32 / 47
32話 鑑定できないとしたら
しおりを挟む二手に別れて少し経った。
俺達が進んでいる道は広いトンネルの一本道という感じだ。
薄暗いが、周りはある程度見えるくらい。
まぁモンスターが出ても対応できるだろう。
それにしてもまぁ……気まずいったりゃありゃしないな。
本部組は2人の空気が出ていてなんとも会話に入りづらいし、浦岡は言わずもがな一言も口を開かない。
紗夜さん、大丈夫だろうか。
池上に何もされてないよな。
もちろん彼が『ギルティ』ってのもあるが、アイツも1人の男だ。
あんな可愛い女性と2人だったら、いつオオカミさんになってもおかしくはない。
うーん、ソワソワする。
彼女がサークルの飲み会に行っている間ってこんな気持ちなのかもしれない。
いや、きっと紗夜さんなら大丈夫だ。
別れ際にあんなメッセージだって送ってきたし。
そう、彼女は
『何かあればすぐ電話できるように 』
そんな文章を送ってきていた。
俺はすかさず、
『紗夜さんもね 』
と一瞬で文字を打ちこんで送信した。
だから俺はポケットに入れたスマホを着信画面にしてある。
沙耶さんもきっと何かしら対応してくれてるはず。
俺はこの遺跡探索に集中しよう。
「にしてもマジでモンスターいないな 」
そうボソッとつぶやくと、
「ですねー! 」
「あまり強いのが出てこられても困るけど 」
「まぁいないに越したことはないですよね 」
お? 意外と会話になるぞ。
なんか気まずかったからちょっと安心した。
「実は僕とヒナ、このダンジョンをクリアしたら冒険者辞めて結婚しようと思うんです。2人ともここまで頑張ってきましたが、このとおり戦闘には不向きで……でも結婚するには色々資金もいるし、最後に大型ダンジョンをクリアして大金を手に入れようって 」
「ちょっとヨウスケ、改めて言われると恥ずかしいっ! 」
「それはおめでとうございます! なら絶対に生きて戻らないと行けませんね! 」
……ってフラグ立てるのやめて。
いや、これをフラグと思う自分がいけないのか。
アニメや漫画じゃないんだし。
というかそもそも大金手に入るの?
そういえば冒険者の給料的な部分、聞かされてない。
ここ2週間忙しすぎてそれどころじゃなかったし。
このダンジョン帰ってから紗夜さんに聞こう。
……いや、あれもフラグならこれもフラグか。
「……敵! 」
この声は、浦岡だ!
ドスッドスッドスッ――
戦闘の彼に目を向けると、遺跡の奥から無数の足跡が聞こえてくる。
しかもかなり大きな音だ。
「ゴ、ゴーレム!? 」
ヨウスケが初めに声に出した。
彼のその例えは概ね正しい。
もちろんだがソイツには頭や胴体があり、四肢はいくつもの岩を連ねて形作っているようだ。
そして大きさ自体は俺達大人と大差ないが、岩によって作られたその手はかなりの長さで、地面に引きずっていることも気にせず向かってきている。
「どんだけいるのよ!! 」
ヨウスケに続き、ヒナが叫びを上げた。
その言葉のとおり、この薄暗い中で正確な数を判明するのは難しい。
けどおそらく10体近くはいるだろう。
ここは、鑑定眼を使う!
「……は!? 視えないんだけど!? 」
ついビックリして声を上げてしまったが、こんなことは初めてだ。
今までモンスターや冒険者のステータスは視えていた。
もちろんここで出会ったモンスターも例外ではない。
あのゴーレムはこの眼の対象外ってことか。
もしかして人工的に造られたものだったり?
そして十数体にもなるゴーレムは少しずつ速度を上げながら迫ってきた。
「ヤバい! でも浦岡さんもいるし、なんとか…… 」
「土上級魔法【 土弾 】」
ドゴンッ――
浦岡は腕全体を大量の土で覆って頑丈な手を創り出した。
そしてその手でカマしたラリアットは鈍い音を遺跡内に響き渡らせる。
その技を喰らったゴーレムは粉々に崩れ去ったが、いつもの様にポリゴン状にはならなかった。
やはり人工物なのだろうか。
「ヨウスケくんっ! こっちにもきたっ! 」
浦岡の技は間違いなく威力絶大。
しかし大振り故に抜け穴も多く、すり抜けた残党がこちらへ迫ってくる。
ヨウスケは腰に刺していた長刀を抜き、
「ヒナ! 任せろ!! 剣技【 妖刀炎舞⠀】」
そう唱えた途端、その剣身全てに青い炎が宿った。
ザシュッ――
ザシュッ――
ゴーレム一体一体を一瞬で真っ二つにしていく。
一体目は縦に、二体目は斜めにと、まるで剣と踊っているかのような華麗さで次々と倒していった。
おお……。
さすがD級冒険者。
そして平日の公園で、堂々と魔法剣士だと自己紹介をするほどのことはある。
彼もしたくてあんな挨拶した訳ではないだろうが。
「ヨウスケくんカッコイイっ! 」
そう言ってヒナは彼の胸に飛び込み、熱い抱擁を交わしている。
「君を守れてよかったよ 」
それから彼もまた彼女を強く抱き締め返している。
無事で良かったけど俺は一体何を見せられているんだ。
そして俺の足元にはゴーレムの残骸。
近くで見てもこの正体はよく分からない。
ただいつもの様に消えないということは、ここのシステムと何かしら違うのだろう。
カタカタッ――
「え? なんかこの残骸まだ動いてるんだけど 」
俺の一言にヨウスケとヒナもゴーレムに目を向ける。
「うわっ! 本当だっ! 」
「ヨウスケくんっ! 」
そしてそのゴーレムだった欠片達は再び身を寄せ合い、元の形に戻ろうとしている。
これもしかして何度も復活する系のやつ?
1番めんどくさいタイプの敵じゃないか。
こういう時って大抵術者が居たりするんだよな。
アニメや漫画の知識だけど。
「とりあえず復活する前にっ! 【 正拳突き⠀】!」
シンプルな殴り技。
普通に殴るよりは威力が高いらしい。
そんな一撃を俺は、目の前で一生懸命元の形に戻ろうとしているゴーレムに叩き落してやる。
俺の拳が目標にぶつかろうとしたその瞬間、
(専用パッシブスキル【魔力吸収】を発動します)
いつもの音声が鳴り響いた。
……なんで!?
26
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる