どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

文字の大きさ
上 下
57 / 59

57

しおりを挟む
 ドミニクは、玲が軟禁されている扉の前に立つと軽くノックをする。扉の中からは、特に返事は帰ってこない。

 今日、共として連れているのは、ドマーニ。以前は、朗らかによく笑う男だった。虚な瞳のまま、ドミニクの隣に立っている。

 ゆっくりと扉を開き、中に入る。玲が、ドミニクの入室に気がつき振り返る。赤い石を三回触ると玲も同じように三度ほど赤い石を撫でる。ドマーニは、赤い石を撫でるが、ただそれだけだ。

 ドミニクは、このサインは、本当によく機能していると思った。ドマーニが支配されている者だと一目でわかる。

 いつものように玲は、ゆっくりとドミニクたちに近寄って、ドマーニ警戒する前に両手で赤い石のついたチョーカーを触る。

「アガッ!」

 短い悲鳴をあげたドマーニの身体から力が抜け、ペタリと床に座り込んだ。

 ハァ、ハァと肩で息をするドマーニを直立したまま、ドミニクは待った。

「ド、ドミニク様……これは?」
「おかえり、ドマーニよ」

 見上げるドマーニの瞳に光りが戻る。額はびっしりと汗で濡れているが、付き物が落ちた表情は晴れやかだった。

 玲たちは、着実に支配からの解放者を増やしていった。

「それで、ドデモスの様子は?」
「ワインを浴びるように飲み続けて踏ん反り返っているよ」
「うわぁ、絵に描いたように嫌なヤツだね」

 玲の感想に苦笑いを浮かべる。

「それで、ドーリンは?ドミニクさんは、接触できるんでしょ?」
「あぁ、作業部屋で支配の魔術具の追加作成を言い渡されている」

 ドミニクもドマーニも辛そうな表情をしてチョーカーを触った。

「ドーリン様は、側だけの機能が伴わない魔術具をお作りになるそうだ」
「いわゆるニセモノを作るってこと?」

 そうだとドミニクは頷いた。フフンと鼻を鳴らして、玲は顎を撫でる。

「ニセモノってバレたらドーリンがヤバくない?」
「サトシ、我々とすれば城の者を解放してもらった後、サトシを仲間の元へ返しレッドタウンから神殿へ無事お帰りいただくようにと指示を受けております。ご心配は不要です」

 自分のことは、自分でするからと言われた気がしてムッとする。十分巻き込まれているし、中途半端な状態で逃げ出しても、レッドタウンが救われなければ、元も子もない。

「ダメだよ。ドデモスは、そんなに甘くないよ」

 ドデモスは、支配欲が強い。無事に玲が逃げ出せたとしても、ドデモスの更迭が失敗に終われば、元の木阿弥だ。

「酒に溺れている間に、次の罠を用意しよう」

 何か策があるのかと、ドミニクとドマーニが尋ねた。

「取り敢えず、ドーリンにはホンモノも5個は作るように伝えてよ」
「わかった。必ず伝えよう」






 数日後、玲は、久々に部屋を出た。

 ドミニクではなく、ドンファが一人で部屋に入ってきたことで、玲に緊張が走る。お互いにサインを確認し、洗脳状態でないことを認識した上で、会話をはじめた。

「ドデモス様がお呼びです」
「もしかして、魔術具が出来上がった?」
「そのようです」

 ドンファの少し後ろをついて歩く。部屋では、ドデモスがワイン片手にイヤらしい笑みを浮かべ、玲たちを待っている。支配されていないことを悟られないように、表情が読み取り難いように少し俯いた。

「叔父上、約束通りサトシを下げ渡して頂きたい」
「ほほう、余程その者に執着をみせるか……ククッ」

 ワインを煽りながら、愉快そうにドーリンに応える。久々に顔を見たドーリンは、少しやつれて無精髭が生えている。ずっと部屋に篭って魔術具の作成をしていたのだろう、薄汚れた作業着を着ていた。

「私も、可愛い甥の願いを聞いてやりたいとは思っている。だから、こうしてサトシの姿を見せてやっている……だが、まだ私は心配なのだよ」

 ドデモスは、玲を見ると手のひらを上に向け、人差し指を自分の方に折り曲げながらドンファに玲をドデモスの側に連れて行くように指示を出す。

 ドンファが無言で玲の腕を引き玲をドデモスの側に誘導すると跪いた。玲は、無言のまま俯いて黙っている。

「サトシよ、後ろを向きなさい」

 ゆっくりと背後のドーリンに向き直る。玲を見て赤い石を三回叩く者、叩かない者がいる。不意に肩に手を置かれ、ドデモスの顔が側に寄せられ思わず肩を竦めそうになった。

「ドーリンよ、コレが欲しいか?」
「……はい」

 ドデモスの太い指が首筋を伝い、ゾワゾワと背中に虫唾が走るのを息を呑んで耐える。アルコール臭い息が、気持ち悪さを助長していく。ポトリと足元に何かが落ちる。視線を下に向けると、今まで首についていたチョーカーだった。

