2 / 47
2話 非現実空間はすぐ傍に
しおりを挟む俺達はあれからすぐ、ハローワークを後にした。
ちなみに俺達というのはあのおじさんと西奈さんを含んでいる。
ちなみになぜおじさんも来ているのかと言うと、「適性試験、俺にも受けさせろ」としつこかったから、西奈さんが渋々OKを出したのだ。
それより西奈さん、ハローワークの仕事ほっといていいのかよ。
無職の俺と違って立派な正社員じゃないんですかい?
そんな彼女は今、俺とおじさんの数歩先を歩いている。なんでも彼女直々にさっきの求人票の会社へ連れて行ってくれるらしい。
俺達はその後をついていくという形だ。
そして何が嬉しいのか鼻唄なんか歌っちゃったりしている。
スーツ姿のとびっきり美女、モブ顔の20代男、どう見てもヤ○ザの3人がセットで街を歩いている姿を見て、人々はどう思うだろう。
スーツ専門キャバクラの客引きに遭っている?
モブ顔20代男が東京湾に連れて行かれている?
否、周りの人はきっと何も思っていない。
それほどまでに人は他人に興味がないのだ。
しかし今の状況、俺は他人ではない。
むしろ当事者だ。
他人だったはずなのに、盛大に巻き込まれてしまったのだ。
横のおじさんはずっと黙ってて怖いし、早く帰りたいんですけど。
だめだ、この状況気が変になりそう。
そうだ気を紛らわそう。
一つ気になることがあったんだ。
俺はポケットから出したスマホで検索エンジンを開き、そしてあることを打ち込む。
えっと、レベルアップ……コーポレーション……だったっけか。
するとすぐにヒットした。
レベルアップコーポレーションは、ゲーム開発、映像制作、エンターテイメントコンテンツ制作……
おぉ……つい気になって会社名を調べてみたが、冒険者関係ないぞ?
あ!わかった! 冒険者ってのはゲームの設定だな。
つまりこの会社ではクリエイター的な仕事をするわけか。
「おいっ! まだか! てめぇ、俺を騙してんじゃねーだろうな? 」
あ~ついにおじさん、しびれを切らしたか。
それもそのはず、もうかれこれ20分近くは歩いている。
俺もさすがにそろそろ聞こうと思っていたところだ。
「戸波さん、もうすぐ着きますからねっ! 」
おじさんを華麗に無視した彼女が目にした先には、少し古めのテナントビルがある。
そのビルは5階建てで、2階には窓に大きくレベルアップコーポレーションと書いてあった。
そう、やっと目的地に到着したのである。
そして俺達はそのビルの入り口の前にいる。
「へぇ、ここでゲームとか映像を作ってるんだなぁ 」
俺がぼそっと呟くと、隣から
「え? ゲーム? なんの話ですか? 」
そう言って西奈さんは首を傾げていた。
彼女が俺を見るとき、なぜか上目遣いになっている。
つまり相変わらず可愛いのだ。
「え、だって調べたらそう書いてあって 」
俺はさっき調べたスマホ画面を彼女に見せた。
「あー、ほんとだ。 でもそれ、表向きはってことですよ? 」
「うそ、急に裏社会が垣間見えたんだけどっ!? 」
「ふふっ! 戸波さんおもしろいですねっ! 」
えー何も面白くないんだけど。
怖いだけなんだけど。
「着いたんならさっさと案内しろ! 」
おじさんも怒ってることだし早く行こうよ、西奈さん。
「あれ……おじさんがついてきてる……? 」
彼女は目が点になるほど驚いている。
いやいや、あなたハローワークで渋々OKしてましたよ。
「あぁ!? まじでこの女なめてやがるっ! 」
またもおじさんは彼女に掴みかかろうとしている。
「いいんですか? そんなことすれば、試験も受けられませんよ? 」
強気な彼女の一言でおじさんは間一髪のところで掴むのを止めた。
可愛い顔でおじさんを睨んでいる。
そんな顔も素敵だ。
「ちっ! これで受からなかったら覚えてろよ! 」
はぁ……。よかった。なんとか危機は過ぎ去ったようだ。
それから彼女は俺の方を向き、
「戸波さんっ! 行きましょっ? 」
なぜだか彼女、俺には興味津々なんだよな。
後で優しくした分のチャージ料金なんかが発生しないか不安だ。
その後、先立って西奈さんがビルの階段を昇り、それに続き俺、おじさんの順で後を追った。
20段くらいはあっただろう階段を昇りきると、左右共にドアがあった。
右は、ドアノブの少し上に『押す』という文字が書いてあり、ドアの1番上から下まで大きく使って『レベルアップコーポレーション』と縦書きで書いてある。
どんだけ会社名推したいんだ。
次いで左は『非常口』と書いてある。
どこの施設にもある緑色のそれだ。
先頭の西奈さんは左右のドアを順に見てから、当然のように左のドアへ向かった。
そりゃそうだ、どう見たって進む道は左……って左!?
「西奈さん!? それ非常口!! 会社のドアは右なんですけど? 」
「え? 会社は右ですけど、試験はこっちですよ? 」
そう言った西奈さんはすでに非常口なる扉を開いており、俺はその先の景色に釘付けとなった。
そもそも景色というのかも分からない、いや『空間』という方が正しいかもしれないな。
なぜそう思ったのか、それはドアの先には何もないのだ。
そう言うと語弊があるが言葉にできない何かがある、そうだな、例えるなら宇宙空間のように暗く、奥行きすらも分からないものが広がっていた。
「なんだ……これ 」
「戸波さん、説明は向こうでしますねっ! 」
すると、瞬く間に肉体がその空間へ引き寄せられていく。
「待って、吸い込まれ―― 」
突如として謎の空間にぶちこまれたのである。
84
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる