれ"
"小生の方が大大大好き。子供は3人でおなしゃす"
"マジで痛いファン多すぎて草"
"最新のAI撮影ドローンが導入されてから、いろんな角度のレナちゃんが見れてちあわせぇぇ"
"レナちゃん、変なファンは気にしないで配信頑張ってください!"
"え、いつ脱ぐの?"
"今でしょ"
"↑通報しました"
"さっそくコメ欄荒れてるwww"
"ここの階ってオアシスって呼ばれてるんだっけ?"
"湖の水は美味いし、ここで採れる青いマンゴーってのがクソ美味いらしい"
「あ……あはは、今日も皆さん応援ありがとうございます。あ、あと……すみませんが、結婚とかは私も相手のことを知ってからじゃないとって思うので今はごめんなさいっ!」
"コメントにしっかり返答してるの草"
"↑テメェそこがレナちゃんの可愛いところじゃねーか"
"レナちゃん、ほんとこういうガチの箱入り娘感あって好き"
"シンプルに愛おしい"
"待って、他に人がいるぞ?"
"こんな最新の階層にいるってどんな強者よ"
"待て待て、あの仮面見たことあるぞ"
"……レナちゃん逃げた方がよくない?"
「ちょっと待てよ、あれってダンジョン配信してるレナじゃねーの?」
「え? うわっ! 本物じゃん!」
「しかも配信してるぜ。ま、俺ら仮面被ってるし映ってもいいんじゃね?」
3人の男は緑色の龍の仮面で顔全体を覆っている。
「えっ! なんですか? あなた達!」
"これヤバいんじゃない?"
"誰か助け来ないのかよ"
"さすがに最近ようやく開放された48階層に来れる人なんてごくわずかじゃ……"
"てかあいつら誰だよ"
"バカ、知らねーのかよ!? あの龍の仮面、非正規ハンターギルド『龍王会』メンバ―だって"
"あ、たしかニュースでやってたような。ダンジョン内でハンターから金銭や素材を奪ってるって"
「ハンターのことに詳しい東条家の令嬢様は俺達のこと知らねーんだってよ!」
「なら尚更都合いいな。せっかくだ、配信中に犯してやるってのはどうだ?」
「ははっ! いいじゃねーかそれ!」
"俺達のレナちゃんがっ!"
"誰でもいいから助けてくれよ"
"レナちゃん……"
「だ、だれか……たす、けて……」
◇
あれは『人間』が『人間』を襲ってる?
草陰に隠れたはいいけど、こんな光景は初めて見たな。
弱肉強食……ダンジョンの中だけじゃないんだね。
それに襲われている子、父さんに教えてもらったことがある。
たしか女の子ってやつだ。
あの子を見ると、父がいつも口癖のように言っていた言葉が思い浮かんできた。
「人間というのは、弱く醜い生き物だ。その中でもリュウ、お前が守らなきゃいけない人間が2種類いる。それは……」
なるほど、あれが昔言ってた守る対象というやつか。
分かったよ、父さん。
ボクはそう決めてすぐ地面を思い切り蹴り、一瞬で襲っている内の1人の元へ飛び出す。
「は!? お前なん……ブフッ!」
懐へ拳をぶち込むと、そいつは大きく吹き飛んだ。
人間は弱いって聞いたから手加減したのにこれか。
ならもう少し力を抜いた方がいいのかな?
"今何が起こった!?"
"速すぎて何が何だか……"
"いや、あの銀髪の可愛い男の子が龍王会のメンバーをぶっ飛ばしてた"
"あんなボロボロの服着た中坊みたいなやつがか?"
"なんでもいい。レナちゃんを守ってくれ!!!!!!"
ボクは襲われてた人に近づき、父の言葉である守るべき対象なのか改めて確認する。
「君は可愛い女の子? いや、確認しなくてもボクの本能がこう言っている。君は可愛いとっ!」
「……へ?」
あれ? ボクは変なことを言ったのか?
なんだかこの子、困った顔をしている……。
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