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29 令嬢は魔女の弟子になった④
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シズさんの指示に従い、いくつかの魔導具で体や実力を測った後、彼は私に適した訓練メニューを考えると言って、用が済んだとばかりに、私は瞬く間もなく、その空間から元の店の部屋へと戻されてしまった。
部屋は勿論、アリスティア様を見た時の豪華な装飾はなく、極普通な小さな個室だった。何年も放置されたこの部屋は、埃が厚く積もり、ほこりと蜘蛛の巣に覆われていた。
家具もわずかに残っているだけで、壁には薄いピンクの花柄の壁紙が貼られているものの、所々に傷やひび割れが目立ち、一部にはカビまで生えていた。
「あ、ライラ!」
ライラがまだあの空間に残されていることに気づき、どうしようかと不安に駆られ焦り始めた時、突然、空気を切り裂くような緑の光が再び現れた。
ライラの体がまるで物のように光の中から、荒く投げ出され、直後、一匹小さな雀が飛んできて、倒れたライラの体の上に落ちている。
「シズだ、この雀はわたしのペット、名はスズ。彼を連絡役として、一時的に君の所に置く。出掛ける際には、必ず彼を側におくようにしなさい。訓練メニューが完成したら、彼を通じて連絡する。以上」
赤い目をしている雀の口から、不思議なことにシズさんと同じ声が発された。
そして用件を伝え終わると、雀はぱっと目を閉じ、再び目を開けた瞬間、目の色が黒に変わり、まるで普通の雀のように見えた。雰囲気もただの雀とほとんど変わらない、少し首を傾げたその姿は、どこか可愛らしさすら感じる。
彼は私の姿を確認したかのように、私を上下に眺めた後、ふわりと私の肩に飛んできた。
「うわっ……あの、スズ、これからはよろしくお願いしますね」
動物とはあまり親しみがなかった私は、肩に乗った小さな生き物に少しおそるおそると、挨拶をした。
すると、スズはまるで私に返事したように、「チュンチュン」と愉快そうに鳴いた。
***
ライラが目を覚ますまで、私は椅子に腰をかけ、燈花を大事に両手の上に載せて、店の外に通り過ぎる人々をぼんやりと見つめながら、心の中で考え事を整理している。
幸い、ライラが投げ落とされた位置は、それほど高くなかった。秋服とマントも緩衝材として機能し、床にぶつかるところに傷は残っていない。すぐに意識を取り戻すだろう。
預言の魔女アリスティア様に会った短いはずの時間が、時の流れは錯乱したように、長くも感じられた。その一方で、目眩く出来事は急流のように私を押し流し、万華鏡を覗き込んだかのような目眩く非日常な世界に翻弄された。
正直なところ、初めて願いを尋ねられた時は、怖さはあったけれど、お母さんから頼まれた<神木の枝>ことを、魔女様にお願いしようという考えが一瞬浮かんでいた。
しかし、過去に一度も親戚や周囲の噂から、お祖父様の家にそのような伝説な品が受け継げている話は聞いたことがないので、無闇にばらす訳にはいかないとも思った。
もし、もしも私が、いくら努力しても、自分のレベルを8まで上げられないなら……
その可能性の方が高いわね。
ならば、せめて公爵令嬢としての権力を利用して、慈善事業の一環として、信頼できる人を援助し、他人を上げるのも、手段の一つとして考えられるわ。
しかし、そのためには、叔父様に断われないような言い訳を考えて、公衆の前で彼に直接に談判する必要があるので、考えるだけで胃がギシギシする。
魔術の先生は見つかったので、冒険者ギルドに依頼する必要はもうないかもしれないけれど、やはり後で雑貨店には行こうかな。
お金がないと、城下町では何もできないからね。それに、この店を専門の人に頼んで掃除してもらいたいから、その分の金を用意する必要があるわ。
なんだか、この店は私の秘密基地のようで、少しドキドキしますね。
「ここは……?お嬢様、無事か?」
背後から聞こえた焦ったライラの声に、私の彷徨っていた意識が戻り、すぐに立ち上がり、ライラの元へ駆け寄る。
「ライラ、私はここよ。具合はどうです?何もなかった?」
「お嬢様!……守れず、申し訳ありません」
ライラは私の姿を見て、少しほっとして、すぐに悔しそうに唇をきつく噛み締めた。
え?何故ライラが私に謝るでしょうか?
