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「サトシ様、おはようございます。先日伺いました計画書について、ドーリン様より許可を頂きました。本日より、第一坑場のみですが、試しに実施して良いとの事です」
「本当ですか!ドーリン様にありがとうございますとお伝えください」
「ドーリン様より、今宵も楽しみにしていると言伝を承っております」
「では、その件についても、ご期待くださいとお伝え願います」
客室の扉の前で、ドーリンの部下とやり取りをする玲を見て、アレスは「ハァ」と諦めの矜持でため息を吐いた。
「サトシって、天然の人タラシよね。どうやって、あの暴君を手懐けたワケ?」
ペルセポネーは、ぷひっと鼻を鳴らすと首を傾げた。
熱中症の坑夫への処置を終えた玲たちが、視察を切り上げ客室へ戻ってくると、ドーリンの部下が玲を訪ねて部屋にやって来た。
「サトシ様のみ、ドーリン様の部屋へお越しいただきたい」
アレスは、断固として拒否をするが、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と勇ましいセリフを吐きドーリンの部屋への招待を快諾してしまった。
警戒心もない玲に頭を抱えそうになったが、「私が一緒に参ります」というドミニクの言葉を信じて送り出した。
「メルル様、ペル…ちゃん、警戒心が薄いサトシに代わり、俺たちが気を引き締めていかなければならない。その点は理解してますね」
コクリと頷くメルルとペルセポネーと共に、身を引き締めていたアレスだったが、彼らの心配を他所に玲は、ドーリンとの距離をあっという間に縮めていった。
「ドワーフ族って、強いお酒好きだよね」
胃がキリキリする思いで玲の無事を願い、帰りを待っていたアレスに呑気な感想を報告をしてくる。
「手土産として贈ったウィスキーがお気に召したらしくてね。追加が欲しくて堪らなかったらしいよ」
ウィスキーは、グリーンビレッジでゴブリン族たちと作ったお酒のひとつだ。玲の持つ特殊なスキル【腐敗】から派生した【発酵】によって作り上げた蒸留酒だ。他には果物を使った蒸留酒(ブランデー)や米と麹で作り上げた日本酒も用意している。
ウィスキーもブランデーも日本酒も、ドーリンには全く馴染みがない。最初の手土産としてウィスキーのボトルを一本。喉が焼けるような喉越しに一撃で陥落してしまった。
欲望のままにドーリンは、玲を呼び寄せる。欲しければ、奪えばよい。誰一人として味方がいないこの場所で、玲一人を組み伏せるのは、赤子の手を捻るより容易い。
屈強の騎士たちを後ろに控えさせ、玲を自室に招き入れた。
「お待たせしました。ドーリン様、宜しかったら一緒に飲みませんか?」
玲の胸には、ドーリンが欲しくて堪らなかったウィスキーのボトルが抱きかかえられている。にっこりと屈託のない笑顔で、そっとドーリンに差し出される。どのようにして手に入れようか、玲を屈服させる事ばかり策を巡らせていたドーリンは、ふらりと立ち上がると玲に吸い寄せられるように近づきボトルを受け取ってしまった。
「サトシよ、今宵は私と呑み明かそうか?」
「はい、喜んで」
カラン、カランと大きめの氷をグラスに落とし、琥珀色のウィスキーをとぷり、とぷりと注いでいく。喰い入るようにグラスを見つめるドーリンにそっとグラスを差し出した。
「ロックという飲み方です。他にも、水で割る水割り、炭酸水で割るハイボールという飲み方もありますが、アルコールがお強いドーリン様には、ロックが一番かと思います」
言われるがままグラスを持ち上げると中の氷がカランと音を奏でる。ただ漠然とグラスに注いで飲んだ最初のウィスキーとは異なり、氷と揺れる琥珀色が何とも美しい。自然と口角が上を向き、グラスをそっと唇につけた。
