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ゴースケに連れられて、玲たちは、土壁に覆われた小さな部屋の前にやってきた。
「窓ひとつない部屋だね。しかもなんとなく埃っぽい」
「ここは、わしらが麦を殻から外す作業をするための部屋なんじゃ。埃っぽく感じるのは、そのせいじゃろうて」
風の操術を扱えるのは、今のところメルルだけだ。よって、風属性である精米に利用できる操術を覚えてもらうためにメルルも真剣な面持ちでゴースケの話を聞く。
「まずは、実践してみようかのう」
ゴースケは、籾殻のついた米を部屋の奥に撒いた。
「これは、イガの実というての。とっても軽くて硬い実の欠片じゃ」
部屋の片隅に置いてあった松ぼっくりみたいな物を手に取り、玲たちに見せた後、籾殻の上に置いた。
「イガの実は、ここらへんの山林で簡単に手に入りますよ」
アレスもイガの実を知っているらしく、玲に補足の説明をしてくれた。ゴースケは、壁にある取手を引っ張ると、そこからガラガラと透明の間仕切り板が出てきた。
「ガラス?」
玲が、コンコンと間仕切り板を拳で叩いて確認すると、ゴースケは、コクンと頷いた。
「んだ。中の様子が見えんと終わりがわからんからのう。ほれ見ておくのじゃ」
ガラスの間仕切り板に両手のひらをつけると、ゴースケは、詠唱を呟き始めた。
「詠唱は、これから行う操術の操作をわかりやすくイメージする為に行うんですよ」
「あー、俺がヨーグルトを作った時、乳酸菌って連呼してたのも詠唱の一つってことか?」
「そうです。火をつける、水を出す程度の簡単な動作であれば、体に体感が染みついていますので、なんの動作は不要なんですけど、高度な操作が必要な術式には、詠唱を用いるのです」
ゴースケが、詠唱を唱え始めると、ガラスの間仕切り板の向こうに小さな旋風が起きた。籾殻を巻き込みながら、旋風は、徐々に大きくなっていく。
「あ、イガの実が、一緒に舞い上がって行く」
「サトシ、見てください。イガの実と籾殻が、ぶつかり合って殻を外して行ってますよ」
「キュウ、キュイキュー」
「トゲトゲした突起が、籾の殻を外していくみたいだ」
間仕切りされたガラス板の向こう側は、小さな竜巻が、籾殻によって可視化出来る状態だった。
時たまイガの実が、ガラス板に当たりカツンと音を鳴らし、ちょっとした台風のような状態だ。
「間仕切り板が無ければ、目も開けられない状態だろうな」
イガの実と米がぶつかり合い、米が次々と精米されて行っていた。籾付きから玄米へ、玄米から白米へ、精米状態が、しっかりと把握できる。
「精米は、こんなもんで大丈夫じゃろうか?」
「うん、問題ないよ、ゴースケさん」
ゴースケは、玲の答えに頷くと、また、ブツブツと詠唱を始めた。
「中の竜巻きのスピードが、落ちたみたいですね」
「見て、白米だけが、床に落ちて行く」
風速が、弱まった事で、殻のみが宙を舞い、白米と分離出来ていった。
「よし、殻を外へ出すぞ。足元のボタンを押すんじゃ。このボタンじゃぞ」
ゴースケの足元に有る床上のボタン。ゴースケが、ぎゅっと踏み込むと、壁にぽっこり穴が開いた。
イガの実がポトリと床に落ちた時、竜巻きの威力は、つむじ風程度に弱まり、殻だけが宙を待っている状態となった。
ゴースケが、ブツブツ詠唱を唱え、旋風の尻尾を穴に誘導して行くと、殻がみるみる部屋の外に排出されて行く。
「おぉ、まるで排水溝みたいだな」
面白いように全ての殻が、部屋の外に吐き出され、最後は、精米された白米とイガの実だけが残ったのを確認し、ゴースケは、間仕切り板から両手を離した。
パチパチ。玲は、ゴースケに拍手を送る。
「凄い!凄いですよ。ゴースケさん」