 自分の首を触りながら、足元のチョーカーと目の前のドーリンを見比べた。

 タタッ。玲は、駆け出しドーリンに抱き着いた。

「ドーリン!ドーリン!怪我はないか?大丈夫か?」
「あぁ、あぁ、私は無事だ」

 ドーリンも玲に答え、強く抱きしめ返した。お互いの無事を喜び合う姿を、ドデモスはゆっくりと拍手をしながら近づいてきた。

「叔父上、下げ渡してくださるのではないのですか?」

 玲を庇うように背後に隠そうとするが、ドデモスは玲の髪の毛を鷲掴みにしてそれを許さない。

「ドーリン、私は言っただろう。心配なのだと」

 痛がる玲を引き寄せ、顎ごと頬を挟む。身動き出来ない玲の顔の側に酒臭い唇を持ってきて頬をペロリと舐めた。

「オッサン、止めろよ!」

 ジタバタと手足を動かすが、流石ドワーフ。玲の力ではびくともしなかった。

 









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

異世界帰還者、現実世界のダンジョンで装備・知識・経験を活かして新米配信者として最速で成り上がる。

椿紅颯
ファンタジー
異世界から無事に帰還を果たした、太陽。 彼は異世界に召喚させられてしまったわけだが、あちらの世界で勇者だったわけでも英雄となったわけでもなかった。 そんな太陽であったが、自分で引き起こした訳でもないド派手な演出によって一躍時の人となってしまう。 しかも、それが一般人のカメラに収められて拡散などされてしまったからなおさら。 久しぶりの現実世界だからゆっくりしたいと思っていたのも束の間、まさかのそこにはなかったはずのダンジョンで活動する探索者となり、お金を稼ぐ名目として配信者としても活動することになってしまった。 それでは異世界でやってきたこととなんら変わりがない、と思っていたら、まさかのまさか――こちらの世界でもステータスもレベルアップもあるとのこと。 しかし、現実世界と異世界とでは明確な差があり、ほとんどの人間が“冒険”をしていなかった。 そのせいで、せっかくダンジョンで手に入れることができる資源を持て余らせてしまっていて、その解決手段として太陽が目を付けられたというわけだ。 お金を稼がなければならない太陽は、自身が有する知識・装備・経験でダンジョンを次々に攻略していく! 時には事件に巻き込まれ、時にはダンジョンでの熱い戦いを、時には仲間との年相応の青春を、時には時には……――。 異世界では英雄にはなれなかった男が、現実世界では誰かの英雄となる姿を乞うご期待ください!

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 ~社交の輪を広げてたらやっぱりあの子息が乱入してきましたが、それでも私はマイペースを貫きます~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『和解』が成ったからといってこのあと何も起こらない、という保証も無いですけれどね」    まぁ、相手もそこまで馬鹿じゃない事を祈りたいところだけど。  *** 社交界デビューで、とある侯爵子息が伯爵令嬢・セシリアのドレスを汚す粗相を侵した。 そんな事実を中心にして、現在社交界はセシリアと伯爵家の手の平の上で今も尚踊り続けている。 両者の和解は、とりあえず正式に成立した。 しかしどうやらそれは新たな一悶着の始まりに過ぎない気配がしていた。 もう面倒なので、ここで引き下がるなら放っておく。 しかし再びちょっかいを出してきた時には、容赦しない。 たとえ相手が、自分より上位貴族家の子息であっても。 だって正当性は、明らかにこちらにあるのだから。 これはそんな令嬢が、あくまでも「自分にとってのマイペース」を貫きながら社交に友情にと勤しむ物語。     ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第4部作品です。 ※本作品までのあらすじを第1話に掲載していますので、本編からでもお読みいただけます。  もし「きちんと本作を最初から読みたい」と思ってくださった方が居れば、第2部から読み進める事をオススメします。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  以下のリンクを、それぞれ画面下部(この画面では目次の下、各話画面では「お気に入りへの登録」ボタンの下部)に貼ってあります。  ●物語第1部・第2部へのリンク  ●本シリーズをより楽しんで頂ける『各話執筆裏話』へのリンク  

処理中です...