どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

文字の大きさ
上 下
55 / 59

55

しおりを挟む
 どうも、サトシです。
 俺は、ただいま囚われたお姫様のように、ドデモスというオッさんに軟禁された生活を送っています。

 どうやら俺は、瞬間的に操られてしまったらしい。赤い石のついたチョーカーを首に巻かれた瞬間、俺の頭は「ドデモス様、バンザーイ!超大好き」って訳わからなくなってたもん。

 オッさんに命じられるまま、ドーリンに、何度もちゅうをしてたし、俺の黒歴史がまた一つ増えてしまったよ。

 俺を守ろうと耳元で泣き叫ぶドーリンの声を聞きながら、唇に髭の感触で意識が覚醒し正気に戻った俺。あの状態で飛び退かなかった俺の判断を誉めて欲しいと思う。

 冷静になるため、俺はドーリンに抱きついたまま、状況を整理したさ。

「ドーリン……俺、なんでお前にちゅうしてんの?」

 バレたらやばいと思ったから、ドーリンにしか聞こえないように顔を擦り寄せ耳元で囁いた。がっくりと力なく下を向いたドーリンは、俺が正気に戻った事に気がついてくれたさ。

「サトシ、正気に戻ったのか?」
「うん、俺操られていたみたい」

 俺の表情は、オッさんに見えないから俺の肩でドーリンの口元を隠すように抱きついてさらに距離を縮める。

「そのまま操られたフリをして、私の今からすることを黙って聞いておくのだぞ」

 うん、状況把握は大事だもんね。頬を擦り寄せ、「了解」と呟いた。

 俺の首に巻かれたチョーカーは、相手を支配する魔術具らしい。ということは、ドミニクさんも操られているってこと?現場のおっちゃんたちも?

 監視係の理不尽な暴力にも逆らえなかったのは、そういうことなのね。ふーん。

 俺も操られはしたけど、お腐れ様スキルのお陰で、魔術具が壊れたから正気に戻ったってことか。なるほどね。

 ドーリンは、叔父上と呼ぶオッさんに俺を解放してくれるよう頼みつつ、現状報告を取り入れながら俺が理解できるように叫び続けた。

「俺の仲間は、大丈夫!俺も一緒にドーリンと戦うよ」
「……感謝する」

 俺たちはお互い身体を擦り寄せ、意志を確かめ合った。側から見たら男同士のキモイ構図だったろうけどね。

「お、叔父上……サトシの下げ渡しを望みます」

 オッサンが、悩みつつもドーリンに俺の下げ渡しの許可を出した。

 こうして俺の軟禁生活が始まったワケだけど………さてどうしよう。

 無茶はするなとドーリンに釘を刺されたが、アレスたちにも連絡を取りたいんだよね。

 俺を部屋で監視するのは、ドミニクさんだ。彼の首元にも赤い石のついたチョーカーが装着されている。

 物は試しにと俺は立ち上がると、ドミニクさんに近づいた。ピクリと眉を上げるドミニクさんは、黙って俺の様子を見ている。

 無表情、無表情。悟られない、悟られない。

 ドミニクさんの側に立って、そっと赤い石に右手を添える。

 壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ。

 破壊、分解、腐敗、解呪、崩壊。

 ありとあらゆる言葉を思い浮かべ、魔術具の破壊を試みる。

「う、うぅ」

 息を荒くして汗だくになるドミニクさんが、呻きながら膝をついた。

 呼吸を整えるように肩で息をしているけど、やり過ぎた?

「サトシ様、いったい何をなさったのですか?」

 顔を上げたドミニクさんの表情は、困惑していた。

「どっち?」

 操られているのか、操られていないのか?前者で有れば、俺の言葉の意味はわからないだろう。

「……悪い夢から覚めた気分です」

 大きく息を吐きながら、ドミニクは笑った。

「正気に戻ってる?」
「……はい。コレはサトシ様のお力なのですか?」

 ドーリン!俺、無茶はしてないからね!取り敢えず、俺たちは、ドミニクさんという味方をゲットした。

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

処理中です...