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2晩目 ホースケさん、異世界に飛ばされる

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「何が起こった?」

 額がジンジンする。おでこをさすれば、ボロボロとお札らしき物が剥がれ落ちた。

「悪霊退散って 俺のこと?」

 何と失礼極まりない。初対面の相手に対して、悪霊呼ばわりするなんてとホースケは、憤慨する。テレビ局に抗議をするべきか、それとも直接スタッフに物申すべきか、腕を組考える。抗議をするにしても、一旦お札は持ち帰るべきかとそっと視線を足元に向けた。

 足元に落ちたお札を見て………。
 足元に落ちたお札を…………。

 ホースケは、じっと下を見回す。キョロキョロと視線を彷徨わせても、あるべきものがない。

「俺の足がない!というか、俺、浮いてる!」

 改めて知る衝撃的な事実。ホースケは、自身がこの世の非る者だと始めて気がついた。

 考えてみれば、あのアパートにいつから居たのか思い出せない。部屋の住人が居たが、何処の誰だか知らない。

 そういえば、あの胡散臭いお坊さんは、何処に行ったのだろう。あれだけたくさんいたテレビ局のスタッフも、今は何処にも誰も居ない。というか、いつもいたアパートの部屋ではないようだ。

 お坊さんが撒き散らしたお札が原因だろと思うけど、今までは根が張ったように部屋の中で過ごしていた。

 ただ、ホースケはじっと部屋の中にいただけだった。所謂、地縛霊と呼ばれるオバケが、ホースケだった。

「オバケは、自分がオバケだって気づいてないってのは、本当なんだなぁ」

 お札をおでこに貼られて、初めて自分がオバケである事を知ったのだった。

 ふよふよと夜空に浮かび、顎に手をあて首を傾げる。あのアパートの一室から動けなかったが、今は自由に移動することができる。

 ホースケは、ポンと手を叩き一つの結論に辿り着く。

「これって地縛霊から浮遊霊にジョブチェンジできたってことじゃねぇ?」

 浮遊霊も地縛霊も、ただのオバケである事には変わりないが、移動することができるようになったことが嬉しい。

 両手の拳を握り、「よっしゃ」と喜びを噛み締める。夜空を自由に飛び回り、街を探索する。

 石作りの建物が醸しだす重厚感と不思議な哀愁漂う美しさ、自然との調和が素晴らしく、歴史ある建造物は恋人たちのデートスポットのようだ。水路を利用した商業施設も活気が溢れている。

 夜空を見上げれば、宝石箱をひっくり返したように星々が自己主張しているかのように煌めき、お月様の輪っかにも手が届きそうだ。

「うん?………そもそもお月様って輪っかあったっけかな?」

 遠い昔に見た記憶を思い起こしても、お月様に輪っかが見えた記憶は何処にもなかった。

 改めて、街ゆく人々を空から眺めて見ると少しホースケが知る人間と風貌が違う。

 髪の毛の色は、赤かったり青かったり、緑だったり。瞳の色も、同じように赤かったり、青かったり、緑だったり……。さらには、頭の上には、ぴこぴこ、もふもふと獣の耳が生えている。中にはトカゲのような種族や背中に羽根がある種族も垣間見えた。

「アパートに引きこもっていた間に、随分と世界は様変わりしたようだっていうか、ここって俺がいた世界と違うんじゃね?」

 既に時を止め動かなくなった心臓が、ドキドキと鼓動を打ち出したような高揚感に襲われた。

「俺、お札に弾かれて異世界に来ちゃったっちゅうこと?」

 オバケだと自覚はしてみたものの、成仏したいかと問われたら、別にしたいとは思わない。逆に浮遊霊として行動範囲が広がった今の方が、この世というかこの異世界に執着という名の未練を募らせていた。

 そして、一つの結論に辿り着く。

「ぐふふふふっ オバケの俺には、時間が無限にあるじゃないか!神さま、仏様さま、こんな素敵な世界に呼んでいただき、どうもありがとうございます 俺は、今日から、この世界で新しきオバケ生を生きていきます   もう、死んでるけどね」

 ヤッホイと空を漂いながら、クルクルと宙返りを繰り返していたのだった。


 
 



 
 

 



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