どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

文字の大きさ
上 下
45 / 59

45

しおりを挟む
 レッドタウン。それは、街の名前が意味する通り赤い岩肌に囲まれたドワーフ族が、生活する街だ。

 街の入り口には、門番が詰めており行商人たちを始めとする街へ来訪する者たちの出入りをチェックしていた。

「結構、厳重にチェックしてるんだな」
「貴重な鉱石が、採掘できますからね。許可証が無ければ、街への出入りが出来ないんですよ」

 長閑の極みであったグリーンビレッジとは異なり、武装した兵士が入り口にいるだけで物々しく見えてしまう。武装国家とでもいうのは、この様な街なのかもしれないと思った。

「許可証拝見しまーす」

 アレスは、懐から許可証を出してドワーフの兵士に手渡した。手に持った小さな箱に差し込み、また引き抜く。そして、許可証をアレスに返した。

「ご協力ありがとうございましたー」

 荷馬車から玲たちもペコリとお辞儀をすると兵士も軽く会釈をしてくれた。ずんぐりむっくりのドワーフの兵士のお辞儀は、とても可愛らしく見えた。

 門を抜けると石造りの街並みが広がる。入り口の付近は、人の往来が激しくドワーフ族だけでなく、様々な種族の姿も多く見られた。

「うわ~。ウサミミ、イヌミミ、あっちにはネコミミもいる」

 獣耳の種族を見て玲は、興奮を隠しきれないでいる。

「獣人は、穴掘りが得意な種族が多いので、レッドタウンに人足として出稼ぎに来るんですよ」
「穴掘りって、鉱石の採掘か?」
「はい、そうです」

 言われてみれば、皆が皆、腕っ節の強そうな筋肉隆々の獣人が多い。可愛らしいウサミミの獣人もよくみれば男性だ。

「俺たちは、これからどうするんだ?」
「宿泊施設まで行って、明日の朝、ドワーフの族長と面会です」
「うん、わかった」

 宿泊施設は、指定されているらしく、アレスは地図を見ながら馬車を進める。

 街の入り口は、人が溢れていたが、奥に進んで行けば行くほど人気が少なくなっていく代わりに、路地の側に座り込む子供の姿が見え気になった。

「アレス、さっきから小さな子供が、俯いて座り込んでいるんだけど、何なんだろう?」
「……孤児たちですよ」
「孤児?」
「親が亡くなり、保護する者がいない為、ああやって物乞いをして食い繋いでいるんです」

 アレスが、視線を送った先にはゴミ箱を漁る子供たちの姿があった。物乞いと言っても道行く大人たちが手を差し伸べることはない。

「……酷い。誰も手を差し伸べたりしないのかよ?」
「一度、手を差し伸べても何も解決するわけではありません」
「だからって、このまま見捨てるなんて……」
「サトシ、気持ちはわかりますが、俺たちに今できることは、何もないのですよ」
「キュウ」
「何よ!だったら明日族長との面会で、孤児たちの保護についても相談したら良いじゃないの」

 ペルセポネーが、玲の膝にぽんっと蹄をのせて見上げて来た。

「そうだね、ペル。今は、手助けをすることが出来なくても、相談すれば何か方法があるのかなあ……米!『ライス』ってグリーンビレッジには、大量にあったよね!」
「今までは、飼料としてしか使い道がありませんでしたので、在庫はかなりあるはずですよ」

