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13晩目 ホースケさんとジェシー

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「あなたにとって悪い話じゃないと思うのですが?」
「何度でも申し上げますが、お断り致しますわ どうぞそれを持っておかえりください」

 ジェシーは、笑顔を崩さず目の前にいる黒いローブを身に纏った男に言い放った。男は、態とらしく大きなため息を吐くとジェシーの前に積み上げた大金を片づける。

「あまり欲張ると碌な目に遭いませんよ」
「出口は、あちらです どうぞお帰りください」

 男は、「帰るぞ」と付き添っている従者に鞄を持たせるとソファーから立ち上がった。

「ああ 最近お怪我をなされたとか 最近は物騒ですからお気をつけください」
「お気遣いありがとうございます お帰りください」

 変わらないジェシーの態度にフンと鼻を鳴らして男は店を出て行った。ドカンと何かを蹴飛ばした音が聞こえて来たが、ジェシーは気にも留めなかった。

 カランコロン

「ただいまー」

男と入れ替わるようにホースケが明るい声を出して店に帰ってきた。もちろんニールも一緒だ。店内の空気もガラリと変わりジェシーの心も綻ぶ。

 頼んでいた薬も受け取ってきてくれたようで、テーブルの上に荷物を置いたホースケが、心配そうな顔をしてジェシーを覗き込んだ。

「今、入れ違いに変な男が出て行ったけど 大丈夫か?」
「あら、何のことかしら?」

 カラカラと笑うジェシーにホースケが少しムッと唇を尖らせる。ニールは満足した顔をして座っているジェシーの膝に顎を乗せる。

 優しくニールの頭を撫でながら、視線をそっと棚の上に向けた。棚の上には写真が飾ってあり少し若いジェシーと見覚えのある男性が写っている。

「ジェシーさん その写真に一緒に写っている男の人って誰?」
「もう、私の大切な人よ もう二度と会えないんだけどね」

 寂しそうな瞳をしたジェシーは、「くーん」と心配そうに鳴くニールの頭を優しく撫でる。

「俺、ハルミが丘の木の側でその人と会ったよ」
「う……そ」

 ニールの頭を撫でていた手のひらが、ピタッと止まった。ゆっくりとホースケの方に顔を向けるが、すぐに諦めの表情で「そんな筈はない」と左右に首を振った。

「ジェシーさんに『あなたのお陰で帰って来れました 僕は、幸せでした』って伝えてって頼まれたんだ」
「あぁ ニール」

 ジェシーは、大粒の涙を流しながら両手で顔を覆った。
 
「アイツらお店の前のゴミ箱蹴飛ばしたから片付けてくる」

 ホースケは、そっと扉を開けて店の外に出て行った。店内からジェシーの泣き声が聞こえてくる。ジェシーが落ち着くまでゆっくりと丁寧に店先の散らばったゴミを片付けた。

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