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2話 異能者との初戦闘

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 とりあえず道場から飛び出してきたはいいけど、心菜が行きそうなところってどこだ?

 俺はまず道場目の前の細い路地を抜けた先にある商店街へと出向いていた。

 アイツと出会ってもう10年以上になるが、俺はこういう時、彼女が向かうであろう場所を知らない。
 それだけ俺は心菜という1人の女性を見ていなかったのだ。
 今、世の中に異能者という別の人類が生まれたことで、極めて外が危険な状態になっている。

 俺はこうなって初めて、武道としか向き合ってこなかったことを後悔した。

「くっそ、どこだよぉ」

 もうすでに心はお手上げである。
 しかし心菜の無事が懸かっているため、そうも言ってられないのが現実。

 とはいえ、辺りはチラホラ人が出歩いている。
 これもアルファウイルスがヒトからヒトへの感染をしないと断言され始めた影響だろう。
 それに異能者のニュースが流れたのは、ついさっきのこと。
 おそらく今外出している人達は、異能者の存在を認知していないのだ。

 さっきあんなニュースしてたのに、街の風景は大して変わっていない。
 もしかしてあの時見たニュース、実はドッキリで本当は異能者なんていない、だから危険なことなど何もないみたいなオチか?
 いや、でもそんなドッキリを不謹慎に番組を中断してまで放送する『緊急速報』なんかでしないはず。
 とするとやはり、異能者は存在するということに……。

「リーダー、異能なんて本当に使えるんすか?」

「あぁ、間違いねぇ! 俺は異能者になったんだよ」

 そんな時、商店街の片隅から声がしてきた。
 学生服を着た2人の男子高校生が何やら怪しい会話をしている。

「証拠、証拠はあるんすかぁ~?」

「待ってろ、今見せてやる。そのためにお前をここに呼んだんだ」

 そんな会話、普段なら厨二病を拗らせて可愛いと横目で見ちゃう程度。
 実際、街を歩く人々も2人の男子学生をチラッと一瞥して、通り過ぎていくだけ。
 特段怪しいなんて思う人もいるわけがなく。

 学生の1人、リーダーとやらは通行人へ向かって手をかざした。
 彼の手の中心に何か丸い球のようなものが紡がれていく。

 完成したそれはまるで角という角を取り去った滑らかで綺麗な球。
 しかしその中は、外見とは逆に流れ動く空気が不規則な方向へ乱流している。

「いけ……っ!」

 大きさにして500円玉サイズの球体はリーダーの発した合図で、勢いよく放たれた。

 通行人へ迫るその球の速度は、正面で集中すれば決して避けられないようなものではなかった。
 しかしその得体のしれなさと及ぼされる影響の不確定さが判断を遅らせたのだろう。
 よって、見事通行人の男性の肩を貫き、腕がドサッと地へ転がった。

「うわぁ――っ!」
「きゃあぁぁぁっ!」

 その光景に慌てふためく人々。
 この場から一目散に逃げていくもの、足をすくんで佇むもの、腰を抜かし、その場でへたり込むものと様々だ。

「はーい、動かないよーっ!! 今いるところでじっとしてて!」

「ちょっとリーダー、何してんすか? ひ、人なんて殺して、う、うえぇぇ……」

 傍にいた男子学生はその光景を見て、思わず上がってきたものを吐き出してしまう。
 そりゃそうだ、普通の高校生からしたら刺激的な絵面すぎる。
 俺だってあんなの初めて見た……それ故にちょっとビビってすらいるし。

「まぁ初めは吐くも無理ないか。少ししたら慣れてくるから大丈夫だ」

 リーダーは仲間の男子学生の背中をさすって気持ちを落ち着かせようとしている。

「ひ、ひぃ……」

 そんな時、隙を見てゆっくり後ずさっていく女性の姿が俺の目に入った。

「ちょっと! 動くなっつったでしょ!」

 時を同じくしてリーダーの視界にも入ったようだ。
 彼はさっきよりも小さな空気の球を創り出し、すかさず放った。

「っ……!?」

 女性は声にならない声を出し、その場で目を瞑った。
 確かな速度のその球は彼女を貫かんと近づき続ける。
 もうすでに眼前までさし迫り、直撃する瞬間、俺は彼女の手を引いて球の軌道からズラしてみせた。
 そしてその空気の球は彼女を通り過ぎて、背後にあった店の看板を貫いていったのだ。

