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4 獣耳少女と一〇一の白き獣
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「わうわうわう! うぅ~わう~!」
「……モフモフちゃん、待って、どこを目指しているの?」
ゴブリンを倒した後も、白い狼は止まらない。
俺たちをどこかへ案内したいのか、迷いのない足取りだった。
”彼女”の声に怯えてか、最初のゴブリン以降魔物も姿を現さない。
白い狼は調べると幼い女の子だった。
まだ生まれて二ヵ月も経っていないくらいか。
それでも魔物と果敢に戦えるとは、狼は成長が早い。
「わうっ」
倒れた木々の上に座り、白い狼がこちらを見ていた。
彼女の住処だろうか、光に満ちた小さな泉がある静謐な空間だった。
「ここが終点か。森の奥地にこんなスポットがあるとは。何度も通っているが知らなかった」
「綺麗……だね」
木々から零れ落ちる葉が、天使の羽のように舞う。
風に揺れ泉が波紋を生み出す。すべての音が心地いい。
と、油断していたら。急激に生き物の気配が周囲で沸き出した。
茂みから興味津々の顔をした狼たちが覗かせる。――次々と増えていく。
「……わぁ、モフモフがいっぱい……! 多いよ、たくさん!」
エレナが驚くのも無理はない。一〇匹、二〇匹どころの騒ぎではなく。
大小一〇一匹の群れが集まってきたのだ。色とりどりのモフモフたちだ。
姿を現すまで気配を感じさせなかった。これだけの数が揃って、足音すらも。
「――ようこそ、白き獣の楽園へ。我はお二方を歓迎いたします」
たくさんの狼たちの中に、人の姿をした少女が紛れていた。
木漏れ日を浴びて後光を帯びている。俺は息を呑んで見惚れてしまった。
白い狼と同じ耳と尾を持ち、その優しげな声色と同じ穏やかな表情を浮かべている。
「案内、ご苦労です」
俺たちを導いた狼を撫でながら、悠然とした態度で近付いてくる。
見た目は俺よりも若いのに、気品ある佇まいに年上の母性を感じさせた。
穢れのない簡素な衣服は、彼女が身に着けているだけで黄金のような輝きが満ちている。
俺の身体に宿る血が、魂が熱く煮え滾っている。
喜び、もしくは不安だろうか。こんな経験は初めてだ。
「我は白き獣の化身。古代神と神人に仕え、悪しき魔神たちをその身に封印した神獣でもあります」
「白き獣の、神獣だって……?」
そういえば昔、テイマーの爺さんから聞いた事がある。
世界の何処かには、神獣と呼ばれる古の獣が存在していて。
彼ら彼女らは古代神から授かった封印の力を秘めているのだとか。
世界を救った伝説すら残されるほどに、そういうおとぎ話の類も教わった。
テイマーなら誰しも一度は憧れる存在――らしいが。
俺の場合まず最初の段階から躓いたので、気にした事がなかった。
「くんくん。くんくん」
獣耳を生やした少女が、俺の瞳を覗き込んできた。深い黒。
美しい白髪が揺れている。凛々しい眉も、白い狼とそっくりだ。
尻尾が器用にこちらを逃すまいと纏わりつく。とにかく、距離が近い。
白く細い首には、輝きを失った無骨な首輪が。寂しげにぶら下がっていた。
「貴方様のお身体から、とても懐かしい匂いがします。かつて、我を従えた主様と同じ匂いが」
かつての主様。一体それは何年前の話だろう。
「オルガくんって……その、神様だったの? 神獣様に気に入られてるよ……?」
「いやいや、総じて人間は古代神の力を受け継いだ神人の血を引いているから、エレナも俺と同じだ。何だったら魔物だってそうだし。ただ元となった神によって差異は生じる。人によって才が違うのもそういった理由からだそうだ」
神人とは今の人間の前身とも呼べる存在で、古代神によって生み出された最初の人類だ。
どうやら今の人間と見た目はさほど変わらなかったとかで、神獣はそれの獣版というべきか。
長い歴史の中で、神の血は薄まってきているようだが、たびたび化物染みた才能の持ち主が現れる。
そういった一部の天才を【神人の再誕】と呼んだりするらしい。
「……私のお父さん、歴史が苦手だから。初めて知ったよ。私も……神人の血を引いているんだね」