むしろ、彼女を巻き込んだ私の方が、謝るべきではないの?
やはり、彼女は責任感が強い人だな。
「気にしないで、ライラ。貴女は私の専属メイドであって、護衛ではないわ。それに、仕方なかったことよ、相手は相手だからね」
「あの不審物、本当に伝説な魔女なの?」
ライラは疑う視線を私に向けた。
どうやら、彼女もアリスティア様を怪しんでいるようだ。その視線に、私は少々気まずくなりながらも、目を泳がせ、おずおずと答えた。
「本物だと思うの……だから、私は彼女に頼んで、弟子入りさせて貰ったの」
恩人にこれ以上誤解されたくないので、私が自ら弟子入りしたことに言い換えた。
それに、もしかしたら、あの時、私の言葉が曖昧のせいで、アリスティア様に誤解を招いたかもしれないし、魔術の先生をお願いしたのも私だし。
「はぁー? アンタ、アホじゃないの!? あんな不審者、本物だとしても、近づきたい人なんていねぇだろう!」
ライラの怒声が部屋中に響き渡った。
突然の叫びに、私は驚いて一瞬固まったが、アリスティア様を庇おうと、言葉を続ける。
「本当に大丈夫ですよ。彼女は私に害意はないので」
「はぁ?」
どの口でそれを言いますか、というような目で見つめられ、私は体を縮めた。
被害者のライラの立場からすると、害意のある人しか見えないよね。
「ライラを大変な目に遭わせてしまって、ごめんね、巻き込んで……でも、私、どうしても魔女様に頼みたいことがあって、これからもお付き合いがありますの」
私の声が段々小さくなり、ライラはしばらく黙って私を見つめていたが、やがて深い息をついて、いつもの落ち着いた表情に戻った。
「……分かったわ。お嬢様がそうおしゃるなら、私は黙って見守るだけです」
「理解してくれて、ありがとう、ライラ」
また硬い口調に戻ったライラに、少し残念に思う一方で、心配してくれたことに嬉しくて、思わず笑った。
部屋は勿論、アリスティア様を見た時の豪華な装飾はなく、極普通な小さな個室だった。何年も放置されたこの部屋は、埃が厚く積もり、ほこりと蜘蛛の巣に覆われていた。
家具もわずかに残っているだけで、壁には薄いピンクの花柄の壁紙が貼られているものの、所々に傷やひび割れが目立ち、一部にはカビまで生えていた。
「あ、ライラ!」
ライラがまだあの空間に残されていることに気づき、どうしようかと不安に駆られ焦り始めた時、突然、空気を切り裂くような緑の光が再び現れた。
ライラの体がまるで物のように光の中から、荒く投げ出され、直後、一匹小さな雀が飛んできて、倒れたライラの体の上に落ちている。
「シズだ、この雀はわたしのペット、名はスズ。彼を連絡役として、一時的に君の所に置く。出掛ける際には、必ず彼を側におくようにしなさい。訓練メニューが完成したら、彼を通じて連絡する。以上」
赤い目をしている雀の口から、不思議なことにシズさんと同じ声が発された。
そして用件を伝え終わると、雀はぱっと目を閉じ、再び目を開けた瞬間、目の色が黒に変わり、まるで普通の雀のように見えた。雰囲気もただの雀とほとんど変わらない、少し首を傾げたその姿は、どこか可愛らしさすら感じる。
彼は私の姿を確認したかのように、私を上下に眺めた後、ふわりと私の肩に飛んできた。
「うわっ……あの、スズ、これからはよろしくお願いしますね」
動物とはあまり親しみがなかった私は、肩に乗った小さな生き物に少しおそるおそると、挨拶をした。
すると、スズはまるで私に返事したように、「チュンチュン」と愉快そうに鳴いた。
***
ライラが目を覚ますまで、私は椅子に腰をかけ、燈花を大事に両手の上に載せて、店の外に通り過ぎる人々をぼんやりと見つめながら、心の中で考え事を整理している。
幸い、ライラが投げ落とされた位置は、それほど高くなかった。秋服とマントも緩衝材として機能し、床にぶつかるところに傷は残っていない。すぐに意識を取り戻すだろう。
預言の魔女アリスティア様に会った短いはずの時間が、時の流れは錯乱したように、長くも感じられた。その一方で、目眩く出来事は急流のように私を押し流し、万華鏡を覗き込んだかのような目眩く非日常な世界に翻弄された。
正直なところ、初めて願いを尋ねられた時は、怖さはあったけれど、お母さんから頼まれた<神木の枝>ことを、魔女様にお願いしようという考えが一瞬浮かんでいた。
しかし、過去に一度も親戚や周囲の噂から、お祖父様の家にそのような伝説な品が受け継げている話は聞いたことがないので、無闇にばらす訳にはいかないとも思った。
もし、もしも私が、いくら努力しても、自分のレベルを8まで上げられないなら……
その可能性の方が高いわね。
ならば、せめて公爵令嬢としての権力を利用して、慈善事業の一環として、信頼できる人を援助し、他人を上げるのも、手段の一つとして考えられるわ。
しかし、そのためには、叔父様に断われないような言い訳を考えて、公衆の前で彼に直接に談判する必要があるので、考えるだけで胃がギシギシする。
魔術の先生は見つかったので、冒険者ギルドに依頼する必要はもうないかもしれないけれど、やはり後で雑貨店には行こうかな。
お金がないと、城下町では何もできないからね。それに、この店を専門の人に頼んで掃除してもらいたいから、その分の金を用意する必要があるわ。
なんだか、この店は私の秘密基地のようで、少しドキドキしますね。
「ここは……?お嬢様、無事か?」
背後から聞こえた焦ったライラの声に、私の彷徨っていた意識が戻り、すぐに立ち上がり、ライラの元へ駆け寄る。
「ライラ、私はここよ。具合はどうです?何もなかった?」
「お嬢様!……守れず、申し訳ありません」
ライラは私の姿を見て、少しほっとして、すぐに悔しそうに唇をきつく噛み締めた。
え?何故ライラが私に謝るでしょうか?
むしろ、彼女を巻き込んだ私の方が、謝るべきではないの?
やはり、彼女は責任感が強い人だな。
「気にしないで、ライラ。貴女は私の専属メイドであって、護衛ではないわ。それに、仕方なかったことよ、相手は相手だからね」
「あの不審物、本当に伝説な魔女なの?」
ライラは疑う視線を私に向けた。
どうやら、彼女もアリスティア様を怪しんでいるようだ。その視線に、私は少々気まずくなりながらも、目を泳がせ、おずおずと答えた。
「本物だと思うの……だから、私は彼女に頼んで、弟子入りさせて貰ったの」
恩人にこれ以上誤解されたくないので、私が自ら弟子入りしたことに言い換えた。
それに、もしかしたら、あの時、私の言葉が曖昧のせいで、アリスティア様に誤解を招いたかもしれないし、魔術の先生をお願いしたのも私だし。
「はぁー? アンタ、アホじゃないの!? あんな不審者、本物だとしても、近づきたい人なんていねぇだろう!」
ライラの怒声が部屋中に響き渡った。
突然の叫びに、私は驚いて一瞬固まったが、アリスティア様を庇おうと、言葉を続ける。
「本当に大丈夫ですよ。彼女は私に害意はないので」
「はぁ?」
どの口でそれを言いますか、というような目で見つめられ、私は体を縮めた。
被害者のライラの立場からすると、害意のある人しか見えないよね。
「ライラを大変な目に遭わせてしまって、ごめんね、巻き込んで……でも、私、どうしても魔女様に頼みたいことがあって、これからもお付き合いがありますの」
私の声が段々小さくなり、ライラはしばらく黙って私を見つめていたが、やがて深い息をついて、いつもの落ち着いた表情に戻った。
「……分かったわ。お嬢様がそうおしゃるなら、私は黙って見守るだけです」
「理解してくれて、ありがとう、ライラ」
また硬い口調に戻ったライラに、少し残念に思う一方で、心配してくれたことに嬉しくて、思わず笑った。
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