「ぷはっ!何だこれは、冷たいにも関わらず、喉を焼き付けるような余韻、さらに香りが引き立ち鼻を一気に抜ける!」
「美味いでしょ!俺の自慢の作品です」
ドーリンは、大きく瞳を開いた。ウィスキーの焼けるような喉越しがさらに引き立てられ、香りがより引き立てられる。今まで好んで飲んでいた酒が如何にお粗末だったかを身体で感じた。
「サトシ!私は気に入ったぞ!」
空いたグラスを引き寄せ、新しく氷を入れさも当たり前のように酌をする。グラスについた水滴でテーブルが濡れれば、何も言わずにさっと拭く。アレをしろ、コレをしろ、要望を伝えることなく玲はドーリンの要望を笑顔で叶える。
「サトシ、其方、私の者になれ」
気がつけば自然と口から出た言葉だった。玲は、キョトンとして目を瞬かせ首を傾げる。
「まぁ良い。サトシ、私は其方を知りたい。もっと近くに寄れ、其方を酔い潰してやろう」
「酔い潰しすなんて怖い誘い方しますね」
「ドワーフの誘い文句だ。サトシよ、覚悟して飲むが良い」
「そんな感じで、結果として先に酔い潰れたのは、ドーリン様だったってわけだよ」
「ハァァァァ、サトシは貞操観念があるのかないのか。俺たちの気苦労をもっと自覚して欲しい」
意外と楽しい宴会だったと報告する玲の頬をアレスはぎゅうっと捻る。玲が酔い潰れなかった原因は、スキルによるアルコール分解だ。結果としてドワーフの酒豪をも凌ぐ酒に強い体質となった。
「それで、サトシにご執心となったドーリンが、夜な夜な誘いに来ちゃうのね」
「ギュウー」
「メルルも浮気は許さないって言ってるわよ」
「いや、ドーリン様って男だから」
納得いかないと唇を尖らせる。だが、ドーリンとの距離が縮まったおかげで、坑夫たちの待遇改善の糸口が見えてきた。
第一現場を足掛かりに、玲たちは計画を進めて行くことになった。
「本当ですか!ドーリン様にありがとうございますとお伝えください」
「ドーリン様より、今宵も楽しみにしていると言伝を承っております」
「では、その件についても、ご期待くださいとお伝え願います」
客室の扉の前で、ドーリンの部下とやり取りをする玲を見て、アレスは「ハァ」と諦めの矜持でため息を吐いた。
「サトシって、天然の人タラシよね。どうやって、あの暴君を手懐けたワケ?」
ペルセポネーは、ぷひっと鼻を鳴らすと首を傾げた。
熱中症の坑夫への処置を終えた玲たちが、視察を切り上げ客室へ戻ってくると、ドーリンの部下が玲を訪ねて部屋にやって来た。
「サトシ様のみ、ドーリン様の部屋へお越しいただきたい」
アレスは、断固として拒否をするが、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と勇ましいセリフを吐きドーリンの部屋への招待を快諾してしまった。
警戒心もない玲に頭を抱えそうになったが、「私が一緒に参ります」というドミニクの言葉を信じて送り出した。
「メルル様、ペル…ちゃん、警戒心が薄いサトシに代わり、俺たちが気を引き締めていかなければならない。その点は理解してますね」
コクリと頷くメルルとペルセポネーと共に、身を引き締めていたアレスだったが、彼らの心配を他所に玲は、ドーリンとの距離をあっという間に縮めていった。
「ドワーフ族って、強いお酒好きだよね」
胃がキリキリする思いで玲の無事を願い、帰りを待っていたアレスに呑気な感想を報告をしてくる。
「手土産として贈ったウィスキーがお気に召したらしくてね。追加が欲しくて堪らなかったらしいよ」
