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ドミニクは、玲が軟禁されている扉の前に立つと軽くノックをする。扉の中からは、特に返事は帰ってこない。
今日、共として連れているのは、ドマーニ。以前は、朗らかによく笑う男だった。虚な瞳のまま、ドミニクの隣に立っている。
ゆっくりと扉を開き、中に入る。玲が、ドミニクの入室に気がつき振り返る。赤い石を三回触ると玲も同じように三度ほど赤い石を撫でる。ドマーニは、赤い石を撫でるが、ただそれだけだ。
ドミニクは、このサインは、本当によく機能していると思った。ドマーニが支配されている者だと一目でわかる。
いつものように玲は、ゆっくりとドミニクたちに近寄って、ドマーニ警戒する前に両手で赤い石のついたチョーカーを触る。
「アガッ!」
短い悲鳴をあげたドマーニの身体から力が抜け、ペタリと床に座り込んだ。
ハァ、ハァと肩で息をするドマーニを直立したまま、ドミニクは待った。
「ド、ドミニク様……これは?」
「おかえり、ドマーニよ」
見上げるドマーニの瞳に光りが戻る。額はびっしりと汗で濡れているが、付き物が落ちた表情は晴れやかだった。
玲たちは、着実に支配からの解放者を増やしていった。
「それで、ドデモスの様子は?」
「ワインを浴びるように飲み続けて踏ん反り返っているよ」
「うわぁ、絵に描いたように嫌なヤツだね」
玲の感想に苦笑いを浮かべる。
「それで、ドーリンは?ドミニクさんは、接触できるんでしょ?」
「あぁ、作業部屋で支配の魔術具の追加作成を言い渡されている」
ドミニクもドマーニも辛そうな表情をしてチョーカーを触った。
「ドーリン様は、側だけの機能が伴わない魔術具をお作りになるそうだ」
「いわゆるニセモノを作るってこと?」
そうだとドミニクは頷いた。フフンと鼻を鳴らして、玲は顎を撫でる。
「ニセモノってバレたらドーリンがヤバくない?」
「サトシ、我々とすれば城の者を解放してもらった後、サトシを仲間の元へ返しレッドタウンから神殿へ無事お帰りいただくようにと指示を受けております。ご心配は不要です」
自分のことは、自分でするからと言われた気がしてムッとする。十分巻き込まれているし、中途半端な状態で逃げ出しても、レッドタウンが救われなければ、元も子もない。
「ダメだよ。ドデモスは、そんなに甘くないよ」
ドデモスは、支配欲が強い。無事に玲が逃げ出せたとしても、ドデモスの更迭が失敗に終われば、元の木阿弥だ。
「酒に溺れている間に、次の罠を用意しよう」
何か策があるのかと、ドミニクとドマーニが尋ねた。
「取り敢えず、ドーリンにはホンモノも5個は作るように伝えてよ」
「わかった。必ず伝えよう」
数日後、玲は、久々に部屋を出た。
ドミニクではなく、ドンファが一人で部屋に入ってきたことで、玲に緊張が走る。お互いにサインを確認し、洗脳状態でないことを認識した上で、会話をはじめた。
「ドデモス様がお呼びです」
「もしかして、魔術具が出来上がった?」
「そのようです」
ドンファの少し後ろをついて歩く。部屋では、ドデモスがワイン片手にイヤらしい笑みを浮かべ、玲たちを待っている。支配されていないことを悟られないように、表情が読み取り難いように少し俯いた。
「叔父上、約束通りサトシを下げ渡して頂きたい」
「ほほう、余程その者に執着をみせるか……ククッ」
ワインを煽りながら、愉快そうにドーリンに応える。久々に顔を見たドーリンは、少しやつれて無精髭が生えている。ずっと部屋に篭って魔術具の作成をしていたのだろう、薄汚れた作業着を着ていた。
