とうちゃんのヨメ

りんくま

文字の大きさ
上 下
36 / 66
1章 絆

36

しおりを挟む
トウちゃんの怪我も順調に回復している。頭の傷も抜糸され、今日は病院に在中しているヘルパーさんに頭を洗ってもらったと喜んでいた。

順調にいけば来週には、腕のギブスも取れる見込みだ。足のギブスは、もう少しかかりそうだけど、ケンケンで移動したりしているのを見ると、全開も遅くはないだろうと思っている。

「ただいま」

僕は、爺ちゃんとお母ちゃんの仏壇に手を合わせた。トウちゃんが、退院したら気持ち良く過ごせるように、家の換気と掃除に立ち寄った。

「しばらく、お家を開けてごめんなさい。今、トウちゃん入院してて、僕は雪ちゃんの家でお世話になってるんだ」

手をしばらく合わせ、お母ちゃんたちに近況を報告した。

まずは、動きやすい服に着替えて、家中の窓を開けて換気をしていく。天気も良いからお布団も干しておこう。

たった二週間、されど二週間。意外と埃が積もって、なんだか薄汚れた感じがする。一部屋ずつハタキで埃を落とし、掃除機をかけていく。トイレやお風呂場も磨いて、廊下の雑巾掛けもしていく。お風呂場がカビだらけにならないように、しっかりと水がはけてタイルが乾くまで、換気を十分にしておこう。

お昼ご飯としてコンビニで買ってきたおにぎりとお茶を取り出し、縁側に腰掛けた。小さいけれど庭もある、春先にトウちゃんと植えたさくらんぼの苗木を観ながら、ゆったりとお昼ご飯を食べた。

さくらんぼの苗木に雀がぴちぴちと止まって遊んでいたので、大先生から渡された携帯電話で、さくらんぼの苗木をパシャリと写す。トウちゃんと雪ちゃんにLINEを送信してごろりと横になった。

雪ちゃんのお家は、タワーマンションのため、ベランダがない。縁側でゴロゴロしたりもできない。改めて、我が家の居心地の良さに安らぎを感じていた。

ホカホカになったお布団を取り込み、一つ一つ窓を施錠していく。爺ちゃんとお母ちゃんに挨拶をして、僕は玄関の鍵を閉めた。





「信君、やっと捕まえた」

不意に後ろから肩を抱かれ、耳元で久美子さんに囁きかれた。同時に、側に車が停車すると、久美子によってボックスカーの後部座席に押し込まれた。逃げようと久美子さんを押し退けようとするけど、車は僕たちを乗せて動き始めた。

「早く、車を出して」

半狂乱に叫ぶ久美子さんに、運転手は黙ったままアクセルを踏んだ。

僕は暴れたけど、久美子さんは馬乗りになって、僕の頬を思いっきりバチンと殴ってきた。久美子さんに殴られた記憶が蘇り、体が竦んでしまう。

「ずっと探していたのに、いけない子ね」

ギュッっと目を瞑り、体を小さくしても容赦なく何度も何度も頬を打たれた。

「あんたはね!私の言うことを聞いてれば良いの!」

ハアハアと肩で息をしながら殴り続ける。

「あんたのせいで、大損してんだから!せめて恩返しくらいしなさいよ」

平手で何度も叩かれる、頬が痺れる。ヒステリックになった久美子さんは、いつもこうやって僕を殴っていた。

頬が腫れ、涙でぐちゃぐちゃの僕を見て、久美子さんはスッキリしたのかようやく殴る事をやめた。

久美子さんは、馬乗りにになったままガムテープを取り出して、僕の手首、足首を縛る。醜く歪む久美子さんの顔が僕に向けられ、僕は硬直していた。

口、目とガムテープを貼られ、僕は後部座席に転がされていた。

「また、暴れられたらヤバいんじゃないんですか?」
「大丈夫よコレ使うから」

何かが体に押し付けられ、バチバチっと電流が走った。2、3度押し当てられ、海老反りになった。

笑う久美子さんの声が、遠くに聞こえた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

処理中です...