どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「おかえりなさい。グリーンビレッジは、如何でしたか?」

 トレント採取を終え、約一ヵ月ぶりに黒の神殿に戻ってきた玲たちをディアブロは、自身の執務室で報告を受けることにした。

「とても穏やかで平和的な村で、ゴブリン族もみんな優しくて良い人たちだね」
「今は、採取したトレントの木材を使って、サトシ立案の食品工房を建設中です」

 ディアブロの執務室のソファーに腰掛けた玲とアレス。いつものようにメルルは、玲の膝の上にちょこんと座っている。

「どうぞ。そちらのお嬢さんも、ウバ茶でよろしいですか?」
「あら、ディアブロちゃん!さすが神官長ね。乙女の心をよくわかっているわね」

 ディアブロは、ティーカップを三つ差し出した。玲、アレス、そして二人の間に座る子豚ことペルセポネーの分だ。メルルには、改めてウバの実をその手渡した。

 玲は、ティーカップをそっとペルセポネーの側に持って来ると、器用に蹄でティーカップの柄を掴み、ほうっとウバ茶を口に含んで一息ついた。

 ペルセポネーは、外見は子豚ではあるが、なかなか手先?前脚の指先?が器用だった。

 後ろ足を前に放り出し、玲たちと同じように座り、食事だってナイフやフォークを両前脚の蹄を使って器用に挟み、自分の口まで運んで食べている。移動だけが四つ足なだけで、時たま子豚である事を忘れそうになってくるのは、仕方がないのではなかろうか。

「ゴンゾウ氏からも、サトシたちについて、お礼の報告を受けてますよ。どうですか、目指しているお食事係に近づくことは出来ましたか?」
「いや、俺の作る料理に喜んではくれているけど、ただそれだけだ」

 腐敗の固有スキルから得られた、発酵のスキルを駆使して、様々な発酵食品を試して作ってはいるが、自分一人で成し得たことではなかった。

「サトシってさ、もうちょっと自分を主張してもいいんじゃないの?」
「おや、お嬢さんもそう思いますか?」
「いつも、助けてもらってることが多いから、感謝意外ないんだよね」

 ペルセポネーからは、自分を主張するべきだと散々言われていたが、ディアブロが、それに同意した事に少し驚く。

「サトシは、奥ゆかしいですからね」

 目を細めてアレスは、玲を擁護する。どんな時でも、玲を自分のこと以上に気にかけてくれるアレスに、絶対的な信頼を寄せていた。

「それにしても、お前らすげぇよな」
「何がよ?」
「何かおかしな事でもありましたか?」

 ディアブロとペルセポネーは、きょとんとした表情をみせる。ペルセポネーは、ディアブロに会う為に執務室に入ったのだからよしとしても、何故ディアブロは、喋る子豚の存在を当たり前のように受け入れてるのだろうか?

 グリーンビレッジに戻ってからも、初めて出会うゴブリンは、皆が皆、喋る子豚のペルセポネーに一歩引いていた。

 玲とアレスの間にちょこんと座り、ティーカップを啜る子豚をごく自然にお嬢さんと扱うディアブロにも驚いた。

「ディアブロって、ペルのこと変な子豚とは思わないの?」
「ちょっと、サトシ!相変わらず、乙女の扱い方わかってないわね」

 頬っぺたを膨らませ抗議をしてくるペルセポネーだが、ディアブロは、クスクスと笑って玲たちを見ていた。

「サトシ、こんな可愛らしいお嬢さんを変な子豚とは、失礼ですよ」
「くっ!ディアブロに嗜められるなんて……」
「ほら、さすがディアブロちゃんよね。少しは、見習いなさいよね」

 可愛らしいお嬢さんと言われ、上機嫌になるペルセポネー。今にも鼻歌を歌い出しそうなほど、喜んでいるようだ。

 アレスは、無言のままウバ茶を啜る。その様子を見て、玲は少し嫌な予感を覚えた。

「私は、最初からわかっていますよ。このお嬢さんは、非常食でしょ」
「そうそう、私は、非常食…………ピギー!」

 上げて落とす……か。

「鬼畜野郎め」
「お褒めに預かり、光栄です」

 きっと、アレスからは、お喋りをする子豚が、仲間になったことを報告は受けていたのであろう。自由奔放なペルセポネーを見て、この悪魔神官弄ばない訳はなかった。

「ディアブロちゃん!ひどいわ、ひどいわ!私は、春を司る女神なのよ!それを非常食だなんて、ひどいわ!」

 捲し立てるように猛抗議を始めたペルセポネー。ディアブロは涼しい顔をしてティーカップを手に取るとウバ茶を啜った。

「………春を司る女神?」
「そうなのよ、サトシ!私は、春を司る女神………あ」
「おや?内緒だったんですか?」

 意地悪い顔で微笑みかけるディアブロを悔しそうに睨みつけるペルセポネー。

「サトシ……今の聞かなかった事にしてくれる?」
「ア、アレス?」
「キュイ!?」

 突然、立ち上がったアレスに驚き、彼に視線が集まった。

「いや、……まさか!春の女神……どうして……」

 青い顔をしてぶつぶつと独り言を言い始めたかと思うと、突如ペルセポネーに向かって直角に腰を折り深々とお辞儀をした。

「だから……聞かなかったってことに………プギー」
「いや、だから俺にはわかんないって、どうして泣くの!?」

 春を司る女神ということは、どうやら隠しておきたかったらしい。だけど、悪魔神官の手のひらの上で、コロコロと転がされ、自ら暴露というか自滅してしまった。玲の胸でわんわんと泣くペルセポネーの頭をメルルが、優しく撫で慰めていた。

「数々のご無礼、お許しください」

 この後に及んで、アレスが大きな声でお詫びをした。

「そういえば、ペルセポネーって、ハーデスの妻じゃなかったけ?」
「ピギー!それを内緒にしたかったのに!ディアブロちゃんひどいわ!プギー」

 ギャン泣きするペルセポネーに縋られ、あたふたする玲であった。




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