ギルドを追放された【ぼっち】だけど、スキル【自動生成ダンジョン】がSSSランクの魔剣や友人を生み出してくれました。

お茶っ葉

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1話 魔剣の剣精

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 俺たちの住む世界には、スキルと呼ばれるものが存在する。

 それは人間の可能性を高める、天上の神が授けてくれた大いなる力。
 どれだけ非力な人間だろうと【剛力】のスキルがあれば、岩をも砕く怪力を得られる。
 【疾走】のスキルがあれば高速で移動できるようになる。【炎魔術】があれば炎を操る事だって。

 そう、スキルは使い方しだいで人のあり方を変える。
 どのスキルを得られるかで、その人の今後の人生まで変えてしまうのだ。

 では、スキルを持たない人間はどうなるのだろうか? 
 神に見放された、祝福の対象から外された人間がどうなるのか。

 ◇

「――おいカイル。お前、今日は何処にほっつき歩いていたんだ?」
「近くの森でゴミ拾い。いい汗かいたぞ。日当も貰えるしな。近所のおばちゃんも感謝していたぞ」
「ゴミ拾いって……お前なぁ。よく周りを見てみろ、みんな魔物を退治してきた帰りだ。カイル、お前は冒険者の自覚ある?」
「……ほっとけ。おっさんいつもの」
「うぃ」

 いつもの店、いつもの席に座り、俺は酒を注文する。
 田舎街にある寂れた酒場だ。それでもこの辺では一番活気に溢れている。

 カウンターに偉そうに居座るおっさんが、適当な事を宣っているが無視。 
 俺は一人で席に座っているが、周囲の冒険者連中は楽しそうに会話をしていた。

「……連中が羨ましいのか?」

 酒棚を物色しながらおっさんがそんな事を言いだす。
 俺に友人がいない事を知っていて嫌味な奴だ。羨ましいに決まってる。

 その寂しい頭皮を馬鹿にしてやろうかと思ったがやめておいた。俺も悪魔じゃない。
 このおっさんに見放されたら、喋る相手がいなくなってしまうからな。困ってしまう。

 俺――――カイル・バートルは何を隠そう【ぼっち】である。

 生まれて二十年、彼女おろか友人一人も出来た記憶がない。
 冒険者になれば仲間ができるかと思えば、期待は裏切られいつもソロプレイを強要されている。
 ギルドでの俺のランクは三年ほどGランクで燻っていて、
 新人が最初の一週間で越えていくハードルにいつまでも躓いている。

 何故、俺がそんな底辺を彷徨っているのか。

 答えは簡単だ――スキルを所持していないからだ。

 この世界の人間は生まれながらに何かしらのスキルを持っている。
 それによって、皆一定の分野の才能に恵まれ世界に貢献しているのだ。

 俺は物心つく頃から【ぼっち】だった。
 五歳の時に両親に捨てられ、今日まで一人で生きてきた。
 神からスキルを授けられるのが大体五歳からなので、理由は察せられる。

 世界に何一つ貢献できないゴミを抱えるなんて両親は許せなかったんだろう。
 一度でもスキルを授けられなければ、それ以降はもう覚える見込みはなくなるからな。
 まぁ……なんにせよ、俺は今日も頑張ってそれなりに生きている。ゴミ拾いは得意だから。

「そろそろ薬草でも採りに行くかな。最近、回復薬ポーションが品薄なのか結構稼げるんだ」
「まっ頑張れよ。これでも俺は、お前の事を応援してるから」
「おっさんだけだよ……そう言ってくれるの。泣きそう」
「うちの数少ない客だしな。死なれちゃ困る」
「……どうせそうだろうと思ったよ。さっきの涙を返せ」
「大した価値も無いだろ」

 硬貨を投げつけて俺は酒場を出た。
 Gランク冒険者の稼ぎでは、その日を生きていくだけで精一杯だ。

 今の貧弱な装備では、初心者ダンジョンでも生き残れる自信が無い。
 なのでいつも魔物が少ない周辺の山で、薬草を採って生計を立てていた。

 そんな生活を五年ぐらい続けているだろうか。
 【採取】のスキルが無くても、それなりに働ける自信がある。
 まぁ五年も費やしてやっと互角な辺り、どれだけスキルが優秀であるかがわかるが。

 だが不思議と他人を羨ましいと思った事はない。
 生まれてからずっと無能と罵倒され生きてきたからだろうか。

 分相応の暮らしで満足してるし、おかげで驕らずに長生きもできている。
 それでも友人だけは欲しいけどな。できれば女の子だと嬉しい。
 おっさん相手だと華がなくて何を話しても味気ないし。

「さてと、そろそろ帰るか」

 いつもの採取ポイントで、一時間ほど労働に励んだ。
 明日の宿代ぐらいは採れただろうか。籠一杯に詰め込んだ薬草を持って立ち上がる。

 そうして街に戻ろうとした時だった。

 ――目の前に不自然な穴が開いている事に気付いた。

「何だこれ? もしかしてダンジョンか? でもこの辺りでは報告は無かったはずだが……」

 ダンジョンは周辺にも魔物を生み出す危険性があるので、場所は常に頭に叩き込んでいた。
 五年も通っていて見逃すなんてありえない。つまり新しく誕生したという訳か。かなり珍しい。
 高密度の魔力核が、周囲の環境を作り変えてできるのがダンジョンだ。魔力核は貴重品になる。

 ギルドに報告したら情報料を貰えるかもしれない。運が良い。臨時収入が手に入る。 

「とりあえず、怖いから近付かないでおこう」

 俺は避けるようにして通り過ぎる。
 おっさんが知ったらまた『本当に冒険者なのか?』と馬鹿にしてくるだろう。
 誕生したばかりのダンジョンは比較的安全だ。魔物が住み着いていない事もままある。

 だが、俺は自分の実力を過大評価しない。
 あくまで慎重に行く。無能は無能なりに頭を働かせるんだ。

 そうして歩いていると、また目の前に穴を見つけた。
 こんな偶然があるのだろうか。情報料が美味しいので気にしない。
 
 無視して先を急ぐ。

「おいおい、嘘だろ……!」

 そうして無視した先にあったのも穴だった。
 周辺が穴だらけである。どうなってるんだこれは。悪戯か?
 いくらなんでも神は俺に試練を与え過ぎである。何か恨みでもあるのか。

「スキルの代わりにダンジョンをくれるってか!? くそっ、なら先に友人を寄越せよ!!」

 心からの叫びだった。そうだ俺は昔から友人が欲しかった。
 楽しい時は一緒に笑い、辛い時は一緒に泣き、共に立ち上がる事できるそんな仲間が。

 だけど――――現実は無能に厳しい。

 冒険者となっていざパーティに誘っても、鼻で笑われ、頭に酒を浴びせられる。
 路地裏に連れ込まれボコボコにされた事もあったかな。どいつもこいつも酷い連中だった。
 でも、どれだけ拒絶されようとも、俺は人間を嫌いになれない。一人は嫌だったのだ。

 人間は結局のところ一人で生きられるほど、強い生き物じゃないんだ。
 宿のおばちゃんの営業スマイルでは満足できない。本当に笑い合える仲間が欲しい。

「ふぁぁ……こんにちは」
「あ、はい。こんにちは……?」

 ダンジョンから突然、小さな子供が現れた。しかも挨拶をしてくれた。
 それに対して機械的な挨拶で返してしまった。これは反省点だ。
 俺まで宿のおばちゃんになってはいけない。スマイルスマイル。

 というか、子供ですら入れるダンジョンを避けていたのか俺は。情けなくて涙が出てくるな。

「貴方がワタシのマスターですね?」
「俺とあの禿を一緒にしないでくれ」
「はい?」

 首を傾げる子供。何だ、マスターはおっさんの事ではないのか。
 それもそうか、こんな小さな子が街の酒場を訪れるはずがないよな。

 紅色の髪に、これまた紅色の瞳をした少女だった。
 見た目の歳はぎりぎり二桁に乗ったくらいか。美人と可愛いを足して何も割っていない感じ。
 他人ながらに将来が楽しみになる女の子だ。ちなみに俺とは初対面である。からかっているのか?

「よくわかりませんが、マスターついて来てください!」
「ついていくって何処に? まさかダンジョンか!? ま、待て、俺は……!」

 無理やり腕を掴まれ、ダンジョンの中に連れられていく。
 子供のものとは思えないほどの【剛力】だった。これも彼女のスキルの効果だろうか。
 
 穴の中はかなり大きな空間が広がっていた。牢獄のような暗い世界。
 というより物理的におかしかった。この天井の高さだと外に飛び出している計算になる。
 だが、実際はそうではない。魔力によって生み出されているからだろうか。もう何でもありだ。

 正直、ダンジョンに入るのは初めてなのでよくわからない。

「マスター、この剣を拾ってください」
「……これは!?」

 目の前にあったのは神々しいほど光り輝く炎の剣。
 街の武器屋でも見かけた事がないほど、立派な装飾が施されている。
 揺らめく炎が周囲の床を焦がし、そして俺を誘惑している。

 【鑑定】スキルが無いのであくまで主観だけど。
 こんな立派な剣がダンジョンの入り口に無造作に置かれてあるのだから驚きである。

「この剣はフランベルク――魔剣です。そして私はその剣精です。名前はまだありません」
「マジか!? 剣精ってSSSランクの魔剣に住み着くとされる精霊だよな。気に入った人間をマスター扱いにして死ぬまで付き纏うストーカー気質の連中だと噂に聞いていたが、本当の事だったのか!」
「マスター……酷いです」
「あっ、ごめん。言い過ぎた」

 小さく項垂れる剣精に誠心誠意、謝罪する。興奮しすぎた。
 彼女には名前がないらしいので、剣の名称から取ってフランと呼ぶことにした。
 魔剣の炎の色とよく似合う少女だ。……それもそうか、本人だもんな。

 むさ苦しい男でなくてよかった。実際にそういう男の剣精もいるらしい。

「では帰るとしよう。こんな薄暗い所に長居したら寿命が縮む」
「マスター、先に進まないのですか? フランを使わないのですか?」

 後ろからフランが疑問を投げかけてきた。
 確かに魔剣を手にしたのなら、それを使ってみたくなるのが冒険者というもの。
 だが俺は油断をしない男。いくら剣が強くとも、俺自身が強くなった訳じゃない。

「賢い人間は、危ないものには近付かないものだ」
「なるほど、マスターは賢いのですね!」
「わかってくれたか。偉いぞ」

 フランの頭を優しく撫でて、それから俺たちは外に出る。
 ふと、気になって振り返ってみると、穴が無くなっていた。

「……どういう事だ? ダンジョンが消えた? 今のは夢だったのか……?」

 だが手元には魔剣、隣には剣精がいる。全てが現実に起こった出来事だった。
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