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13話 【炎】の異能者確保作戦
しおりを挟む一通り話は済んだ。
聞くところ今回のターゲットってのは、あのテレビに映っていた中学生、【炎】の異能者らしい。
問題は2点。
まず、彼は13歳の未成年であること。
異能による犯罪が増えている中、急遽立ち上げられた異能対策部ではあるが、国の対応としてそれにまつわる法律が追いついていないのだ。
現在、法律では14歳未満の未成年は逮捕されないことになっている。
【炎】という強力な異能を捕まえるにはそれなりにリスクがある中、捕えたとしても逮捕されないとなっちゃ命を懸けた意味がない。
一応児童相談所へ保護することもできるらしいけど、ソイツが大人しくしている保証なんてないしな。
そして2点目、テレビでの声掛けによって他の異能者が集まっている可能性がある。
これに関してはなんの情報もないため、未知の領域だ。
警察として、戦力が不明なところに人員を費やすことなんてできないという上の判断らしい。
まぁごもっとも。
1点目に関しては、今警察上層部が国へ掛け合っているようだ。
このままじゃ異能者の犯罪が止まりませんよってな具合で。
今回俺が声をかけられたのは、2点目の問題のためだ。
つまり人員の確保、外部から呼び寄せようってことらしい。
「……というのが、今の現状です。心菜さん、どうでしょう?」
アリスは一頻り話が終わったところで、心菜へ振る。
「どうでしょう……って言われても。でもそれって燿ちゃんがしなきゃいけないことですか? たしかにこの人は対人戦となっちゃめっぽう強いし、今のところ異能者相手でも引けを取らないくらい戦えているのは知ってる。だけど彼は普通の人間なんですよ……あなた達と違って!」
心菜は不安そうな目を俺にチラチラ向けつつ、アリスへ訴えかける。
弱く震えた声で終始話す彼女だが、最後の言葉だけは力強く言い放つ。
そしてその台詞はこの場の空気を少しピリつかせた。
アリス含めた異能対策部のメンツは一瞬表情を歪ませるも元の真剣な顔に。
コトユミに関しては申し訳なさそうに視線を落としている。
まぁ彼女に至っては特に、自分が人間じゃなくなってしまったと気にしていたからなぁ。
「それは、その……」
アリスもしっかり返答しようとするが、言葉を詰まらせている。
いくら立場が高いといえど、彼女はまだ22歳。
全てを対応するにはまだ若すぎると思う。
特に今の状況で、異能者側が解答するには酷すぎるしな。
こんな空気の中、会話を進められるのは……異能者じゃなくて且つ心菜と幼馴染の俺くらいか。
「まぁ心菜、一旦落ち着け。みんなびっくりしちゃってるからさ」
「え……あっ! す、すみません、空気悪くしちゃって」
俺の声かけにハッと我に返ったのか、心菜はへこへこと頭を下げて謝罪する。
「あ、いえいえ、気にしないでください」
笑顔で手を振り、心菜へ対応するアリス。
大人になったなとつくづく思う。
昔は周りの空気なんて知らんこっちゃ、みたいなおてんばJKだったのに。
まるで立派に巣立った娘を見ているかのようだ。
「でだ、心菜、俺は改めてこの話を受けようと思う!」
緊迫した空気が少し解消されたところで、俺は本題へ戻した。
「でも燿ちゃんが危ない目に……」
「まぁそう言うな。実際、俺が危ない目に遭うだけならいいんだよ」
「え、それってどういうこと?」
俺の言葉にまるでピンときていない心菜はこてん、と首を傾げる。
「そりゃあそんなやつを放置してたら、どれだけ日本に被害出るか分からんでしょ? それに異能者同士手を組まれちゃあ、それこそ手の打ちようがない。そうなった時はもう俺だけじゃなく心菜や太陽、いやそれどころか日本全土が危ういかもしれんしな。だから、今のうちに危険な芽を摘む方がいいってのは良策だとは思わんかい?」
「そ、それはそうかもだけど……」
俺の説得に少しは揺らぐ様子を見せるが、未だ表情は晴れていない。
彼女は幼馴染として、友達として心配してくれているのだろう。
その想いありがたいことこの上ないのだが、心菜にそんな思いをさせたままでは俺も戦いづらいというもの。
ここは完全に納得してから作戦に臨みたい。
「心菜、大丈夫だ! 俺にはコトユミもいるし、アリスもいる。ほら、それに他の異能対策部の人だっているはずだ。おい君達、分かってると思うが俺ァ一応生身の人間。1度でもダメージを受けるとおそらく致命傷だ。もちろん守ってくれんだろぉ~?」
ちょっと挑発じみた言い方になったが、これくらいの方が俺らしいといえよう。
こんな重要な話の時も精神をブラさないってのは武道家にとって大切なことだしな。
「はい。それはもちろんです。協力をお願いしている側ですから、できることはなんでもします!」
「ア、アタシも師範が危険な目に遭ってほしくないので、その、頑張ります!」
俺の発言にやや顔を引き攣らせているスーツ男達とは裏腹に、アリスは思いの外、快い返答をしてくれた。
それに続いてのコトユミ、彼女に至っては完全に巻き込まれ事故みたいなものだが、それでも二つ返事で首を縦に何度も振っている。
本当にこの子は他人のことを心から思いやれる優しい人間なんだと常々思う。
門下生としてコトユミが入門してくれて本当によかったとも思うが、本人に直接は言わない、恥ずかしいから。
「よっしゃ! 心菜、これで『箕原道場@異能のお悩みなんでも解決します』の次のお悩みは決まりだろ?」
俺が出来うる限り最大限のドヤ顔を向けると、
「はぁ……仕方ない。じゃあ『箕原くん、【炎】の中学生異能者を捕まえます』って感じかな」
心菜は嘆息を漏らしながらも、次の投稿内容を考え始めている。
「うぉぉおいっ! ネット民の呼び方やめろっ!」
「みんな言ってるもんね、箕原くんって……ぷふっ! あ、ごめ、ははは……っ!」
普段呼ばれない不似合いな呼称に我慢しつつも吹き出てしまう心菜。
「こほん! では先輩、心菜さん、作戦決行はもう少し先です。日程が決まり次第ワタクシ達から連絡しますので、それまではいつも通りお過ごし下さい」
わざとらしい咳払いをしたアリスは、心なしか少しムスッとした顔をしている。
しかしあの表情の彼女には何度か見覚えがあるが、確かあれは仲間外れになった時のやつだ。
会話に入れなかったことを悔しく思っているのだろうか。
もしそうなら昔のアリスの面影そのままなので、ちょっと安心する。
やはり久々に会った生徒が大人になりすぎていたら寂しいもんだからな。
「おう、分かったよ。あとその中学ってなんてところなんだ?」
「えっと天明中学校ってところです」
「あーこっからじゃ電車で1時間くらいだな」
「先輩詳しいですね」
「昔、ウチの道場の門下生にもいたからな。そいつがめっぽう強かったから覚えてる。まぁすぐやめちまったけど」
「そうだったんですね。あ、あとワタクシたちの連絡があるまでは勝手に行かないでくださいね? 危ないので」
「え……うんイカナイヨ」
俺は思わずアリスから視線を外してしまった。
「えっと先輩……もしかして行こうとしてました?」
彼女は鋭い眼光を放ってくる。
「ううん、イカナイカナイ」
「な、ならいいですけど」
微妙に納得してなさそうなアリスが、俺からゆっくり視線を外したところで今日の話し合いは終わり、解散という流れになった。
ったくアリスは疑り深いな。
さすがの俺も1人で戦いには行かない。
ちょっと見学行くだけだって。
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