どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「米キター!!」

 玲は、手のひらの上に乗せた稲穂のかけらを握りしめて、歓喜した。

「探していた食材でしたか?」
「おう!おう!俺が探していた作物のひとつだ!」

 満面の笑みでガッツポーズを繰り返し、玲は小躍りをしている。コカトリスは、クビを傾げたり、「ゴゴッ」と野太い鳴き声を出したりしながら、玲の周りを徘徊していた。

「ゴブリンさーん!ちょっとお話聞いても良いですかー」

 玲は、柵の中に入っても良いと許可してくれたゴブリンの元へ駆け寄った。

「おー。何じゃい?どないしたんじゃい?」

大きな麦わら帽子を被り、額には大粒の汗をかいている。自身も忙しいだろうに、ニッカリと笑って手を止めて玲に返事を返してくれる。

「俺、サトシって言います。料理の材料を探していて、この、コカトリスのご飯になっている【ライス】?のことを教えてほしくて……お時間いただけますか?」
「おーおー、ゴンゾウの言っておったお客人じゃな?オイラは、ゴースケじゃ。………時間ちゅっても作業しながらじゃけどもええじゃろうか?」
「ゴースケさん!ありがとう!俺もお仕事手伝うよ!」

 屈託ない笑顔を見せ手伝いを申し出た玲に、ゴースケは、ありがたく作業を手伝ってもらうことにした。

「アレスは、他に用事あるんだったら、そっちに行っていいよ?」
「俺は、サトシの守護として付いてきているので、一緒に作業を手伝いますよ」
「うへぇ、アレス殿も手伝ってくれるんかい?ありがたいのう」

 コカトリスの餌やり、小屋の掃除、餌の搬入などを手伝ったのだが、なかなか重労働だった。

 ヘッピリ腰ではあるが、一生懸命に荷物を運ぶ玲を見て、ゴースケは、力の入れ方や荷物の持ち方など丁寧に教えていく。玲も嫌な顔を一つもせずに、素直にゴースケのアドバイスを聞いていた。

「そっか【ライス】も【もろもろこし】もコカトリスの餌としてしか利用してないんだ」
「そうじゃのう、サトシや?もしかして、あれらを食べるつもりなんか?」
「うん、食べるよ。だから、【ライス】も【もろもろこし】も分けて欲しいんだ」

 小屋の掃除をしながら、傍らに置いてあった米袋と乾燥させたトウモロコシを見つけ、玲は事情を説明し分けて欲しいと願い出た。

「分けてやるのは構わんぞ。好きなだけ持っていけ」
「あ、ありがとう!ゴースケさん」

 無事米を手に入れることができ、玲の笑顔が綻んでいく。米は主食として食することもできるが、発酵食品としても多種多様に利用ができる。

「じゃけども、殻は、どないするんじゃ?」
「殻…あ、籾殻か!確か……石臼かなんかで脱穀するんだったよなぁ……」

 玲は、歴史の授業で習った稲作について顎を撫でながら、思い出そうとする。

「収穫した稲を乾燥させ…千歯扱きで籾を脱穀して……石臼と杵でついて籾殻を落として精米するんだったかな?」

 玲も専門的に学んだわけではないため、中学生レベルの知識しかない。

「ブハッ!サトシは、飛んだ田舎者じゃのう」
「い、田舎者!?」

 玲からすれば、ど田舎の農村風景の中で、大きな麦わら帽子帽子を被った、ど田舎の住民そのもののゴースケに田舎者呼ばわりされ、驚きを隠せない。

 世界は違えども、日本は、高層ビルが建ち並び、文明も化学も発展した先進国だ。

「おまえさん、全部、人の手で作業するつもりでおるんじゃろ?」
「あ……!操術」
「そうじゃ、聞いていれば、精米とまでの作業は、風の操術一つで終わる内容じゃねぇか。それを手間暇かけて作業するって時点で、ど田舎者じゃわい。カカカカカカ」

 ゴースケは、小さな子供をあやすように玲の頭をくしゃくしゃっと撫でた。22歳ではあるが、ゴースケから見れば、少年にしか見えないため、どうしても子供のように扱ってしまう。

「ゴースケさんも操術使えるんだ」
「そうじゃ、オイラたちゴブリン族は、土と風の属性を使えるぞ。精米とやらは、風属性の操術で対応できるかのう」
「風属性……メルル様の属性の一つでもありますね」
「キュイ!」

 ゴースケの話を聞き、玲の肩にちょこんと座っていたメルルが、片方の翼を上に上げて返事をした。

「メルル様も、覚える気まんまんなんじゃな」

 ゴースケは、可愛らしく返事をしたメルルに笑顔で答えた。

 ゴースケの作業がひと段落した後、精米についてゴースケが風の操術を教えてくれると願い出てくれた。

「ゴンゾウにも、出来る限り協力してくれと頼まれとるし、気にすんな。どうしても、お礼がしたいというんなら、オイラにも【ライス】で作った料理を食べさせてくれや」
「喜んで!ゴースケさん、好き」
「あ!サトシ!!」

 玲は、ゴースケの首に抱きつき抱擁をした。ゴブリンたちの容姿は、皆丸顔で、円な黒目の瞳。大きな麦わら帽子を被り、皆が皆、あるポテトチップスの表装に描かれているキャラクターに似ている。その為、玲からすれば、可愛らしい者に分類され、距離感が、崩壊した状態だった。

 ゴースケに抱きついた玲を見て、慌てたアレス。ゴースケは、例の背中をぽんぽんと叩き、アレスを見た。

「アレス殿も、心配が尽きぬのう」
「………」

 全てを見透かされたアレスは、頬を染めた。




 

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