46 / 59
46
しおりを挟む
「お初にお目にかかります。黒の神殿より参りましたアレスと言います」
「フン」
「こちらは、メルル様付きのサトシとペル……です」
「私こそ、レッドタウンの長であるドーリンだ」
玲たちが、訪問の挨拶を兼ねて面会を申し出たのだが、ドワーフ族の族長であるドーリンは、一段と高い場所に玉座を思わせる煌びやかな装飾が施された椅子に座り、頬杖をついたまま自身の名を名乗った。
自分以外の他者を見下す様な視線に玲は、嫌悪感を感じつつもアレスに倣い、胸に手を当て礼をする。
「私どもは、レッドタウンからの要請を受け、坑夫達の体調管理の見直しの任のため、やって参りました」
「別に必要ない。私の部下が、大袈裟に考え要請しただけだ……と言いたいところだが、せっかく遠路はるばる来ていただいた。そちらの好意を立て、しばらくの滞在は、許可してやろう」
「プギッ!ちょっと……ムガッ、フゴゴゴ」
あくまでも上から目線のドーリンのお言葉に反応してしまうのは、ウチの直情型の子豚ちゃん。玲は、慌ててペルセポネーを抱き上げ、暴言を今にも吐き出しそうな乙女の口を手で塞いだ。
「何だ?私は、忙しいのだが?」
「失礼しました。あの…せっかく滞在を許可していただけましたので、採掘現場や街の視察を許可してほしいのですが?」
「視察……だと?」
面倒だと言わんばかりのドーリンは、頬杖をついたまま片眉を吊り上げる。自分が興味のないことは、一切合切却下するダメダメ上司のお方なんだね。だけど、ここで諦めたら原因追求には程遠い。褒めて、煽て、ドーリンをその気にさせなければならない。
「はい、私たちは坑夫たちの体調改善のお手伝いに呼ばれました。ドーリン様が、治める現場はきっと活気に溢れていることでしょう。更なる生産能力を向上出来るよう、是非現場も確認しておきたいのです」
フフンと鼻を鳴らしまんざらでもない様子のドーリン、その後方で控えている側近らしきドワーフ族の男性が、膝をついて何やら耳打ちをしている。
玲の胸元にピッタリとくっついているメルルは、どうやらドーリンの視界から逃れたいらしく、玲のローブの内側に潜り込んでしまった。
密談が終わったのか、何か含んだ笑みを浮かべドーリンは側近に頷いて玲たちに視線を戻した。
「何やら、沢山の珍しい大量の酒を私に贈答していただいたらしいな。私も、多少は要望に報いるべきであろう。このドミニクに従うので有れば、視察くらい許可を使用ではないか」
玲は、再び飛び出しそうな血の気の多い子豚ちゃんを抑え込んで、膝をついてドーリンに礼を述べた。
プギプギと鼻を鳴らしながら腕に噛み付くペルセポネー、腕が地味に痛い。
「私は、分別弁えるレディなの!」
だからと言って当たり散らされる身にもなって欲しいと思うんだけどね。プンスコ怒っている子豚をメルルは優しく頭を撫でて、うちの姫は優しいなと改めて玲は、感じていた。
ドーリンが、席を立ち側近を連れ場を後にする。先程、彼に耳打ちをしていた男性は、ドーリンの姿が見えなくなると少し笑みを見せ、段上から降りてくる。
玲たちの前に立つと、胸に手を当て恭しく頭を下げた。
「黒の神殿の使者様方、私はドミニク。レッドタウンの宰相の任を預かっています。十分なもてなしが出来ず申し訳ありません。どうぞこちらへ」
ドミニクの首には、彼の好みとは感じられない赤い宝石が施された金属製のチョーカーが鈍い光を放ち揺れているのが目に入る。左頬が少し腫れているように赤みを帯びているのが目視できた。
「ドミニク様、……サトシと申します」
