どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「あ、どうも。…あ、どうも……見渡す限りゴブリンだらけだ…あ、どうも」

 村に入ると、ゴブリンの子供達が、玲達を出迎えてくれた。見かけぬアレスが連れてきた玲に興味があるのだろう。目が合えば可愛らしく手を振ってくれる。玲も笑顔を見せながら、手を振りかえしあいさつを交わす。

 煉瓦造りの建物に、色とりどりの草花も植えられ、明るく優しい雰囲気の街並み、大人のゴブリンに見守られ、子供ゴブリン達が元気に遊んでいる。

 強い日差しを避ける為か、大人のゴブリン達は皆、大きめな鍔の麦わら帽子を被っている。小柄な体に大きな麦わら帽子が、とてもよく似合っていると玲は、思った。

「このグリーンビレッジは、主に農業を生業として生活している村で、畑の他にもアウンズブラやコカトリスの繁殖も手がけています。神殿では、野菜のほかに卵や乳もこの村から仕入れているんですよ」
「おぉ、神殿の食材は、全てグリーンビレッジ産なんだ」
「そうです。俺は、中庭の花の苗や種なども買いにきますけど」

 少し照れくさそうに頬を掻くアレスは、大きな身体で屈強な戦士のような風貌だとしても、ガーデニング趣味という見た目とのギャップが激しいオーガ族だ。

 ぱっから、ぱっから、オージンは、蹄を鳴らしてのんびりと歩を進めていく。広大な畑には、トマトや玉ねぎなどを始め見慣れた野菜が育っている。

「のどかな風景だなぁ」
「キュー」

 心地良い風が、頬を撫でる。メルルも気持ち良さげに胸元から、顔を覗かせている。ふわふわの頭を撫でてやると玲の手のひらに擦り付けるように首を伸ばした。

 コンクリートジャングルでのせせこましい生活には、もう戻りたくないなと思った。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


「むむ!むむむむむ!!」

 緑色の肌に、灰色の髪の毛、口の周りには、髪の毛と同じ色をした長い口髭を蓄えた、丸顔のゴブリンが、スプーンを咥えたまま唸っていた。

 グリーンビレッジの集会場に訪れた玲とアレスは、村長に挨拶をするべく面会を願い出た。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ようこそおいでなすった。わしが、村長のゴンゾウじゃ」

 丸顔に大きな麦わら帽子、丸い円な黒目に見事な口髭。玲は、緑色の肌でなければ、ポテトチップスの細長い丸い筒に描かれたキャラクターのようだなと思った。

「ゴンゾウさん、お久しぶりです。こちらが、マギー様のご息女メルル様とお食事係のサトシです」

 アレスに紹介された玲とメルルは、ゴンゾウにペコリとおじぎをする。ゴンゾウは、ふさふさと生やされた口髭を指先で摘むように触りながら、にっこりと微笑んだ。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ディアブロから、聞いておるぞ。食材を探しているんじゃとか?」
「はい、俺の故郷の料理を再現するために、この村を視察させていただく許可が欲しいのです」
「なぬ?故郷の料理とな?」
「サトシは、遠く離れた地の出身。直にグリーンビレッジで育つ野菜や果物を見て、故郷の料理を再現できるか調査をしたいのです。ゴンゾウさん、ぜひ、協力していただけませんか?」

 アレスは、深々とゴンゾウに頭を下げた。玲もアレスに従って、勢いよく頭を下げる。ゴンゾウは、何度も口髭を触りながら、二人を見つめていた。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。わしらは、作物を愛情たっぷり育てておるのじゃ。故郷の料理の再現じゃと?出来るかどうかもわからぬ物に、大切な作物を差し出せと言うのか?」
「いえ!食材を無駄にしようなどとは、考えていません!………そうだ!」

 玲は、立ち上がると部屋の片隅に置いていた荷物に駆け寄って鞄の中から小さな瓶を取り出した。そして、その瓶をゴンゾウに差し出した。

「これは、お土産にと持ってきたヨーグルトという食べ物です。故郷の料理の一つにあたります」
「よおぐるととな?」
「はい、ディアブロにもお墨付きを貰った一品です。俺の料理が、食材を無駄にするにかどうかの判断材料として、食べてみてはいただけませんか?」

 玲は、ヨーグルトと一緒にスプーンも一つ差し出した。瓶の中身はどろりとした白い液体。ゴンゾウが知っている料理とは、姿形が全く異なる。

 本来なら未知なる物を口にしたいとは、考えたことはない。だけど、真剣な眼差しで願いをこう玲を見て、このまま突っ撥ねてしまうのも大人気ないと考えた。しかし、どろりとした白い見知らぬ液体に、食が進む気がしなかった。

「味は、俺そして私の父が、保証します」
「むむ?ディアブロ殿も食べたのじゃと?」

 アレスは、爽やかな笑顔で微笑んだ。アレスの誠実さを知っているゴンゾウでも、このヨーグルトが、ディアブロの名前を出すほどの一品だとは信じ難かった。

 しかし、悪魔神官であるディアブロの名前は、効果絶大らしく、覚悟を決めたゴンゾウは、手渡された瓶の蓋を開けた。

 鼻を近づけ、匂いを嗅ぐと少し酸味のある匂いがした。直接、手にしたスプーンで瓶の中身に差し込んだ。どろり、どろりと、まったりとした液体。時折見え隠れする、四角い物体も何なのか全く判らない。

 覚悟を決めたゴンゾウは、スプーンを瓶の中で回転させると、適量掬い、そのままスプーンを口に含んだ。









 





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