どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

文字の大きさ
上 下
58 / 59

58

しおりを挟む
「手を離せよ!」

 痛みに耐えながら声を荒げるが、抗う玲への嫌がらせが愉しいのか更に力を強めてくる。

「叔父上、約束が違います!」
「黙れドーリン!」

 悔しそうに歯を食いしばり、膝をついて玲から視線を逸らす。叔父の言われるがままに従ってきた報いなのかと後悔と懺悔の思いで一杯になる。

 誰もが腫れ物に触るような態度で扱われて生きてきた。自分自身の今までの態度が、全ての根源であることは気づいていたが、態度を改めるのにプライドが許さなかった。

「私は、お前に期待をしているのだよ。さぁ、ドーリン。お前の力をもう一度見せておくれ」
「な、何を?」

 ドーリンが顔を上げると嬉しそうな笑みを浮かべるドデモスと苦痛に顔を歪める玲の姿が視界に入る。

「魔術具が完成したのだろう?美しいその装飾品をサトシの首に着けてやってくれ」

 もう一度、玲を洗脳しろと顎で指示を出す。その為に、魔術具を外しわざわざ支配を解いたのだと言った。

 ドデモスは、既に玲の支配が解けていた事に気付いていない。だからこそ、再度支配をしろと言ってきたと理解ができた。

 魔術具による支配が解除出来たのは、偶然だったかもしれない。二度目は、無理なのではないか?そんな不安が頭によぎる。

 自分の横に取り揃えた20個もの魔術具が入った箱を見る。全てニセモノを作成するつもりでいたが、ドミニクを通じて玲からホンモノも作るように諭された。

「ドーリン、何を迷うことがある?」

 もう一度顔を上げると玲の唇が僅かに動く。「俺を信じろ」ドーリンは、唇の端が弧を描きそうになるのを隠す為、下を向く。

(お前は、いつも俺と向き合ってくれるんだな)

 箱の中から、魔術具を一つ掴むと、ドーリンは立ち上がる。

「叔父上、そのままサトシを抑えといてください」
「ド、ドーリン!や、やめてくれ」

 イヤイヤと首を左右に振ろうとするが、ドデモスはそれを許さない。

「可愛い甥の頼みだ。喜んで手伝ってやろう」
「サトシは、私に下げ渡してくださいね。約束ですよ」
「善処しよう」

 赤い石のついた魔術具をそっと後ろから前にと首に巻き付ける。パチリと合わせると玲の首の太さへ自動的に縮まって行く。

「アガッ、アアアアァァァァァ」

 ガクガクと頭を揺らし、口の端から泡を吹く玲。その姿を見て、ドデモスは愉快そうに玲を掴んでいた腕を離した。

 支える者がいなくなった玲は、両膝を床に突き四つん這いになる。ドーリンは、そのまま後ろに下がり、元いた位置で膝を突き、じっと玲の様子を見ていた。

 ドデモスは、蹲って呻き声を上げる玲を愉快そうに見ながら、グラスにワインを注ぎ、グイッと煽った。その姿に趣味が悪いとドーリンは、嫌悪感を覚える。

 玲の動きが止まり、ゆっくりと立ち上がる。目の焦点は定まらず、口の端からは泡と涎が垂れ流され、正気ではないと誰もが思わされる。

 ゆっくりと玲の腕が、首に巻かれた赤い石に触れる。力なく、一回、二回、三回と指先で石をそっと撫でた。

「サトシ、私のブーツが汚れている。どうすれば良いか、わかるよな」

 ドデモスが、態とらしく足を組み替え汚れたブーツをこれ見よがしに見せてきた。

 玲は、ドデモスの前に膝を付き、両手をブーツに添える。無表情の顔のままそっと唇で汚れを拭った。

「ワハハハハ!愉快、愉快だ!もういいぞ」

 玲の顔面を蹴り飛ばし、ドデモスは楽しそうに大声をあげて笑った。玲は、床に突っ伏したまま顔を上げない。だけど、玲の唇の端は、弧を描き上を向いていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと

Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】 山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。 好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。 やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。 転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。 そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。 更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。 これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。 もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。 いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。 理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか? ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 10時19時投稿、全話予約投稿済みです。 5話くらいから話が動き出します。 ✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...