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「トレントって?」
初めて聞く言葉に、玲は首を傾げた。そんな玲を他所目にゴースケは、弁当の握り飯に手を伸ばす。
「トレントってのは、木属性の魔獣ですよ」
「んだ、根っこをうねうねさせ、地を歩き、枝をこううねうねさせて、腕のように操り、幹には、目、鼻、口がある。大きな木のような魔獣じゃな」
「うねうね…」
「そうじゃ、うねうねじゃな」
指先についた米粒をちゅぱ、ちゅぱっと口で摘み綺麗に握り飯を平らげる。今日は、糠漬けの大根も付け合わせとして用意した。一枚口に放り込み、ボリボリと心地よい咀嚼音を奏でる。
「トレントの木材であれば、操術の伝導が容易いかもしれませんね」
「魔獣の皮袋と同等の効果が得られるんじゃないかのう?」
「それって、魔獣素材だから?」
「んだ。採取もアレス殿がおれば、簡単じゃろうしな」
トレントという魔獣の説明を聞き、何となく姿形が想像できた玲は、ふしぎな踊りとかの技を繰り出しそうだなと思った。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「思ったより大所帯になったね」
集会場で、アレスとトレントの討伐について打ち合わせをしていたところ、村長であるゴンゾウが、訪ねてきた。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。サトシ殿、アレス殿、トレントの伐採に向かわれるらしいのう」
情報の出所は、ゴースケらしく、ゴンゾウは、ふっさりとした口髭を触りながら尋ねてきた。
「はい、俺の調理に、トレントっていう魔獣の素材で作った樽が、有効かもしれないとゴースケさんにアドバイスをして貰ったか、明日にでもアレスと行ってみようかと言う相談をしていたところなんだ」
「取り敢えず、二体程度狩ろうかと思ってます」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そうか、なら丁度よかった。そのトレントの伐採、ワシらも参加しようかと思ってのう」
「キュゥ?」
大きな麦わら帽子を被った丸顔のゴンゾウは、肌の色が緑色でなければ、本当に丸い筒に包装されたポテトチップスのキャラクターに酷似している。
「サワークリーム味食べたいなぁ」
「なんじゃ?」
「いや、男爵(ジャガイモのこと)で作る辞められない、止められないお菓子でも作ろうかなぁっと」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そりゃ、楽しみじゃのう」
ゴンゾウは、円な瞳を細めて笑顔になった。
「しかし、ゴンゾウさんたちも参加したいとは、どういうことなんです?」
「いやのう、ワシらもサトシ殿に甘えている訳にはいかんという話になってのう。本格的に作業場を作ってみようかと思っとるんじゃ」
米を手に入れた玲は、最初はお礼にと作った料理を提供していた。そして、その後希望者には、料理教室を実施。また、腐敗の操術の実践と研究も重ね、酒、みりん、醤油、味噌なども試作品として提供もしていた。
ゴブリンたちにとって、玲から提供された発酵食品は、革命的な調味料や食材だった。
生で食う。焼いて食う。煮て食う。味付けは、塩を軽く振る程度。素材の味をそのまま味わうのが美徳。
玲の手料理をたった一品食べただけで、ゴブリン族の常識は、崩壊した。
玲が、トレントの木材を所望していると、ゴースケから情報を得たゴンゾウは、村の住民達とも秘密裏に緊急集会を開き、村を上げて玲の作業場成らぬ村おこし事業として発酵食品の工場の建築を完全一致で決議したのだった。
「サトシ殿と違い、時間はかかってしまうが、ワシらでも発酵食品を作り上げることができるっちゅうことが、わかったからのう」
「んだんだ」
ゴンゾウの説明に頷くゴブリン男衆。玲は、グリーンビレッジでも、自分の居場所が出来たように思え、目頭がツンと熱くなった。
