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4話 ギルド追放
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「……追放だって? 一体どうしてだ!?」
街にある小さなギルドハウスの一角。無駄に豪華なギルド長室にて。
ギルド長――オシムが、その無駄に伸ばした髭を擦りながら冷たい瞳で見下ろしてくる。
「お前がこの辺りの森を燃やしたという情報が耳に入ってきた。犠牲者が出なかったとはいえ、こちらは大きな被害を被ったのだぞ? 誰が森を修復すると思っている。犯罪者に然るべき処置を与えたまでだ」
「それはドラゴンの仕業だと今しがた伝えたばかりだろう? 証拠だってある。ほら、上質な竜髭だ」
道具袋から取り出した竜の髭。
魔法道具にも使われる高価な素材だ。
「それは一体何処で手に入れた物なのかね? 君のようなGランク冒険者には、決して手の届く品物ではないはずだが?」
「だからこの手で倒したと言っただろう? 信じられないかもしれないが本当の話なんだ」
「お世辞にもこの辺りの土地は治安が良いとは言えない。何処にでも小汚い盗人は湧くものだ」
「俺が……盗んできたとでも言いたいのか!?」
「窮地に陥った人間は簡単に闇に手を染めるからな。スキル持ちでもない貴様が、どうしてドラゴンを退治できようぞ。嘘も甚だしい」
まるで最初からドラゴンの存在がなかったかのように。
調べれば簡単にわかるはずだ。跡地にはドラゴンの亡骸も置いてきた。
こんな頑なに認めようとしないだなんて、絶対に裏が……。
「まさか、手柄を横取りするつもりか!? ギルドで討伐したと嘘の報告をするつもりだろ!?」
「……何を言っているのかね? 君一人でドラゴンを倒したという証言の方が、まるで信憑性がないのだが?」
王都から遠く離れたこの街では、ギルド自体の実績はかなり低い。
そもそも与えられる依頼だって、採取やら低ランクの魔物を相手にするばかり。
ここでドラゴンを討伐したと報告すれば、必ずや王の耳に入る。出世の見込みもある。
犠牲になるのはスキル無しのGランク冒険者一人だ。
つまり体の良い厄介払いだ。誰も俺の話なんて信じてくれないだろう。
「これまで頑張った君への退職祝いだ。森を燃やした件は事故として処理しておこう」
「あぁ……そうかい。それがお前たちのやり方か!! 言われなくても出ていってやる!!」
机に拳を叩きつけ、立ち上がると俺は背中を向ける。
心底くだらないと思った。これまでの人生を否定されたかのようだ。
スキルが無いってだけで、ここまでの仕打ちを受けないといけないのか。
俺は、どうして、今日までこの場所で必死に働いてきたんだ。
馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ。怒りと悔しさで頭がおかしくなりそうだ。
「そうそう。竜髭は置いていきたまえ。そんな物を持っていては盗っ人だと勘違いされるだろう?」
歯が折れそうになるほど強く噛み締め。
手にした竜髭をギルド長に向けて投げ捨てた。
◇
「マスター、マスター! どうでしたか? いっぱい褒められましたか!?」
ギルドの前では、フランが俺の帰りを待っていた。
俺の姿を見つけて急いで寄ってくると、嬉しそうに報告を聞いてくる。
「ああ、いっぱい褒められたよ。お前のおかげだ。ありがとな」
「……マスター?」
心配を掛けないように強がったつもりだった。
だが、頭に乗せた震える手までは誤魔化せない。そのまま俺は酒場の方まで向かう。
フランは首を傾げながら、それでも何も言わずにくっついてくる。
「よかった。カイル、無事だったか。山にドラゴンが出たと聞いて心配していたんだぞ」
「そうだな。俺は無事だ。おっさんいつもの頼む。三倍でな」
「昼間から豪勢だな。何か良い事でもあったのか?」
「ああ、そんなところだ」
狡賢い連中と手を切れたと考えれば悪い話ではないのだが。
酒を浴びるようにして飲む。そうしないとやってられなかった。
幸いにも金はある。あの野郎、竜髭の代金だと端金を渡してきやがったからな。
「それにしてもうちの貧乏ギルドがドラゴンを退治するとは。もう街中がお祭り騒ぎだ。もしかしたら王都から褒美が貰えるかもな。カイルも参加してきたらどうだ? タダ飯にありつけるかもしれないぜ」
「断る。俺が顔を出せば、飯も連中も冷めるだろ」
「珍しいな。いつもなら恥も外聞も捨てて飛び付いているのに」
騒いでる冒険者の中に、ギルド長の息の掛かった連中がいると考えると。
たとえ旨い飯が食えるとしても、そんな気分にはなれなかった。
「ドラゴン……? マスター、今の話は一体……!」
