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青い月の光を浴び、白い蝙蝠の羽を震わせた。メルルの身体は、眩い光に包まれると、徐々に人の身体へと形を変えていく。しなやかな色白の手足、銀色に靡く長い髪。普段は黒目であるが、血を欲すると赤黒く妖しく光る切長の瞳の少女。
「サトシ……お腹空いた」
少し舌足らずな言葉で、ベッドに横たわる玲を見つめる。
玲は、上着を脱ぎ捨てると両手を広げ、優しく呼びかけた。
「おいで、メルル」
頬を赤らめ、コクリと頷くと玲が横たわるベッドに乗った。いつもの様に玲の膝を跨ぎ、両手を玲の胸に当てしな垂れる。
メルルを優しく包み込む様に抱きしめてやると、嬉しそうに上目使いで玲に微笑みかけた。
日中は、蝙蝠の姿をしているが、吸血の時だけは、人の姿へと変身をする。
「美味しそうな匂い」
玲の体に鼻を擦り付け、身体中から醸し出される芳醇な血の香りを大きく吸い込んでいく。
これから体感する突き上げられる様な快感を期待して、玲は上を向いて甘い吐息を吐き出した。
「メルル……」
玲の首筋につけた所有紋を赤い舌で舐め上げた後、何度か甘噛みをすると、玲は待ちきれないとばかりにメルルを抱きしめた。
浅い呼吸を何度も繰り返し、玲の心臓の鼓動が早鐘を打ち始める。メルルを見つめ返す玲の瞳が、黒から赤へ変化した。
メルルは、大きく口を開け、ぶすりと玲の頸動脈へ牙を突き立てた。
「ハァン…」
身体中の細胞が組み替えられる様な快感が、玲の全身を襲う。首筋を中心にして、足の爪先まで突き抜ける様な快感に身悶えながら、メルルを抱き締める腕に力が込められていく。
じゅる、じゅるる
恍惚な表情を浮かべ、目尻に涙を薄っすらと溜める玲が、歓喜の声をあげ、瞳を閉じた。紅潮した頬を伝う一筋の涙。
「あ……はっ……ん」
爪先までピンっと伸ばして力が込められた後、クテンと全身の力が抜け、玲は意識を手放した。
「相変わらず、男女の情事の様な行為よね」
ベッドの下からモゾモゾと這い出てきたペルセポネーが、ポツリと呟いた。
「はぅ……」
玲の首筋から牙を抜き、唇の横に伝う玲の血を指先で拭う。首筋には、真新しい牙の痕が二つ並んで付いている。
ベッドの傍から顔を出したペルセポネーは、ピョンとベッドの上に飛び乗った。
メルルは、気を失って眠る玲の頬を優しく撫でる。
「ごちそうさまでした」
「メルルちゃんは、どうしてサトシを選んだの?」
ペルセポネーは、自分の寝床を作るべく、ベッドを前脚の蹄で掘る様にして、形を整えていく。
「優しいんです」
「……………えっと……それだけ?」
「はい、とっても優しいんです」
寝床が出来たらしく、ペルセポネーは、玲の横腹を背もたれにする様にして、その場にボスンと丸まった。
再びメルルの身体が淡い光に包まれ、徐々に体の輪郭が、蝙蝠の姿へと変体し始めた。
吸血の間だけの人化。玲の胸の上で、いつもの白い蝙蝠の姿へと戻っていった。
「乙女の心、ちっともわかんない朴念仁よ」
「キュイ」
「確かに、私がアレスちゃんを困らせてしまったことは、認めるけど……私、放り投げられたわよ?」
「キュキュキュキュイ」
気絶して眠る玲の傍らで、子豚と白い蝙蝠の乙女談義が、交わされる。ペルセポネーは、蹄で玲の腹を突きながら、乙女の扱いが悪いと悪態をついていた。
大きな欠伸をするペルセポネーとメルル。姿形は違えども、仲の良い姉妹の様に、寄り添って眠りについた。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
三日後。グリーンビレッジにて、ゴブリンたちから見送られ、玲たち一行は、レッドタウンへ向けて旅立った。
「オージン…重くない?大丈夫?」
「ブヒヒン」
「この位の大きさの馬車であれば、オージンは余裕ですよ」
今回のレッドタウンの要請により、ゴブリンたちは、採取したトレントの木材を使って荷馬車を作成してくれた。
グリーンビレッジに来た時は、視察が目的だった為、大袈裟に言えば、身一つで問題なかった。今回レッドタウンへは、食欲不振による体調改善の要請だ。
食材だけでなく、トレント製の樽なども持って行きたかった。急いで製作してくれたゴブリンたちに大感謝だ。
米や麦を始め、保存期間の長い芋やトウモロコシなどの食材を始め、調味料も準備した。
急場凌ぎで作成された荷馬車ではあるが、日除け対策として幌もある。御者台には、アレスが座り、玲たちはクッション持参で荷馬車に乗っている。
車の運転であれば、アレスと交代交代できるのだが、残念ながら玲は、手綱を捌くことが出来ない。座り心地の良いクッションに座り、休んでばかりで申し訳なく思うわけで、移動時間を利用して、読み書きなどの勉強をしていた。
ペルセポネーは、見た目は子豚であるが、中身が春を司る女神ということもあり、さまざまな操術の使い手であることがわかった。
ペルセポネー曰く妹分であるメルルに、闇属性に相性の良い癒しの術について指導してくれている。
側から見れば、可愛い小さな白い蝙蝠と子豚が戯れついている様にしか見えない。