じっとドミニクの顔を見つめる玲は、彼の口元や目尻に薄く残る内出血の痕に気がついた。色黒のため気づかなかっただけで、目の前にいるドミニクには顔だけではなく手の甲などにも無数の打身や擦り傷の痕が確認できる。どう見ても武ではなく文の者の雰囲気があるドミニクなのだが、出来て日の浅い傷痕が無数に目視出来ることに違和感を感じてしまう。
アレスに視線を向けると小さく頷いた。玲が感じた違和感は、勘違いではなかったらしい。ウエストポーチから塗り薬を入れた小さな壺を差し出した。手のひらの薬壺と玲の顔を見比べ、目を瞬くドミニクの表情が、少し困惑しているように見える。
「これ、俺が調合した塗り薬で、擦り傷や打ち身に効果あるんですよ。良かったらどうぞ使ってください」
「……有り難く使わせて頂く」
言葉少なめだけど、ちょっぴり潤んだドミニクの瞳が、感謝の気持ちを映し出していた。「…あなた達なら……」何かを言いかけて言葉を止めると、ドミニクは、深々と玲たちに頭を下げた。
「あなた達に私がお連れできるところを全てお連れしたく存じます。ドーリン様の手前、ご質問にお答え出来ないことも多々あります。同胞をよろしくお願いします」
直角に腰を折、さらに頭を深く下げ、身体を震わせている。玲は、そっとドミニクの両手を握り「頭を上げてください」と言った。
瞳から流れる涙を見逃すことが出来ない。だけど、ドミニクはそれ以上の言葉を言わなかった。
「これは、俺の独り言です。俺は、ここまでみんなに助けられてきました。これからもずっと、助け続けられるでしょう。だからこそ、俺が差し伸ばせる手があるのなら、俺は迷うことなく手を差し伸べたいと考えています」
「その独り言だけで、十分です」
ドミニクは、嬉しそうに瞳を細めた。目尻から溢れる涙が、とてもカッコいいと玲は思ったのだった。
「フン」
「こちらは、メルル様付きのサトシとペル……です」
「私こそ、レッドタウンの長であるドーリンだ」
玲たちが、訪問の挨拶を兼ねて面会を申し出たのだが、ドワーフ族の族長であるドーリンは、一段と高い場所に玉座を思わせる煌びやかな装飾が施された椅子に座り、頬杖をついたまま自身の名を名乗った。
自分以外の他者を見下す様な視線に玲は、嫌悪感を感じつつもアレスに倣い、胸に手を当て礼をする。
「私どもは、レッドタウンからの要請を受け、坑夫達の体調管理の見直しの任のため、やって参りました」
「別に必要ない。私の部下が、大袈裟に考え要請しただけだ……と言いたいところだが、せっかく遠路はるばる来ていただいた。そちらの好意を立て、しばらくの滞在は、許可してやろう」
「プギッ!ちょっと……ムガッ、フゴゴゴ」
あくまでも上から目線のドーリンのお言葉に反応してしまうのは、ウチの直情型の子豚ちゃん。玲は、慌ててペルセポネーを抱き上げ、暴言を今にも吐き出しそうな乙女の口を手で塞いだ。
「何だ?私は、忙しいのだが?」
「失礼しました。あの…せっかく滞在を許可していただけましたので、採掘現場や街の視察を許可してほしいのですが?」
「視察……だと?」
面倒だと言わんばかりのドーリンは、頬杖をついたまま片眉を吊り上げる。自分が興味のないことは、一切合切却下するダメダメ上司のお方なんだね。だけど、ここで諦めたら原因追求には程遠い。褒めて、煽て、ドーリンをその気にさせなければならない。
「はい、私たちは坑夫たちの体調改善のお手伝いに呼ばれました。ドーリン様が、治める現場はきっと活気に溢れていることでしょう。更なる生産能力を向上出来るよう、是非現場も確認しておきたいのです」