「私も、可愛い甥の願いを聞いてやりたいとは思っている。だから、こうしてサトシの姿を見せてやっている……だが、まだ私は心配なのだよ」
ドデモスは、玲を見ると手のひらを上に向け、人差し指を自分の方に折り曲げながらドンファに玲をドデモスの側に連れて行くように指示を出す。
ドンファが無言で玲の腕を引き玲をドデモスの側に誘導すると跪いた。玲は、無言のまま俯いて黙っている。
「サトシよ、後ろを向きなさい」
ゆっくりと背後のドーリンに向き直る。玲を見て赤い石を三回叩く者、叩かない者がいる。不意に肩に手を置かれ、ドデモスの顔が側に寄せられ思わず肩を竦めそうになった。
「ドーリンよ、コレが欲しいか?」
「……はい」
ドデモスの太い指が首筋を伝い、ゾワゾワと背中に虫唾が走るのを息を呑んで耐える。アルコール臭い息が、気持ち悪さを助長していく。ポトリと足元に何かが落ちる。視線を下に向けると、今まで首についていたチョーカーだった。
自分の首を触りながら、足元のチョーカーと目の前のドーリンを見比べた。
タタッ。玲は、駆け出しドーリンに抱き着いた。
「ドーリン!ドーリン!怪我はないか?大丈夫か?」
「あぁ、あぁ、私は無事だ」
ドーリンも玲に答え、強く抱きしめ返した。お互いの無事を喜び合う姿を、ドデモスはゆっくりと拍手をしながら近づいてきた。
「叔父上、下げ渡してくださるのではないのですか?」
玲を庇うように背後に隠そうとするが、ドデモスは玲の髪の毛を鷲掴みにしてそれを許さない。
「ドーリン、私は言っただろう。心配なのだと」
痛がる玲を引き寄せ、顎ごと頬を挟む。身動き出来ない玲の顔の側に酒臭い唇を持ってきて頬をペロリと舐めた。
「オッサン、止めろよ!」
ジタバタと手足を動かすが、流石ドワーフ。玲の力ではびくともしなかった。
今日、共として連れているのは、ドマーニ。以前は、朗らかによく笑う男だった。虚な瞳のまま、ドミニクの隣に立っている。
ゆっくりと扉を開き、中に入る。玲が、ドミニクの入室に気がつき振り返る。赤い石を三回触ると玲も同じように三度ほど赤い石を撫でる。ドマーニは、赤い石を撫でるが、ただそれだけだ。
ドミニクは、このサインは、本当によく機能していると思った。ドマーニが支配されている者だと一目でわかる。
いつものように玲は、ゆっくりとドミニクたちに近寄って、ドマーニ警戒する前に両手で赤い石のついたチョーカーを触る。
「アガッ!」
短い悲鳴をあげたドマーニの身体から力が抜け、ペタリと床に座り込んだ。
ハァ、ハァと肩で息をするドマーニを直立したまま、ドミニクは待った。
「ド、ドミニク様……これは?」
「おかえり、ドマーニよ」
見上げるドマーニの瞳に光りが戻る。額はびっしりと汗で濡れているが、付き物が落ちた表情は晴れやかだった。
玲たちは、着実に支配からの解放者を増やしていった。
「それで、ドデモスの様子は?」
「ワインを浴びるように飲み続けて踏ん反り返っているよ」
「うわぁ、絵に描いたように嫌なヤツだね」
玲の感想に苦笑いを浮かべる。
「それで、ドーリンは?ドミニクさんは、接触できるんでしょ?」
「あぁ、作業部屋で支配の魔術具の追加作成を言い渡されている」
ドミニクもドマーニも辛そうな表情をしてチョーカーを触った。
「ドーリン様は、側だけの機能が伴わない魔術具をお作りになるそうだ」
「いわゆるニセモノを作るってこと?」
そうだとドミニクは頷いた。フフンと鼻を鳴らして、玲は顎を撫でる。
「ニセモノってバレたらドーリンがヤバくない?」