 急場凌ぎにしかならないかもしれないが、アレスに頼んでグリーンビレッジより、救援物資として手配してくれる様にお願いをした。

「ペル……ちゃんの加護を受けましたので、グリーンビレッジの作物は、豊作ですから問題ないでしょう」
「アレスちゃん……ちょっとぎこちないわよ」

 ペルセポネー様と毎度呼びそうになる為、じっとりとした視線でアレスは睨まれ、しょんぼりと肩を落とす。

 生真面目なアレスは、頑張ってちゃん呼びを定着させようと努力しているのだが、なんとなく間が開く呼び名になるので、ぎこちなく聞こえてしまう。

「ペル……ちゃん。すみません」
「ハイ、そこ!!」
「キュッキュー」

 メルルも一緒になってアレスを指摘しているが、揶揄われているアレスは、ますますしょんぼりしてしまう。

「あんまり揶揄ってやるなよ。アレスも、面白がって指摘してるんだから、気にする必要ないぞ」

 玲は、ペルセポネーを抱き上げて、ぷにぷにするほっぺたを両手でで摘んだ。

「プギー!サトシは、もうちょっと乙女の扱い方に気をつけなさいよ!もう」

 路地の脇に座り込んでいる子供たちの様子を注意深く見ながら、玲たちは、指定された宿泊施設まで馬車を走らせた。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


「ドーリン様。黒の神殿の使者様たちが、お付きになった様です」

 煌びやかな装飾が施されたソファーに横たわるドーリンと呼ばれた男は、面倒臭そうに報告を聞いていた。

「っ本当に、誰だよ、余計な報告をしたのは」
「ですが、ドーリン様。我が街の現状を考えれば、直ぐに対策をしなければならないのです」
「うるさい、うるさい、うるさーい。私のために、働くのが貴様らの役目、使えない労働力は、街の外にでも捨て置けば様のだ!」

 ずんぐりむっくりした体で、手足をバタバタさせ喚き散らす男は、ドワーフ族の族長ドーリンだった。

 報告に来た男は、握り拳に力を込め今にも殴り倒したい気分をグッと堪えている。

「何だ?私に何か文句でもありそうな面だなドミニクよ」
「いえ、滅相もありません」

 ビシッ

 ドーリンは、手に持ったしなやかな細い棒でドミニクの頬を打ち付けた。頬に一筋のミミズ腫れが瞬時に出来る。

「反抗的な目だ。気に食わん」

 ドーリンは、何度も何度もしなやかな棒をドミニクに打ち付け息が上がっていく。それでも、気に入らないと倒れ込むドミニクを打ち続けた。

「おやめください、ドーリン様。姫さまたちが怯えております」
「ふん。興が逸れた。姫よ寝所に戻るぞ」

 怯える姫の腕を掴み、部屋を立ち去るドーリン。扉が閉まるのを確認して、倒れるドミニクに兵士達が駆け寄った。

「大丈夫ですか、ドミニク様!」
「クソッ!何であんな奴が族長なんだ!」
「待て、滅多なことを言うでない。俺は、大丈夫だから」

 自分を心配してくれる兵士達を諌め、ドミニクは、自分達の首に填められた赤い金属製のチョーカーを触る。その仕草を見て、兵士達は押し黙った。

「とにかく、黒の神殿の使者が来てくれただけでもありがたい」
「そうですね…」

 ドミニクは、立ち上がり膝の埃を払うと、兵士達の肩を軽く叩いて部屋から出て行った。
 



 



 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

雑貨屋リコリスの日常記録

猫餅
ファンタジー
長い旅行を終えて、四百年ぶりに自宅のある島へと帰宅した伊織。しかし、そこには見知らぬ学園があった。更には不審者として拘束されかけ──そんな一日を乗り越えて、伊織は学園内に自分の店舗を構えることとなった。 雑貨屋リコリス。 学園に元々ある購買部の店舗や、魔術都市の店とは異なる品揃えで客を出迎える。……のだが、異世界の青年が現れ、彼の保護者となることになったのだ。 更にもう一人の青年も店員として、伊織のパーティメンバーとして加わり、雑貨屋リコリスは賑わいを増して行く。 雑貨屋の店主・伊織と、異世界から転移して来た青年・獅童憂、雪豹の獣人アレクセイ・ヴィクロフの、賑やかで穏やかな日常のお話。 小説家になろう様、カクヨム様に先行投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘の日常~

水竜寺葵
ファンタジー
あらすじ  ライゼン通りの一角にある何時も美味しい香りが漂うパン屋さん。そのお店には可愛い看板娘が一人いました。この物語はそんな彼女の人生を描いたものである。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

処理中です...