「よせやい、恥ずかしい。ま、以上が精米ってとこじゃな」
ゴースケは、壁のボタンを押すと、間仕切り板は、ゆっくりと壁の中へ収納されて行った。部屋の中に精米された米の匂いが、漂ってきた。
玲は、精米された米を掬って、出来上がりを確認して行く。
「コレだ、コレ。俺が、毎日食べていた米だよ、米!」
嬉しそうに米を手に取って、玲は満面の笑みを見せた。出来上がった精米された米を袋に詰めると10キロ程度の量であった。
「ま、約束通り、米料理を楽しみにしとるけんのう」
ゴースケは、米袋を抱き締める玲の頭をぽんぽんと撫でて、笑った。
「キューキューキュー」
間仕切り板の前で、メルルが詠唱を唱える。精米する量は、先ほどの半分程だ。
「ガンバレ、メルル!」
玲が、メルルに声援を送る。アレスとゴースケも傍でメルルを見つめている。ゴースケのように慣れているわけではないため、操術の威力の微調整が難しいようで、全ての籾殻が巻き上がるまでに少し時間がかかった。
「さすがメルル様、というところじゃのう。一度見ただけで、ここまで操術を扱えるのは……」
「そうですね。幼体の姿であっても、この威力。やはり、巫女としての器で有るが故でしょうね」
アレスとゴースケは、改めてメルルの潜在能力に息を飲んだ。
「キューイ」
「よーし、じゃあ、床のスイッチを踏むぞ」
「キュキュッ」
ガコン。
玲が、足元のスイッチを踏み、壁の穴を開けると、メルルは、殻を風の操術で穴へと誘導して行く。
殻を全て排出し終わると、メルルは羽先の小さな手のひらで、器用に額を拭った。
「キュー」
「メルルー!凄いぞ!」
玲は、すぐさまメルルを抱き上げ、わっしょいわっしょいと赤ちゃんを高い高いとするように、歓喜する。
「カカカ!お見事ですじゃのう」
ゴースケは、笑いながら壁のボタンを押し、間仕切り板を収納した。
こうして、玲は、無事ソウルフードで有る白米を手に入れた。
「窓ひとつない部屋だね。しかもなんとなく埃っぽい」
「ここは、わしらが麦を殻から外す作業をするための部屋なんじゃ。埃っぽく感じるのは、そのせいじゃろうて」
風の操術を扱えるのは、今のところメルルだけだ。よって、風属性である精米に利用できる操術を覚えてもらうためにメルルも真剣な面持ちでゴースケの話を聞く。
「まずは、実践してみようかのう」
ゴースケは、籾殻のついた米を部屋の奥に撒いた。
「これは、イガの実というての。とっても軽くて硬い実の欠片じゃ」
部屋の片隅に置いてあった松ぼっくりみたいな物を手に取り、玲たちに見せた後、籾殻の上に置いた。
「イガの実は、ここらへんの山林で簡単に手に入りますよ」
アレスもイガの実を知っているらしく、玲に補足の説明をしてくれた。ゴースケは、壁にある取手を引っ張ると、そこからガラガラと透明の間仕切り板が出てきた。
「ガラス?」
玲が、コンコンと間仕切り板を拳で叩いて確認すると、ゴースケは、コクンと頷いた。
「んだ。中の様子が見えんと終わりがわからんからのう。ほれ見ておくのじゃ」
ガラスの間仕切り板に両手のひらをつけると、ゴースケは、詠唱を呟き始めた。
「詠唱は、これから行う操術の操作をわかりやすくイメージする為に行うんですよ」
「あー、俺がヨーグルトを作った時、乳酸菌って連呼してたのも詠唱の一つってことか?」
「そうです。火をつける、水を出す程度の簡単な動作であれば、体に体感が染みついていますので、なんの動作は不要なんですけど、高度な操作が必要な術式には、詠唱を用いるのです」
ゴースケが、詠唱を唱え始めると、ガラスの間仕切り板の向こうに小さな旋風が起きた。籾殻を巻き込みながら、旋風は、徐々に大きくなっていく。
「あ、イガの実が、一緒に舞い上がって行く」