「もう終わった話だ。今の俺には関係ない。――関わりたくもないね」
「何だ何だ、今日はいつにも増して変な奴だな」
街にある小さなギルドハウスの一角。無駄に豪華なギルド長室にて。
ギルド長――オシムが、その無駄に伸ばした髭を擦りながら冷たい瞳で見下ろしてくる。
「お前がこの辺りの森を燃やしたという情報が耳に入ってきた。犠牲者が出なかったとはいえ、こちらは大きな被害を被ったのだぞ? 誰が森を修復すると思っている。犯罪者に然るべき処置を与えたまでだ」
「それはドラゴンの仕業だと今しがた伝えたばかりだろう? 証拠だってある。ほら、上質な竜髭だ」
道具袋から取り出した竜の髭。
魔法道具にも使われる高価な素材だ。
「それは一体何処で手に入れた物なのかね? 君のようなGランク冒険者には、決して手の届く品物ではないはずだが?」
「だからこの手で倒したと言っただろう? 信じられないかもしれないが本当の話なんだ」
「お世辞にもこの辺りの土地は治安が良いとは言えない。何処にでも小汚い盗人は湧くものだ」
「俺が……盗んできたとでも言いたいのか!?」
「窮地に陥った人間は簡単に闇に手を染めるからな。スキル持ちでもない貴様が、どうしてドラゴンを退治できようぞ。嘘も甚だしい」
まるで最初からドラゴンの存在がなかったかのように。
調べれば簡単にわかるはずだ。跡地にはドラゴンの亡骸も置いてきた。
こんな頑なに認めようとしないだなんて、絶対に裏が……。
「まさか、手柄を横取りするつもりか!? ギルドで討伐したと嘘の報告をするつもりだろ!?」
「……何を言っているのかね? 君一人でドラゴンを倒したという証言の方が、まるで信憑性がないのだが?」
王都から遠く離れたこの街では、ギルド自体の実績はかなり低い。
そもそも与えられる依頼だって、採取やら低ランクの魔物を相手にするばかり。
ここでドラゴンを討伐したと報告すれば、必ずや王の耳に入る。出世の見込みもある。
犠牲になるのはスキル無しのGランク冒険者一人だ。
つまり体の良い厄介払いだ。誰も俺の話なんて信じてくれないだろう。
「これまで頑張った君への退職祝いだ。森を燃やした件は事故として処理しておこう」
「あぁ……そうかい。それがお前たちのやり方か!! 言われなくても出ていってやる!!」
机に拳を叩きつけ、立ち上がると俺は背中を向ける。
心底くだらないと思った。これまでの人生を否定されたかのようだ。
スキルが無いってだけで、ここまでの仕打ちを受けないといけないのか。
俺は、どうして、今日までこの場所で必死に働いてきたんだ。
馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ。怒りと悔しさで頭がおかしくなりそうだ。
「そうそう。竜髭は置いていきたまえ。そんな物を持っていては盗っ人だと勘違いされるだろう?」
歯が折れそうになるほど強く噛み締め。
手にした竜髭をギルド長に向けて投げ捨てた。
◇
「マスター、マスター! どうでしたか? いっぱい褒められましたか!?」
ギルドの前では、フランが俺の帰りを待っていた。
俺の姿を見つけて急いで寄ってくると、嬉しそうに報告を聞いてくる。
「ああ、いっぱい褒められたよ。お前のおかげだ。ありがとな」
「……マスター?」
心配を掛けないように強がったつもりだった。
だが、頭に乗せた震える手までは誤魔化せない。そのまま俺は酒場の方まで向かう。
フランは首を傾げながら、それでも何も言わずにくっついてくる。
「よかった。カイル、無事だったか。山にドラゴンが出たと聞いて心配していたんだぞ」
「そうだな。俺は無事だ。おっさんいつもの頼む。三倍でな」
「昼間から豪勢だな。何か良い事でもあったのか?」
「ああ、そんなところだ」
狡賢い連中と手を切れたと考えれば悪い話ではないのだが。
酒を浴びるようにして飲む。そうしないとやってられなかった。
幸いにも金はある。あの野郎、竜髭の代金だと端金を渡してきやがったからな。
「それにしてもうちの貧乏ギルドがドラゴンを退治するとは。もう街中がお祭り騒ぎだ。もしかしたら王都から褒美が貰えるかもな。カイルも参加してきたらどうだ? タダ飯にありつけるかもしれないぜ」
「断る。俺が顔を出せば、飯も連中も冷めるだろ」
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騒いでる冒険者の中に、ギルド長の息の掛かった連中がいると考えると。
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「ドラゴン……? マスター、今の話は一体……!」
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