パッカラ、パッカラと鳴り響くオージンの蹄の音と、ガタゴトと荷馬車の車輪の音が、長閑な旅路に色を添える演出となり、玲は心地良さを感じていた。
「サトシ……お腹空いた」
少し舌足らずな言葉で、ベッドに横たわる玲を見つめる。
玲は、上着を脱ぎ捨てると両手を広げ、優しく呼びかけた。
「おいで、メルル」
頬を赤らめ、コクリと頷くと玲が横たわるベッドに乗った。いつもの様に玲の膝を跨ぎ、両手を玲の胸に当てしな垂れる。
メルルを優しく包み込む様に抱きしめてやると、嬉しそうに上目使いで玲に微笑みかけた。
日中は、蝙蝠の姿をしているが、吸血の時だけは、人の姿へと変身をする。
「美味しそうな匂い」
玲の体に鼻を擦り付け、身体中から醸し出される芳醇な血の香りを大きく吸い込んでいく。
これから体感する突き上げられる様な快感を期待して、玲は上を向いて甘い吐息を吐き出した。
「メルル……」
玲の首筋につけた所有紋を赤い舌で舐め上げた後、何度か甘噛みをすると、玲は待ちきれないとばかりにメルルを抱きしめた。
浅い呼吸を何度も繰り返し、玲の心臓の鼓動が早鐘を打ち始める。メルルを見つめ返す玲の瞳が、黒から赤へ変化した。
メルルは、大きく口を開け、ぶすりと玲の頸動脈へ牙を突き立てた。
「ハァン…」
身体中の細胞が組み替えられる様な快感が、玲の全身を襲う。首筋を中心にして、足の爪先まで突き抜ける様な快感に身悶えながら、メルルを抱き締める腕に力が込められていく。
じゅる、じゅるる
恍惚な表情を浮かべ、目尻に涙を薄っすらと溜める玲が、歓喜の声をあげ、瞳を閉じた。紅潮した頬を伝う一筋の涙。
「あ……はっ……ん」
爪先までピンっと伸ばして力が込められた後、クテンと全身の力が抜け、玲は意識を手放した。
「相変わらず、男女の情事の様な行為よね」
ベッドの下からモゾモゾと這い出てきたペルセポネーが、ポツリと呟いた。
「はぅ……」
玲の首筋から牙を抜き、唇の横に伝う玲の血を指先で拭う。首筋には、真新しい牙の痕が二つ並んで付いている。
ベッドの傍から顔を出したペルセポネーは、ピョンとベッドの上に飛び乗った。
メルルは、気を失って眠る玲の頬を優しく撫でる。
「ごちそうさまでした」
「メルルちゃんは、どうしてサトシを選んだの?」
ペルセポネーは、自分の寝床を作るべく、ベッドを前脚の蹄で掘る様にして、形を整えていく。
「優しいんです」
「……………えっと……それだけ?」
「はい、とっても優しいんです」
寝床が出来たらしく、ペルセポネーは、玲の横腹を背もたれにする様にして、その場にボスンと丸まった。
再びメルルの身体が淡い光に包まれ、徐々に体の輪郭が、蝙蝠の姿へと変体し始めた。
吸血の間だけの人化。玲の胸の上で、いつもの白い蝙蝠の姿へと戻っていった。
「乙女の心、ちっともわかんない朴念仁よ」
「キュイ」
「確かに、私がアレスちゃんを困らせてしまったことは、認めるけど……私、放り投げられたわよ?」
「キュキュキュキュイ」
気絶して眠る玲の傍らで、子豚と白い蝙蝠の乙女談義が、交わされる。ペルセポネーは、蹄で玲の腹を突きながら、乙女の扱いが悪いと悪態をついていた。
大きな欠伸をするペルセポネーとメルル。姿形は違えども、仲の良い姉妹の様に、寄り添って眠りについた。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
三日後。グリーンビレッジにて、ゴブリンたちから見送られ、玲たち一行は、レッドタウンへ向けて旅立った。
「オージン…重くない?大丈夫?」
「ブヒヒン」
「この位の大きさの馬車であれば、オージンは余裕ですよ」
今回のレッドタウンの要請により、ゴブリンたちは、採取したトレントの木材を使って荷馬車を作成してくれた。
グリーンビレッジに来た時は、視察が目的だった為、大袈裟に言えば、身一つで問題なかった。今回レッドタウンへは、食欲不振による体調改善の要請だ。
食材だけでなく、トレント製の樽なども持って行きたかった。急いで製作してくれたゴブリンたちに大感謝だ。
米や麦を始め、保存期間の長い芋やトウモロコシなどの食材を始め、調味料も準備した。
急場凌ぎで作成された荷馬車ではあるが、日除け対策として幌もある。御者台には、アレスが座り、玲たちはクッション持参で荷馬車に乗っている。
車の運転であれば、アレスと交代交代できるのだが、残念ながら玲は、手綱を捌くことが出来ない。座り心地の良いクッションに座り、休んでばかりで申し訳なく思うわけで、移動時間を利用して、読み書きなどの勉強をしていた。
ペルセポネーは、見た目は子豚であるが、中身が春を司る女神ということもあり、さまざまな操術の使い手であることがわかった。
ペルセポネー曰く妹分であるメルルに、闇属性に相性の良い癒しの術について指導してくれている。
側から見れば、可愛い小さな白い蝙蝠と子豚が戯れついている様にしか見えない。
パッカラ、パッカラと鳴り響くオージンの蹄の音と、ガタゴトと荷馬車の車輪の音が、長閑な旅路に色を添える演出となり、玲は心地良さを感じていた。
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