「サトシ、我々とすれば城の者を解放してもらった後、サトシを仲間の元へ返しレッドタウンから神殿へ無事お帰りいただくようにと指示を受けております。ご心配は不要です」
自分のことは、自分でするからと言われた気がしてムッとする。十分巻き込まれているし、中途半端な状態で逃げ出しても、レッドタウンが救われなければ、元も子もない。
「ダメだよ。ドデモスは、そんなに甘くないよ」
ドデモスは、支配欲が強い。無事に玲が逃げ出せたとしても、ドデモスの更迭が失敗に終われば、元の木阿弥だ。
「酒に溺れている間に、次の罠を用意しよう」
何か策があるのかと、ドミニクとドマーニが尋ねた。
「取り敢えず、ドーリンにはホンモノも5個は作るように伝えてよ」
「わかった。必ず伝えよう」
数日後、玲は、久々に部屋を出た。
ドミニクではなく、ドンファが一人で部屋に入ってきたことで、玲に緊張が走る。お互いにサインを確認し、洗脳状態でないことを認識した上で、会話をはじめた。
「ドデモス様がお呼びです」
「もしかして、魔術具が出来上がった?」
「そのようです」
ドンファの少し後ろをついて歩く。部屋では、ドデモスがワイン片手にイヤらしい笑みを浮かべ、玲たちを待っている。支配されていないことを悟られないように、表情が読み取り難いように少し俯いた。
「叔父上、約束通りサトシを下げ渡して頂きたい」
「ほほう、余程その者に執着をみせるか……ククッ」
ワインを煽りながら、愉快そうにドーリンに応える。久々に顔を見たドーリンは、少しやつれて無精髭が生えている。ずっと部屋に篭って魔術具の作成をしていたのだろう、薄汚れた作業着を着ていた。
「私も、可愛い甥の願いを聞いてやりたいとは思っている。だから、こうしてサトシの姿を見せてやっている……だが、まだ私は心配なのだよ」
ドデモスは、玲を見ると手のひらを上に向け、人差し指を自分の方に折り曲げながらドンファに玲をドデモスの側に連れて行くように指示を出す。
ドンファが無言で玲の腕を引き玲をドデモスの側に誘導すると跪いた。玲は、無言のまま俯いて黙っている。
「サトシよ、後ろを向きなさい」
ゆっくりと背後のドーリンに向き直る。玲を見て赤い石を三回叩く者、叩かない者がいる。不意に肩に手を置かれ、ドデモスの顔が側に寄せられ思わず肩を竦めそうになった。
「ドーリンよ、コレが欲しいか?」
「……はい」
ドデモスの太い指が首筋を伝い、ゾワゾワと背中に虫唾が走るのを息を呑んで耐える。アルコール臭い息が、気持ち悪さを助長していく。ポトリと足元に何かが落ちる。視線を下に向けると、今まで首についていたチョーカーだった。
自分の首を触りながら、足元のチョーカーと目の前のドーリンを見比べた。
タタッ。玲は、駆け出しドーリンに抱き着いた。
「ドーリン!ドーリン!怪我はないか?大丈夫か?」
「あぁ、あぁ、私は無事だ」
ドーリンも玲に答え、強く抱きしめ返した。お互いの無事を喜び合う姿を、ドデモスはゆっくりと拍手をしながら近づいてきた。
「叔父上、下げ渡してくださるのではないのですか?」
玲を庇うように背後に隠そうとするが、ドデモスは玲の髪の毛を鷲掴みにしてそれを許さない。
「ドーリン、私は言っただろう。心配なのだと」
痛がる玲を引き寄せ、顎ごと頬を挟む。身動き出来ない玲の顔の側に酒臭い唇を持ってきて頬をペロリと舐めた。
「オッサン、止めろよ!」
ジタバタと手足を動かすが、流石ドワーフ。玲の力ではびくともしなかった。
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