どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「ようぐるとって、意外と手軽に作れるもんなんですね」
「そうだよ、元になるヨーグルトさえ有れば、簡単に増やせる」

 ゴブリン三姉妹にヨーグルト作りを教えた後、玲たちはグリーンビレッジの散策がてら、散歩に出かけた。

「カカさんなんて、メモも用意して構えたのに1ページにもならなかったって驚いていたもんな」

 カカが、小さな瞳がさらに小さくなって呆然と呟いた様子を思い出して、クスクスと笑った。

「次回、他の料理も教えると伝えたら、ノートが無駄にならなかったって喜んでいましたもんね」

 長女ということもあり、キキやココより責任感が強いカカ。おさげ髪に偏見があるわけないのだが、見た目通りクラス委員長のようだと玲は、思った。

 対してキキとココは、他の美味しい食べ物が、食べれることを単純に喜んでいた。

「キューキュキュー」
「ん、どうしたメルル?……あ、蓮華?」

 甘い花の香りが、鼻先をくすぐる。広大な畑一面に咲き誇る可愛らしいピンクの花。日本の田園で春先によく見かけた、蓮華の花が咲いていた。

「あの花は、【ドリュオペ】という名で、精霊が宿る花と呼ばれています」
「精霊いるのか?」
「はい、精霊はいますよ。だけど、あの花に宿っているというのは、おとぎ話ですけどね」
「なーんだ。残念」

 可愛らしいピンクの花が咲く蓮華畑を玲は、懐かしそうに目を細めて見つめる。玲は、道端に座り込むと蓮華の花を一本摘んだ。

「キュィ?」

花びらに鼻先を近づけ、クンクン鼻を鳴らすメルル。

「子供の頃、こーやって花びらをむしって、蜜を舐めてたんだぞ」

 花びらを一枚ずつ引き抜き、雌しべのみにすると、パクッと口に含んだ。ちゅっと吸うと甘い蜜が口の中に広がった。

「あまっ!なっつかしいなぁ」
「キューィ!」
「お!メルルも舐めてみるか?」

 再度、蓮華の花を摘み、花びらを丁寧に引き抜いて、メルルに渡した。小さな口を開け、雌しべを口に含んだ。

 ほんの僅かな量ではあるが、口の中に蜜の甘さが広がっていく。

「キュー!」
「そっか、美味いか。だけど、この蓮華畑って、もしかして別の作物をこの後植えたりする?」

 玲は、蓮華畑の周りに掘られた水路、そして蓮華の間に見え隠れする少し水捌けの悪そうな土の様子を見て、アレスに聞いた。

「そうですね、この蓮華畑は、花の時期が終わると、枯れた蓮華ごと土を耕して、【ライス】という植物を育てています」
「ライス!?……もしかして、米か!!それって、どこかにあったりする?」
「【ライス】ですか?コカトリスの餌として、収穫されているはずですけど?」

 ライスという言葉を聞き、テンションの上がる玲。

「よし、アレス!コカトリスを見に行こう!ライスを確認したい!」

 すくっと立ち上がりアレスの腕を取ると、先へ急ごうと促した。つんのめりそうになりながら、アレスは少し嬉しそうな笑顔をしていた。

 コカトリスの飼育している場所は、蓮華畑から、十分程度歩いた場所にあった。柵で囲まれた広い場所にニワトリっぽい姿を見つけた玲は、駆け寄って行った。

「あれが、……コカトリス?」

 ニワトリの倍以上の大きな身体で、柵の中で作業をしているゴブリンの腰の高さほどある。頭には立派な鶏冠、尻尾はワニのような鱗がある。鶏冠の大きいのが、やはり雄鶏なのだろうか?

「デカいな」
「ここで、コカトリスを飼育しているみたいですね」

 ここにいるゴブリンも、やはり大きな麦わら帽子を被っている。大きなざるを持って、餌なのだろうか、ざるの中身を摘んでは、周りに撒き、摘んでは、周りに撒きという行動を繰り返していた。

 コカトリスたちは、ゴッゴッゴッと鳴きながら、ゴブリンが撒いた餌を嘴で啄んでいた。

「あの、撒いているのが【ライス】ですよ」
「近くで見たいな……。すみませーん、すみませーん」

 玲は、片手を上に上げ振りながら、作業をしているゴブリンに声をかけた。

「なんだぁ?」
「すみませーん、俺たち、近くで見たいので、柵の中に入ってもよいですか?」
「んだ、構わんぞぉ」
「ありがとう!!」

 許可をもらった玲は、柵に足をかけよじ登り、敷地内に足を踏み入れた。周りにいるコカトリスたちの視線が集まる。

「ゴゴ?」

 ニワトリの鳴き声に濁点がついたような感じで、ニワトリのオッサンのような鳴き声だと玲は、思った。

「やっぱ、そばで見ると迫力あるなぁ」
「サ、サトシ。待ってください」

 いきなり柵を乗り越えた玲に、慌ててアレスも駆け寄った。大きな体のアレスにコカトリスたちは、驚いて翼をバタバタと広げて側を離れて行く。

「おい、コカトリスたちが逃げたじゃないか」
「す、すみません」

 玲を守るために追いかけたが、玲に叱られシュンとするアレス。コカトリスたちも少し、警戒しただけであり、攻撃の意思が無いことが判ると、興味を持ったのか玲たちに近づいて来る。

 ゴブリンは、再び餌を撒き、コカトリスは、それを啄む。玲は、ゴブリンが巻いた餌を一つ摘んで拾い上げた。

 玲の目が、確信に変わり大きく見開いた。

「米だ!やっぱり米だ!!」

 玲の手のひらに、黄金色の短くカットされた稲穂が乗っていた。









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