「サトシ、見てください。イガの実と籾殻が、ぶつかり合って殻を外して行ってますよ」
「キュウ、キュイキュー」
「トゲトゲした突起が、籾の殻を外していくみたいだ」
間仕切りされたガラス板の向こう側は、小さな竜巻が、籾殻によって可視化出来る状態だった。
時たまイガの実が、ガラス板に当たりカツンと音を鳴らし、ちょっとした台風のような状態だ。
「間仕切り板が無ければ、目も開けられない状態だろうな」
イガの実と米がぶつかり合い、米が次々と精米されて行っていた。籾付きから玄米へ、玄米から白米へ、精米状態が、しっかりと把握できる。
「精米は、こんなもんで大丈夫じゃろうか?」
「うん、問題ないよ、ゴースケさん」
ゴースケは、玲の答えに頷くと、また、ブツブツと詠唱を始めた。
「中の竜巻きのスピードが、落ちたみたいですね」
「見て、白米だけが、床に落ちて行く」
風速が、弱まった事で、殻のみが宙を舞い、白米と分離出来ていった。
「よし、殻を外へ出すぞ。足元のボタンを押すんじゃ。このボタンじゃぞ」
ゴースケの足元に有る床上のボタン。ゴースケが、ぎゅっと踏み込むと、壁にぽっこり穴が開いた。
イガの実がポトリと床に落ちた時、竜巻きの威力は、つむじ風程度に弱まり、殻だけが宙を待っている状態となった。
ゴースケが、ブツブツ詠唱を唱え、旋風の尻尾を穴に誘導して行くと、殻がみるみる部屋の外に排出されて行く。
「おぉ、まるで排水溝みたいだな」
面白いように全ての殻が、部屋の外に吐き出され、最後は、精米された白米とイガの実だけが残ったのを確認し、ゴースケは、間仕切り板から両手を離した。
パチパチ。玲は、ゴースケに拍手を送る。
「凄い!凄いですよ。ゴースケさん」
「よせやい、恥ずかしい。ま、以上が精米ってとこじゃな」
ゴースケは、壁のボタンを押すと、間仕切り板は、ゆっくりと壁の中へ収納されて行った。部屋の中に精米された米の匂いが、漂ってきた。
玲は、精米された米を掬って、出来上がりを確認して行く。
「コレだ、コレ。俺が、毎日食べていた米だよ、米!」
嬉しそうに米を手に取って、玲は満面の笑みを見せた。出来上がった精米された米を袋に詰めると10キロ程度の量であった。
「ま、約束通り、米料理を楽しみにしとるけんのう」
ゴースケは、米袋を抱き締める玲の頭をぽんぽんと撫でて、笑った。
「キューキューキュー」
間仕切り板の前で、メルルが詠唱を唱える。精米する量は、先ほどの半分程だ。
「ガンバレ、メルル!」
玲が、メルルに声援を送る。アレスとゴースケも傍でメルルを見つめている。ゴースケのように慣れているわけではないため、操術の威力の微調整が難しいようで、全ての籾殻が巻き上がるまでに少し時間がかかった。
「さすがメルル様、というところじゃのう。一度見ただけで、ここまで操術を扱えるのは……」
「そうですね。幼体の姿であっても、この威力。やはり、巫女としての器で有るが故でしょうね」
アレスとゴースケは、改めてメルルの潜在能力に息を飲んだ。
「キューイ」
「よーし、じゃあ、床のスイッチを踏むぞ」
「キュキュッ」
ガコン。
玲が、足元のスイッチを踏み、壁の穴を開けると、メルルは、殻を風の操術で穴へと誘導して行く。
殻を全て排出し終わると、メルルは羽先の小さな手のひらで、器用に額を拭った。
「キュー」
「メルルー!凄いぞ!」
玲は、すぐさまメルルを抱き上げ、わっしょいわっしょいと赤ちゃんを高い高いとするように、歓喜する。
「カカカ!お見事ですじゃのう」
ゴースケは、笑いながら壁のボタンを押し、間仕切り板を収納した。
こうして、玲は、無事ソウルフードで有る白米を手に入れた。
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