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1章 

007 黒い執事とスチームアイロン

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 「本を並べるだけですから、大丈夫ですよ」

 あの時、セバスチャンは、自信満々に言ってのけた。一抹の不安が無かったとは言い切れないが、見栄えが悪くとも、本を書棚に並べるだけなら、出来るだろうと判断した。

 なのにたった半日程度で、足の踏み場も無いくらいに書庫が荒れ果てている。よく見れば、スナック菓子やら食い散らかした証拠品も残っている。

 「さて、申し開きを聞こうか?」

 少しばかり声が低くなったのは、許して貰おう。涙目で、瞳を潤ませ助けを乞う、特攻服を着たセバスチャンの口の周りには、スナック菓子の欠片がへばり付いているのを見逃してはならない。

 「…あの、…最初は、…少しずつ ……木箱から出して……並べてたんですよぉ」

 上目遣いに弱々しく伝えてくるが、全くもって可愛らしくない。

 「……んで?」
 「つ、つい 気になる……ま、魔導書なんかを……見つけてしまいましてぇ ……こう……パラパラッと」

 本を開くような仕草をしながら、ビクビクと総司の様子を伺いつつしょんぼりと肩を落とす。

 「あぁ、開いちゃったんだね 読み老けちゃったんだね だがしかし、この惨状は、おかしいだろう」

 バンバンと溢れ返った本類を叩きながら、ここも、あそこもと指を挿す。

 明らかに人が寝そべって本を読んでいただろうスペースや、山積みになった本が雪崩を起こしている場所や、何処からか持って来たであろう皿に盛られたスナック菓子の数々。現場に残された証拠品が、犯人セバスチャンの行動を物語っている。

 「は 反省してます!!!」

 ババッと正座をし、額を床に擦り付け土下座をかますセバスチャン。

 取り敢えず、セバスチャンは、一人で作業をさせてはいけない人物であると、固く心に誓う総司だった。



 「痛い!痛いですぞ!」
 「だまらっしゃい とにかく、一緒に来い!」

 荒れ果てた書庫は、後回しにして、セバスチャンの長い耳を引っ張りながら、スタスタと歩いていく。セバスチャンの避難は、まったくもって無視だ。反省した素振りを見せようとも、このおバカ執事は、信じてはいけない。

 「にゃにゃ? 総司さんとセバスチャンニャン」
 「ソフィー、ニノ!お疲れさん 頑張ったね」

 何処ぞのダメ執事とは異なり、任された仕事をしっかりと終わらせていた猫耳メイド。ニャンっと可愛らしい鳴き声を出しながら、出迎えてくれる。赤くなった耳を摩るセバスチャンをサラッとスルー出来ている点も高評価である。

 「お待たせ!便利家電を持って来たよ」
 「もしかして、私のことを言ってます?」

 ちょっぴり抗議の姿勢を見せるのは、耳が思いの外、痛かったから。セバスチャンの動きを逆手にとって、技と右に左にと振り回し、力を込めてみたりしていたのは、愛情たっぷり込められた罰である。

 「何のことかなぁ? それとも汚部屋製造機って言われたいのかなぁ?」
 「か、勘弁してください」

 二人のやり取りを見て、首をコテンと傾げるソフィーとニノ。吊り下げられた衣装からほんのりとアクアジャスミンの香りが、ささくれた総司の心を解してくれる。

 ふうっと深呼吸を一つして、総司は吊るされた衣類の状態を確認、ぎゅうぎゅうになり過ぎないように程よく隙間を確保する。

 「セバスチャン、熱く熱した岩を出せるかい?」
 「こ、こうですか?」
 「良いね、じゃあ、俺たちは少し離れていようか」

 触れれば大惨事になりそうなほど、赤くなった岩をひょいと作り出せる腕前は、さすがと言っても良い。

 「ソフィーとニノは、部屋の外で待機 セバスチャンは、その位置か動かないでね」
 「「かしこまりニャン」」
 「は、はい!」

 総司も直ぐに部屋の外へ出れるよう扉前まで移動する。

 「よぉし セバスチャンは、その岩にゆっくりと水をかけていって!ただし、岩の温度は下げないように!」
 「えっ? はい? ……ブワァ!!」
 「岩!!」
 「は はい!」

 水をかけた岩からモウモウと立ち昇る水蒸気。側から見れば、鬼畜な指示だが、セバスチャン火傷一つ負ってはいない。ただ勢いに驚いて狼狽えただけである。

 指示が明確であれば、卒なく熟せることはわかっているので、熱した岩にどんどん水をかけさせる。ジュワジュワ、もうもうと衣装部屋に水蒸気が吊るされた衣装を包み込むように充満していく。

 湿度と温度が上昇して、衣装部屋が、サウナ状態と化する。自宅でもスーツの着用性が発生した時、風呂場のシャワーを利用して実践していた方法の一つで、湯気でモウモウにした後、一晩置いておくと、意外にもシャッキリと皺が伸びるのだ。シャワーよりも高温なスチームが出来上がるため、衣類の皺がより早く伸びている。

 「スチームアイロンセバスチャン、そこまで!お疲れ様」
 「今度は、お、お役にたてましたかな?」


 振り返ったセバスチャンは、べったりと額に髪の毛が張り付いていた。
 総司は、満面の笑みを浮かべ、親指をビシッと立てて見せた。



 








 
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