「ありがとう。俺、俺……」
「なぁに、サトシ殿は、今まで通り好きにしてくれたらえぇ。ワシらは、ワシらで楽しんどるんじゃけぇのう」
言葉に詰まる玲をゴンゾウたちは、頭をワシワシと撫でつけた。ガブリと抱きついた玲を優しく包み込むように抱きしめた。
アレスの愛馬であるオージンの背に、アレスと共に跨り、トレントが生息している森へ向かう。ゴンゾウたちを始め、ゴブリン衆も荷馬車で並走している。
「ゴンゾウさんたちの馬車を引いている魔獣ってアウズンブラ?」
「そうですよ、脚は決して速くないですけど、力が強いので大きな荷物を運搬する場合、馬車を引かせることがあるんですよ」
水牛みたいな角にホルスタインのような白黒の体の模様。クリクリっとした瞳に愛嬌がある。玲が知る牛の姿とは、似ているようで何処か違う。ただ、ガラン、ガランと音を鳴らす首に掛けられた大きなベルが、可愛らしさを醸し出していた。
大きなベルで音を鳴らしているのは、獰猛な魔獣を避ける効果があるらしい。
「獰猛な魔獣ほど、意外と臆病なもんなんですよ」
「そういえば、熊よけに鈴を首にかけて鳴らすなんて漫画も読んだことがあったなぁ」
「?」
グリーンビレッジから馬車で1時間の道のり。トレントの生息地は、意外にも村から近かった。
「それじゃあ、行ってきます」
バトルアックスを肩に背負うアレスが、玲に声をかけた。残念ながら戦闘能力の欠片もない玲は、お留守番係だ。
「気をつけていってらっしゃい」
「キューイー」
「カカ殿、キキ殿、ココ殿。サトシとメルル様をよろしく頼みます」
「大丈夫よん。アタシらは、アタシらはでご飯の準備をして待ってるから」
これだけの大所帯である為、各々役割分担があるわけで、アレスは、戦闘能力の高さから伐採組。玲は、みんなの昼飯などを準備する焚き出し組。その他にも解体班、運搬班などチーム分けをした。
アレスは、ゴブリン衆を引率し森の奥へと入っていった。
初めて聞く言葉に、玲は首を傾げた。そんな玲を他所目にゴースケは、弁当の握り飯に手を伸ばす。
「トレントってのは、木属性の魔獣ですよ」
「んだ、根っこをうねうねさせ、地を歩き、枝をこううねうねさせて、腕のように操り、幹には、目、鼻、口がある。大きな木のような魔獣じゃな」
「うねうね…」
「そうじゃ、うねうねじゃな」
指先についた米粒をちゅぱ、ちゅぱっと口で摘み綺麗に握り飯を平らげる。今日は、糠漬けの大根も付け合わせとして用意した。一枚口に放り込み、ボリボリと心地よい咀嚼音を奏でる。
「トレントの木材であれば、操術の伝導が容易いかもしれませんね」
「魔獣の皮袋と同等の効果が得られるんじゃないかのう?」
「それって、魔獣素材だから?」
「んだ。採取もアレス殿がおれば、簡単じゃろうしな」
トレントという魔獣の説明を聞き、何となく姿形が想像できた玲は、ふしぎな踊りとかの技を繰り出しそうだなと思った。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「思ったより大所帯になったね」
集会場で、アレスとトレントの討伐について打ち合わせをしていたところ、村長であるゴンゾウが、訪ねてきた。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。サトシ殿、アレス殿、トレントの伐採に向かわれるらしいのう」
情報の出所は、ゴースケらしく、ゴンゾウは、ふっさりとした口髭を触りながら尋ねてきた。
「はい、俺の調理に、トレントっていう魔獣の素材で作った樽が、有効かもしれないとゴースケさんにアドバイスをして貰ったか、明日にでもアレスと行ってみようかと言う相談をしていたところなんだ」
「取り敢えず、二体程度狩ろうかと思ってます」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そうか、なら丁度よかった。そのトレントの伐採、ワシらも参加しようかと思ってのう」
