どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「米は、手に入った。次は、やっぱり大豆だよなぁ」

 念願の米を手に入れた玲は、次の食材に思いを馳せる。ゴースケが精米した10キロ、メルルが精米した5キロ、合計15キロの米を手に入れることができた。

「ディアブロとメルルの威光のおかげで、米を手に入れたけど、お礼はどうしようかなぁ。今後も定期的に、手に入れたいしな」
「クスッ。そこは、あまり気にしなくても良いと思いますよ。ちなみに、【ライス】からは、何ができるのですか?」
「んと……酒だろ……味醂……お酢に……んでもって麹かな」

 玲は、少し上に視線を向けて、自分の中の記憶を手繰り寄せるように、思い出しながら言った。

「酒もできるのですか!」
「あぁ、酒は、発酵食品の代表的な産物だぞ」
「ならば、手土産は酒で十分です。むしろ、酒が、一番のお礼になりますよ」

 この世界の酒は、エールと呼ばれる酒しか出回っていないらしい事をアレスから教わった。酒は百薬の長。エールしか酒がなくとも、飲兵衛は、存在する。

「じゃあ、いろんなお酒を作れたら、商売になる?」
「なります!なりますとも!!」

 玲とアレスは、にっこりと微笑み合う。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 集会場に戻った玲は、さっそく日本酒作りに取りかかる……ではなく、手に入れた米の炊飯に取りかかる。

「日本人たる物、炊飯器が無くとも米を炊ける」

 貧乏学生だった玲は、普段、鍋で米を炊いていた。よって、目分量であっても水加減は、判断できる。

 ゴブリン族は、土属性の種族ということもあり、鍋ならぬ土鍋を使って料理をする。耐久性は、悪いが、土鍋であれば、よりふっくらと米が炊ける。馴染みのある形の土鍋を見つけた時、密かにテンションが上がったのは言うまでのない。

「手の甲で、水の量を測るんですか?」
「そうだよ。こうやって、手の甲が水に浸る高さがちょうどいいんだ。鍋の大きさや形に関係なく、この測り方で問題ないんだ」

 米を砥ぎ、水を入れ、土鍋の蓋をする。そして、火を焚べる。まずは、弱火で炊き始める。

「最初は、弱火でじっくりと……お、蓋が動いたな。ここで、強火に」
「へぇ、後から火を強くするんですね」
「そうだよ。はじめチョロチョロ、中ぱっぱって言う童歌もあるんだ」

 アレスも興味深気に土鍋を見つめている。火を強くした事で、土鍋の蓋がコトコトと音を鳴らす。玲は、心地良いその音に耳を傾けていた。

「スープやシチューは、具材を混ぜたりしますけど、【ライス】は様子見なくても良いのですか?」
「うん、童歌には続きもあって、赤子泣いても蓋取るなって言って、最後まで何があっても蓋を開けたら駄目なんだ」
「先人の知恵というものですか?」
「うーん、よくわからないけど、そうじゃねぇの?おばあちゃんの知恵袋みたいな…」

 玲が、炊飯の歌を歌ってきかせ、アレスは、優しい童歌だなと思った。小さな子供を背負って、炊事場に立つ母の姿が見えるようだった。

 次第に土鍋の蓋が持ち上がりそうになるほど、動き出した。ぶくぶくと泡を吹くように吹きこぼれそうになっている。

 玲は、これも予測していたかのように素早く火を止めた。

「火を弱めるのではなくて、止めるのですか?」
「そうだよ。吹きこぼれた時点で、なかの水は、もうほとんど残っていない状態なんだ。あとは、この土鍋の中の余熱でじっくりと米を蒸らすんだよ。ちなみに、ここで蓋をとっても駄目なんだぞ」

 ニッカリと笑ってアレスに説明をする玲。まもなく念願の米に出会えると思い、今すぐにでも小躍りしそうな程テンションが上がっていく。

「あ、そんなに顔を近づけたら、火傷しますよ」

 土鍋に鼻先を近づけて、匂いを嗅ぐ玲を、アレスが慌てて静止する。

「やっぱり、握り飯かなぁ?となれば沢庵?そんな物ないか……浅漬けでも良いかなぁ」

 もう目の前の米に夢中で、アレスの注意も耳に届かない。玲の肩に乗っているメルルは、玲が嬉しそうにしているだけで、「キュッキュ」と玲の独り言に合いの手をしている。

「おっと!白菜発見!」

 付け合わせを探すため、食糧庫の中から白菜を見つけた。葉っぱを数枚毟ると丁寧に水で洗った。

 まな板で、白菜をざく切りにし、ボウルの中に入れ塩を多めに振りかけた。右手で白菜と塩を鷲掴みにしながら揉み込んでいく。

 玲の操術の影響で、白菜はあっという間にシンナリと塩漬けされた。

 おおよそ火を止めてから15分。玲は、しゃもじならぬ木ベラを持って、土鍋の蓋に手をかける。

 興奮する心を落ち着かせるため、胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。アレスは、その様子を暖かく見守っていた。

「いざ!ご開帳!」

 ぽわんと立ち上る湯気と米の香りが、鼻先をくすぐる。玲は、その香りを追いかけるように目を閉じて、顔を左右に動かした。
 
「…俺が求めていたのは、この香りだ」

 木ベラを炊き上がった米に、何度も切り込むように差し入れ、ひっくり返すを繰り返し、ふっくらとほぐしていく。

 そして、一口分の米を手のひらに取ると、匂いを嗅いだあと、パクリと口に含んだ。





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