「なんだ、お前? 異能者か?」

 攻撃を邪魔したからか、学生のリーダーは不機嫌そうに呼びかけてくる。

「普通の人間だ。それにしてもなんだあの球、あんなの普通に危ないでしょーよ」

「ふん、普通の人間に興味ないな。お前ら人間はこれから俺の放つ【空気弾】の的になり続けるんだ。今に見てろ、異能者がこの世界の頂点、お前ら普通の人間が奴隷に成り下がる世の中になっていくからよ!」

 そう言って彼は、ははは、と高笑いしている。

 こりゃほっとくわけにはいかないな。
 目の前のコイツの姿を見て、俺はそう思った。

「はっきり言って今、俺はめちゃくちゃ忙しい。だけど、地元の商店街がこんなことになってて見過ごせるほど人間腐ってねーんだわ」

 俺は鞘から刀を引き抜く。

「人間ごときが武器持って対抗ってか? 俺が今日この商店街に来るまでに何人殺したか知ってるか?」

 そう問うてきたリーダーは、そのまま間髪入れずに答えを口から出す。

「正解は、10人から数えてねぇ、だ。途中で数えるのもバカバカしくなってきてよぉ」

「そうか、なら遠慮はいらねぇな」

 くくく、と堪え笑うリーダーに俺はゆっくり距離を詰めていく。

「向かってくるやつを殺すのは初めてだな。ほら、さっさと死ねっ!」

 球の迫ってくる速度、それはバッセンの感覚でいうと120キロくらいか。
 まぁ避けられるな、そう思い、俺は体を半身に反らして躱わす。

「へっ! 運のいいやつめっ!」

 2発目。
 運とか言われたのが頭にきたので、刀でかっ斬る。
 その空気弾とやらは球体の形を失った途端、その場で自然に消滅した。

「は……? うそ、だろ?」

 3発、4発目も同じく刀で丁寧に斬っていくと、ようやく敵も理解したのか少しずつ後ずさり、俺との距離を離そうとし始めた。

 タッタッ――

 俺は少し駆けてさらにリーダーへ詰め寄った。

「く、くるなぁっ!」

 何発放っても俺には効かない。
 攻撃に対応しながらも速度を緩めない俺に恐怖を覚えたのか、彼はその場ですっ転んだ。

「そこで眠っとけや」

 ドスッ――

 俺は刀の峰部分を使ってリーダーの頭部をどつくと、激しい振動に耐えかねてか、その場に倒れ込んだ。

「ひ……ご、ごめんなさい……」

 その横で未だにへたり込んでいる学生は、俺を見るとすぐ小さな声で謝罪をしてきた。

「ま、その……お前もある意味で被害者だよな。とりあえずこの辺は危ないから君も帰りな」

「は、はい。ありがとう、ございます」

 その子はゆっくり立ち上がってこの場を後にした。

「き、君っ! すごいなっ! 異能者の攻撃を避けてぶっ倒したなんて」
「本当にありがとう! 命の恩人です!」
「お、お名前は……? ぜ、ぜひお礼をっ!」

 戦いが落ち着いたと思えば、この場にいた人々に突然寄りつかれた。
 感謝の嵐である。

「あ、いえ、そんな大したことは……それより怪我してる人がいたけど、大丈夫なのか?」

 と、俺はその方へ目をやると、すでに何人かが応急処置的なことを始めている。
 救急車の手配まで準備完了っぽいし、とりあえずは安心か?

「この商店街を守ってくれたのは、君だったのか、燿くん!」

 声をかけてきた中年のおじさん。
 実のところ昔からの知り合いで、彼はこの商店街で八百屋を営んでいる。
 といっても箕原道場とこの商店街が近場にあるので、顔馴染み程度ではあるが。

「八百屋のおっさん!」

「燿くん、本当に助かった。お礼はまたするとして、君も家に帰った方がいいんじゃないか?」

 おっさんの一声で俺は本来の目的を思い出した。
 別に忘れていたわけじゃないけど。

「あ、違う! 俺、心菜を探してんだ! 急がねぇと!」

「心菜ちゃんなら、この道まっすぐ走っていったぞ。また喧嘩か?」

 この道をまっすぐ……っ!?
 もしかしたらあそこにいるかもしれない。

「おっさん! ありがとっ!」

 八百屋のおっさんのおかげで思い出した。
 心菜が弱った時によく行く場所を。

 そうと決まればさっさと向かうか。
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