ウィスキーは、グリーンビレッジでゴブリン族たちと作ったお酒のひとつだ。玲の持つ特殊なスキル【腐敗】から派生した【発酵】によって作り上げた蒸留酒だ。他には果物を使った蒸留酒(ブランデー)や米と麹で作り上げた日本酒も用意している。
ウィスキーもブランデーも日本酒も、ドーリンには全く馴染みがない。最初の手土産としてウィスキーのボトルを一本。喉が焼けるような喉越しに一撃で陥落してしまった。
欲望のままにドーリンは、玲を呼び寄せる。欲しければ、奪えばよい。誰一人として味方がいないこの場所で、玲一人を組み伏せるのは、赤子の手を捻るより容易い。
屈強の騎士たちを後ろに控えさせ、玲を自室に招き入れた。
「お待たせしました。ドーリン様、宜しかったら一緒に飲みませんか?」
玲の胸には、ドーリンが欲しくて堪らなかったウィスキーのボトルが抱きかかえられている。にっこりと屈託のない笑顔で、そっとドーリンに差し出される。どのようにして手に入れようか、玲を屈服させる事ばかり策を巡らせていたドーリンは、ふらりと立ち上がると玲に吸い寄せられるように近づきボトルを受け取ってしまった。
「サトシよ、今宵は私と呑み明かそうか?」
「はい、喜んで」
カラン、カランと大きめの氷をグラスに落とし、琥珀色のウィスキーをとぷり、とぷりと注いでいく。喰い入るようにグラスを見つめるドーリンにそっとグラスを差し出した。
「ロックという飲み方です。他にも、水で割る水割り、炭酸水で割るハイボールという飲み方もありますが、アルコールがお強いドーリン様には、ロックが一番かと思います」
言われるがままグラスを持ち上げると中の氷がカランと音を奏でる。ただ漠然とグラスに注いで飲んだ最初のウィスキーとは異なり、氷と揺れる琥珀色が何とも美しい。自然と口角が上を向き、グラスをそっと唇につけた。
「ぷはっ!何だこれは、冷たいにも関わらず、喉を焼き付けるような余韻、さらに香りが引き立ち鼻を一気に抜ける!」
「美味いでしょ!俺の自慢の作品です」
ドーリンは、大きく瞳を開いた。ウィスキーの焼けるような喉越しがさらに引き立てられ、香りがより引き立てられる。今まで好んで飲んでいた酒が如何にお粗末だったかを身体で感じた。
「サトシ!私は気に入ったぞ!」
空いたグラスを引き寄せ、新しく氷を入れさも当たり前のように酌をする。グラスについた水滴でテーブルが濡れれば、何も言わずにさっと拭く。アレをしろ、コレをしろ、要望を伝えることなく玲はドーリンの要望を笑顔で叶える。
「サトシ、其方、私の者になれ」
気がつけば自然と口から出た言葉だった。玲は、キョトンとして目を瞬かせ首を傾げる。
「まぁ良い。サトシ、私は其方を知りたい。もっと近くに寄れ、其方を酔い潰してやろう」
「酔い潰しすなんて怖い誘い方しますね」
「ドワーフの誘い文句だ。サトシよ、覚悟して飲むが良い」
「そんな感じで、結果として先に酔い潰れたのは、ドーリン様だったってわけだよ」
「ハァァァァ、サトシは貞操観念があるのかないのか。俺たちの気苦労をもっと自覚して欲しい」
意外と楽しい宴会だったと報告する玲の頬をアレスはぎゅうっと捻る。玲が酔い潰れなかった原因は、スキルによるアルコール分解だ。結果としてドワーフの酒豪をも凌ぐ酒に強い体質となった。
「それで、サトシにご執心となったドーリンが、夜な夜な誘いに来ちゃうのね」
「ギュウー」
「メルルも浮気は許さないって言ってるわよ」
「いや、ドーリン様って男だから」
納得いかないと唇を尖らせる。だが、ドーリンとの距離が縮まったおかげで、坑夫たちの待遇改善の糸口が見えてきた。
第一現場を足掛かりに、玲たちは計画を進めて行くことになった。
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