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7話 初出勤の日はいつだって緊張する

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 ようやく家に帰ってきた。
 ひと通りすることも終わったし、そろそろ寝ようかな。

 俺は電気を消して布団の中に入った。

 しかし今日1日色々あった、いやありすぎたと思う。

 たしか俺ハローワークで仕事探しに行っただけだよね?
 それなのに急に冒険者の適性試験を受けることになって勝手に武闘家になって勝手にハズレ職業だとか言われた。
 とんだ災難だ……いやこれを災難と決めつけるのはまだ早い。
 冒険者という職業に夢を感じるという気持ちもあるのだ。

 冒険者といえば何を想像するだろう?
 ダンジョン攻略? 異世界? ギルド?
 少し夢を見過ぎかもしれないが、実際に俺は口で説明できないような強さであのおじさんを倒した。
 わけの分からない擬似ダンションとかいう空間に吸い込まれたし、目の前に突如ウインドウみたいなのも現れた。

 これだけ非現実的なことが起これば、嫌でも夢を見てしまう。同時に不安もあるが。

 まだ瑠璃に聞きたいことだっていっぱいある。
 でも明日冒険者のオリエンテーションがあるって言ってたな。
 早く寝ないと、って思えば思うほど眠れない事件が現在発生している。

 よし、こんな時は羊を数えるか。
 羊が1匹……羊が2匹……。
 いやこれじゃつまらん。
 瑠璃にしよう。
 瑠璃が1人……瑠璃が2人……ぐへへ……あ、いけねぇ、余計寝れないわ。


 ◇


 なんやかんやアホなこと考えていると気づけば意識がなくなり、朝になっていた。
 まぁ毎晩こんなもんである。

 そうして俺は朝の準備をして、レベルアップコーポレーション第二支部へ向かった。
 もちろん瑠璃もいるだろうし、他の職員さんにも可愛い人がいるかもしれないので多少オシャレをしていく。

 実は自宅から会社までは意外と近く、自転車で行けるみたいだ。
 その距離、スマホのナビによるとだいたい3キロといったところか。

 ってな感じであっという間に職場に着き、俺は自転車をこのビルの地下駐車場にあったわずかな自転車用スペースに止めて、職場に向かう。
 てかこのビル地下なんてあったんだな。

 そして今俺は職場の目の前まで足を運んだ。

 そこには昨日見た光景と同じドアノブの少し上に『押す』という文字が書いてあり、ドアの1番上から下まで大きく使って『レベルアップコーポレーション』と縦書きで書いてある。本当にわかりやすい。

 といっても俺は今日、初出勤。
 新入社員と同じ気持ちで臨まなければならない。

 深呼吸。深呼吸だ。

 スーハースーハー

 よし、息も整ったことだし、俺は就活生の頃に学んだ『ゆっくりノック』を3回行った。

 コンコンコンッ――

 これで中から「どうぞ」なんて声が聞こえるはず……。

 いや、聞こえてなかったのかな? 
 もう一度ノックをするか考えながら、俺はなんとなくドアノブを回してみた。

「あれ、空いてる 」

 どうする、入るか?

 そうだな、本部からの連絡で俺が来ることも知っているはずだ。
 ちゃんと挨拶して入れば問題ない。

「失礼します!! 」

 元気よく挨拶してから入室した。
 挨拶はやはり社会人にとって大切だ。
 人間は初めて会った時に第一印象が決まると言われているし、元気がある、爽やかだと思われることについてはメリットしかないはず。

 未だに返事が返ってこないが、ドアを開けるなり、目の前はすりガラス状でドア1枚分ほどのパーテーション2つが横並びになっている。
 おかげで部屋の全体像が分からない。

 しかしそれを越えると事務所のはずだ。

 どれだけ多くの人がいるかも分からないし、どんな会社かも分からないので恐る恐るパーテーションを越えつつ再度しっかり挨拶もする。

「失礼しま……す??  」

 いた。1人だけいたよ。

 事務所には向かい合わせの2つのデスクで1セットとすると、それが左右2セットずつあった。

 そして真ん中は通路となっており、その先には代表用デスクある。
 そこに座ってらっしゃる人が1人。
 おそらくここの代表だろうか。

 その代表はひと言でいうと、イケおじである。
 多分30代後半から40代くらい? 
 めちゃくちゃ体育会系っぽい雰囲気でガタイもすごくいい、喧嘩したら1発で伸されそうだ。
 てか瑠璃いないじゃん。仕事かな?
 めっちゃガッカリなんだけど。

「ああっ!! くそ、また負けたぁぁっ!! 」

 そしてその代表らしき人は何やらテレビに向かって怒声を放っている。

 あれ……あの人ゲームしてるんだけど、手元でピコピコしてるんだけどもぉ。
 勤務中だよね?

「あ、あのぉ……  」

 ちょっと勇気を出して声をかけてみたけど、代表にグッと睨まれた……怖いよぉ。

「え、あぁなんか電話きてたな、新人がどうのって。  いいよ~適当に座ってて、あ、ほら向こうソファあるから 」

 イケおじが指差す方にはお客様用なのかソファが2つ向かい合って並んでいた。
 そしてその間には広めのソファーテーブルが設置してある。

「あ、はい、では座らせて頂きます  」

 思ったより優しそうな人だな。
 見た目はめちゃくちゃ怖いけど、なんというかさっきも気の抜けたような話し方だったし。

 待つこと数分。

 さっきのイケおじが向かいのソファに腰をかけた。

「やぁやぁごめんね~、新人なんて久々だわ。 ハハッ 」

 やっぱり軽そうな人……いや、軽い人だ、でも怖い人じゃなくて良かったわ。

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします  」

「いや、そういう堅苦しいのいらないから。 もっと「~っす 」みたいな感じでいいからさ   」

「そんな軽くていいんですか?  」

「よいよい~  」

 もちろん一般的な社会としてはよくないだろう。
 しかし働くということは、人と人が関わり合う。
 この会社の風潮、ルールなんてものもあるだろうし、やはり1番上の代表が望まれる形をとるのも大事だ。

 よし、ここは臨機応変にいこう。

「わかりました!! よろしくっす!! 」

 そう深々とお辞儀をした後、ちらっと代表の顔を見ると、

「おおっ!! 若いのはそうじゃなくっちゃなぁ! 」

 俺の肩をペシペシと叩きながら上機嫌となった。

 い、痛い痛いっ! 
 けど、対応としても正解だったようで一安心だ。

「そうだ、挨拶がまだだったな。 俺は久後 渉くご わたる。 よろしく~ 」

「久後さん、よろしくお願いします!  俺は戸波 海成って言います! 」

「おっ! かっこいい名前じゃねーかぁ。 よし、海成! 」

 そう言って、久後さんはソファから勢いよく立ち上がった。

「はい? 」

「分からんことばっかだろうが、とりあえずダンジョン攻略行ってこい! 」

「……へ?? 」

 うん、とりあえずなんも分からん。
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