凡人の俺からしたら、エレナはまさしく【神人の再誕】なのだが。
この場合、神獣を使役していた神人の血を、俺が偶々受け継いでいるのではないか。
テイマーやその他専門職の中には、特殊な血の力に依存した能力が幾つか存在するのだ。
つまりそこまで珍しい話でもない。テイマーは世界中に点在するのだから。
しかし、獣耳少女は相変わらず。俺の身体を捕まえながら、粛々と語りだす。
「我はかつて主様と共に数多の戦場を駆け、一〇〇の悪しき闇の魔神を喰らいました。そして、邪悪なる闇の根源との決戦へ向かわれる主様の命に従い、長きに渡る神々の戦争が終結した後も、数千年後の今に至るまで封印を守り続けておりました。いずれ、新たな使命を与えられる日を心待ちにして……我は忠実な獣でありますから」
獣耳少女は一瞬だけ、何かを誤魔化すように視線を逸らしていた。
「……数千年も、ずっとご主人様の帰りを待っていたんだね」
話を聞いてエレナは寂しげな表情になる。
彼女の主はきっと迎えに戻れなかったのだろう。
獣耳少女も理解しているのか。悲しみを堪えて俺の方を見る。
「主様はもう戻られないと……我も存じております。あの方を追って命を絶つ事も考えました。しかし、この身体には依然一〇〇の悪しき魔神の魂が眠ったまま。封印にも年々綻びが生じてきました。このままではいずれ未曽有の厄災が引き起こされる。急ぎ再封印を施さねばなりません。ですが、我は古の盟約により縛られ、己の勝手な裁量では動けません。――新しい主様の存在が必要なのです。あの方と同じ魂の輝きを持つ、まさしく生まれ変わりとも呼べるお方を……!」
獣耳少女の俺を見上げる瞳が潤んでいた。
突然生まれ変わりだとか言われても、にわかに信じ難いが。
神獣と呼ばれる存在に必要とされている。その事実だけは変わらない。
「そうか、ここまで白い狼で扇動し、俺たちを楽園へ招き入れた理由は……」
「はい。我と契約を結んでいただきたいのです、オルガ様。貴方様をずっとずっと、心待ちにしておりました」
彼女の言葉に心臓が強く高鳴る。幼少の頃から爺さんに教わっていた。
主契約を結ぶ相手は運命によって定められる。その時が来ればきっと理解できると。
俺はこの子と契約する為に、今日まで生きてきたんだと。そういう実感が湧いてきた。
――が、それと同時に脳内に警報が鳴っている。この子の願いを果たして受け入れていいのかと。
「その、すまないが、俺は主契約のやり方がわからないんだ。なにぶん、これが初めての経験で……!」
”テイマーとして”あるまじき発言だが。一応それなりの筋は通っている。
獣の種類によって契約手段が異なるので、過去の文献を調べる必要があるのだ。
何より俺には一生縁がない儀式だと思っていただけに、準備なんてまったく整っていない。
咄嗟に出てきた誤魔化しを使い、俺は後ろへと下がる。
自分が抱える問題を考慮しても、もう少し考える時間が欲しい。
「初めて……そうでしたか! ですがご安心を、主様のお手を煩わせません!」
しかしどうやら、獣耳少女には伝わっていない様子で。
素早い動きで俺の両手を握ると、可愛らしい牙のある口を開いた。
「かぷっ」
獣耳少女が嬉しそうに俺の指を躊躇なく咥えた。止める暇もなかった。
「うっ」
チクリとした痛み。遅れて、身体に異変が起こる。
脳裏に白き獣たちの姿が流れ込んでくる。あと、目の前の少女のものも。
彼女は白き獣の魔力から生み出された存在で、統率者の役割を担っているようだ。
全員――元は一匹の大きな神獣だった。
悪しき魔神の魂の数が一〇〇、そして白き獣は一〇一匹。
どうやら自身の身体と魂を分離させて、封印の器としているらしい。
色が変化している個体がいるのは、悪しき魔神の影響を受けている為か。
彼女を除いた総勢一〇一匹を使役する権限が俺の中に宿った。テイマーとしては快挙だ。
主契約は人の脳に負担が掛かる儀式であり。どんなに才能があっても精々五匹が限界である。
彼女たちの場合、元が一匹だったのが分裂しているだけなので例外らしい。
普通はそんな抜け道はあり得ないはずだが、神獣の能力で緩和されているのか。
「主様の血をいただきました。大変美味でございます……これにて契約は完了いたしました」
何もかもあっさりと終わって拍子抜けした。
俺が一番”懸念”していた状況には、何故か陥っていない。
「一瞬だったね……。えっと、もしかして、貴女たちって人間を食べちゃうの?」
契約の余韻に酔う俺の代わりに、エレナがツッコんだ。
人見知りでも、相手が神獣ともなると饒舌になるようで。
獣耳少女――リンネが、妖艶な雰囲気を漂わせ裾で口元を隠す。
「我々は肉食ですので、お肉は当然、好物でございます。エレナ様、でしたか。美味しそうなおみ足をされていらっしゃいますね?」
「ひぃっ、た、食べないで……私、血が苦手なの……!」
顔色が真っ青になり、その場で座り込むエレナ。恐怖から足が震えている。
「わふっ!? 嘘です嘘です。食べません。軽い冗談ですので、本気になさらないでください!」
大袈裟な反応に逆に驚いて、慌ててリンネが訂正した。意外とお茶目な性格らしい。
会話を眺めているとふと、貧血に似た症状に襲われる。そっとリンネが受け止めてくれた。
「わ、悪い……身体が急に重くなって……頭に靄が掛かっている」
「契約による負担が大きいのです。主様、体力が回復するまでの間、我の膝をお使いくださいませ」
リンネの癒しの声を聞きながら、すべすべ太ももに誘われる。
彼女の尻尾に優しく包み込まれ、白き獣たちが俺のお腹の上に寝そべった。
たくさんのちびっ子たちが場所の奪い合いで喧嘩している。暖かくくすぐったい。
「わうわう!」
「うぐぅ~うぐぅ~」
「わおん」
「わぅ?」
「へっへっ」
「わうぅ」
「うぅうぅ~!」
まだ目も開き切っていない赤ん坊が顔面に覆い被さってくる。俺はもう成すがままだ。
「ああ……モフモフ……モフモフがたくさん羨ましい。オルガくんズルい……」
「主様、ごゆっくりおやすみなさいませ」
「少しだけ……少しだけ私にもちょうだい?」
「今回だけの特別です、少しだけですよ?」
「あふぁああ~モフモフ……気持ちいい」
リンネが命じると、大人の白き獣たちがエレナに覆い被さっていく。
捕食されているように見えるが、モフモフに包まれてエレナは幸せそうだった。
「……モフモフちゃん、待って、どこを目指しているの?」
ゴブリンを倒した後も、白い狼は止まらない。
俺たちをどこかへ案内したいのか、迷いのない足取りだった。
”彼女”の声に怯えてか、最初のゴブリン以降魔物も姿を現さない。
白い狼は調べると幼い女の子だった。
まだ生まれて二ヵ月も経っていないくらいか。
それでも魔物と果敢に戦えるとは、狼は成長が早い。
「わうっ」
倒れた木々の上に座り、白い狼がこちらを見ていた。
彼女の住処だろうか、光に満ちた小さな泉がある静謐な空間だった。
「ここが終点か。森の奥地にこんなスポットがあるとは。何度も通っているが知らなかった」
「綺麗……だね」
木々から零れ落ちる葉が、天使の羽のように舞う。
風に揺れ泉が波紋を生み出す。すべての音が心地いい。
と、油断していたら。急激に生き物の気配が周囲で沸き出した。
茂みから興味津々の顔をした狼たちが覗かせる。――次々と増えていく。
「……わぁ、モフモフがいっぱい……! 多いよ、たくさん!」
エレナが驚くのも無理はない。一〇匹、二〇匹どころの騒ぎではなく。
大小一〇一匹の群れが集まってきたのだ。色とりどりのモフモフたちだ。
姿を現すまで気配を感じさせなかった。これだけの数が揃って、足音すらも。
「――ようこそ、白き獣の楽園へ。我はお二方を歓迎いたします」
たくさんの狼たちの中に、人の姿をした少女が紛れていた。
木漏れ日を浴びて後光を帯びている。俺は息を呑んで見惚れてしまった。
白い狼と同じ耳と尾を持ち、その優しげな声色と同じ穏やかな表情を浮かべている。
「案内、ご苦労です」
俺たちを導いた狼を撫でながら、悠然とした態度で近付いてくる。
見た目は俺よりも若いのに、気品ある佇まいに年上の母性を感じさせた。
穢れのない簡素な衣服は、彼女が身に着けているだけで黄金のような輝きが満ちている。
俺の身体に宿る血が、魂が熱く煮え滾っている。
喜び、もしくは不安だろうか。こんな経験は初めてだ。
「我は白き獣の化身。古代神と神人に仕え、悪しき魔神たちをその身に封印した神獣でもあります」
「白き獣の、神獣だって……?」
そういえば昔、テイマーの爺さんから聞いた事がある。
世界の何処かには、神獣と呼ばれる古の獣が存在していて。
彼ら彼女らは古代神から授かった封印の力を秘めているのだとか。
世界を救った伝説すら残されるほどに、そういうおとぎ話の類も教わった。
テイマーなら誰しも一度は憧れる存在――らしいが。
俺の場合まず最初の段階から躓いたので、気にした事がなかった。
「くんくん。くんくん」
獣耳を生やした少女が、俺の瞳を覗き込んできた。深い黒。
美しい白髪が揺れている。凛々しい眉も、白い狼とそっくりだ。
尻尾が器用にこちらを逃すまいと纏わりつく。とにかく、距離が近い。
白く細い首には、輝きを失った無骨な首輪が。寂しげにぶら下がっていた。
「貴方様のお身体から、とても懐かしい匂いがします。かつて、我を従えた主様と同じ匂いが」
かつての主様。一体それは何年前の話だろう。
「オルガくんって……その、神様だったの? 神獣様に気に入られてるよ……?」
「いやいや、総じて人間は古代神の力を受け継いだ神人の血を引いているから、エレナも俺と同じだ。何だったら魔物だってそうだし。ただ元となった神によって差異は生じる。人によって才が違うのもそういった理由からだそうだ」
神人とは今の人間の前身とも呼べる存在で、古代神によって生み出された最初の人類だ。
どうやら今の人間と見た目はさほど変わらなかったとかで、神獣はそれの獣版というべきか。
長い歴史の中で、神の血は薄まってきているようだが、たびたび化物染みた才能の持ち主が現れる。
そういった一部の天才を【神人の再誕】と呼んだりするらしい。
「……私のお父さん、歴史が苦手だから。初めて知ったよ。私も……神人の血を引いているんだね」
凡人の俺からしたら、エレナはまさしく【神人の再誕】なのだが。
この場合、神獣を使役していた神人の血を、俺が偶々受け継いでいるのではないか。
テイマーやその他専門職の中には、特殊な血の力に依存した能力が幾つか存在するのだ。
つまりそこまで珍しい話でもない。テイマーは世界中に点在するのだから。
しかし、獣耳少女は相変わらず。俺の身体を捕まえながら、粛々と語りだす。
「我はかつて主様と共に数多の戦場を駆け、一〇〇の悪しき闇の魔神を喰らいました。そして、邪悪なる闇の根源との決戦へ向かわれる主様の命に従い、長きに渡る神々の戦争が終結した後も、数千年後の今に至るまで封印を守り続けておりました。いずれ、新たな使命を与えられる日を心待ちにして……我は忠実な獣でありますから」
獣耳少女は一瞬だけ、何かを誤魔化すように視線を逸らしていた。
「……数千年も、ずっとご主人様の帰りを待っていたんだね」
話を聞いてエレナは寂しげな表情になる。
彼女の主はきっと迎えに戻れなかったのだろう。
獣耳少女も理解しているのか。悲しみを堪えて俺の方を見る。
「主様はもう戻られないと……我も存じております。あの方を追って命を絶つ事も考えました。しかし、この身体には依然一〇〇の悪しき魔神の魂が眠ったまま。封印にも年々綻びが生じてきました。このままではいずれ未曽有の厄災が引き起こされる。急ぎ再封印を施さねばなりません。ですが、我は古の盟約により縛られ、己の勝手な裁量では動けません。――新しい主様の存在が必要なのです。あの方と同じ魂の輝きを持つ、まさしく生まれ変わりとも呼べるお方を……!」
獣耳少女の俺を見上げる瞳が潤んでいた。
突然生まれ変わりだとか言われても、にわかに信じ難いが。
神獣と呼ばれる存在に必要とされている。その事実だけは変わらない。
「そうか、ここまで白い狼で扇動し、俺たちを楽園へ招き入れた理由は……」
「はい。我と契約を結んでいただきたいのです、オルガ様。貴方様をずっとずっと、心待ちにしておりました」
彼女の言葉に心臓が強く高鳴る。幼少の頃から爺さんに教わっていた。
主契約を結ぶ相手は運命によって定められる。その時が来ればきっと理解できると。
俺はこの子と契約する為に、今日まで生きてきたんだと。そういう実感が湧いてきた。
――が、それと同時に脳内に警報が鳴っている。この子の願いを果たして受け入れていいのかと。
「その、すまないが、俺は主契約のやり方がわからないんだ。なにぶん、これが初めての経験で……!」
”テイマーとして”あるまじき発言だが。一応それなりの筋は通っている。
獣の種類によって契約手段が異なるので、過去の文献を調べる必要があるのだ。
何より俺には一生縁がない儀式だと思っていただけに、準備なんてまったく整っていない。
咄嗟に出てきた誤魔化しを使い、俺は後ろへと下がる。
自分が抱える問題を考慮しても、もう少し考える時間が欲しい。
「初めて……そうでしたか! ですがご安心を、主様のお手を煩わせません!」
しかしどうやら、獣耳少女には伝わっていない様子で。
素早い動きで俺の両手を握ると、可愛らしい牙のある口を開いた。
「かぷっ」
獣耳少女が嬉しそうに俺の指を躊躇なく咥えた。止める暇もなかった。
「うっ」
チクリとした痛み。遅れて、身体に異変が起こる。
脳裏に白き獣たちの姿が流れ込んでくる。あと、目の前の少女のものも。
彼女は白き獣の魔力から生み出された存在で、統率者の役割を担っているようだ。
全員――元は一匹の大きな神獣だった。
悪しき魔神の魂の数が一〇〇、そして白き獣は一〇一匹。
どうやら自身の身体と魂を分離させて、封印の器としているらしい。
色が変化している個体がいるのは、悪しき魔神の影響を受けている為か。
彼女を除いた総勢一〇一匹を使役する権限が俺の中に宿った。テイマーとしては快挙だ。
主契約は人の脳に負担が掛かる儀式であり。どんなに才能があっても精々五匹が限界である。
彼女たちの場合、元が一匹だったのが分裂しているだけなので例外らしい。
普通はそんな抜け道はあり得ないはずだが、神獣の能力で緩和されているのか。
「主様の血をいただきました。大変美味でございます……これにて契約は完了いたしました」
何もかもあっさりと終わって拍子抜けした。
俺が一番”懸念”していた状況には、何故か陥っていない。
「一瞬だったね……。えっと、もしかして、貴女たちって人間を食べちゃうの?」
契約の余韻に酔う俺の代わりに、エレナがツッコんだ。
人見知りでも、相手が神獣ともなると饒舌になるようで。
獣耳少女――リンネが、妖艶な雰囲気を漂わせ裾で口元を隠す。
「我々は肉食ですので、お肉は当然、好物でございます。エレナ様、でしたか。美味しそうなおみ足をされていらっしゃいますね?」
「ひぃっ、た、食べないで……私、血が苦手なの……!」
顔色が真っ青になり、その場で座り込むエレナ。恐怖から足が震えている。
「わふっ!? 嘘です嘘です。食べません。軽い冗談ですので、本気になさらないでください!」
大袈裟な反応に逆に驚いて、慌ててリンネが訂正した。意外とお茶目な性格らしい。
会話を眺めているとふと、貧血に似た症状に襲われる。そっとリンネが受け止めてくれた。
「わ、悪い……身体が急に重くなって……頭に靄が掛かっている」
「契約による負担が大きいのです。主様、体力が回復するまでの間、我の膝をお使いくださいませ」
リンネの癒しの声を聞きながら、すべすべ太ももに誘われる。
彼女の尻尾に優しく包み込まれ、白き獣たちが俺のお腹の上に寝そべった。
たくさんのちびっ子たちが場所の奪い合いで喧嘩している。暖かくくすぐったい。
「わうわう!」
「うぐぅ~うぐぅ~」
「わおん」
「わぅ?」
「へっへっ」
「わうぅ」
「うぅうぅ~!」
まだ目も開き切っていない赤ん坊が顔面に覆い被さってくる。俺はもう成すがままだ。
「ああ……モフモフ……モフモフがたくさん羨ましい。オルガくんズルい……」
「主様、ごゆっくりおやすみなさいませ」
「少しだけ……少しだけ私にもちょうだい?」
「今回だけの特別です、少しだけですよ?」
「あふぁああ~モフモフ……気持ちいい」
リンネが命じると、大人の白き獣たちがエレナに覆い被さっていく。
捕食されているように見えるが、モフモフに包まれてエレナは幸せそうだった。
応援ありがとうございます!
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