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14話 いざ天明中学校へ

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 話し合いの次の日。
 俺は背中に竹刀袋を背負いながら、街をとぼとぼ歩く。
 夏の照りつける太陽に炙られる感覚を覚えながらも俺は目的地を目指していた。

「あちぃ……。それにしても、全然人がいねぇな」

 まぁ異能者が現れてからというものの、街の公共機関やスーパーやショッピングモールなどの商業施設は最低限しか稼働していないから仕方ないんだが。

 しかしアルファウイルスが蔓延した当初もちょうどこんな感じだったっけ。
 それからすぐ感染性の低さが発覚して、少しずつ街が賑わいを取り戻しつつあったタイミングでまさかの新人類出現。
 おかげでまた街から人が姿を消したのだ。

 そりゃ【炎】の異能を使って人を燃やしたりする世を見せられて、誰が外に出たい?
 なんて言われて食い気味に挙手するやつは……普通の人間にまずいないだろう。

 とはいえ全く人が歩いていないわけではない。
 少なからず街としてはギリギリ稼働しているため、従業員やお客さんらしき人はチラホラ見かける。

 他にもテレビメディアなど、以前と変わらず提供している媒体もあるが、これはシンプルにすごいと思う。
 俺達日本国民に対して、変わらない日常を届けてくれているのだ。
 いつものクセでテレビを点ける俺みたいなメディア中毒には正直非常にありがたかった。

 一方こんな状勢を日本の終わりだと捉える評論家や有名配信者も一部存在する。
 SNSの生配信を利用して語ったり、異能者の犯罪ニュースやその現場映像などを挙げて視聴者に共有したりしているが、個人的にはこれはこれで国民への注意喚起となって良いと思う。

 そんなこんな考えながら歩いていると、もうすぐ目的地。
 手元のスマホに表示されている地図サービスには『天明中学校』までの道のりが記されている。

「えっと、多分ここを真っ直ぐ行けば着くはず、だよな」

 どうやらこの大通りから少し外れた中路の先にあるらしい。
 徒歩5分と画面上に表示されているところ、この通りであればあと少しということが分かる。

 そう、俺はターゲットである【炎】の異能中学生の出身校へ下見に来ているのだ。
 なんでも計画を立てるには事前調査が必要だって言うしな。
 なんて理屈っぽいことを語ったが、本当のところ「異能者いっぱいいるのかなぁ」とちょっと胸が躍っている。
 
 もちろんこの件、アリスや心菜には一切伝えていない。
 絶対ゴチャゴチャうるさいし。

 俺は案内通りに進んでいると、ちょうど学校らしき建物が見えてきた。
 まぁ今は全国の学校という学校、全てが休校中。
 普通に考えると校内には誰もいないはずだ。
 もしいるとすれば関係者職員か、教育の行き届いていなくて遊びにきちゃった生徒、ニュースを見て集まった異能者ってところか。
 もっとも、1番後者であれば今回の作戦に支障が出るだろうなぁ。

 ちょうど天明中学の校門にあたる部分が正面に見えているのだが、そこに男2人が立って何やら談笑している。
 普段であれば、朝の挨拶当番をしている中学教員かなとも思える光景。
 しかし男達のラフな私服と朝11時といった登校とは縁のない時間帯、閉まり切った校門に俺は違和感を覚える。

 この現状を把握してもなお、正面突破するほど俺はアホではない。
 太陽や心菜はいつもアホ、バカと罵ってくるが、俺はこういうときに上手く身を潜め、情報収集しようと冷静且つ沈着な作戦を考えることができる、言わば知将である(真剣)。
 
 スマホの地図を見ると遠回りするルートもあり、この通りに足を運べばちょうど学校の正門を正面からではなくサイドから向かうことができそうだ。

 そう思って俺は迂回し、正門を横から覗ける位置まで移動した。
 そして校舎を取り囲む外壁へ身を潜め、かろうじて男達が目に入るところから遠目に覗き込む。

「くそ、耳が良いとはいえ、この距離じゃなんも聞こえん」

 しばらく耳を澄ましていたが、相手の声が小さいことも相まって全くこっちまで届かない。

 どうしようかと思っているとちょうど俺の首元にヒンヤリと冷たい感覚が走る。
 それも背後からうなじ付近にピタッと何かが触れる感触。
 パッと振り返ると、そこには液状化したコトユミが俺のちょうど真後ろに立っていた。

「わぁっ……ブクブクブク」

 思わず声が出てしまったが、その瞬間コトユミの水を多く含んだ手で口を塞がれ、まるで水中に放り込まれたかのような感覚に陥った。
 そのおかげで俺の悲鳴は外界から遮断され、正門の男達へ届くことは見事に避けられたのだ。

 今回彼女には水たまり役としてついてきてもらっていた。
 この姿だと潜入や奇襲にもうってつけだからな。 
 
「よかった、気づかれてないみたいです」

 壁越しにチラリと標的を覗きながら、はぁ、と安堵の息を吐く。
 
 どうやら彼女が俺の口を覆ってくれたおかげでバレずに済んだらしい。
 コトユミを連れてきてよかったなんて一瞬思ったが、驚嘆した原因もまた彼女だったことを思い出してなんともプラマイゼロな気分だ。

「――――――――っ!」

 というか苦しい、マジで。
 ちょっとコトユミさーん?
 俺の口を急いで塞ごうとして焦ったのか、背後からの
 バックハグみたいになってますよ。

 それに彼女のスライムボディが、俺の背中から繊細な感覚として伝わってくる。
 
 しかも異能者独特の怪力で全然抜け出せる気しないし、中途半端に液状化してるから物理的に引き離すのもかなり至難の業になる。
 
 もしかしてこの門下生、すでに俺より強い……っ!?
 
「そうそう、アタシちょうどあの人達の会話録音してきたんです。ちょっとでも師範の役に立てたらと思って!」

「――――――――――っ!?」 

 おぉ、なんて師範想いな……。
 改めて俺はいい門下生を雇ったもんだ。
 しかしたった今その愛弟子の手によって、俺はあの世行きの片道切符を渡されそうになっている。

 全くなんて運命なんだ、と思っていると、なんとかコトユミの液状化も落ち着いてきたので、俺は咄嗟に体から無理やり引き剥がしてやった。  

「オッラァァ!! てめ、師範殺す気かぁ……っ!! 」

 俺はようやく吸えたシャバの空気を、次は怒声とともに強く吐き出す。 

「師範、シーッ!」

 あまりの大声にビクッと体を震わせたコトユミは、慌てた様子で人差し指を自分の口に当てた。

「お、おい!  テメェらなにもんだっ!?」
「お前らも異能者か!?」

 どうやら俺の声がデカすぎて、正門の2人に見つかってしまったようだ。

「コトユミ、ごめんっ!」

 謝る時は愛嬌が大事だと聞いたことがある。
 俺は満面の笑みで、彼女に謝罪の言葉を投げたのだった。
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