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皮袋に市場で購入した葡萄の実を入れ、バシャバシャと上下にシェイクし攪拌していく。小さな樽を用意してもらい、布越しに中身を移し替えるとあら不思議、俺特製ワインの出来上がりだ。
支配の魔術具によって、洗脳されていることになっている玲は、軟禁されている部屋で暇を持て余しているというわけではない。
コンコンと扉をノックする音に、無言を貫く。本来であれば、「どうぞ」と声をかけるべきだけど、決して声をかけてはいけないとドミニクに言われたからだ。
「支配されていないことを悟られないためにも、自発的に言葉を発してはいけません」
支配の魔術具が機能していないことは、ドデモスには感知できない。常に受けの姿勢を貫くことで、油断を誘う。
玲は、作業をやめてじっと扉を無表情で見つめる。ガチャリと扉が開き、ドミニクと見知らぬ男が入ってきた。
男の首には、玲たちと同様に支配の魔術具が存在を示している。黙ったまま男に近づき、玲は赤い石に触れた。
「あ…ぅぅ、うぁ」
ビクビクと身体を痙攣させ、玲へともたれかかる。背中をとんとんと数回優しく叩くと、男はハッとして玲から離れた。
「ド、ドミニク様、こ、これは?」
「気分はどうだ?」
「はい、…とても晴れやかで清々しい……そんな感じでしょうか?あの忌々しい抗えない楔から解き放たれ、……もしかしなくとも、私は、解放された…のでしょうか?」
玲とドミニクは、顔を見合わせて頷き合う。
「ドンファよ、彼は、サトシ。この魔術具の呪縛を解放する術を持つ者だ」
「サトシといいます。ドンファさん、お身体どこも調子悪くないですか?」
ドンファは、ぎゅっと玲の両手を握り、涙ながらに感謝の言葉を述べる。
「ドミニク様、解放者は何人居るのですか?」
「城にいる者の中では、私とサトシ、そしてドンファの三人だ」
「でも、これからドンファさんみたいに、ドミニクさんが俺の部屋へ連れてきて、一人ずつ解放していく予定なんだ」
玲たちは、ドデモスを更迭しレッドタウンを支配の街から自由の街へ、本来の姿に戻したいのだと説明した。
「解放された者とそうでない者、その区別をつける方法があれば良いのだが」
ドミニクとドンファは、お互いに自分の首に巻かれたままのチョーカーをそっと触る。
「あの、以前から気になっていたんですが、そのチョーカーをやたら触りますよね」
「あぁ、サトシは、装着後直ぐに解放されたから違和感がないのかもしれないが、支配の魔術具というのは、精神を干渉するワケであって、抗えないもどかしさからあのように触ってしまうんだ」
「今は、その時分の名残りかな」
なるほどねと顎を摩りながら考え込んでいた玲は、ポンと両手を合わせた。
「では、このように赤い石を三回触る。これを解放者を互いに認識するサインとしませんか?」
「サイン?」
「はい、仲間であるとお互いに伝える合図です。この部屋では比較的安全ですが、部屋の外で誰が解放されているとかわからないじゃないですか」
赤い石を三回触れば解放者。触らない者は支配されている者。ドミニクもドンファも赤い石を三回触る。
「そうです。まずは、三回石を触る。この部屋でも一緒です。お互いの無事を確認し合う意味でもあります」
「無事というのは?」
「再び支配されないって保証はないでしょ?」
ドデモスは、支配の魔術具に絶大な信頼をしている。それを逆手に取って、作戦を立てていく。
「ドンファさんは、支配されている人を一人ずつこの部屋に連れてきてよ」
「私のように、解放していただけるといことですね」
玲は、こくりと頷いた。そして、先ほどまでせっせと作っていたワイン樽をドミニクに差し出す。
「ドミニクさんは、ドデモスにこのワインを献上してくれるかな?ドデモスだって、ドワーフ族なら無類の酒好きでしょ?」
「酒は、確かに好きですね」
「多少は、足止めになるんじゃないかな?」
背後の布を引き抜き、大量に用意したワイン樽を見せる。熟成に熟成を重ねた年代物のワインに劣らないスペシャルワインだ。