フフンと鼻を鳴らしまんざらでもない様子のドーリン、その後方で控えている側近らしきドワーフ族の男性が、膝をついて何やら耳打ちをしている。
玲の胸元にピッタリとくっついているメルルは、どうやらドーリンの視界から逃れたいらしく、玲のローブの内側に潜り込んでしまった。
密談が終わったのか、何か含んだ笑みを浮かべドーリンは側近に頷いて玲たちに視線を戻した。
「何やら、沢山の珍しい大量の酒を私に贈答していただいたらしいな。私も、多少は要望に報いるべきであろう。このドミニクに従うので有れば、視察くらい許可を使用ではないか」
玲は、再び飛び出しそうな血の気の多い子豚ちゃんを抑え込んで、膝をついてドーリンに礼を述べた。
プギプギと鼻を鳴らしながら腕に噛み付くペルセポネー、腕が地味に痛い。
「私は、分別弁えるレディなの!」
だからと言って当たり散らされる身にもなって欲しいと思うんだけどね。プンスコ怒っている子豚をメルルは優しく頭を撫でて、うちの姫は優しいなと改めて玲は、感じていた。
ドーリンが、席を立ち側近を連れ場を後にする。先程、彼に耳打ちをしていた男性は、ドーリンの姿が見えなくなると少し笑みを見せ、段上から降りてくる。
玲たちの前に立つと、胸に手を当て恭しく頭を下げた。
「黒の神殿の使者様方、私はドミニク。レッドタウンの宰相の任を預かっています。十分なもてなしが出来ず申し訳ありません。どうぞこちらへ」
ドミニクの首には、彼の好みとは感じられない赤い宝石が施された金属製のチョーカーが鈍い光を放ち揺れているのが目に入る。左頬が少し腫れているように赤みを帯びているのが目視できた。
「ドミニク様、……サトシと申します」
じっとドミニクの顔を見つめる玲は、彼の口元や目尻に薄く残る内出血の痕に気がついた。色黒のため気づかなかっただけで、目の前にいるドミニクには顔だけではなく手の甲などにも無数の打身や擦り傷の痕が確認できる。どう見ても武ではなく文の者の雰囲気があるドミニクなのだが、出来て日の浅い傷痕が無数に目視出来ることに違和感を感じてしまう。
アレスに視線を向けると小さく頷いた。玲が感じた違和感は、勘違いではなかったらしい。ウエストポーチから塗り薬を入れた小さな壺を差し出した。手のひらの薬壺と玲の顔を見比べ、目を瞬くドミニクの表情が、少し困惑しているように見える。
「これ、俺が調合した塗り薬で、擦り傷や打ち身に効果あるんですよ。良かったらどうぞ使ってください」
「……有り難く使わせて頂く」
言葉少なめだけど、ちょっぴり潤んだドミニクの瞳が、感謝の気持ちを映し出していた。「…あなた達なら……」何かを言いかけて言葉を止めると、ドミニクは、深々と玲たちに頭を下げた。
「あなた達に私がお連れできるところを全てお連れしたく存じます。ドーリン様の手前、ご質問にお答え出来ないことも多々あります。同胞をよろしくお願いします」
直角に腰を折、さらに頭を深く下げ、身体を震わせている。玲は、そっとドミニクの両手を握り「頭を上げてください」と言った。
瞳から流れる涙を見逃すことが出来ない。だけど、ドミニクはそれ以上の言葉を言わなかった。
「これは、俺の独り言です。俺は、ここまでみんなに助けられてきました。これからもずっと、助け続けられるでしょう。だからこそ、俺が差し伸ばせる手があるのなら、俺は迷うことなく手を差し伸べたいと考えています」
「その独り言だけで、十分です」
ドミニクは、嬉しそうに瞳を細めた。目尻から溢れる涙が、とてもカッコいいと玲は思ったのだった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる