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5話 異能関係のお悩み解決
しおりを挟む「仕方ない。俺もこれから道場の師範として、弟子を養う身になる男。お前には特別にタダで披露してやる!」
こんなに体を動かすなんて久しぶりだな。
心菜には悪いが、少し楽しくなってきちゃったぜ。
「は? 何言って……!?」
男が動揺しているうちにその移動術を披露した。
さっきまで男の正面にいたであろう俺は今、コイツの背後に回り込んでいる。
きっとこの男からしたら消えた、もしくは自分と同じように高速移動したと思っただろう。
「これが本当の移動だよ、大学デビューくんっ!」
「ど、どうやって……うっ!」
俺は背後から剣峰で男の背中を打った。
そして男はバタッとそのまま地に伏せる形となる。
「いいか? これは箕原流剣術の初歩テクニック『瞬き』といってだな、相手が瞬きをしている間に技を……って気絶してるしっ!!」
せっかく俺が師範らしく1から技を解説してやろうとわざと頭部への攻撃は避けてやったのに。この男ときたら完全に気を失ってやがる。
消化不良もいいところだ。
「耀ちゃん……っ!!」
心菜は勢いよく俺に駆け寄り、後ろから飛びついてきた。
「おぉっ!?」
ビックリしすぎて変な声が出ちゃったじゃねーか。
足音でなんとなく駆け寄ってきているのは分かったが、まさか全体重を乗っけてくるとは思わなかった。
「ちょっと重いから降りてくれ」
「むぅ……」
俺がそう言うと手を離し、素直に地へ足をつけた。
なんだか頬を膨らませて、いじけたような顔をしている。
昔からスキンシップの激しいやつだ。
もう28にもなって距離が近いのはやめてほしい。
い、一応……その、男女なんだし、胸が当たったりするのは俺も困る。
「耀ちゃん、助けてくれてありがとう……っ! なんかいつも助けられっぱなしだね~」
「気にすんな。いつも相手が悪いんだから」
「そうだとしても、もう少し気をつけないとな……」
「そうだな。お前は人1倍可愛いんだから、その辺自覚持った方がいいわ」
「え……っ!? かわ……えぇっ!? 私が?」
心菜は急に狼狽え始めた。
今更何を慌てているのかさっぱり。
可愛いなんて普段言われてるだろうに。
「なんでそんな自信なさげなんだよ。いつも周りに言われ慣れてるだろ」
「いや……でも耀ちゃんには言われたことなかったから」
「そうだっけ?」
「うん、だからついびっくりして……」
なぜ俺に言われてそんな慌てるのか甚だ疑問である。
別に昔から男子にモテてるのは見てたし、俺自身そう思わないこともない。
だからこそコイツの距離の近さには時折、ドキッとすることもあるのだ。
だけど心菜は俺の唯一の女友達。
その関係を壊してまで、先に進もうとは思わない。
そもそも心菜自身もそんなつもりないだろうし。
「おーい! 燿、心菜っち! 無事かぁぁああ……っ!?」
そんな時、太陽が情けない声で嘆きながら俺達の元へ駆け寄ってきた。
抱きつかれるほどの距離まで詰めてきそうだったので、俺は納刀した太刀の切先を突き出す。
「グボハァ――ッ!!!」
見事太陽の腹部へめり込んだのはいいが、あまりの痛さにその部位を押さえながら片膝をつく。
「わりぃ。こりゃあやりすぎた」
「そうだよ、燿ちゃんっ! 太陽くんめっちゃ痛そうだし……」
心菜は表情を歪ませ、哀れむような眼差しを彼に向ける。
「ちょっとは手加減してくれよ……って待て、人が倒れてるぞっ!!」
さっきまで唸りをあげていた太陽はある方を指差してそう言った。
そこには【加速】の異能者の姿。
倒したままだったことを思い出した。
「あー忘れてた。心菜、なんか縛るもんねーか?」
「え、ないけど……ってこの人を拘束するつもり!?」
「そりゃ動かれると困るし、くくっとくのが1番じゃね?」
そんな俺と心菜の会話に太陽はすかさずツッコんでくる。
「いや、1番じゃねーよ!? 燿、どうした!? この短い時間の間に秩序とか倫理観どっかに忘れてきたか!?」
「え、だってコイツ危ないぜ?」
「いんや、お前が1番危ないって」
太陽は儚い顔して首を横に振る。
「太陽よ、よく聞け。コイツはテレビで言ってた異能者……あっ」
目が合った。
その異能者と。
「あ……?」
おうむ返しの如く同じ言葉が返ってくる。
どうやら目が覚めたようだ。
また心菜が狙われても困るな。
「悪いが、もっかい眠っててくれや」
「す、すみませんでしたっっっっ!!!!」
俺が刀を抜こうとした瞬間、異能の力なのか猛ダッシュで逃げてしまった。
ほっといても良いのか分からないが、今更あれには追いつけん。
「逃げ足の速い異能だ」
「うわぁ、めっちゃ悪役顔……」
太陽が冷たい視線を向けてくる。
「なんでだよ、あいつ心菜を襲ったんだぜ? 心菜からもなんか言ってやってくれ……な、なぜお前も同じ目をっ!?」
「あ、いやごめん。助けてくれたのは嬉しかったけど、燿ちゃんちょっと楽しんでたような気がして」
「くっそ……っ! 俺に味方はいねぇのか……っ!」
俺は言葉の通り膝から崩れ落ちた。
まぁたしかに後半はちょっと楽しんでたけどね?
あいつの悪事を盾にして、刀振ってたけどね?
「あ、でもね、おかげで思いついたのっ!」
良いアイデアがと言わんばかりに心菜はポン、と手を打った。
「え、なんだ?」
あまり良い予感はしない。
「えっとね、実はこれをSNSにアップしたの!」
そう言ってスマホ画面を見せてきたので、俺と太陽はそれを覗きこむ。
そこにはさっき道場で話し合っていた時に作成した『箕原道場』のSNSアカウント。
そして1件の動画が公開されていた。
「おい、それって……」
「そう! 燿ちゃんとさっきの人の戦闘シーンだよ!」
心菜のやつ、戦いの一部始終を撮影してやがったのか。
それも割と序盤から。
えらく余裕があったようで。
「え、待って、異能ってマジ!? マジだったの!?」
太陽は目をひん剥いてその戦闘シーンを見ている。
「太陽くんもびっくりだよね? さっそくネットの反響もスゴイみたい!」
"え、これってさっきテレビで言ってた異能者? 動きヤバくない?"
"いや、合成だろ。道場のアカウントだし、どうせ宣伝"
"剣士の方もヤバいな。二人とも異能使ってるのかな?"
"剣士てw"
"普通に銃刀法違反で草"
"合成だとしてもかっけぇな"
"逆にこれ合成で作ったとしたら色んな企業案件来るレベルだろ"
"合成じゃないと信じたい"
"俺も。そっちのが夢ある"
"てか投稿のタイトル、異能関係のお悩みなんでも解決しますだってさ笑"
"これまともな悩みこないんじゃ……w"
良いのか悪いのか、投稿のリプがめちゃくちゃ送られてきている。
「心菜、動画はまぁいいが、これの何がいい方法なんだ?」
SNSに載せたのは分かったけど、結局のところ彼女の真意がよく分からん。
「このアカウントでさ、さっきの投稿にも書いたけど『異能関係のお悩み解決』をしようと思いますっ! これで箕原道場を有名にして、見事道場復興っ! どうよ?」
心菜は誇らしげに顔を上げる。
「いや、どうよって……なぁ、太陽」
「え? まぁ誰かの為になるんなら、やってみてもいいんじゃない? なんか面白そうだしさ」
太陽は間髪入れずにしれっと答える。
「テメェ後半の面白そうだけが理由だろ? 自分だけは安全圏内で拝見してますんで、ってか?」
「え、バレた? さすが幼馴染っ! 俺の心の中の声全部言ってくれてるじゃん。ってまぁそもそもお前の道場なんだし、自分が体張るのは当たり前だろーよ!」
「く……っ! それもそうか……」
太陽に口喧嘩で勝てる気がしない。
まぁこれに関しては勝ちようもない気がするが。
「二人ともっ!! 言い合いしてる間にさっそく一件依頼がきたよっ!!」
この一件から俺の人生は大きく変わっていくことになる。
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