どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「私は、ペル。今日からサトシたちと一緒に過ごすことになったの」

 トレント採取から戻ってきたアレスたちは、玲に抱き抱えられた子豚が、片手を上げて、普通に喋り始めたことに驚きを隠せないでいた。

「子豚……が、喋った?」
「そう、喋るんだ」

 玲は、ペルセポネーを保護した経緯をアレスたちに説明していく。

「俺は、サトシが保護すると決めたのであれば、それに従います」
「ふぉ、ふぉっ、ふぉっ。村の者にも、ワシから説明をしておくので大丈夫じゃろう。しかしながら、しばらくは、一匹で行動せず、サトシ殿かアレス殿と行動を共にする事をオススメするぞい」
「わかったわ!サトシの側から離れないように気をつけるわ」
「賢い子豚じゃのう」

 アレスはともかく、ゴブリン衆も順応性が高い種族だと玲は思った。

 ぎゅるるるるるるる

 皆の視線が、玲に集まる。もちろん、音の主は、玲ではない。

「ペル?」
「何よう!仕方ないでしょう。ほっとしたら、お腹が鳴っちゃったんだもの」

 子豚が、恥ずかしそうに玲の胸で悶えている。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。こんな美味そうな匂いがすれば、腹の虫が鳴るのも仕方がないじゃろう」
「そう言えば、ものすごく食欲そそられる匂いですよね」
「んだ、ここに戻って来る前から、この匂いの正体が気になって仕方がなかったべ」

 肉体労働してきたのだから、お腹が空くのも当然だ。

「フフフ!今日のメニューは、究極のキャンプ飯だぞ」

 究極のキャンプ飯。それは、カレーライスだ。この世界では、ルーがない。そのため、カレー粉を調合する事をから始める必要があった。

 幸い粉末調味料だけは、黒の神殿でも豊富にあったため、密かに調合し研究を重ねていた。

 執念の結果、出来上がったカレー粉。やはりお披露目は、野外での食事だろうと今日の昼飯のメニューとして取り入れたのだった。

「材料は、男爵(ジャガイモ)、スノーマンノーズ(人参)、オーガの目にも涙(玉ねぎ)と野鳥の肉。これらをざく切りにして、油で炒めてから柔らかくなるまで煮込んだんです」
「俺は、どちらかというと、野菜や肉がゴロゴロと入っているのが好きだからな」

 プレートにご飯を装いながら、カカが
材料について説明をした。

「フライパンで小麦粉とサトシが持ってきた黄色い粉を混ぜて、煎り始めたんだけど、途端に食欲を焚きつける匂いが、充満し始めたんだ」
「小麦粉と混ぜることで、独特のとろみが出るんだ。これが、ご飯とよく絡むんだ」

 プレートに盛られたご飯の上に、トロリとカレーをかけながら、キキがルーについて説明をした。

「付け合わせのこれ、野菜を漬け込んだ酢漬けも、サトシ殿が、この料理に合わせて漬け込んだらしいですよ」
「福神漬けって言うんだけど、このカレーライスと一緒に食べると美味しいんだ」

 ココが、プレートに福神漬けを添えながら、ゴブリン達へカレーライスを配膳していく。

「キューキュキュ、キュキュキュキュキュー」
「おぉ!こりゃ助かる。メルル様、えっと、ペル殿、お気遣いありがとうございます」
「良いってことよ、私のことは、ペルちゃんって呼んでも良いわ」
「カカッ!了解じゃ、ペルちゃん」

 ペルセポネーの背に籠を乗せ、川の水に浸し固く絞ったおしぼりを入れ、メルルと共にゴブリン衆へ配っていく。

 オッサンならぬゴブリン衆からは、冷たくて固く絞られたおしぼりは、思いの外好評で、各々顔や腕を拭いて、さっぱりした表情で笑い合っている。

「サトシ殿、食の提供だけでなく、このようなお気遣いが、本当にありがたい」
「俺が、気持ち良いことは、みんなも気持ち良いだろうなって思っただけだから、気にしないでよ」

 どうせなら、気持ちよく食事をしたいじゃない。日本じゃおしぼりで顔を拭くのは、オッサンと位置付けられるが、一生懸命に体を動かして、働いてきたのだ。食事の時間は、休憩の時間でもある。気持ちよく、身体を休めてほしいと思うのも当然だと玲は、思った。

 ゴブリン一人、一人に、カレーライスのプレートとスプーンが配られた。

 炊き立てのご飯にかけられたカレーから立つ湯気に、ゴブリンたちが鼻で匂いを追っていく。

「どうぞ、お召し上がれ」
「いただきます!」

 パチンと両手を合わせ、食事のあいさつを済ませると同時に、スプーンでカレーライスをかき込み始める。

「美味い!」
「おかわりは、あるのか?」
「すげぇな、カレーライス!」

 スパイシーなカレーも魅力的だけど、ジャガイモや人参がゴロゴロと入った昔ながらの日本人風のカレーライスが好きだった。

「みんな、美味しいって」
「キューキュー」

 メルルにもスプーンを口元に運び、食べさせる。小さな口を大きく開けて、パクリとカレーライスを頬張った。

 もふもふの毛に包まれた頬っぺたに両手を添えて、キュッキュッと可愛らしく鳴き声を上げていた。 

 普段から野良作業に勤しむゴブリンたちの食欲は、半端なかった。二杯、三杯とおかわりの声が、上がる。

「慌てなくても、まだおかわりあるからね」

 皮袋を持って、ゴブリンたちのコップに麦茶を注いでいく。本日もトレント狩りという肉体労働だ。大量に汗をかくゴブリンたちに、水分補給と考えミネラル分が手軽に補給できる麦茶を沸かした。

 コップを受け取ったゴブリンたちが、これまた喜びの声をあげる。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。サトシ殿、ワシらの作物をこんなに美味しく食べさせてくれ、感謝しきれんわい。みんなも、この気持ち、忘れるでないぞ」

 玲は、照れ臭そうに、頬を指先で掻いて笑ったのだった。








 






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