とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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食事が終わり、トウちゃんがお風呂から上がってくるのを待って、僕と雪ちゃんはリビングでお茶を飲んでまったりしていた。

「雪ちゃん、言い辛いことだったら、僕話してもらわなくても大丈夫だよ」

雪ちゃんは、ふるふると首を左右に振った。

「信君も寧々さんのこと知りたいのに、気を使わなくても大丈夫よ。私も、いつかは信君に知ってもらいたいと思っていたことだったし」

雪ちゃんは、家に来ると必ずお母ちゃんの仏壇で手を合わせてくれる。綺麗なお花を供えてくれる。トウちゃんが教えてくれた通り、本当にお母ちゃんのことが大好きだったんだと思う。

だけど、トウちゃんも雪ちゃんも思い出をあまり語らないのは、あまり話せない事情があると思っていた。

トウちゃんがお風呂から上がり、冷たい麦茶を用意して、僕は雪ちゃんが話し出すのを待った。

「私と藤吉は、保育所で出会ったの。私の母親は、看護士をしていたんだけど、父親の存在を知らなかったの。藤吉もお母さんが病気で入退院を繰り返していたから、昼間は同じ保育園に預けられていたのよね」

懐かしむように雪ちゃんは、話していく。だけどどこか寂しそうにも見えた。

「藤吉は、寧々さんが送り迎えしてくれたんだけど、私の親はその辺あまり無頓着でね。母親が仕事から戻ってくるまで、私も一緒に世話をしてくれていたのよ」

僕の知らないお母ちゃんの子供の頃の話しだ。

「喧しい男の子二人をよく面倒見てくれて、一緒に遊んでくれて、本当に大好きだった」

トウちゃんも、雪ちゃんの会話を遮る事なく黙っている。

「だけど、私は保育所に行くことが出来なくなったの。私の母親は、ある男に言い寄られ、私を身籠ったの。結婚するつもりも最初から無かったみたいだし、父親とも愛情があった訳じゃなかった。産めば、お金になる程度で私を産んだの」

信じられない話だった。トウちゃんも否定せずに黙っている。僕を揶揄う二人じゃないのは、解っている。言っていい冗談でもないことが、僕にこの話が事実だと理解させた。

「ある日、父親が認知をして、私は母親の元から父親の元で暮らすことになった。そこで初めて私が私生児である事を知ったの。父親には、母親とは別の妻がいたから」

ここまで聞いて初めてトウちゃんが口を開いた。

「俺は突然居なくなった雪と会いたいと、何度も姉貴に言い続けていたんだ。俺には、なぜ雪が居なくなったのか理解できなかったからな。困った姉貴は、雪の母親に連絡先を聞いて、雪が引き取られた家に連絡を取って、俺を連れて行ってくれたんだ」

「私もまた寧々さんと藤吉に会えて嬉しかった」

お母ちゃんが、また二人を引き合わせたんだと思い、少し嬉しくなった。ここまで聞いて、何故、内緒にする必要があったのか疑問に思った。だけど、その後雪ちゃんからの告白で、雪ちゃんの闇だと理解した。

「私の父親は、柴田 勝十郎。歌舞伎役者なの」

「姉貴が居なくなるまでは、約1年位は、雪の実家に足を運んだな」

そして、お母ちゃんは突然居なくなった。

「トウちゃん、お母ちゃんは、僕を産むためにいなくなったんだね」

雪ちゃんもトウちゃんも何も言わなかった。無言の肯定。涙がホロリと出てしまう。

「信、勘違いするなよ。俺はお前が生まれてきて良かったんだ」
「そうよ信君、私も出会えたことに感謝してるの」

二人は、僕を気遣って内緒にしてくれていた。お母ちゃんが居なくなった事を、僕が気にすると解っていたから。

トウちゃんも雪ちゃんも両脇から僕を抱きしめてくれる。だけど、僕は涙が止まらなかった。





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