「キュゥ?」
大きな麦わら帽子を被った丸顔のゴンゾウは、肌の色が緑色でなければ、本当に丸い筒に包装されたポテトチップスのキャラクターに酷似している。
「サワークリーム味食べたいなぁ」
「なんじゃ?」
「いや、男爵(ジャガイモのこと)で作る辞められない、止められないお菓子でも作ろうかなぁっと」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そりゃ、楽しみじゃのう」
ゴンゾウは、円な瞳を細めて笑顔になった。
「しかし、ゴンゾウさんたちも参加したいとは、どういうことなんです?」
「いやのう、ワシらもサトシ殿に甘えている訳にはいかんという話になってのう。本格的に作業場を作ってみようかと思っとるんじゃ」
米を手に入れた玲は、最初はお礼にと作った料理を提供していた。そして、その後希望者には、料理教室を実施。また、腐敗の操術の実践と研究も重ね、酒、みりん、醤油、味噌なども試作品として提供もしていた。
ゴブリンたちにとって、玲から提供された発酵食品は、革命的な調味料や食材だった。
生で食う。焼いて食う。煮て食う。味付けは、塩を軽く振る程度。素材の味をそのまま味わうのが美徳。
玲の手料理をたった一品食べただけで、ゴブリン族の常識は、崩壊した。
玲が、トレントの木材を所望していると、ゴースケから情報を得たゴンゾウは、村の住民達とも秘密裏に緊急集会を開き、村を上げて玲の作業場成らぬ村おこし事業として発酵食品の工場の建築を完全一致で決議したのだった。
「サトシ殿と違い、時間はかかってしまうが、ワシらでも発酵食品を作り上げることができるっちゅうことが、わかったからのう」
「んだんだ」
ゴンゾウの説明に頷くゴブリン男衆。玲は、グリーンビレッジでも、自分の居場所が出来たように思え、目頭がツンと熱くなった。
「ありがとう。俺、俺……」
「なぁに、サトシ殿は、今まで通り好きにしてくれたらえぇ。ワシらは、ワシらで楽しんどるんじゃけぇのう」
言葉に詰まる玲をゴンゾウたちは、頭をワシワシと撫でつけた。ガブリと抱きついた玲を優しく包み込むように抱きしめた。
アレスの愛馬であるオージンの背に、アレスと共に跨り、トレントが生息している森へ向かう。ゴンゾウたちを始め、ゴブリン衆も荷馬車で並走している。
「ゴンゾウさんたちの馬車を引いている魔獣ってアウズンブラ?」
「そうですよ、脚は決して速くないですけど、力が強いので大きな荷物を運搬する場合、馬車を引かせることがあるんですよ」
水牛みたいな角にホルスタインのような白黒の体の模様。クリクリっとした瞳に愛嬌がある。玲が知る牛の姿とは、似ているようで何処か違う。ただ、ガラン、ガランと音を鳴らす首に掛けられた大きなベルが、可愛らしさを醸し出していた。
大きなベルで音を鳴らしているのは、獰猛な魔獣を避ける効果があるらしい。
「獰猛な魔獣ほど、意外と臆病なもんなんですよ」
「そういえば、熊よけに鈴を首にかけて鳴らすなんて漫画も読んだことがあったなぁ」
「?」
グリーンビレッジから馬車で1時間の道のり。トレントの生息地は、意外にも村から近かった。
「それじゃあ、行ってきます」
バトルアックスを肩に背負うアレスが、玲に声をかけた。残念ながら戦闘能力の欠片もない玲は、お留守番係だ。
「気をつけていってらっしゃい」
「キューイー」
「カカ殿、キキ殿、ココ殿。サトシとメルル様をよろしく頼みます」
「大丈夫よん。アタシらは、アタシらはでご飯の準備をして待ってるから」
これだけの大所帯である為、各々役割分担があるわけで、アレスは、戦闘能力の高さから伐採組。玲は、みんなの昼飯などを準備する焚き出し組。その他にも解体班、運搬班などチーム分けをした。
アレスは、ゴブリン衆を引率し森の奥へと入っていった。
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