「さっそくドデモスには、酒に溺れてもらおうじゃないか」
ワイン樽を背に悪代官のような笑みを浮かべる玲だった。
支配の魔術具によって、洗脳されていることになっている玲は、軟禁されている部屋で暇を持て余しているというわけではない。
コンコンと扉をノックする音に、無言を貫く。本来であれば、「どうぞ」と声をかけるべきだけど、決して声をかけてはいけないとドミニクに言われたからだ。
「支配されていないことを悟られないためにも、自発的に言葉を発してはいけません」
支配の魔術具が機能していないことは、ドデモスには感知できない。常に受けの姿勢を貫くことで、油断を誘う。
玲は、作業をやめてじっと扉を無表情で見つめる。ガチャリと扉が開き、ドミニクと見知らぬ男が入ってきた。
男の首には、玲たちと同様に支配の魔術具が存在を示している。黙ったまま男に近づき、玲は赤い石に触れた。
「あ…ぅぅ、うぁ」
ビクビクと身体を痙攣させ、玲へともたれかかる。背中をとんとんと数回優しく叩くと、男はハッとして玲から離れた。
「ド、ドミニク様、こ、これは?」
「気分はどうだ?」
「はい、…とても晴れやかで清々しい……そんな感じでしょうか?あの忌々しい抗えない楔から解き放たれ、……もしかしなくとも、私は、解放された…のでしょうか?」
玲とドミニクは、顔を見合わせて頷き合う。
「ドンファよ、彼は、サトシ。この魔術具の呪縛を解放する術を持つ者だ」
「サトシといいます。ドンファさん、お身体どこも調子悪くないですか?」
ドンファは、ぎゅっと玲の両手を握り、涙ながらに感謝の言葉を述べる。
「ドミニク様、解放者は何人居るのですか?」
「城にいる者の中では、私とサトシ、そしてドンファの三人だ」
「でも、これからドンファさんみたいに、ドミニクさんが俺の部屋へ連れてきて、一人ずつ解放していく予定なんだ」
玲たちは、ドデモスを更迭しレッドタウンを支配の街から自由の街へ、本来の姿に戻したいのだと説明した。
「解放された者とそうでない者、その区別をつける方法があれば良いのだが」
ドミニクとドンファは、お互いに自分の首に巻かれたままのチョーカーをそっと触る。
「あの、以前から気になっていたんですが、そのチョーカーをやたら触りますよね」
「あぁ、サトシは、装着後直ぐに解放されたから違和感がないのかもしれないが、支配の魔術具というのは、精神を干渉するワケであって、抗えないもどかしさからあのように触ってしまうんだ」
「今は、その時分の名残りかな」
なるほどねと顎を摩りながら考え込んでいた玲は、ポンと両手を合わせた。
「では、このように赤い石を三回触る。これを解放者を互いに認識するサインとしませんか?」
「サイン?」
「はい、仲間であるとお互いに伝える合図です。この部屋では比較的安全ですが、部屋の外で誰が解放されているとかわからないじゃないですか」
赤い石を三回触れば解放者。触らない者は支配されている者。ドミニクもドンファも赤い石を三回触る。
「そうです。まずは、三回石を触る。この部屋でも一緒です。お互いの無事を確認し合う意味でもあります」
「無事というのは?」
「再び支配されないって保証はないでしょ?」
ドデモスは、支配の魔術具に絶大な信頼をしている。それを逆手に取って、作戦を立てていく。
「ドンファさんは、支配されている人を一人ずつこの部屋に連れてきてよ」
「私のように、解放していただけるといことですね」
玲は、こくりと頷いた。そして、先ほどまでせっせと作っていたワイン樽をドミニクに差し出す。
「ドミニクさんは、ドデモスにこのワインを献上してくれるかな?ドデモスだって、ドワーフ族なら無類の酒好きでしょ?」
「酒は、確かに好きですね」
「多少は、足止めになるんじゃないかな?」
背後の布を引き抜き、大量に用意したワイン樽を見せる。熟成に熟成を重ねた年代物のワインに劣らないスペシャルワインだ。
「さっそくドデモスには、酒に溺れてもらおうじゃないか」
ワイン樽を背に悪代官のような笑みを浮かべる玲だった。
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